転生が信じられている世界で、懲役339年を言い渡された罪人ハロー。2代目、3代目と「ハロー」の魂はくり返し、ついに6代目に……。『懲役339年』について、歴代ハローの人生に焦点を当てて見どころをお伝えしていきます。
前世が尊い身分であれば今世もある程度の身分が保証され、前世が貧しい身分であれば今世もその程度の苦しい生活……。
『懲役339年』は、前世が重要視され転生が信じられる世界で、懲役339年を科されたハロー・アヒンサーたちの生涯を描いた作品です。
設定だけ見ると一見ファンタジーのような印象を受けますが、物語はいたって近代的で現実的。なぜそのような思想なのか、その思想のもと生まれた人々はどういう生活を送るのか、世界観がしっかりしているのが本作のひとつの魅力です。
この世界の仕組みに振り回された主人公ハローたちの、それぞれの人生を中心にして、『懲役339年』の見どころや魅力を紹介していきます。
多くの人を殺し、大罪人となった初代ハロー。しかし、彼は何の考えもなしに人を殺したのではありません。物語の始まりではその動機は分かりませんでしたが、読み進めるごとにだんだんと初代のハローの考えが判明していきます。
全巻読破したころには、「あそこが伏線だったのか!」「こことここ繋がっていたのか!」と気付かされ、綿密に練られた設定と各所に散りばめられた伏線に脱帽すること間違いなしです!
『懲役339年』の世界では、大罪人生まれ変わりは前世の罪を償うために、生まれたときから懲役刑を受けなければなりません。それはどんなに小さな赤ん坊でも、生まれ変わりだと判断されれば罪を償わなければならないのです。
物語の主軸となる大罪人ハローは懲役339年を命じられますが、20年服役した後、53歳の若さで死亡。その後、各地に現れるハローの生まれ変わりが、残された懲役刑を受けることに。しかし、生まれ変わったハローは前世の記憶を持っておらず、どんな罪を犯したのか分からないまま罪を償い続けるのです。
輪廻転生ものは前世の記憶がある設定で話が進んでいきますが、『懲役339年』は前世の記憶を持たないまま前世の罪を償い続けるという独特な世界観が魅力です。
『懲役339年』は何世代ものハローが登場し、それぞれの年代で国を倒すための準備を進めてきます。これだけ聞くと、さぞかし壮大な物語のように思えますよね?しかし、『懲役339年』はたった4巻という短い巻数に全てを詰め込み、話がだれることなくきれいに完結を迎えるのです。
もちろん、何世代にもわたる物語ですので、連載を長引かせようと思えばいくらでも長引かせることはできたはず。にもかかわらず、たった4巻という少ない巻数に全てを凝縮し、各所に張られた伏線を回収。一切の無駄がないストーリーは、一本の長編映画を見ているかのように錯覚してしまいます。
特にラストシーンが感動しますので、ぜひその目で『懲役339年』のラストを読んでみてください!
