盧溝橋事件を発端とした日中戦争は、日本と中国の間で熾烈な戦いになりました。そのなかで、一般的には南京大虐殺といわれることもある「南京事件」が起こります。この記事では、事件が起きた原因からその後まで分かりやすく解説するとともに、おすすめの関連本をご紹介していきます。
盧溝橋事件を発端とした日中戦争中、旧日本軍が南京を占領した際に十数万人以上の南京住民を虐殺、暴行、強姦したとされる事件で「南京大虐殺」とも呼ばれています。なかには野田少尉、向井少尉ら下士官による「百人斬り競争」という凄惨な出来事もあったようです。
ですが、虐殺の規模や有無については多数の意見があり、その真実がどのようなものだったのか、いまだはっきりとはしていません。写真は合成と疑われるものしか残っておらず、旧日本軍がおこなったとされる決定的証拠が出ていないのが現状なのです。
実は蔣介石が虐殺をしたとされる説や、中国側が事実を捻じ曲げて誇大化している説など、さまざまな主張があります。
すべては、旧日本軍が南京を占領したことから始まります。当時の中国の首都であった南京を攻撃することになり、この戦いで旧日本軍に多くの死傷者がでました。戦友を失って殺気立っていたのでしょうか、南京に対する兵士の目の色が変わっていきました。
しかし、南京攻防戦の最中、中国軍守備隊の司令官・唐生智が敵前逃亡し、中国軍の指揮系統が混乱しはじめます。旧日本軍陸軍大将・松井石根の発案で降伏勧告をしますが、守備隊は応答しませんでした。そんな南京守備隊を見た旧日本軍は「守備隊は降伏しない」と判断し、攻城戦から城内に入って殲滅戦に切り替えて、南京へ入ります。
この時松井大将が懸念していたのは、便衣兵と呼ばれる民間人に偽装したゲリラ兵の存在でした。日本軍は彼らにたびたび悩まされていたのです。この便衣兵に対する日本軍の対処が虐殺ではないかともいわれています。中国側は丸腰の民間人であったと主張しているのに対し、南京大虐殺否定派は便衣兵の処刑であるとし、軍事行動としては当然の行為だったとみなしています。
南京戦の直前に、南京住民の20万人ほどが安全地帯へと脱出していました。当時南京に住んでいた住民の9割に近い数字です。つまりこの段階で30万人〜40万人が虐殺されていた、という中国側の主張には疑問がもたれることがわかります。
日本軍は、虐殺どころか捕虜へタバコや食料を渡したり、暴行や難民収容所への関係者以外の立ち入りを厳しく禁じたりと、捕虜に対する配慮が行き届いている部隊もあったとする説もあります。これから虐殺する人に対してこういった行為は見られるでしょうか?
便衣兵の逮捕、処刑がいわゆる南京事件の引き金になったといわれていますが、彼らが武装解除できているかどうか分からなかったから止むを得ず処刑した可能性もあるでしょう。また、証拠写真の検証から、虐殺者が日本軍ではなく蔣介石が率いた国民党軍によるものだったという可能性も浮かびあがってきています。
事件の真相については、まだまだ解明されていないことが多いのです。
死者の人数については、南京事件における虐殺の有無や規模などの論争のなかでも、大きなウェイトを占める論点です。
その幅は0人から30万人以上と諸説あり、「虐殺」の定義や統計のとり方などで相違が出ています。
中国側は、1946年に蒋介石が率いている中国国民党政府によって開かれた「南京軍事法廷」での判決にもとづき、30万人以上だと主張。中国共産党政府や国軍歴史文物館なども同様の見解を持っています。
一方の日本は、外務省のホームページで次のように述べています。
「日本政府としては、日本軍の南京入城(1937年)後、非戦闘員の殺害や略奪行為等があったことは否定できないと考えています。しかしながら、被害者の具体的な人数については諸説あり、政府としてどれが正しい数かを認定することは困難であると考えています。」
南京事件は、太平洋戦争が終結し、東條英機ら太平洋戦争の主導者が裁かれた極東国際軍事裁判で発覚し、追及されたといわれます。南京を占領したときの旧日本軍司令官、松井石根はこのことを東京裁判で追及され、B級戦犯として処刑されます。それによって事件の処理は完了したかのように見えました。
しかし、南京事件に関するある新聞社のスクープによって蒸し返され、中国がこのネタに飛びつきます。まず中国では、南京において虐殺があったことを示す博物館が建設されます。さらに「ザ・レイプ・オブ・南京」というタイトルで、旧日本軍がおこなったとされる悪行を世に知らしめるための書籍が発表されています。
なかには偏りすぎていると感じられる論説もあるため、南京事件について深く知るためには、さまざまな情報を得て、多面的に考えていく必要があるでしょう。
今回は、いろんな角度から書かれた書籍をご紹介します。
この書籍では、事件があったかどうかを検証するのではなく、事件に対してどのような認識が持たれるようになったのかについて論じられています。
