『鋼の錬金術師』好きにおすすめの漫画5選!ダークファンタジー好きな方に

更新:2021.11.25

緻密な世界観と熱い展開で読者を魅了したダークファンタジー『鋼の錬金術師』。凝った設定、激しいアクション、王道から外れた展開。今回はそんな『鋼の錬金術師』に通じるエッセンスを備えた漫画5作品をご紹介したいと思います。

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老兵、奔(はし)るッ! 歴戦の怪物ハンター最後の戦い

近代ヨーロッパに似た都市、サンサロド。そこでは近頃、巷を震撼させる「骨抜き(アンボンド)事件」と言われる怪事件が頻発していました。文字通りに人間の体から骨だけが抜き取られているのです。警察はこれを人外の仕業と判断し、化け物退治の専門家に招集をかけました。

以前、この国では吸血鬼が人々を脅かしていました。かつて陣頭指揮を執ってその怪物達を根絶やしにした英雄、ハンス・ヴァーピッド。彼に再び、怪物退治の使命が課せられました。ハンスの今度の敵は「骨食い」グリム。

著者
出版日
2015-08-12

本作は2015年からWEBコミックサイト「裏サンデー」で連載されている艮田竜和原作、雪山しめじ作画の作品。

他作品にはない本作独自の特徴と言えば、主人公ハンスの存在です。銀狼団という組織を立ち上げて指揮し、吸血鬼を狩った英雄。その恐るべき行動力、身体能力、そして何よりも怪物と出会っても怯まない胆力が彼を英雄たらしめる素養です。知らぬ者とていない、全市民が諸手を挙げて讃える歴戦の勇士――御年70歳。

ハンス・ヴァーピッドは全盛期をとうに過ぎた老齢の男性でした。しかも、彼はあまねく化け物の専門家ではなく、あくまで対吸血鬼の専門家。どう考えても無理があります。

市警察は骨抜き事件をかつてないほど重く見ており、ハンスが骨食いを退治出来れば良し、出来なくても「英雄が殺された難事件」として国へ軍隊の投入を打診出来ると考えたのです。ハンスは言わば当て馬。かつての英雄を出汁にするとは、なんとも世知辛い打算です。

しかし、そこは老練なハンス。当局の思惑を見通した上で、市民を震え上がらせる連続怪事件を見過ごせないと立ち上がります。そのいぶし銀の格好良さは彼ならでは。かと思えば、意外にお茶目な面もある愛すべき老人です。

対決するのはグリムと名乗る謎の青年。「口」の意匠の化け物を生み出し、自身も強力な口を持っています。本気を出せば一昼夜で街を壊滅出来る能力を持ちながら、警察やハンスを手玉に取る、愉快犯のような行動を取ります。果たして彼の真意は?

老いた伝説の吸血鬼ハンター最後の戦い。それはかつてない激戦となり、過去の自分を超えることが出来なければ、絶対に打ち勝つことの出来ない過酷な試練となります。

 

邪悪のレッテルを背負って真の巨悪を討つ

神聖国家スパニア。中世ヨーロッパ風のこの世界では、キシリア教の名の下に、合法的に「魔女狩り」と呼ばれる公開処刑が行われていました。しかし、その魔女狩りを奨励する権威ある指南書は、実は魔王アスモデウスによって書かれたものでした。本が書かれた本当の目的は、魔女狩りによって魔女を生み出し、魔女と人間を争わせること。

その意図を察知した法王によって、魔女を狩る魔女「異端審問魔女(インクウィッチ)」が派遣されます。その名はドミノ・アチュカルロ、炎を操る魔女です。教会の思惑とは別に、彼女にはある狙いがありました。この騒動を、もっと根本的に正す狙いが……。

著者
村田真哉
出版日
2014-08-22

本作は2014年から「月刊ガンガンJOKER」で連載されていた村田真哉原作、檜山大輔作画の作品。

罪もなき少女達が、過酷な拷問の末に命を落として、復讐に燃える魔女に生まれ変わるという非常にセンセーショナルな設定です。魔女を排除するための魔女狩りなのに、その行為が本当の魔女を生み出すという皮肉。かつて中世ヨーロッパ等で行われた魔女狩りにおいて、ありもしない疑いをかけられて亡くなった人々が多かったことから来ているのでしょう。

