日本語を変えたマンガたち
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日本語を変えたマンガたち

更新:2017.10.17 作成:2017.10.17

QOOLANDの平井拓郎さんによる連載書評コラム。今回は『 世紀末リーダー伝たけし!』、『セクシーコマンドー外伝 すごいよ!! マサルさん』、『クレヨンしんちゃん』を取り上げます。

平井拓郎プロフィール画像
バンド「QOOLAND」Vo/Gt
平井拓郎
QOOLANDのヴォーカル・ギター。2011年に川﨑 純(Gt)、菅 ひであき(Ba)、タカギ 皓平(Dr)とともにバンドを結成。2013年にロッキング・オン主催コンテスト、 RO69JACKでグランプリを獲得。2016年12月14日、ユニバーサルミュージックより、メジャーデビューアルバム『本気で演りたい』をリリース。オフィシャルサイトにて日刊ブログを22時に更新。年間150冊以上は読む読書家。2017年9月にはメジャー2ndアルバム『あしたを面白く』がリリースされた。http://qooland.com/
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ロックミュージックは「NIRVANAのデビューした前か後かに分けられる」と言われています。80年代のアメリカでは商業的なスタイル、きらびやかな装飾をまとったグループがシーンを席巻していました。そんな最中、シアトルの薄汚い3人組の作ったアルバムが、マイケル・ジャクソンのアルバムを蹴落として全米チャート1位になります。

それ以降、「これ見よがしにカッコつけすぎるとダサい」といった風潮が続きます。「着飾りすぎるとダサい」「キメすぎるとダサイ」といった価値観はカート・コバーンが自らの顔面を撃ち抜いてから23年経った今も続いているように感じます。

このように世の中には「時勢とともに急に変わること」があります。それが最も頻繁に起きるのが「言語」ではないでしょうか。

「若者言葉」というのはいつの世も更新されます。

お笑いのカリスマであるダウンタウンも「言語」に大きな影響を与えました。罰ゲーム、スベる、ドン引き、ドSドM、グダグダ、逆ギレなど彼らが広めた言葉が数多くあります。出現以前と以降では国内の言語感覚が変わりました。前置きが長くなりましたが、「このマンガが出版された前と後で言葉が変わった」というようなマンガがあります。日本全国なのか、はたまた僕の周りがだけだったのかは分かりませんが、「言語」に強烈な影響力のあったマンガが確実に存在します。

今回はそんな印象深い言葉を操った3作のコミックをご紹介します。

世紀末リーダー伝たけし!

著者
島袋 光年
出版日
2004-08-04

生まれたときからすでにヒゲが生えまくりの「たけし」がリーダー的存在としてクラスの問題を解決したりしなかったりしていくマンガです。『トリコ』の大ヒットを飛ばした島袋先生のデビュー作でもあります。

「800か所違うとこがあるけどまぁいいぞ」
「内角が外郭の高めか低めにストレートかカーブかスライダーのサイン」
「俺の名前はボブ石井 。石井ボブでもいいけどな。まぁ佐々木って呼んでくれ」

など訳の分からないセリフとハートフルな展開には独特の中毒性があり、当時の小学生を熱狂させました。

「たけし」にハマったキッズたちは次々とおかしな言葉を使いだしました。感情をセンチメートルに置き換えたり、形容詞をなるべく曖昧にしたりと言語は乱れに乱れていき、友達の家庭では「たけし」禁止令が出るほどでした。そんな良くも悪くも影響力のあった「たけし」も島袋先生が神奈川県警に逮捕されたことにより連載打ち切りに至ります。

セクシーコマンドー外伝 すごいよ!! マサルさん

著者
うすた 京介
出版日
2015-04-17

シュールギャグの草分け的存在である「マサルさん」。連載期間は1995年~1997年だったので、僕はその影響力を肌では感じられませんでしたが、年上の方に好きなギャグマンガを聞くとまずこの作品が入ってきます。「ボケとツッコミのパート構成のギャグマンガの常識を覆した」と評されるだけのクオリティが最初から最後まで続きます。

高校名が「わかめ高校」であり、アダ名の候補が「フーミン」か「げろしゃぶ」かだったりとネーミングセンスが新感覚そのものでした。当時、うすた先生が連載していたのが23歳だったことを考えると本当にセンスを叩きつけたようなマンガだったことがわかります。そして集英社へ持ち込まれるギャグマンガのほとんどが「マサルさん」調になっていったそうです。

クレヨンしんちゃん

著者
臼井 儀人
出版日

「理想の家族」に選ばれたり、映画の興行的成功など国民的作品として認知されていますが、かつてはPTAの「子どもに見せたくないテレビ番組」として常に上位にランクインしていました。僕が幼い頃も「悪影響がある」と大人たちから叩き込まれました。

しかし、それら教育のカウンターなのかは分かりませんが、僕たち子どもたちはみんな「クレヨンしんちゃん」が大好きでした。その結果、全国でしんのすけのマネをして、大人をおちょくる園児が急増したそうです。

僕のまわりもそうでした。賢い子も馬鹿な子もこぞって大人を呼び捨てにしたのです。グレや反抗期とも異なる、その異様な事態に大人たちは慌てふためきました。叱れば叱るほど大人はおちょくられました。

すると「こんなもの見てたらロクな大人にならない!」という体でクレヨンしんちゃんの弾圧が始まりました。ですが、その理由付けは後からのこじつけだったのではないでしょうか。

僕の予想ですが、当時の大人たちは「アレをやられると、大変な育児がただでさえ大変になる……!」と疲れていたのではないかと思います。悪事の重さで言えば、バイオテロや傷害に及ぶバイキンマンの方がよっぽどです。ですが、しんのすけの言動や行動のとばっちりはいつも大人に降りかかりました。

大人たちは自分たちの身を守るためにも弾圧しなければいけなかったのはないでしょうか。基本的に「クレヨンしんちゃん」は「子どもが大人をおちょくるから面白い」というナンセンスギャグなので、悪影響うんぬんというよりも自分たちがキツかったのだと思います。

行動や子どもの人格形成にまで大きな影響を与えた「クレヨンしんちゃん」ですが、やはり今読んでもムチャクチャ面白いです。

臼井先生の死後、「新クレヨンしんちゃん」がアシスタントの方によって継続連載中ですが、臼井先生に負けず劣らずのクオリティの高さです。