『俺はまだ本気出してないだけ』の青野春秋が送る、ほぼほぼ実話の退廃的な日常漫画『スラップスティック』を、見どころとともにご紹介します。スマホの漫画アプリで無料で読むことができますよ。
『スラップスティック』は、自分を不幸だと思いながら過ごすある少年の日常を描いた作品。作者は『俺はまだ本気出してないだけ』『100万円の女たち』の青野春秋です。
ヤンキーな兄と不幸な弟のやり取りにクスッと笑えたり、ピリッとした緊張が走ったり、読めば読むほど引き込まれます。
この記事では、ほぼほぼ実話の退廃的な日常漫画『スラップスティック』の見どころをご紹介していきましょう。
- 著者
- 青野 春秋
- 出版日
- 2015-09-11
ヤンキーである中学生の兄・秋介にいじめられながら毎日を過ごす、弟の春人。まだ9歳です。暴力で己の鬱憤を晴らし、母と自分を追い込む秋介に、春人はいつも不快感を抱いていました。
殺したいくらい兄が憎いはずなのに、兄が喧嘩で勝てば喜んだり兄がいない夜は少し寂しかったりする春人と、実は弟想いな一面を持つ秋介の日常が淡々と描かれています。
また、実の子ではない秋介と春人を女手ひとつで育てる母・とし子の愛情や、「ただ普通になりたかった」と嘆く秋介の葛藤なども、注目していただきたい魅力のひとつです。
この作品の魅力は、春人と秋介の兄弟の心境にあります。
春人目線で進む本作に秋介の心情が出てくることはあまりありませんが、1巻では彼がこのように嘆く場面があります。
「……俺は普通でいいんだよ、普通で!なんで俺らはこんなに『不利』なんだ?」
「なんで日常生活に『不利』があるんだよ」(『スラップスティック』1巻より引用)
貧乏なのはしょうがない、父親なんていまさらいらない、ただもう少しだけ「普通」になりたかったと思う兄弟たちの心は、どうすれば満たされるのでしょうか。
春人は、自分に暴力を振るい、母とも口論が絶えない秋介がいるせいで、自分は不幸なのだと考えています。
しかし、本当にそれだけでしょうか。春人を不幸にしているのは、秋介であり、母であり、春人自身なのです。
家族3人がそれぞれ歩み寄ることができれば、彼はきっと「幸せだ」と言えるのではないでしょうか。そう考えると、幼い春人が追い込まれているこの日常に、胸が痛むのです。
血の繋がらない母と、暴力的で恐ろしい兄。それが幼い春人の家族です。
とし子は春人が悪いことをすると、お尻をムチで叩くことがあります。しかし普段は家計が苦しいなかでも子供たちのために服や靴を買ってきたり、春人の具合が悪いと仕事を放って病院に連れて行ったりと、優しい母です。
秋介は暴力的で春人をパシリに使うような人ですが、時には自分のアイスを食べさせてやったり、春人をいじめた不良たちに仕返しに行ったりと、案外弟想いな部分ももっています。
しかし、春人はそれでも「自分は不幸だ」と言います。
夜になると母は家庭教師の仕事に出かけ、兄もどこかへ行くため、春人はひとりでご飯を食べ、銭湯に行き、雷が鳴っていようともひとりぼっちで布団にくるまり、母も兄も知らないところで涙を流すのです。
そんな彼は、早く大人になりたいと願っています。早く母とも兄とも離れて暮らしたい、そうしなければ自分の不幸は終わらない、と。
「家族」とは一体どういうものなのでしょうか。春人は「普通の家族」でいたいだけなのです。一緒にご飯を食べ、一緒に銭湯に行き、雷が怖ければ甘え、狭い家でも並んで眠りにつく……。それができない現実に、なんとも言えない虚無感に襲われ、人知れず涙を流します。
春人の気持ちを考えると、当たり前であるはずの「普通の家族」がどれほど大切なものか、思い知らされるのです。
- 著者
- 青野 春秋
- 出版日
- 2015-09-11
1巻は、春人と秋介、とし子という家族の紹介がメインです。
秋介は春人をパシリにし、意味のない暴力を振るいます。母のとし子には、米が硬い、カレーにシュウマイを入れるなと文句をつけ、料理をひっくり返すのです。
そんな厄介者の秋介に対し、春人は本気で殺意を抱き、彼が寝ている隙に包丁を取り出して、突きつけました。
しかし春人は、秋介を殺すことはできませんでした。なぜなら、秋介が涙を流しながら眠っていたからです。
秋介が泣いている理由など春人にはわかりませんが、彼もまた、兄のそんな姿を見て涙を流します。
散々悪さをしていようと、秋介もまだ15歳。そんな彼が「普通」になりたいと願い、その鬱憤を暴力で晴らす……「普通」になれないことが、彼にとってどれほど苦しくて辛いことなのか、想像してもしきれません。
ただ彼の性格上、泣くことなんて許されないため、眠りながら泣いているのだと思うと、誰か秋介を救ってあげられる大人はいないのかと胸が締め付けられます。
- 著者
- 青野 春秋
- 出版日
- 2015-09-11
2巻でも、秋介に支配された退廃的な日常を送る春人ですが、彼にもひとつ変化がありました。それは、夢を持ったことです。
