14世紀〜16世紀にかけてイタリアから西ヨーロッパ本土へ広がったルネサンス。この文化運動は、政治、社会、宗教まで大きな影響を与え、近代ヨーロッパ文化の基礎を築きました。今回は、ルネサンスの概要を説明するとともに、おすすめ本をご紹介します。
フランス語で「再生」を意味するルネサンス。これは、14世紀〜16世紀にかけてイタリアから西ヨーロッパ本土へと広がった、文学・思想・芸術の革新運動です。
この運動では、当時ヨーロッパの主流であった宗教中心の思想に代わって、「人間性の解放」や「個性」を尊重した古代ギリシア・ローマ時代の古典や美術をあらためて尊重しようとしました。
そしてこの文化運動の影響は、政治・社会・宗教にまで幅広く渡り、近代ヨーロッパ文化の基盤となるのです。
①貿易で富を得たイタリア商人たちが火付け役
ルネサンスは北イタリアから始まります。当時、北イタリアは十字軍以降の東方貿易、フィレンツェの毛織物業の発展など、商業が大きく発展し、商人たちが富を得ました。彼らは芸術や学問にお金を使い、芸術家、学者の保護もしていきます。このような流れから文化活動が活発化していったのです。
②ローマ帝国の中心だったイタリア
イタリアはローマ帝国の中心地です。当然、古代ローマに関する歴史的建造物や遺跡も多く残されていました。そのため、当時のイタリア人たちがそれらの古代文化に日常からふれやすく関心も持ちやすかった、という地理的要因があります。
②イタリアは古代ギリシア文化が流入しやすかった
オスマン・トルコによるビザンツ帝国(現在のギリシア)征服が大きな影響を与えます。というのも、ビザンツ帝国の文化人や学者たちが、イタリアに大勢亡命したからです。しかも、ビザンツには当時まだ古代ギリシアの数々の文献が残っていたので、それらはイタリアで大きなブームを起こし、ルネサンスに火をつけました。
マキャヴェッリ
16世紀ルネサンス期イタリアの政治家、思想家、文筆家。1532年に『君主論』を刊行し、当時の混沌としたイタリア政治状況を解決するために、政治を宗教や倫理から切り離し、「君主とはどうあるべきか」を記しました。彼のこの考え方を「マキャヴェリズム」とも呼びます。
ダンテ
13世紀〜14世紀初期を生きたイタリア文学でもっとも著名な詩人、哲学者です。1304〜1308年頃に執筆されたといわれている『神曲』は、地獄・煉獄(れんごく)・天国の3界を彼自身が巡る話が描かれています。煉獄とは、キリスト教的思想で、この世から天国に行く前の清めの所をいいます。ダンテはルネサンス文学の先駆者ともいわれているのです。
レオナルド・ダ・ヴィンチ
15世期イタリアを代表する芸術家です。「モナ=リザ」や「最後の晩餐」の画家として有名ですが、実は彼は「万能人」といわれるほど、さまざまな分野で功績をあげています。その分野は、科学、解剖学、天文学、地理学、音楽……とあらゆる分野にわたります。
ミケランジェロ
15世紀イタリアを代表する芸術家。ダヴィンチと同じ時代を生き、彼同様にその多才な芸術性を彫刻、絵画、建築など幅広い分野で発揮しています。もっとも有名な彫刻作品のひとつが、彼が20代の頃に製作した「ピエタ」、「ダヴィデ像」でしょう。
ローマ、イタリア研究者として有名な作家、塩野七生による40年間の研究の集大成とも呼ぶべき一冊です。
ルネサンスが繁栄した街・ローマ、ヴェネツィア、フィレンツェを巡りながら、それぞれの土地で、そこで活躍した人物(ダヴィンチをはじめ、チェーザレ・ボルジアなど)が、宗教によって今まで抑えつけられていた感情や欲望を爆発し、それを開花させていく様子、そしてその栄枯盛衰を辿ってゆく様子が、対話形式で鮮やかに描かれています。
- 著者
- 塩野 七生
- 出版日
- 2008-03-28
「見たい、知りたい、理解したいという欲望の爆発、それこそがルネサンスだった。」という著者の言葉が非常に印象的です。
