「ある日、神様が現れて願いを叶えてくれると言った」という展開の漫画は多くありますが、そのなかでも異色を放つ作品が『素足のメテオライト』です。神と人間との在り方について鋭く描き出した本作について、その魅力をたっぷりご紹介します。
輪廻転生を題材にした『リィンカーネーションの花弁』で人気を集める小西幹久のデビュー作が、今回ご紹介する『素足のメテオライト』です。
「メテオライト」とは隕石のこと。それが「素足の」とは何とも意味深なタイトルですよね。
本作の冒頭で、主人公の朝田名有介(あさたなありゆき)が手にした隕石のかけらのような石が、すべての始まりとなります。
ごく普通の高校生が、突如「神の力」を注がれる「器」となってしまったファンタジックな世界観ながら、描かれているのはよく見知った「リアル」です。
- 著者
- 小西幹久
- 出版日
- 2011-07-08
物語はギャグとシリアスを織り交ぜながら、「神とは何ぞや?」ということに焦点を当てて展開していきます。神の超常現象的な力を使ってさまざまなできごとを解決!というよりはむしろ、人間の内面を抉り出すようなドロッとした展開も含まれた、独特の世界観を醸し出しているのです。
また、有介を取り巻く友人たちも魅力的で、特に親友のカメ次は秀才で学年総代でロリオタというキャラが立ち過ぎた人物ですが、彼がストーリーテラーとして物語を整理してくれるため、哲学的なテーマである本作の「神」論も非常に分かりやすく描かれています。
カメ次の他にも、有介を慕う後輩のK(けい)や、有介と同じく神を保持する綵花(さいか)、謎多き医師の棚橋など、サブキャラクターたちの活躍も見どころです。
「神」という古くからのある概念を再構築して提供してくれる、説得力抜群の新しい「神物語」に引き込まれてしまいますよ。
「普通」を望む主人公の有介が、何気なく流星群に願いごとをする冒頭から物語は動き出していきます。
「世の中は普通のことしか起きない」と思っていた彼ですが、ある日突然「家がなくなる」という珍事が発生!
驚く彼の前に、ダルミルという名前の少女が現れ、自分を「神」だと名乗り、有介の願いを叶えようとします
にわかにはダルミルのことを「神」だと信じられない有介ですが、突如襲ってきた「化け物」を彼女の力で迎撃してからは、ダルミルの「神」としての存在を信用するようになっていき、徐々にその関係性にも変化が表われはじめます。
「神」として「器」となる人間の願いを叶える存在であり、幼女の姿をしていて、ある日突然顕現したダルミルという名の少女が、本作のヒロインです。
ダルミルの何が可愛いかといえば、まず、その愛らしいビジュアルは捨て置けません。大きな瞳にロングヘア、ぺったんこな幼児体型と完全にロリータなのに、神ゆえに不遜で大人びた話し方をするところなんてたまらなくキュートです。
初めて食べるアイスに「ちべたい」と感動してみたり、その後に頭がキーンとすることに慄いてみたり、大食いなのに注文が多くて料理を作る有介の負担が尋常じゃなかったり、ゴーグルをしないとお風呂に入れなかったりと、彼女の魅力いっぱいのエピソードは、1巻からふんだんに散りばめられています。
本作では、神の力を使うための器である有介にくっついて力を発動するシーンが多く描かれていますが、ダルミルが幼女の姿をしているためか「ちまっ」としていて可愛らしく、化け物との戦闘中なのにもかかわらず、実は有介にぶら下がって遊んでいるのでは?と錯覚させるキュートさです。
好奇心旺盛で世間知らずだけど万能の力を持っている彼女は、不遜な態度で有介に接しつつも、彼に願われることを求める一途な性格。有介の言うことを聞いてしまう素直な一面がある、立派なツンデレヒロインです。
ダルミルが泣いていれば心配になるし、笑っていると嬉しい気持ちになるし、暗い顔をしていれば慰めてあげたくなるなど、彼女がいるのといないのとでは場面ごとのトーンまで変わってしまいます。
有介との信頼関係を強固にしていくにつれ、彼のよき理解者となり、ともに存在しようとする健気な姿も必見ですよ。
