もの作りの仕事にたずさわっている人、必見!がむしゃらに生きる少女の姿を描いた、お仕事系青春漫画。何度も重版したことで話題になった本作が、漫画『西荻窪ランスルー』です。 そんな本作の魅力を、全4巻分の見所と一緒にご紹介していきます。スマホアプリからは無料で読むことができますよ。
「月刊コミックゼノン」で連載されていた作品。作者・ゆき林檎はBL漫画で人気を博しましたが、一転して、女の子が主人公のお仕事漫画を描きました。
アニメ会社での仕事を描いた本作は、同じもの作りの仕事をしている読者をはじめ、多くの方から支持を集めたのです。
- 著者
- ゆき林檎
- 出版日
- 2016-06-20
そんな本作の魅力の1つにあげられるのが、共感度の高さでしょう。働く姿や家庭での事情、友情や恋愛の人間関係まで「社会人の青春」を描いており、「希望とやる気に満ちた新社会人」も「社会経験を積んだ大人」も含め、さまざまな人々の心情が繊細に表現されているのです。
今回はそんな本作のさらに詳しい魅力、そして全巻の見所をご紹介!スマホで読める無料漫画アプリでも配信もされているので、気になった方はぜひご自身で読んでみてくださいね。
とある進学校に通う、主人公の少女・江田島咲(えだじま さき)。無事に4年生大学の受験も終えましたが、彼女は西荻窪にあるアニメ会社の新卒採用試験の面接に向かうのです。
「親に喜んでもらえるから」と背伸びして入った進学校はいまいち自分には合わず、さらに進学校に入学したせいで弟が学歴コンプレックスでグレてしまうことに……。なんだか家にも居づらく、彼女は正直大学にも行きたくないと思っていたのでした。
そんな家庭の事情もあり、周囲の反対をおしきって、「絵に携わる仕事に就く」という自身の夢を追いかけることを決意。なんとか一社にだけ内定をもらえた彼女ですが、西荻窪にあるアニメ制作会社「スタジオヘメロカリス」で待っていたのは、彼女の描いていた夢とは違うもので……。
新しく始まった生活は、どうなるのでしょうか?
本作最大の魅力が、18歳にして自分の夢を見定め、そのためにがむしゃらに頑張る主人公・咲の姿です。誰しもが経験したことのある、社会人としてのスタートを思い出させる初々しさがあります。
アニメ業界といえば、ブラックと批判されるほどに過酷な環境だともいわれますが、本作でもその大変さは随所に登場。終わらない(というか終わりなどないのかも?)、終わらないから眠れない、それでも締め切りはやってくる……。
その現場の修羅場感や焦りが、これでもかというほどにリアルに伝わってきて、こちらまでドキドキしてしまいます。
しかも、咲はまだ働き方というものを知らないので、ひたすらに頑張る。その一生懸命さは、ペースややり方を知ってしまった大人にはもうできない勢いがあるのです。
また、咲の我の強さも見所の1つ。面接で、理想論を上司になる相手に突きつけたり、一緒に働く憧れの相手に「夢はありますか」と聞いたりと、読んでいるこちらまで恥ずかしくなるような青春っぷり。
恥ずかしくなりながらも、どこか懐かしく、羨ましい。そんな若さのきらめきがある作品なのです。
本作の大きな魅力は、キャラそれぞれの背景が丁寧に描かれていることにもあります。咲は、実は今まで両親の喜ぶことを選んできた人物。それゆえに、今回の夢は一大決心ではあるものの、彼女と比べられて荒れた弟に苦しまされているという現状があったり。
有名監督の三津吉春は、クオリティに妥協しない人物でバリキャリ女性。ハードワーカーではあるものの、心の隅で息子を気にしたり、新人を育てようという気概のある母のような部分も併せ持っていたり。
弱冠18歳で、国際ショートフィルムコンテストで受賞した百々瀬知は、天才ゆえにわかりづらいところはあるものの、実は王道で簡単なところに落ちる可愛らしさをもっていたり……。
それぞれのキャラの背景や言動が丁寧に描かれており、彼らの性格がリアルにいるな〜と容易に想像できるでしょう。この他にも新キャラが登場したり、サブキャラまでもがしっかりと主役のストーリーとして描かれている部分があり、彼らがより作品世界を立体的にしているのです。
本巻での見所は、ついにはじまった咲の新生活です。憧れの絵に携わる仕事は、休みもなく、帰る時間も遅く、給料も低いハードなものでしたが、頼れる先輩と新しい仲間たちの存在、そして自分の好きな分野で働ける現場をとても居心地よく感じていました。
そのなかでも、三津吉春(みつ よしはる)との出会いは、咲の人生に大きな影響があるものでした。
私がこれから大きく影響を受けることになる
その女性からは ネギの香りがした
(『西荻窪ランスルー』1巻より引用)
これが、咲が初めて三津吉に出会うシーンです。
三津吉はヒットした話題のアニメ監督で、一児の母でもあります。仕事にかける情熱と妥協をしない姿勢をもったパワフルな女性で、監督になる前は咲と同じくスタジオヘメロカリスの作画部で働いていました。シビアな仕事をする彼女ですが、新作のアニメ作画ではなんと新人の咲に仕事を与えるのです。
なぜ新人に大切な仕事を任せるのか……。それは、アニメ業界を次へとつなげていくための考えでした。
やりたい仕事で成功をおさめ、若い世代へとつなげていく三津吉の姿は、同じ女性として咲の胸を熱くするのです。そして、彼女には「三津吉さんのような頼れる先輩になる」という目標ができます。
咲が業界に入って初めてできた「目標」とする人物との出会いは、これからの物語につながる大きなポイントとなるので要チェックです!