よく漫画の立ち読みをさせてもらっている本屋の店員に、「そんなに漫画が好きなら漫画家になってみたら?」と言われたことがきっかけでした。春人はそれから夢のために、たくさん絵を描くようになります。
そんな春人の元に帰ってきた秋介は、ケンカで浴びた返り血を拭くよう弟に命じました。命令に従って慎重に洋服の血抜きをする春人は、ゲームに夢中になっている秋介に対し「僕、漫画家になりたいんだ」とこぼします。
普段ならバカにするような発言をする秋介ですが、弟の夢を応援しているのか、その時は「なってみろ」とひと言。春人は改めて「僕は漫画家になろうと思う」と決意するのです。
このたった数ページの会話に、2人の絆が見えてきます。初めて夢を持った弟は、兄ならわかってくれると信じたから話したのでしょう。そしてそんな弟に、兄もエールを送ったのです。なんだかんだ言ってもやはり兄弟であり、家族なのだと心に響くシーンです。
- 著者
- 青野 春秋
- 出版日
- 2015-12-11
ある日、6年生に因縁をつけられ、ボコボコにされて帰ってきた春人。そんな彼に秋介は、「お前は誰の弟だ?」と言います。その言葉に感化された春人は、6年生の自宅に押しかけ、彼の両親に怒鳴りつけるのです。
いつも秋介に怯え、彼が家の中でも外でも暴力ばかり振るっていることに嫌悪感を抱いていた春人ですが、この頃からそんな秋介を「無敵の強い兄」だと誇らしく思うようになります。
暴走族の話を聞いた時も、「兄ちゃんなら勝てるかな?」と問いかけ、「負けるわけねぇだろ」という秋介の答えに春人の表情は明るくなります。
1度は殺意さえ感じた兄に、春人は少しずつ憧れるようになっていったのです。それは春人が大人になっている証なのでしょうか。
兄を憎んでいた春人が、いつか兄を誇りに思い、「家族」とはどういうことなのかを知り、その孤独から抜け出せることを切に願ってしまいます。
現在『スラップスティック』はアプリ「マンガワン」で連載されていますが、ついにそこで第1部「北関東の兄弟編」の続編となる第2部「北関東最強の兄編」がスタートしました!2017年現在その内容はアプリでしか読むことはできませんが、その魅力的な内容を少しご紹介いたします。
ご自身の目で見たいという方はアプリでも読むことができますのでそちらからどうぞ。ではおそらく4巻が発売された場合収録されるであろう19話から24話まで見所をご紹介いたします。
3巻で少し兄のことを見直した春人。4巻では彼を含め、登場人物たちに転機が訪れます。
まず隣に住んでいる静男は絵画展で特別賞を受賞。そこからデザイン事務所に声をかけられ、働き始めます。
それと同時期に春人も市役所の絵画展に入賞。勉強はできないものの、図工だけはいつも成績のいい彼らしいです。
そんななか第2部は兄弟ではなく、兄がタイトルについている通り、秋介にフォーカスがあてられるようです。
前回までに湊のナンバー2を倒した秋介は、暇つぶしでもするかのように湊の親衛隊長を焚き付け、喧嘩をし、自分の存在をトップの長崎蓮に知らせます。
そのことを聞いた長崎は子分たちを引き連れ、秋介の家までやってきました。そこで秋介は春人に「オマエは見とくか?」と聞くのです。
それに対し、少し考えた後にうなずく春人。兄の無敵さを信じたくてついていった彼ですが、そこで喧嘩を見ながらあることに気づくのです……。
その詳しい内容はぜひ作品でご覧ください。
兄が最強だと思っていた弟と、彼をいつも後ろにひかえさせ、その背中を見せ続けてきた兄。それまでは殺意すら抱いていた相手でしたが、春人は秋介の「強さ」をやっと実感するのです。
第2部スタート前に公開された「第0話」で登場人物たちの現在、青野春秋が描きたかったこと、この作品がどうやって始まったかも描かれているのでそちらもぜひご覧ください。
- 著者
- 青野 春秋
- 出版日
- 2015-09-11
幼い弟とヤンキーの兄の生活を中心に描かれた本作。貧乏な家庭で、恵まれているとは言いがたい環境で育っている彼らですが、これらはほぼ実話として描かれています。
自分の不遇な暮らしに「普通に生きたい」「なぜ不利を抱えて生きなきゃいけないんだ」と心のなかで叫び、嘆く彼らの様子は、非常に切なく感じられます。
また、父親がおらず、血の繋がらない母親に育てられる彼らの生活から、家族とは?と考えさせられるでしょう。弟の春人は、成長するにつれて、殺したいほど嫌いだった兄を少しずつ慕うように。
世の中で広く思われている「普通」の家庭とは、一体どんなものを指すのでしょうか。個々人の感じ方が違うように、「普通」など何もないのかもしれませんね。
家族の絆や生きることについて、深く考えさせられる作品です。
青野春秋の世界観に惹かれているに方は、青野春秋の作品を紹介した<青野春秋のおすすめ漫画5選!代表作『俺はまだ本気出してないだけ』>の記事もおすすめです。気になる方はぜひご覧ください。
退廃的な日常を描く『スラップスティック』。春人と秋介のやりとりにやみつきになること間違いなしです。ぜひ本編をご覧ください!