『メンヘラちゃん』は琴葉とこが描いた、ブラックジョークを交えたほのぼのとした日常系の4コマ漫画です。不登校や自殺、鬱をテーマにした本作には、中学生だった作者の切実な思いがたくさん込められています。
『メンヘラちゃん』は、作者である琴葉とこが中学生の時に描いた4コマ漫画。もともとユニークな作品を作ろうと考えていた琴葉ですが、自分の周りにいる人へ目を向けた時に、「メンヘラ」をテーマにした漫画を描こうと決めたそうです。
本作には、体が健康じゃない女子中学生と、心が健康じゃない女子中学生と、体も心も健康な男子中学生の3人が登場します。前半は、ブラックジョークを交えつつもほのぼのとしたストーリー展開が特徴です。
しかし後半に向かうにつれ、各キャラクターたちが抱える悩みや問題が明らかになっていきます。
不登校や自殺などをテーマにしているため、決して大笑いできるような話ではありませんが、「鬱」について理解を深めることができるでしょう。
- 著者
- 琴葉とこ
- 出版日
- 2012-10-17
『メンヘラちゃん』の主な登場人物は、体が健康じゃない「病弱ちゃん」と、心が健康じゃない「メンヘラちゃん」と、身も心も健康な「けんこうくん」の3人です。
ある日けんこうくんは、学校に来ていないメンヘラちゃんにプリントを届けるよう頼まれました。その後、同様に病弱ちゃんとも出会います。どうやらメンヘラちゃんと病弱ちゃんは幼馴染のようでした。
こうして、けんこうくんが彼女たちに会いに行くかたちで3人の交流がはじまります。
本作は4コマで展開されており、自殺願望やトラウマなど心の闇をテーマにしながらも、友情や恋愛、趣味をうまく絡めてブラックジョークに溢れた日常系の漫画です。
誰しもが抱えるような心の闇に焦点を当てたストーリー展開は、考えさせられるものがあります。
『メンヘラちゃん』は、琴葉とこが中学2年生の時に描きはじめた作品です。心と体を病んでいる女子中学生2人が出てきますが、彼女らの嘔吐や腹痛などの症状や、不登校、自殺など、琴葉自身の実体験が描かれています。
彼女がイラストや漫画などの投稿サイト「pixiv」にあげていたエッセイ漫画『学校に行かなくなった日』には、小学生の頃に男子グループに「ブス」や「泣き虫」などと暴言を吐かれたことや、それを機に学校に行けなくなった経験を書き連ねていました。
「メンヘラ」といわれる鬱やパニック障害、それに個々が抱える病気の症状は、同じ病名がついていても人それぞれ違います。非常にデリケートな問題で、ともすれば同じ病気の読者を傷つけかねませんし、病気の経験が無い人にはいらぬ誤解を与えてしまうかもしれません。
ただ本作には、かつて中学生だった琴葉とこの切実な思いや願いがこめられています。辛い経験を経た彼女は本作に「お互いがお互いのことをわかりたいって思う姿勢をもってほしい」という願いを込めて、描き上げました。
- 著者
- 琴葉とこ
- 出版日
- 2012-10-17
『メンヘラちゃん』には、心が健康じゃない「メンヘラちゃん」、体が健康じゃない「病弱ちゃん」、体も心も健康な「けんこうくん」の3人が登場します。けんこうくんは、学校に来ない病弱ちゃんとメンヘラちゃんにプリントを届けることが日課です。
設定だけ見ると少し重たい内容のように思えますが、BL漫画を描くのが好きな病弱ちゃん、病弱ちゃんとけんこうくんと仲良くなりたいメンヘラちゃん、メンヘラちゃんを可愛いと思っているけんこうくんが、ダークかつほのぼのとした日常を展開しています。
作中では主に、メンヘラちゃんがボケ、病弱ちゃんはツッコミとボケ、けんこうくんはツッコミを担っていることが多いです。この3人の絶妙な掛け合いがギャグシーンに面白さをプラスしてくれています。
シリアスなシーンでは、けんこうくんがメンヘラちゃんを気遣ったり、メンヘラちゃんが病弱ちゃんのことを想ったりと、お互いに相手のことを考えているシーンが多いです。そこに彼女たちの深い関係性を垣間見ることができるでしょう。