スタジオヘメロカリスに入社して3ヶ月が経ち、上京して初めての夏をむかえました。そんなとき、咲の担当していたアニメ「神様の箱庭」の決起会がおこなわれます。
そこで咲が出会ったのは、天才とよばれる期待の新人、百々瀬知(ももせ とも)でした。
それから2人はスタジオへメロカリスで一緒に働きはじめるのですが、デリカシーがなく自分勝手な百々瀬に咲は終始イライラ……。百々瀬自身も、集団で働く環境に慣れることができずにいました。
新しい仲間との出会い、一体どうなるのでしょうか?
- 著者
- ゆき林檎
- 出版日
- 2016-12-20
一方、咲と同期で入社した、三条敬子(さんじょう けいこ)は、本当の夢をあきらめられずにいました。少女漫画が好きで、高校生のころから漫画を描いていた彼女は、入社してからも仕事の合間に漫画を描きつづけています。
そんなとき、彼女の漫画が賞を受賞したのです。
デビュー賞受賞して11月売りの増刊に載せてもらえるって‼
(『西荻窪ランスルー』2巻より引用)
彼氏に受賞の報告をする敬子のシーンです。かねてからの夢だって漫画家へのチャンスがみえた彼女の瞳は輝きにみちていましたが……。
ちょうどスタジオヘメロカリスで担当しているアニメも順調にすすんでいました。仲のいい同期との別れも、順調な仕事も、漫画家への夢もあきらめられない敬子。彼女は何を選択するのでしょうか?
2巻では咲の新たな仲間、百々瀬との出会いと、仲良しの同期、敬子との別れを描いています。離職率の高いクリエイティブな仕事に対して咲は一体なにを思うのか、1巻から一転して社会の現実を表現したストーリーが見どころになっています。
注目の3巻では、咲と同期の仲間たちが、入社してはじめての昇進試験を受けることになります。
試験までにできるかぎりの努力をする咲たちですが、試験を受けるのは彼女らだけじゃなかったようで……。
- 著者
- ゆき林檎
- 出版日
- 2017-07-20
うちのスタジオは試験に5回落ちた人は皆辞めちゃうんだ…
そんだけ落ちると潮時って空気で
(『西荻窪ランスルー』3巻より引用)
上記のセリフのとおり、スタジオヘメロカリスでは昇進試験を5回落ちると潮時と感じて辞めていく人が多いのです。実は咲たちと一緒に試験を受けるもうひとりの社員である今野(こんの)は、昇進試験を4回落ちて、今年の試験が最後のチャンスとなっていました。
努力だけでは生きていけないクリエイティブな業界で、最初にぶつかる壁。それぞれが思いを抱いた昇進試験のストーリーは、3巻のなかでも1番の見所となっています。
新入社員が入社し、みんなでお花見を開催。咲も、ついに先輩社員です。新入社員たちの眩しさに目を細めながら、花見は和気あいあいと進みます。
そんななか飲みすぎたのか、松本は酔いつぶれてしまうのです。彼の面倒を1人でみる花澤。彼女は、この一回り以上年の離れた彼のことが何やら気になる様子なのでした。穏やかに話していた2人。しかし、急に松本の様子に異変が起き……。
恋愛、仕事、そして人生について考えさせられるお仕事漫画、ついに完結です。
- 著者
- ゆき林檎
- 出版日
- 2018-01-20
咲はある日、衝撃的な話を聞いてしまいます。それは、日向野が別のスタジオに誘われているという内容でした。日向野は彼女にとって、尊敬する先輩です。大きなショックを受ける彼女ですが、そんななかで原画試験もあって……。
見所は、咲の心の揺れ動きです。日向野に対する感情は、尊敬する相手としてなのか、それとも恋愛対象としてなのか……。彼の異動によって、彼女の心は決まるのでしょうか。
最後には、咲の数年後が描かれます。熱意だけで飛び込んだアニメ制作の世界。そこで懸命にもがいた彼女は、果たしてどのような成長を遂げているのでしょうか。1巻から読み続けていた読者にとっては、ここで描かれる彼女の姿は感慨深いものがあるでしょう。
仕事で輝く人々の姿がここにはあります。そんな彼らの、そして咲の結末を、ぜひご自身の目でお確かめください。
男女を問わず人気を集めた漫画『西荻窪ランスルー』。無料スマホアプリでも読めますので、ぜひお試しください!