“大人”が表題になっている本【結城洋平】

更新:2021.11.10

“あ、大人になったな”って思うことはありますか。一番最初の記憶で“あ、大人になったな”と思ったことは小学3年生の時家族で行ったバーミヤンでバーミヤンラーメンを一人で完食完飲した時。これは大人の仲間入りだなと思った記憶があります。今回は大人になれなかった本と、大人計画の本のご紹介です。

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大人になれているのだろうか

残念ながらラーメンを完食しただけでは大人とは言えないでしょう。文章を書くときの一人称についていつも迷ってしまうのですが、きっと大人が使う人称は「私」です。(わたくしorわたし)「私」を使う事へ戸惑いや抵抗、憧れすら感じている時点で大人とは言えない。

では「僕」だとどうでしょう。これでは幼さを感じます。年齢が高いダンディな男性が「僕」を使えばダンディズムと幼さのギャップでグッときますが29歳の男が「僕」だと幼さが全面に出てしまいます。何かの記事で"人称に「僕」を使う男性は社会と自分の区別がうまくつけられていない。"と書かれていました。なんだかごもっともな感じがします。では「俺」これは少し強引な感じがしますし「自分」だと体育会系のイメージが強くそのイメージのまま文章を読まれてしまう心配が残ります。「わし」この歳で使うには時期がまだ早いですし少しふざけてる感が出てしまう。「拙者」「それがし」これだと時代が違う。そういうキャラクターの人なんだな。とは思ってもらえるでしょうが、大人とは言えません。恥ずかしながら普段は「僕」を使っているのですが29歳にもなれば「私」適齢期でしょう。これを機に“あ、大人になったな”を迎えに行きたいとおもいます。

著者
燃え殻
出版日
2017-06-30

都内で働く会社員の方がウェブで連載していた「ボクたちはみんな大人になれなかった」が話題となり本作でデビューされた燃え殻(もえがら)さん。休み時間にはじめたTwitterでの抒情的な呟きが人気となり多くのフォロワーを獲得。140文字の文学者とも呼ばれているそうです。

物語のなかの空間に自分もいるのではないかと錯覚する程、鮮明な描写が描かれていて匂いすら感じてきそうな文字に圧倒されてしまいました。歓楽街、学校、会社、クラブ、喫茶店、東南アジアと多くの場所へ引き込まれながら進んでいくストーリーに凡庸な主人公に感情移入させられながら一気に読了してしまいました。「ボクたちはみんな大人になれなかった」というタイトルから受ける印象そのままにノスタルジックな作品全体の空気に包み込まれてしまいました。

憧れの大人計画

大人計画代表取締役社長。長坂まき子さんが1988年に旗揚げされた劇団大人計画の旗揚げ公演から2006年に多摩センターの廃校で敢行された大人の学園祭"大人計画フェスティバル"まで、劇団とともに過ごしてきた道のりを長坂さんの目線で書かれた今やチケット入手超困難の超人気劇団の内側を覗かせてもらえる一冊です。

著者
長坂 まき子
出版日

大人計画は僕にとって憧れです。

憧れの劇団の旗揚げ公演から2006年までの道のりを内部の細かい事情まで知れるこの一冊。終始ワクワクしながら、ニタニタしながら最後まで読ませていただきました。タイトルのとおり長坂さんの日記として書かれていく内容は物語として“読む”のではなく、まるで長坂さんと“会話しているように読む”感覚で直接お話しを聞いているような贅沢感を感じながら読ませて頂きました。大人計画の初期の事が書かれている内容は今の人気ぶりからすると嘘みたいなエピソードもあり驚きの連続で、劇団員のオーディションを受けに来た人が15人で受かったのが10人。今の大人計画を想像すると受けに来た人の数も、受かった人の数も嘘みたいな数字です。

劇団の制作、役者や作家のマネージメントから公演に関すること全てをやられていた長坂さんの日々は読んでいるこちらも目が回るほど忙しい。そしてたくさんの登場人物が出てくるのですが出てくる人皆んなへの愛を感じる文章で終始暖かい気持ちになりました。同時にバリバリ働く格好よい姿にさすが大人計画の社長だぁ!と勝手に関心してしまいました。

大人計画の事を知っている人も、知らない人も心底楽しめる一冊ですし、もっと大人計画について知りたくなる一冊でした。

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