『メンヘラちゃん』の前半の魅力は、暗いテーマを重く感じさせないブラックジョークにあります。たとえば、自分が飲んでいる薬のことを嬉しそうに話す病弱ちゃんや、名称の長い薬をとんでもない略称で呼ぶメンヘラちゃんなど、思わずフフっとなってしまうシーンが多々あるのです。
ある時、リストバンドを身につけているメンヘラちゃんを見て、けんこうくんが疑問を抱きます。彼はリストカットを疑っていましたが、それは見当違いでした。
「ちょっとオシャレしたんだけど……どう思ってるのかな……」(『メンヘラちゃん』上巻より引用)
何となくオシャレをしたメンヘラちゃんの乙女心についついツッコミを入れたくなりますね。空きスペースには、手首にシュシュを着けた病弱ちゃんもいるのです。
このように「鬱」を感じさせる話題ではありつつも、ブラックユーモアを交えたほのぼのストーリーが展開されています。病弱ちゃんやメンヘラちゃんの衣装にも個性が出ており、「鬱」とユーモアが同時に混在している世界観が詰まっています。
鬱自体を経験したことがない人でも「その気持ち分かる」「自分も経験したことがある」と共感できる内容もあちこちに散らばっていて、自分とまったく関係のない内容ではないことに気づくでしょう。
前半はほのぼのとしている展開が多かった『メンヘラちゃん』ですが、後半では「鬱」に関する生々しいネタがたくさん散りばめられるようになります。外からはわからない、当事者しか感じることのできない「鬱」は、彼女の1番近くにいるはずのけんこうくんでも理解することができません。
起床時や就寝時の不安や恐怖、自己嫌悪、自責の念など、鬱特有の症状が描かれるシーンが多くなり、「鬱」を経験したことない人であれば驚いてしまう展開がくり広げられています。
ただ理解することは難しくても、読者にも、メンヘラちゃんの抱えている苦しみだけは伝わってきます。
病弱ちゃんやけんこうくんなど、登場してきたキャラクターと交流を深めていくなかで、メンヘラちゃんの心は大きく成長していきます。心が健康でないながらも、恋や高校受験を経験した彼女は、周りにいる人と、そしてどん底で辛かった頃の自分とどうやって付き合い、どうやって向き合っていけばよいのか、結論を出しました。
抱えている問題が解決するわけではなく、これからどう生きていくか、その方向を見つけたのです。
ここで注目したいのは、作者の琴葉とこが本作を書いたのが中学2年生で、書き終わったのが中学を卒業する時だったということ。つまり、彼女がリアルタイムで過ごした時間と同様の時間を作中のキャラクターが過ごし、成長していったのです。
本作で主に描かれたのは「鬱」という病気ですが、誰しもが色んな形で心の闇や不安を抱えています。その事実を知ることができれば、「お互いをわかりあう」という琴葉とこが目指すところに1歩近づけるのではないでしょうか。
- 著者
- 琴葉とこ
- 出版日
- 2012-10-17
上巻はブラックユーモアメインの4コマ漫画、下巻はそこにシリアスな要素も散りばめたストーリー漫画メインへと変化する本作。作者の実体験が活きた、だからといって重くなりすぎない「鬱」漫画です。
本作は鬱をネタにしたあり得ないシチェーションもありますが、どこかリアリティがあります。それは全体に漂う日常の空気感にあるのではないでしょうか。
学校というものを取り巻いてキャラたちの時間がしっかりと進み、最終的には進学をきっかけにそれぞれが成長。そこに挟まれる鬱ネタや、鬱や病弱という特性を抱えながらもそれを日常として受け入れる様子からは、それが特別なことではなく「普通」だと言われているように感じるのです。
自分の特徴を受け入れて淡々と日々を送っていく彼らに説得力のある強さを感じ、勇気付けられます。
鬱というものを暗く悲しいものに終わらせず、成長のひとつの過程だと感じさせる本作。ぜひ上下巻読んで、その短いながらも濃い内容を感じていただければと思います。そのような経験がある方もない方も何か感じるところのあるであろう内容です。
『メンヘラちゃん』は、琴葉とこの実体験や感じていたことがぎゅっと詰まっている作品です。母親やファンの応援を受けて完成させたという彼女の力作を、ぜひ読んでみてください。