劇中に登場する魔女狩り(魔女作成)指南書にして、本書のタイトルにもなっている『魔女に与える鉄槌』。これは15世紀の異端審問官によって書かれた実在する書物が由来。もちろん実在の書が魔女を生み出した事実はありません。

本作に登場する魔女には、死因となった拷問がそのまま超能力として発現します。火刑ならば炎の力、頭骨粉砕なら粉砕の力、という風に。能力の所以としては珍しい設定で面白いのですが、その設定のために拷問器具の使用法とその結果が詳細に記されています。魔女の能力によってもかなり凄惨な被害が生まれ、作風としてはグロテスクな部類。

主人公ドミノは教会の遣いではありますが、魔女を生み出す土壌となった社会背景を憎んでいます。そして世界をそんな社会にしたのは、他ならない教会自身。そう考えた彼女は、最終的に宗教そのものをなくすと公言して憚りません。

宗教批判に残酷描写と、一読には注意が必要ですが、風変わりなダークファンタジーをお求めの方には最適でしょう。

幼い少女が呪いわれた不死の輪を断つ

19世紀ヴィクトリア朝の大英帝国ロンドンでは、貧富の差が色濃く出ていました。特権階級は全てを手に入れ、そうでない者から搾取する時代。花売り娘のナンシーは、毎日のようにうらぶれた骨董店を訪れて、店番の少女リラに花束を届けていました。

リラは陰気で見窄らしい店主、ブレイロックと暮らしており、彼らとの会話の中からナンシーは不審さを感じ取ります。リラを助けたい一心で深入りしたナンシーは、2人の思わぬ秘密を知ってしまいました。呪われて死ねない者達と、彼らを食い物にし生き長らえる者達。その原因を作ってしまったリラの正体。ロンドンで蠢くそれら闇の世界を……。

著者
黒釜ナオ
出版日
2015-06-13

本作は2015年から「月刊COMICリュウ」で連載されている黒釜ナオの作品。躍進目覚ましい、華やかなりし大英帝国。その影に蔓延る存在をグロテスクに描き出す、ゴシックホラーファンタジーです。

リラの正体は「不死鬼(シスカ)」と呼ばれる不死者の始祖「リリス」。シスカはどんなに痩せて枯れても死ねなくなっています。それはまさに呪い。始末の悪いことに、そんなシスカを囲って生き血を啜ることで、自らも寿命を延ばそうとする、「ヴルコラク」というある種の権力者達までいるのです。

無惨な姿になったシスカを使役し、死ねずに衰える彼らを尻目に、若々しく生き長らえるヴルコラク。ちなみにヴルコラクとは造語ではなく、東欧ブルガリア語で「吸血鬼」を意味する言葉です。

リラは自分のせいで死ねなくなったシスカを解放してやりたいと思い、実行出来る唯一の存在。解放とは即ち死です。ブレイロックはリラのそんな願いを叶えてやるため、骨董店の裏の顔を利用してシスカやヴルコラクをおびき寄せていたのです。

ナンシーは折り悪く、リラがシスカを解放しているところを目撃してしまいました。ブレイロックによって否応なく仲間に引き入れられるナンシー。果たしてシスカの想いは遂げられるのでしょうか。協力者として振る舞うブレイロックの思惑は? 彼らの暗闘の果てに待つものとは。

生命の境界が曖昧になった幻想の未来世界

近未来フランス、かつて「花の都」と呼ばれた首都パリには、数多くの「ビオロイド」と呼ばれる人造人間達が闊歩しています。ビオロイドは人間の肉体を元に再構築した新たな人間のこと。望むと望まざるとに関わらず、昨日までの知り合いが幻のようにビオロイドに変わっていく世界。いつしかパリは「想幻の都」と呼ばれるようになりました。

