2003年にアメリカをはじめとする連合軍がイラクへ武力行使をすることで始まったイラク戦争。開戦の際に多くの疑問が持たれましたが、あなたはどれくらいご存知でしょうか?今だからこそ知っておきたいイラク戦争を関連書籍をご紹介するとともに解説していきます。
イラク戦争とは、アメリカを中心とした有志連合軍がイラクへ軍事介入し、当時のサダム=フセイン政権を倒した戦争です。連合軍の攻撃の理由は「イラクが大量破壊兵器を保有している」というものでした。
2003年3月20日、アメリカ軍によるイラクの首都バグダード(バグダッド)への空爆を皮切りに、戦闘がスタート。アメリカ、イギリス両軍による陸上部隊の侵攻や、各所への本格的な空爆がおこなわれました。
4月9日にバグダードが陥落。アメリカ軍とバグダード市民により当時のイラクの指導者、フセイン像が倒されました。イラク軍は抵抗をやめ、5月1日に当時のアメリカ大統領ブッシュが勝利宣言をしたのです。
フセインはその年の12月に捕捉され、2006年12月に死刑に処されました。
イラク戦争自体は実質50日もありませんでしたが、空爆などによってイラク国内で多くの死傷者が出ています。
日本では、当時の小泉首相がアメリカの支持を表明しました。2004年には非戦闘地域に限り自衛隊を派遣する「イラク特別措置法」が成立し、人道支援のため自衛隊がイラクに出向いています。
話は1990年にさかのぼります。この年、イラクは石油輸出国である隣国のクウェートに侵攻しました。翌年から国連は多国籍軍を結成してイラクを空爆し、多数の死傷者を出しながらもクウェートにいたイラク軍を敗走に追い込みました。これが湾岸戦争です。
この戦争の停戦協定が結ばれる際、イラクと国連の間には「国際連合安全保障理事会決議687」という決議が交わされます。この決議には「イラク内にある大量破壊兵器をすべて破棄する」という内容が含まれていました。
ところがその後、査察をおこなおうとすると、イラクは拒否します。国連に参加する国々は「イラクは核ミサイルや兵器を隠し持っているのではないか?」という不信感をもつようになりました。
2001年9月11日にニューヨークで同時多発テロ事件が発生すると、アメリカはテロ事件の首謀組織であるアルカイダとイラク政府がつながっていると考えるようになります。2002年にはブッシュ大統領が「イラン、北朝鮮、そしてイラクは悪の枢軸、テロ支援国家である」という演説をしました。
イラクがまだ兵器を持っているとすれば、野放しにすることは危険です。2003年には新しい国連決議が採択され、あらためてイラクに「大量破壊兵器の情報開示」が求められました。これにフセインはかろうじて応じます。
査察団はイラク国内に存在すると考えられていた大量破壊兵器を探しますが、そのようなものは一向に見つかりませんでした。それにもかかわらず、イラクを疑うアメリカは「サダム=フセインはテロ組織アルカイダと関係しているとみられる」という大義も付け加え、武力行使でイラク政府に制裁を与えることを決定したのです。
国連安保理のなかでも、フランス、ドイツ、ロシア、中国らは軍事介入に反対しました。合意を得られないまま、アメリカやイギリスなどは有志連合を組み、3月17日にフセイン大統領らの即時国外退去を勧告。これに応じなかったため、3月20日、空爆という先制攻撃に踏み切ったのです。
2003年の査察で見つからなかった大量破壊兵器は、その後も存在の証明ができないままでした。この戦争に本当に大義はあったのか?という声も多く、イギリスでは当時のブレア首相が退陣に追い込まれます。
またブッシュの勝利宣言後も、イラク国内ではテロや戦闘が続いていました。死傷者は増え続け、イラク新政府が樹立してもしばらくは治安の悪いままだったのです。アメリカやイギリスの軍は治安維持のためにとどまり、イラク国内での活動を続けました。
2009年、イギリスはイラクの治安が回復傾向にあると判断し、軍を撤退させます。2010年には当時のアメリカ大統領オバマもイラク戦争の終結宣言をして、アメリカ軍の主要戦闘部隊がイラクを去ります。残った部隊も2011年中に撤退を完了することとなりました。
