「モタさん」の愛称で知られる斎藤茂太。精神科医、文筆家として、晩年まで活躍しました。読者の心を癒やして前向きに変えるたくさんの名著のなかから、選りすぐりをご紹介します。
「心の名医」とまで呼ばれた精神科医、斎藤茂太をご存知ですか。本名は「しげた」とよみますが、「モタさん」の愛称で親しまれました。
歴史の教科書にも登場するほどの有名な歌人であり、精神科医でもあった斎藤茂吉の長男として、1916年に生まれました。弟は作家の北杜夫です。
茂太は父と同じく精神科医となり、後に日本精神病院協会の名誉会長を務めるまでになりました。父の物書きの才能を弟が引き継ぎ、精神科医としての道を兄である斎藤茂太が進んだかたちですが、実は彼自身も文筆の才能を十二分に受け継いでいたのです。
心や家族、幸せ、生き方、勇気などの心理をテーマにした数々の著作を世に送り出し、多くの反響を集めました。人生を前向きにし、上機嫌に生きることの大切さを常に読者に語りかけ、悩める人々の心を軽くし、生きやすくするヒントをいくつも提案してくれたのです。
2006年に90歳で亡くなりましたが、特に晩年は足を悪くし講演などができなくなってしまっため、なおさら執筆活動に勤しんだといいます。
「プラス思考の達人」とも呼ばれた斎藤茂太は、どのような言葉で読者の心を救い、元気づけてきたのでしょうか。その名言の数々を知ることのできる著書をご紹介します。
部屋の中が散らかっていたり、仕事用のデスクの上が片付いていなかったりすると、「心が散らかっているから」と言われることがあるのではないでしょうか。心の中が整っていないと、それが生活の様子、特に「片付け」に現れるというのです。
これを迷信のように思う人もいるでしょう。しかし斎藤茂太は、たとえば「人に会いたくない」など心が後向きになっている時は、自分の心の中が「がらくたでいっぱいになっているから」だといいます。散らかった自分の「心の汚れぐあい」を誰にも知られたくないという心理が働くのだそうです。
- 著者
- 斎藤 茂太
- 出版日
- 2008-02-20
心の掃除が苦手な人は、自分に自信をもてなかったり、無気力になってしまったり、どこか萎縮してしまったりしているのではないでしょうか。しかしそれをまわりに気付かれたくはありません。その思いが心を疲れさせ、ストレスや不安がいっぱいになって、余計に心が散らかっていくのだそうです。
斎藤茂太ならではの心を穏やかにしてくれる言葉が満載です。彼は決して「こうすべき」と読者に何かを押し付けることはせず、ただ考え方や見方を少し変える方法に気付かせ、もう少しだけ勇気が出せるように背中を押してくれます。
サッカー日本代表で主将もつとめる長谷部誠の著書『心を整える。勝利をたぐり寄せるための56の習慣』でも紹介されている本書。そばにあると心の支えになる一冊です。
人は生きていれば大なり小なり悩みます。「こうなったらどうしよう」と何か悪いことが起こるのではないかという心配事は、日ごろからあれこれつきません。
そういう精神状態をよいものと受け取る人はあまりいませんが、斎藤茂太は必ずしも悪いものではないとしています。場合によってはそれが「幸せを得るためのエネルギー」にもなりうるというのです。
- 著者
- 斎藤 茂太
- 出版日
- 2006-01-01
斎藤茂太いわく心配にも種類があって、「人生をプラスの方向に舵取りしてくれるいい心配」と、「自分にも周りにも何のメリットもない悪い心配」があるといいます。
心配すること自体は決して悪いことではないけれど、どうせするなら「いい心配」の仕方をしようと本書で述べています。
たとえば過去の失敗や間違いなどをくよくよと考えたり、未来に起こるかどうかもわからない悪い状況について悩んだり、心をすり減らしたりしても、今がよくなるわけではありません。
その一方で、心配性を活かして事前対策を怠らずミスのない仕事をすることができたり、しっかり段取りを組めたりすれば、自分の評価につなげることができます。
本書では、上手に意識を変える方法や、心配性をプラスに変える方法についても教えてくれます。くよくよしている自分を嫌いになりそうな時に、ぜひ読んでみてください。