本作の魅力といえば、ダルミルの可愛さもさることながら、物語のバランスがいいことでしょう。
序盤から中盤にかけては1話完結スタイルで、神と人間が力を合わせる様子や、日常のドタバタのシーンをギャグ味たっぷりに描き、そこにちりばめられたシリアスなシーンが全体の良いアクセントになっています。
シリアスだったはずなのに、突如ぶっ込まれるギャグについ笑ってしまうのもご愛嬌。
化け物との戦闘中にも、神の力で必殺技を出そうとしたまさにその瞬間に、「必殺技というからにはカッコイイ技名があるよな?」と訊かれた有介が、咄嗟に「ちくしょお」と叫んでしまったことから、必殺技が「ちく掌」という名前になり、「ちくしょう」と言わないと発動しなくなってしまう件は、何度読んでも面白いです。
なかなかシリアスになりきれない有介とダルミルで、そこにロリオタなのに秀才というカメ次も加わると、一層ギャグに磨きがかかります。
カメ次はよく平行思考をしながら道を歩くのですが、思考が多岐にわたり、そのうえ没頭するゆえに、車に轢かれてしまうことがよくあるのです。いつもつけている首のコルセットには、よく事故に遭うという理由があったと判明しました。
さらにロリコンについての持論を展開し、有介から「落ち着けパンチ」を見舞われることもしょっちゅうです。「強制的に落ちつきました」と、倒れていることもしばしば。
日常と友情と神との交流を描いていた当初の和気あいあいとした雰囲気が、中盤以降には一転してシリアスになっていくストーリー展開も見逃せません。
本作に登場するダルミルをはじめとする神たちは、「器」である人間の1番強い願いを叶えるために顕現し、その願いを叶えてくれます。神ひとりに対して叶えられる願いもひとつ、と決まっていて、それは無償で実現できるものです。
しかし有介の元に現れたダルミルだけは、いくつもの願いを叶えることができ、また「神の力」を使うと代償として有介に腹痛が訪れるというオマケがついている点が他とは違います。
さらに神たちにも叶えられない願いがあることも分かりました。それは、器である人間たちが「実在」を信じていないものです。たとえば自分の理想の世界をつくりたいと思っても、「本当にそんな世界があるはずない」と思っているならば、それは叶いません。
物語の終盤で、有介は困っている人や助けられるべき人が救われる「普通の世界」を願いますが、有介自身が本当はそんなものないと分かっているがゆえに、「普通の世界」という願いは叶えることができないと断わられてしまうのです。
では、神とはいったい何なのでしょうか?そして万能なダルミルはなぜ有介のもとに現れたのでしょう?謎が謎を呼ぶ目まぐるしい展開はラストへ向けて加速し、ページを捲る手が止まりません。
神イコールなんだかよくわからないけどすごい存在、という定義を覆して、神は救いを与えるばかりではなく試練をも与えるのだと、フィクションのなかで徹底してリアルをつきつけてくるところが、本作の優れた点ではないでしょうか。
すべての謎が明かされた時に、きっと自分を大切にしたいと思うはずですよ。
願いを叶えてもらうため、流星群に願い事をした主人公の有介。翌日、彼が学校から帰ると自宅が全壊していました。原因を探るために崩れた家の中に入ると、隕石のかけらのような物を見つけます。不思議に思い、それを手に取った瞬間、神を名乗る少女ダルミルがどこからともなく現れました。
- 著者
- 小西幹久
- 出版日
- 2011-07-08
早い展開で、サクサクと物語が進む第1巻。ありふれた日常を求めている主人公の有介は、ダルミルが消えることを願います。その瞬間、彼女を消すために異世界から突然、化け物が現れました。消えてくれとは願ったものの、正義感の強い有介は、命の危険に瀕したダルミルを助けてしまいます。それによって彼の人生はさらなる波乱へと巻き込まれていってしまうのでした。
困っている人を助けずにはいられない主人公の有介。正義感がものすごく強くまっすぐな彼の性格は、この作品の魅力のひとつです。また多くの主要キャラが登場することになる第1巻。彼らの爆笑必至の掛け合いにも注目です。