- 著者
- 伊勢 ともか
- 出版日
- 2014-08-18
死んだ人間の魂は器を変えて新たに生まれてくる、という神の教えが書かれた「教典」を何よりも重んじる国で、多くの罪を重ねてしまったハロー。
その償いとして「懲役339年」を科されます。最初のハローが亡くなると、全国に神官が派遣され、生まれ変わりとされる「ハロー」を監獄に収監。転生をくり返し、魂の償いは続いていきます。
しかし、この「前世」というものに疑問を抱いた人物が現れ……。
世界の在り方に不信感を持った人々とハローの出会いが、彼らの運命と世界を変えていきます。
- 著者
- 伊勢 ともか
- 出版日
- 2014-12-12
神に仕える教父や幼い子どもなど、多くの人を罪の意識もなく殺害したとされる、初代ハロー。彼は大罪人として33歳の時に捕まり、20年間を監獄で過ごし、亡くなりました。
しかし、彼が何も考えずに殺人を犯したとは考えられません。
彼の罪が初めて明示されたのは6代目ハローの時でしたが、この時のハローは敵対組織の中にいたため、彼らにとって都合のいいように伝えられた可能性があります。
初代ハローは本当に悪逆非道の限りを尽くしたのか、その真偽はわかりません。しかし、彼が一体何を思って生きたのかは、彼の死後76年、4代目ハローのときに判明します。
そして彼が多くの命を奪った理由も、5代目ハローのときに明らかになります。
もちろんそれもハロー自身が話したわけではなく、周りにいた人々が推測・伝承したことですが、それが事実だと考えると、彼に下された懲役339年という刑期や、発狂して死んだという初代ハローの最期、また2代目以降のハローをしつこく追い詰める敵対組織の行動の理由について、辻褄があうのです。
初代ハローの考えを知ったとき、彼を知る人が言う「罪深い」「大それた事」の意味がわかります。
- 著者
- 伊勢 ともか
- 出版日
- 2015-04-10
初代ハローの死後すぐに神官が派遣され、探し出された赤ん坊が2代目ハローです。彼がハローだと判断されたのは、髪の毛の色、瞳の色、あざの位置など、初代ハローに見られた身体的特徴があったから。赤ん坊はただちに監獄に収監されました。
それから10年、成長した2代目ハローは、監獄内で仕事をするようになります。彼が働き始めるのと同時期に、アーロックという新任の刑務官が担当としてやってきました。
彼らが共に過ごすようになって2年、感染症が流行りはじめます。病を根本から絶つために、媒介のノミ、寄生主のネズミを駆除しようと大々的な駆除作業がおこなわれることになりました。
ハローの房の番になりアーロックが声をかけるも、彼は横たわったまま動きません。慌ててアーロックが房に入ると、その中には寄生主であるネズミがたくさんいたのです。
ネズミが群がっていた場所にあったものを見て、アーロックはハッとします……。
生まれてすぐに収監されたハローは、人とコミュニケーションをとることを満足にできませんでしたが、アーロックと過ごした2年間で多くのことを学んでいました。その結果、ネズミを生き物として大切にする心を持ち、感染症におかされて、若干12歳で亡くなってしまったのです。
純真で無垢だった彼の心が、アーロックの考えを変え、今後のハローの運命を変えていくことになります。
3代目ハローは、刑務所長となったアーロックに育てられ、信心深い青年となりました。前世の罪を償い、神への祈りを欠かさず、教典を傍らに携える日々を過ごします。
自分のするべきことをまっとうし平穏に暮らしていたハローでしたが、他の監獄からやってきた囚人パタによって、その日常に陰りが生まれます。
パタは収監当初、3代目ハローを「ボス」と呼んだり、ハローとの間で問題を起こさないよう距離を置いたりしていました。罪を犯した張本人でなくても、同じ魂を持っているというだけでハローを特別視する囚人もいたのです。
しかしパタにはある企みがあり、彼は監獄内でどんどん勢力を拡大していきます。ついに3代目ハローへも、その魔の手を伸ばしました。
その計画はアーロックのおかげで頓挫しましたが、ハローはパタや他の囚人たちの言葉で、自分の生き方・生きる意味に疑問を抱きはじめます。前世とは何か、罪を償うとは何か、悩むハローにアーロックがかけた言葉は……。
45歳まで生きて惜しまれながら亡くなったという3代目ハローの最期に、彼の人柄が見て取れます。そして、そんな2人のハローと暮らしたアーロックが抱いた思いは、次に生まれてくるハローたちを救う種となるのです。