しかしながら、その後のイラクも、決して平和な国になったとは言えない状況です。アメリカ軍撤退後もイスラム教スンニ派とシーア派の宗教対立が激化するなど、内戦状態が続いています。過激派も増え、テロがあちこちで起こるようになりました。
イラク戦争の始まりから終わりまでを詳細に描き出す渾身のノンフィクション作品です。
アメリカの動きが大変詳しく書かれており、イラク戦争の発端やその終わりまでを知りたいという方におすすめです。
- 著者
- ボブ・ウッドワード
- 出版日
- 2004-07-15
著者はノンフィクションの名手で、多数のベストセラーを輩出しています。徹底した取材をおこない、多数のインタビューや資料からこの戦争の真実を浮かびあがらせることに成功しました。
当時のブッシュ大統領やアメリカ政府高官、ホワイトハウスの職員、CIA、ロシア首相など、多数の人物について言及されています。戦争を始めるという決定が下されるまでのやり取りなどは鬼気迫るものが感じられるでしょう。読みごたえ抜群の一冊です。
イラク戦争に参加した兵士たちが何をし、どのように扱われていたのかを臆することなく記録した一冊です。
戦争をするということはどういうことなのか、大変考えさせられる内容になっています。
- 著者
- デイヴィッド・フィンケル
- 出版日
- 2016-02-11
著者が密着したのはアメリカ陸軍歩兵連隊。兵士のなかには10代の青年も多くいましたが、彼らがイラクで見たのはまさに地獄といっていいような惨状でした。
相手を殺すということ、殺されるということ、他人を傷つけ、時に自分も痛めつけられるということ……読んでいるうちに苦しくなってくるような場面もあります。
イラク戦争はその開戦理由からしても多くの疑念がありました。政府の考える大義によって派兵された兵士たちの、心と体への負担は想像を絶するものです。読後にはイラク戦争に正当性は、必然性はあったのだろうか?と考えずにはいられなくなるでしょう。
2015年には同じ著者によってこの本の続編ともいえる『帰還兵はなぜ自殺するのか』が出版されています。
イラク戦争の様子をよりリアルに感じるためには写真集もおすすめです。
こちらの著者は写真家の高橋邦典。アメリカ軍に従軍し、本当のイラク戦争を伝えるために戦地で撮影を続けました。
- 著者
- 高橋 邦典
- 出版日
- 2003-12-01
絵本で有名なポプラ社から出版されており、日本絵本大賞を受賞している作品です。
絵本ではありますが、写真には戦争でけがをした方や遺体の姿も掲載されています。戦争という目をそむけたくなる現実に真っ向から向き合った写真のひとつひとつが、見るものに多くを語りかけてくるようです。
「戦争は怖い、恐ろしいものだ」「戦争をしてはいけないんだ」ということは、大人はもちろんのこと、子どもだってそのように感じるものです。親子でこの本を読みながら、現実に起きてしまったこの戦いについて考えてみるのはいかがでしょうか。
専門性が高く、内容も600ページ以上の重厚な一冊となっております。イラク戦争を本格的に勉強する人にとっての必読書といえるでしょう。
- 著者
- ジョージ・パッカー
- 出版日
- 2008-01-26
著者のジョージ・パッカーはアメリカ人ジャーナリスト。イラクからの報道で受賞もしています。
この本の特徴は、圧倒的な取材からしか得ることができない貴重な証言や、そこからつながる多様な論点が書かれていることでしょう。イラク戦争という歴史的事件から見えるひとつひとつの話題について、多様な意見があり、それに対して自分はどのように思うか、ぜひ考えながら読んでいただきたいです。
イラク戦争を深く学びたい方は、ぜひ手に取ってみてください。
近現代の戦争は、今現在の国際情勢や政治に深くかかわっています。イラク戦争の結末も、多くの国の政治体制に影響を与えました。すでに終わった歴史としてだけでなく、今なお影響を残している戦争でもあります。ぜひ今一度、これらの本を読んでみてください。