ある日突然、街に現れた超巨大な女の子。その肩にはポツンと1人の男の子が座っており、ダルミルによって彼が神であることが明らかになりました。さらに、よく見ると巨大な少女はクラスメイトの上倉ゆかりであることが判明。歩くだけで街に甚大な被害をもたらしてしまう彼女を、はたして止めることができるのでしょうか……。
- 著者
- 小西幹久
- 出版日
- 2011-10-08
ついに2人目の神が出現してしまう第2巻。望まぬ形で巨大化してしまったクラスメイト。その理由には彼女の肩に乗っている神が大きく関係していました。
最終的に有介は彼女を助けることができるのか。そして、もう1人の神の目的とは?気になる続きは本編でお楽しみください。
異空間から現れ、主人公らに戦いを挑む化け物、喰星。今までは、主人公の必殺技「ちく掌」で簡単に倒してきたものの、ついに必殺技が効かなくなってしまいます。負けると命を落としてしまう喰星との戦い。有介は新たな技を生み出し、戦いを乗り越えることはできるのでしょうか。
- 著者
- 小西 幹久
- 出版日
- 2012-02-10
激しい争いが始まる『素足のメテオライト』第3巻。本作の敵キャラクターである喰星は防御力が跳ね上がったことに加え、攻撃力も大幅に上昇しました。刃物のような曖昧な武器は、自由自在に変形する近未来的なものへと進化し、あまりにも強力な武器は有介を追い詰めます。
パワーアップした敵によって、さらに臨場感を増す戦闘シーン。手に汗握る戦いから目が離せません。
お人好しの性格で、困っている人を見過ごせない有介。学校に行く途中に転んで擦りむいた少年がいれば手を差し伸べたり、重い荷物を人に代わって運んだりするなど、自ら善い行ないをしようと心がけています。
彼自身は、良いことをしているつもりではなく、それが普通の行動だと主張。自分がえらいわけではない、と言っています。そんな彼の様子をみて、ダルミルは核心をつく発言をしました。
世界にとって善行が普通であってほしいと
喚いているように見えていたが?
- 著者
- 小西 幹久
- 出版日
- 2012-09-10
神の能力として、相手の意識を読み取ることができる彼女は、有介が「人助けであふれる世界が、普通の世界である」と考えていることについて問いただすのです。
彼は同時に、自分が思い描く「普通の世界」が正しいのか、神にそんな世界を創造することを願っていいものか、不安に思う気持ちもありました。
「普通」の尺度は人によって異なるでしょう。それを「世界」という大きな規模で考えるなら、なおさらその判断は難しいものとなります。
普通の世界とは何なのでしょう。有介が願うような、善行があふれる世界なのでしょうか?4巻は、非常に考えさせられる内容となっています。ダルミルの語るシーンは、何度も読み返して咀嚼したくなるシリアスさが漂います。
棚橋が喰星に襲われる衝撃的シーンで終了した4巻。これまでのギャグ要素は最小限に抑えられ、シリアスな展開が続きます。
棚橋が襲われる瞬間、「Kちゃんによろしく」という謎の発言を残しています。これには何か深い秘密が隠されているようでした。一体、彼は死ぬ前に何を伝えたかったのでしょうか。
- 著者
- 小西 幹久
- 出版日
- 2012-11-09
浮かび上がってくる、過去の記憶。小学生の自分の腕にくっつく幼い少女の姿が突然思い出されます。意味ありげに少女の顔だけ黒いもやがかかり、誰だったのかは思い出せないでいました。
棚橋の謎めいた発言、そして詳細が分からないけれど思い出される記憶……。有介と後輩のKの間には、何があったのでしょうか?
次々に秘密が明らかになっていく最終5巻。一気に伏線が回収され、読み終わった後にはもう1度読み返したくなるような作品です。
神なのにまるで人間のようなダルミルと、神に願わずにいられなかった有介。その交流から見えてくる人間と神との共存をうまく描き出した名作です。すべてを読み終えた時に、自分なりの答えが見つかることでしょう。