ビオロイドを独占技術で生み出すヴィクター社。そこで働く研究開発者の主人公ジルもまた、ビオロイドの1人でした。肉体はかつて生きていた天才科学者で、頭脳は人工知能というAIモデル型ビオロイド。彼女は自身のアイデンティティに悩みつつ、日々ビオロイドの開発に携わっています。

著者
梶谷 志乃
出版日
2016-10-15

本作は2014年から「ハルタ」で連載されていた梶谷志乃の作品。

基本的にはジルとその周辺の視点で展開される1話完結型の物語となっていて、SF小説の短編連作か、ショートショートに近い雰囲気があります。

本作はまず、死を暗示させる骸骨がデザインされた、インパクトのある表紙が目を惹きます。死と退廃の香り漂う表紙を開けると、中身はファンタジーではなくSF。そこでは読者に問いかけるように、繰り返し繰り返し人間とそれ以外(ビオロイド)について描かれます。

ビオロイドの存在によって、逆説的に問われる人間を人間たらしめるもの。人間から生み出した人造人間ビオロイドは、人間と呼べるのか? まるで衣替えでもするように、脳はそのままに肉体だけをファッション感覚でビオロイドに置き換える人々は? 生前そのままの肉体に、別の人格を植え付けた場合は?

そこに明確な答えはありません。ジルをはじめとした、登場人物それぞれの事情と考えで、彼らだけの解答がある(あるいはない)だけです。昨今何かと取り沙汰される移民問題をベースにした、重くて、しかし幻想的な話。『鋼の錬金術師』で生命の倫理観について興味が湧いた方におすすめです。

まもなく終わるヒトの短い黄昏時

宇宙進出を果たしたことも人類の過去の栄光と成り果てた遠い未来。種族としての人類は生来虚弱で、生殖能力も衰え、限界が見え始めていました。遺伝子操作で人工的に子どもを作るも、焼け石に水の延命処置でしかありませんでした。

主人公ヨシズミ・イクルは、ある事故後の手術の後遺症で余命幾ばくもない少年です。孤独に死ぬ恐怖に耐えかねた彼は、「愛人(アイレン)」という終末医療用人造人間の少女「あい」を家族に迎えました。

やがて命が尽きるイクルと、短い寿命のあい。2人の心の交流が始まります。

著者
田中 ユタカ
出版日

本作は1999年に「ヤングアニマル」で連載されていた田中ユタカの作品。

終末医療、ターミナルケアとは近年重視される医療形態の1つ。例えば重度ガン患者など、根治の見込みがない末期患者に対して、最期の瞬間まで心安らかに過ごしてもらうための福祉医療です。

作品世界でのそれは、人造人間――正確には遺伝子的に体格や記憶や性格、寿命を操作した「人造遺伝子人間」を、必要とする患者1人に専属で与えるというもの。人工的に調整されているという点を除けば、普通の人間と何ら変わりません。

患者のために存在し、患者だけを想う。ある意味で究極の無償の愛。そんな愛を創りだしてしまうという人間のエゴ。そんな事情をよそに、イクルとあいは少しずつ想いを通わせていくのですが、実はアイレンの寿命は想像以上に短いものでした。

アイレンの寿命はたったの10ヶ月前後。もしそれまでにケア患者が亡くならなければ、愛着の湧いたアイレンの死を看取って悲嘆に暮れる悲惨な最期が訪れます。寂しさを埋めるためのアイレンなのに、そうなっては悲しみの上塗りです。あい本人はそのことを知らず、また彼女はイクルが死ぬ運命にあることも知りません。

少しずつ少しずつ、斜陽の時がイクル、あい、そして人類全体に流れていきます。それら死にゆく命は一体何を残せるのでしょうか。

本作には一部名称や用語にアーサー・C・クラークやフィリップ・K・ディックの作品から引用されたものがあり、本作は海外SFの影響下にあることが窺えます。SFに抵抗がない方はぜひ一読してみて下さい。生と死、心のあり方について考えさせられます。

いかがでしたか? いずれも一筋縄ではいかない、骨太な作品ばかりです。王道に飽きた時には、一度手にとってこれらの世界に浸ってみてはいかがでしょうか。

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