そして、著者も肯定派と否定派の真んなかに立ってさまざまな史料を見ながら、史料批判をおこなっていくのです。史料批判とは、史料が正しいか正しくないか、という研究法で、歴史学では一般的な方法とされています。
- 著者
- 北村 稔
- 出版日
- 2001-11-01
本書の特徴は、「南京事件があったかなかった」ではなく、事件の肯定派と否定派の意見がどのようなものなのか考えてみよう、という視点で書かれていることです。
事件の有無から1度離れて史料を見直してみるとき、本書がおおいに役に立ちます。
南京事件が中国側の捏造であることを前提に、それらがなぜ捏造だったのかを丁寧に論じている一冊です。
著者は、ここまで泥沼化しているのは、ある日本の新聞社がわざとミスリードをしたためだと論じています。
- 著者
- 田中 正明
- 出版日
- 2007-07-01
15もの論拠をあげて中国側の捏造を証明しようとしています。非常に細かく書かれており、それらの論拠を知ると、読者も「確かにあれは嘘かも」と思うでしょう。
あとがきの著者による心の叫びも必見です。
当時南京にいた新聞記者、南京攻防戦に参加した高級軍人、外交官など48人の証言を収録した「生の声」が聞ける一冊です。
著者は南京事件のそもそもの実態は日本軍の中国兵の処断であると断っていますが、そのうえで、戦場だったためそのような悲惨な場面はいくらでもあったとしています。
- 著者
- 阿羅 健一
- 出版日
- 2001-12-01
作中に登場する軍人やジャーナリストは、南京では虐殺行為があったことは聞いたことがないようでした。
また、南京事件で問題になっている「百人斬り競争」や、南京攻防戦の将兵の行動を関係者からのインタビュー形式で表しています。
なかには、満州事変にすら否定的で中国寄りだった高級将校が、あの事件で中国が降伏勧告を無視したことだけはダメだ、という証言もみられます。
作者は「南京事件がそもそも中国側の捏造によるもの」として切り捨てています。事件の証拠写真とされているものを検証し、中国側の主張の矛盾点を追及した一冊です。
中国側や、当時南京に滞在していたとされるマギー牧師より提供された「マギーフィルム」のなかから、捏造説を検証しています。
- 著者
- ["東中野 修道", "小林 進", "福永 慎次郎"]
- 出版日
- 2005-01-31
証拠写真とされているもののなかには、日中戦争の戦闘に介入しているはずのない白人が映っていたり、「日本軍が虐殺を実行している」と説明がありながら日本軍であることを示す腕章がなかったりする点を指摘しており、徹底的な検証がなされていることが本書の魅力でしょう。
そして最後に「証拠写真として通用する写真は一枚もなかった」と痛烈なひと言で終わります。
戦後におこなわれた南京事件の検証の真相に迫る一冊です。ここでは、一見関係ないように見えるアメリカも登場します。
アメリカは中国側の主張に対して何ひとつ反論していません。アメリカが黙っているのは、東京大空襲こそが虐殺と変わりない行為だと暴露されるのを恐れているからだと著者は考えています。
- 著者
- 水間 政憲
- 出版日
- 2017-08-25
当時の写真や新聞記事も掲載しながら検証を進めているので、非常に読みやすい内容です。
また、当時の南京市民は旧日本軍を歓迎していた節があったようです。旧日本軍の医療班が南京市民を救済していたり、旧日本軍に感謝状が送られたりしていたとする証言や写真をまじえて、南京大虐殺否定の根拠を具体的に教えてくれています。
本書では、旧日本軍が罠にはまったことを前提に、事件の黒幕が誰だったのかを考察しています。
敵勢力である蔣介石が、日本の同盟関係にあったはずのドイツに対して支援を求めていました。蔣介石が中国の勢力掌握のためには手段を選ばなかったことから、彼が黒幕であるという疑惑を中心に取りあげています。
また戦後のプロパガンダにおいては、かつて中国において活動していた宣教師が普及にひと役買っていたとし、それに関して資料をまじえながら検証しています。
- 著者
- 古荘光一
- 出版日
- 2015-12-01
南京事件の黒幕が国民党軍のトップの蔣介石であったと考え、事件の1番の証拠となるマギーフィルムを偽物と切り捨てるなど、中国側の主張にきわめて批判的な文章が目立ちます。
事件が日本軍によるものではないことを示す、新たな可能性を導きだしています。
南京事件は日中関係において大きな影を落としていますが、日本政府はこれに対し、太平洋戦争では中国に申し訳ないことをしたとしています。それが日中戦争を指すのか、南京で起こった事件のことを指すのかはわかりません。しかし、事件が陰謀だという説がある限りは、これを鵜呑みにせず、自分で根拠となる資料を見つけて意見をもち、違う者に対しては「違う」と声をあげるべきでしょう。
ぜひ今回紹介した書籍を手にとってみてください。