2012年からNHKワンセグで放送された番組「モタさんの“言葉”」。斎藤茂太の著作から厳選した名言を絵本の読み聞かせ形式で伝え、好評となりました。絵本作家である松本春野の温かみのあるほのぼのとした絵柄と、心のささくれを癒やしてくれるモタさんの言葉がぴったりと重なりあって、たった5分という短い放送時間ながら心から癒されるひとときを視聴者に提供したのです。
反響の大きさから、この番組をまとめた本書『モタさんの”言葉”』が書籍として刊行されたのです。
- 著者
- ["斎藤 茂太", "松本 春野"]
- 出版日
- 2012-12-22
心をギスギスさせている悩みや不安をふっと飛ばしてくれるような言葉に添えて、場面に即した情景がイラストで紹介されています。茂太の言葉を自身に投影しやすく、よけいに心に染みるのです。
すでに彼の著作をたくさん読んでいる方でも、絵本形式になっていることであたらしい視点から受け止めることができるでしょう。かわいいイラストにくすっとする瞬間があったり、新鮮な感覚でもう1度茂太の言葉に浸ることができます。
ちなみに、イラストを担当した松本春野は、子どもの水彩画でよく知られる画家いわさきちひろを祖母にもちます。まさにDNAのなせるワザともいえる、味わいあるほのぼのとした絵柄にも注目です。
インドの平和のために非暴力・不服従運動をおこなった哲人、マハトマ・ガンジーは、「善きことは、カタツムリの速度で動く」と語ったそうです。斎藤茂太は「この心がまえが大切なのではなかろうか」といいます。
早くこれを終わらせたい、早く結果を出したい……何かを早くなし遂げたり早く修得したりすることこそ良いことのように言われがちです。
- 著者
- 斎藤 茂太
- 出版日
- 2006-12-01
一方で、おいしいワインや日本酒は、時間をかけてたっぷり「ねかせる」という作業が必要ですよね。
「人もまた同様ではないか。(中略)人は菜っ葉や豆とはちがって、なかなか促成栽培というわけにはいかない」(『「ゆっくり力」ですべてがうまくいく』から引用)
とモタさんは言うのです。
一夜漬けができて詰め込むのが得意な人ほど抜けていくのも早く、逆に不器用で覚えが悪いためにコツコツ積み重ねていく人ほど、その努力が力となって身につきやすいと彼は指摘します。
ゆっくり動くことが気持ちをゆったりさせ、ゆったりと続けられることが根気を育てることにつながります。またゆっくりといられる人は周りの人までゆったりとした気分にさせることができ、ゆっくり話す人は信頼感が高くなり、品があって落ち着いた人に見える……ゆっくりはいいことばかりなのです。
では、あくせくしがちなときにどうすればゆっくりといられるのでしょう。急がなければ、早くやらなければという気持ちを上手に切り替えるための、アドバイスが満載の一冊です。
多くの著書を刊行し、多くの心に染み入る言葉で読者を支えてきた斎藤茂太ですが、実は彼自身もたくさんの名言に支えられてきたのだといいます。
本書では、夏目漱石、ケネディ、チャップリン、チェーホフなどの名言をとりあげ、それらについてモタさん流の楽しく前向きな解説やエピソードをまとめています。
- 著者
- 斎藤 茂太
- 出版日
- 2005-01-05
さすがモタさん、と思えるセレクトと納得できるプラス思考で元気をもらえるたくさんの名言が次々に登場します。各名言に添えられた彼自身の文章も短く読み切りなので、ちょっとした隙間時間や寝る前の読書などに最適です。
本書で紹介されているなかでも、茂太自身の人生に深くかかわってきた名言は、ポジティブで嫌味がなく疲れた心にもすんなり受け止めれられる素敵なフレーズばかりです。
「人生、楽しくなくては生きる意味がない」(『いい言葉は、いい人生をつくる』から引用)
これは、彼がモットーにしている言葉。元気がない時や落ち込んでいる時などにパラパラとめくると、気持ちが軽くなってもう少し頑張ってみようという気持ちになれる一冊です。
以上、モタさんこと斎藤茂太の著作をご紹介しました。彼は2006年に亡くなってしまいましたが、残された本によってこれからも多くの読者の心を癒やし、勇気づけていくはずです。疲れた時や悩んでいる時には、寄り添いながら励ましてくれるようなモタさんの文章にぜひ触れてみてください。もう1度立ち上がってみようという気持ちをわきあがらせてくれます。