また、彼女の切れ味のある文体、どこか挑発的に感じられるほどの強気な表現からも、彼女の確固としたローマ・イタリア研究に対する情熱が伝わってくるようです。
対話形式なので、リズムよく、どこかリアリティを感じさせながら当時の歴史を理解することができますし、回りくどく小難しい説明が少ないのでヨーロッパ歴史初心者でも十分楽しめます。
ある日、著者は霊能者に「あなたの前世はデジデリオという美しいイタリア青年彫刻家です」と告げられます。彼女は、好奇心と懐疑心を抑えられず、本当にイタリアまで事実検証に渡ったのです。
本書はそんな著者が執筆したイタリア紀行文。イタリア各街で歴史の謎を紐解いていき、スリルが満載の推理小説のような作品です。
- 著者
- 森下 典子
- 出版日
- 2006-09-05
「前世の事実確認に行った話」というテーマ設定がとても魅力的です。
前世を本当に信じるかどうかは別として、著者があくまでも冷静な視点から歴史の謎を紐解き、前に進んでいく姿が描かれており、思わず自分自身もその旅に同行しているような気持ちになれるでしょう。
また、今まで何気なく鑑賞していた芸術作品のその裏にあった芸術家たちの人生を垣間見るような面白さがあるのも本書の魅力です。
平易で明快な文章とイラストを使って説明した、ルネサンスの歴史解説本です。
単に時系列に事実を述べるのではなく、当時を生きた名芸術家たち(ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエロなど)の人物像を彼らの愉快なエピソードなども交えながら描かれています。
また作品の解説も絵画に限らず、当時の建築、彫刻まで幅広く解説されています。入門書としておすすめしたい一冊です。
- 著者
- 杉全 美帆子
- 出版日
- 2010-04-08
絵画、建築、彫刻……と幅広い分野を網羅しながらも、気難しい説明がなく、とてもスラスラ楽しく読むことができます。
特に彼らのエピソードは、まるで現代のゴシップニュースのようで、今まで「教科書の中で登場する、遠い人物」だった天才たちが、自分たちと同じ人間なんだなと親近感を感じられることでしょう。
ルネサンス期を生きた、地位も職業もまったく異なる12人の人生を描いています。取りあげられているのは、アンリ4世、イエズス会創始者のイグナチウス、ノストラダムス、宗教改革指導者のカルヴァンなどさまざま。それぞれの分野で重要な人物たちの人物像と彼らの人生を、当時の時代背景を追いながら綴っています。
そして、それらを通して、人間精神の深い部分にある「人間の自由」「ヒューマニズム」とは何なのかという極論に焦点を当てています。
- 著者
- 渡辺 一夫
- 出版日
- 1992-01-16
著者の渡辺一夫は、フランス文化研究の第一人者として名高い文学者。1992年に再版後も数々のフランス研究家や仏語学習者に読まれ続けているのも納得できる、重厚感のある一冊です。
神を絶対的存在とし、すべてが宗教中心に回っていた当時のヨーロッパ。そんな状況のなか、「個性」や「人間性の解放」という、いわば対極にあるようなルネサンスの理念は、今までの概念を覆すような爆発的な運動だったのです。
結局この運動を通して私たちの祖先が求めた「人間性」とは一体何だったのだろう、と深く考えさせられるでしょう。
文学・思想・芸術の力をもって、宗教的価値観が支持されていた当時の思想観念に大きな激震を与えたルネサンス。この激震はヨーロッパ中に連鎖していき、そのとどまることのない大きな力によって、ヨーロッパは近代へと変遷していきました。
当時の人々のたくさんの苦悶、ほとばしるほどの情熱から、私たち自身も、現代社会のあり方について何か考えさせられるものがあります。ぜひ今回おすすめした書籍を手にとり、当時を生きた人々の人生を追いながら、その世界に浸かってみてください。