じわじわと注目を集めている作品『瑠璃宮夢幻古物店』。古物店を営むミステリアスな女性、瑠璃宮真央を中心に引き起こされる、さまざまな怪奇事件が描かれています。今回は、6巻のネタバレも含みながら作品の魅力を紹介していきます。
自由な漫画づくりでバラエティーにとんだジャンルの作品が多い、「月刊アクション」で連載されている作品です。
『瑠璃宮夢幻古物店』というタイトルのとおり、不思議な古物店を営む女性店主と来店するお客さんにまつわるお話になっています。お客さんそれぞれのストーリーがあるため、オムニバス形式のようで読みやすい作品です。
- 著者
- 逢坂 八代
- 出版日
- 2014-05-10
本作の表紙の雰囲気がお好きな方は、ぜひ読んでみてください。表紙の妖しい吸い込まれそうな雰囲気は、物語をそのまま表しています。人の醜い部分を表現している話が多いですが、ほっと心温まるようなストーリーもあるのが魅力のひとつでしょう。
今回は『瑠璃宮夢幻古物店』の魅力を、作品の見どころと一緒に紹介していきます。
住宅街にひっそりとたたずむ、レトロな雰囲気の古物店。商品は何の変哲もないように見えますが、不思議な魅力に誘われてお客さんたちが来店してきます。古物に魅了された人々には、それぞれの悩みがあり、訳あってそれらの古物に惹きつけられているのです。
しかし、古物には危険な一面があり、取り扱いには注意が必要でした。不思議な古物を手にした人々に待っていたのは、はたして幸か不幸か……。
『瑠璃宮夢幻古物店』のお話は、後味の悪いものから優しく心温まるストーリーまでさまざま。ミステリアスな女店主と不思議な力をもった古物を中心に、人の心の醜い部分を浮き彫りにし、妖しくも美しく描いているのです。
本作の何よりの魅力は、作者である逢坂八代の画力でしょう。シンプルな絵柄ですが作品の空気が匂い立つような美しさがあり、作中で起こるさまざまなミステリーと相まって、より物語に入り込むことができます。
魅力は絵だけでなく、瑠璃宮真央がお客に向けて核心をつくような発言をする際には、文字のフォントが変わっているため、思わず読者もドキッとしてしまうような臨場感があります。
各巻の表紙イラストは幻想的に描かれ、物語の内容と合っているためこの雰囲気がお好きな方にはぴったりといえるでしょう。細部にわたってこだわりが見られるため、じっくりと楽しみたくなるような魅力があります。
元々の持ち主の強い思いがこもっている古物には、悪意がこもっているものもあります。瑠璃宮真央は古物を買っていく人々に、かならず一言だけ注意をしますが、意味を理解して注意を守る人は多くありません。そのため自らの欲に負け、人生が狂って終わるというダークな結末が多いです。
しかし、なかには自らの過ちに気づき、更生する登場人物がいるのが本作を楽しめる点のひとつでもあります。本作はショートストーリーですが、登場人物のその後のお話も描かれていることがあり、まるで連作短編集であるかのような魅力もあるのです。
ここでは、一部のストーリーを紹介します。
古物店には、人の心をうつして、顔を変えるという手鏡がありました。きれいな心なら美しい顔に、醜い心なら顔も醜く変化します。このような力をもった手鏡を手にしたのは、とある姉妹の姉でした。
心優しい姉がだんだんと美しく変化していく姿をみた妹の貴子は、鏡を奪おうとしましたが、その拍子に鏡をのぞきこんでしまったのです。醜い嫉妬心で鏡をのぞきこんだ彼女は、一瞬でおぞましい顔に変わってしまいました。それで終わったかのようにみえた物語ですが、貴子は手鏡を使って姉に復讐したのです。
結局姉妹そろって醜い姿にかわってしまい、姉は間もなくして失踪します。貴子は入水自殺を考えますが、入水しようとした川はとても汚れていて醜い自分をあらわしているかのように感じました。それから貴子は、せめて自分の死に場所だけでも美しくしようと川の清掃をはじめると、いつの間にか心優しい人々とふれ合って自身の心も変わっていったのです。
「私こう思うの 状況を変えるためには自分を変えなきゃだめかもって」(『瑠璃宮夢幻古物店』2巻より引用)
『瑠璃宮夢幻古物店』を語るのに、店主の瑠璃宮真央は欠かせない存在です。古物を買っていく人々に使い方のアドバイスをするのも、その後を見守るのも彼女の役目となっています。
物語のなかで、彼女のことはあまり多くは語られていないため、巻数が進んでいくにつれて少しずつ明かされていく秘密は注目したい点です。
物語がすすむにつれて、彼女のことを知るメインキャラクターが増えるのも見どころのひとつでしょう。商売仲間の神谷や真央の同業者で腐れ縁の女性・横溝ゆかりなど、個性的な登場人物が増えていきます。
本作の表紙では、その巻に登場するものや関連するものを描いています。1~5巻では、暗い色調で夜や夕焼け、暗い部屋のなかを描いたものが多かったですが、第6巻では明るい色調で、お天気雨の植物園のなかで瑠璃宮真央が黒い傘をさしている様子が描かれています。
第6巻でもさまざまな古物が登場します。以前から古物店で真央のお手伝いをしていた要(かなめ)が久しぶりにお店へ戻ってきてはじめて売った商品、「苦痛を吹き飛ばす扇子」や「料理を作った人の気持ちがこもってしまう弁当箱」、「強い情念のこめられた霧吹き」などにまつわるお話が収録されています。
- 著者
- 逢坂 八代
- 出版日
- 2017-08-10
なかでも見どころなのは、「霧吹き」のお話のなかで真央の商売仲間、神谷が登場する場面です。ここで登場する霧吹きは、元々古物コレクター四方(よも)のコレクションだったもの。四方のコレクションにあるものは、使用する人間を強い情念のこもった古物自身が操ってしまう危険なものが多く、霧吹きもそのひとつでした。
「貴方の意思に関係なく その道具が貴方をそうしてしまうかもしれません …いえ そうさせてしまう道具なのです」(『瑠璃宮夢幻古物店』6巻より引用)
霧吹きを回収しようとした真央がピンチに陥ったとき、神谷は真央を助けたのち霧吹きを持ち去ってしまいます。協力的に見えていた神谷の正体とは一体……?
人の心の移ろいやすさや、人間の欲の怖さをストーリーにしている『瑠璃宮夢幻古物店』からは教訓として学べることが多いでしょう。とても魅力的な雰囲気のある漫画ですので、ぜひ読んでみてください!