- 著者
- 伊勢 ともか
- 出版日
- 2014-08-18
4代目ハローは、年頃の娘らしく明るく元気な少女です。19歳のハローは、ある日教典嫌いの刑務官シナトに出会いました。1巻の表紙になっている2人ですね。
ハローは規律を破った罰としてシナトの指定した本を写本するのですが、そこに描かれていた麦畑の絵に心を奪われ、彼を気にするようになります。またシナトも、画集を貸す約束をするなど、無邪気な彼女の姿に親しみを覚えていました。
しかし、神に仕える特殊部隊「皇憲隊」がやってきたことで、彼女たちのいる南の監獄は慌ただしくなりはじめます。隣国との戦争のため、急遽監獄内の物品を運び出す作業が必要となったのです。
その手伝いをしていたシナトは、偶然アーロックの手記を見つけました。
手記を読んだシナトは自らの考えに確証を持ち、戦争の準備の隙をついてハローを外へと連れ出すのです。
脱獄の道中、シナトはハローを麦畑へと連れて行きました。いつかした約束を果たすために。しかし、そこはすでに皇憲隊に包囲されていたのです……。
皇憲隊がこの土地にやって来た本当の目的は、「ハロー」と「手記」でした。彼らが手記を狙うその理由と、4代目ハローとシナトの間に小さく芽生えていた愛も本巻の見どころです。
2巻から5代目ハローの話が始まります。歴代のハローのなかで、もっとも焦点が当てられた人物でしょう。
5代目ハローは、今までのハローに比べると少々乱暴的な面もありますが、それは監獄内で彼を育てた囚人たちの影響が強いためです。しかしそれは必ずしも悪いことだけでなく、彼自身がやりたいこと、正しいと思うことを見つめ直すきっかけにもなりました。
彼が脱獄を決意するきっかけや、革命組織のリーダーとなる意思を固めるときなど、5代目ハローの見どころはたくさんありますが、やはり全編をとおしてブレない彼の生き方が1番のポイントです。
ハローが脱獄をすると、国はその事実を消そうと、彼の脱獄を知る人物がいる監獄を全焼させました。その火事で「ハロー・アヒンサーが死亡した」という国の発表を見た5代目ハローは、国が正しいおこないをしていないことを知るのです。
それから革命の機会を伺い続けて数年、確実に正しくないことをしている相手に対して立ち向かう、という自分の信念だけは曲げずに生きてきました。
彼は最期、自らの命を投げうって革命を成功させようとします。それまでに多くの人を殺め、血を流したことは事実です。しかしそれは、革命のためにおこなったこと。5代目ハローの生ざまは、初代ハローと通じるものを感じます。
歴代のハローと、彼らを支えた人々の思いを受け取った5代目ハローは、ハローの集大成として、心残りのない生をまっとうしたのではないでしょうか。
- 著者
- 伊勢 ともか
- 出版日
- 2015-08-12
6代目ハローは、歴代のハローと違い、国の最高指導者である法皇の元に身を置きます。6歳の幼い少女ですが、国の権威のために、ハローの生まれ変わりとして国民の矢面に立たされることとなりました。
人々から罵倒され、記憶のない過去を覚えさせられ、窮屈な生活を強いられていた彼女の表情は人形のよう。感情を表に出しません。
彼女と対比するように描かれるのが、ハローより年上ではあるもののまだ子どもの、法皇ユースティティアです。彼は自分の欲望に忠実に、感情を思うままに表します。ユースティティアは最初彼女を蔑むような態度をとるのですが、5代目ハローとの接触により自分と6代目ハローが本当は同じような立場ではないのかと考え、冷静に6代目ハローを見るようになります。
5代目ハローと国との戦いに巻き込まれるなかで、6代目ハローは植え付けられた前世の記憶を払拭し、ハローではない、彼女自身の最初の思い出である、ユースティティアと出会ったときのことを思い出しました。
6代目ハローとしてではなく一個人として、本当に大切なものは何か、誰のために生きたいのか理解した彼女は、再び国に利用されようとしているユースティティアを助けに向かうのです。
彼女は「ハロー・アヒンサー」以外の名前を持ちませんが、彼女は彼女でしかありません。前世があろうとなかろうと、そのときその時代に生きている人の思いや記憶は、間違いなく当人たちだけのものなのです。
「ハロー」も「法皇」もいらなくなった世界で、2人は自分たちだけの新しい生活を始めます。
転生はない、ということを証明できないのなら、信じてもいいのではないか、そう思えてしまうエピローグも見どころです。ラストまで目が離せません。