「子を持たない」という選択肢について考えさせられる本

更新:2021.12.5

少子化が問題視されている今のニッポン。結婚や出産を促す雰囲気がある中、子を持たない女性、そして彼女らを取り巻く社会の背景について、分かりやすく書かれている本に出会いました。ニッポンの歴史的背景や伝統にも触れながら「子を持たない女性」の立ち居地について解説してくれるおススメの2冊!

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子を持たない女性「ノンママ」に立ちはだかる壁

著者
香山 リカ
出版日
2016-07-07

「ノンママ」。まず、子を持たぬ女性は「ママ」ではないのに、「ママ」の二文字が入ったネーミングセンスに脱帽しました。

著者曰く「ノンママ」には「いつのまにか型」と「選び取り型」の2パターンがあるといいます。仕事や恋愛などのタイミングを見計らっているうちに「ママ」になるタイミングを逃してしまった「いつのまにか型」のノンママ。もう一つの「選び取り型」は、自分の意思で「子供は持たない」と決めたノンママのこと。後者の女性、または限りなく後者に近い女性をこの本の中では「ノンママ」と位置づけています。  

「ノンママ」という言葉がおもてに出てくること自体(ちなみに2016年この本をもとにした「ノンママ白書」というテレビドラマが放送されました)、今の日本ではかつてより女性の選択肢が増えたのだな、と感じます。その一方、自分の意思で「子供は作らなくてよい」と決めたはずの女性が、果たして社会の中で「堂々と」していられるのかというと、そうではありません。そんな彼女達の葛藤を描いたのがこの本「ノンママという生き方~子のない女はダメですか?~」です。

葛藤の一つに、子を持たない女性の「社会での立ち位置」があります。読んでいて気づかされるのが「立場の違う女性同士」の付き合い方の難しさ。仕事などで「子を持つ女性」と「子を持たない女性」が出会うことはよくあるわけですが、世には「子供のいない人には分からない」という価値観が依然としてあり、ともに社会生活をおくる中でそれを口に出す人もいることが、互いのコミュニケーションを難しくしているといいます。

この本の著者で精神科医の香山リカさんは女性の患者さんからカウンセリングの際「先生には子供がいないから、私の気持ちなんてわからない」と言われることがあるのだそう。他の職種においても、たとえば学校の女性教師が子を持たないと、そのことを自分の受け持つ生徒の親に責められる(「先生には自分の子供がないから、親の気持ちなんて、分からないでしょう!」)なんていうことも起きているよう。

世の中、自分自身が実際に経験をしていないことであっても、「語る」という行為は多くのトピックにおいて(歴史や政治などもそうです)許されています。ところが「子育て」に関しては、いきなり「経験主義が顔を出す」と著者はいいます。よって、出産や育児の「経験」のない女性は、それらの経験のある女性の中にいると、発言権がないような立場に追いやられる、という有様が実にリアルに描かれています。  

そんなリアルでシビアな内容ですが、自己実現できているノンママ達の元気な姿もこの本は伝えてくれています。

タイトル通り本のテーマは「ノンママ」、そう「子のない女性」ではありますが、子供のいない女性はもちろん、子を持つ女性、そして男性にも読んでもらいたい一冊です。

子供がいない女性の社会での立ち居地について、ニッポンの歴史的背景にも触れながら解説

著者
酒井 順子
出版日
2016-02-27

タイトルに「女性」や「ママ」の二文字は入っていないものの、やはり「子を持たない女性」にスポットを当てた一冊。同時に日本という国の歴史的背景にも触れています(「伝統と現実の間」112p)。

特に興味深いのが、95pからの沖縄のトートーメーメー(本土でいう位牌)とイナググヮンス(独身で亡くなった女性の位牌)の話。

さて近年、政府は「一億総活躍社会」を謳っていますが、この「一億」に含まれる「女性」に関しては、「子供のいる女性がメイン」だと著者はいいます。つまり「女性の活躍」とは「仕事」のみを指すのではなく「出産および子育て」をした上で外でも輝いてよね、ということらしいのです。著者は、保守系の女性政治家達が激務の中でも必死に子供を産もうとしていることを証拠として挙げています。既婚で子供のいる女性政治家は選挙の際にも「私は母として…」「私は妻として…」というフレーズが使えます。一方、子供のいない女性の場合は「私は女性として…」ぐらいしか言えないことから、無意識的にか意識的にか我が国の女性政治家は前者を目指すのだとか。

政治家ではない一般の女性、そして彼女達を取り巻く問題やエピソードもこの本は多く紹介しています。「子供を持つ女性」そして「子供を持たない女性」の双方が接点を持つ「SNS」や「年賀状」。そこで起きがちなハプニングや、親戚付きあいでのひとこまなど。特に興味深いのは「歩み寄り」のくだり(64p)。女性たるもの、「子のいる人」VS「子のいない人」といったんは分断されたようであっても、子育ての期間が終わると再び学生時代のような友情が復活したり芽生えたり。個人的には「子を持つこと」や「子育て」にも向き・不向きがあると単刀直入に言い切っている著者の率直さが気持ちよかったです。  

全体的にドライでありながら鋭い洞察が満載のこの本。最後も「『死んだら全てが終わり。後に何も続かない』というシンプルな気持ちを持てるということは、子ナシ族の特権なのでしょう。」(203p)とすがすがしく締めくくっています。

~最後にサンドラの独り言~

ニッポンでは子供がいない女性に対する社会のプレッシャーが様々な場面において相当強いことが本を通して伝わりました。実は私サンドラも子供はいませんが、日本に住みながらもあまりそういったプレッシャーを感じません。もしかしたら周囲が「外国の人だから」と別枠というか諦めの目で見てくれているのかもしれません。そうだとしたら、なんだか得をしたような気がしないでもないです。

でももしかすると、プレッシャーはあるのに、私が気付かず鈍感なだけかもしれません。いずれにせよ、子を持たない女性の多くが社会から何らかのプレッシャーを感じているこの状態、「多様性」とは遠い社会に私たちは生きているのかもしれません。

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