累計発行部数は200万部を突破し、アニメ化・実写映画化もなされている作品「うさぎドロップ」 家族の絆を描いた第1部と、恋愛展開を描いた第2部の構成からなる本作。第2部ではいわゆる「近親相姦」的な内容が含まれており、そのラストは賛否が分かれています。 今回は、人気があったからこそ結末を経た感想が二極化する本作を考察していきます。ネタバレを含んでいますのでご注意ください。 また、スマホの無料アプリでも掲載されていますので、気になった方はご自身でご覧になって考察してみてください。
本作は、主人公の河地大吉(かわちだいきち)が、亡き祖父の養子で、まだ幼い少女・鹿賀りん(かがりん)を引き取るところから物語が始まります。
ストーリーは2部構成で展開されていき、第1部では、2人が四苦八苦しながらも楽しく暮らし、少しずつ家族としての絆を育んでいく様子が描かれていきます。
そして第2部では、りんが成長して高校生となり、「親」という存在について考えながらも、自分を育ててくれた大吉に惹かれていき……。
終始焦点があてられるのは、「家族」でありながら恋に発展してしまう2人の関係についてです。それこそが、本作の賛否を分ける大きな理由となります。
- 著者
- 宇仁田 ゆみ
- 出版日
- 2006-05-19
祖父の養子であるりんですが、養子という形をとっていただけにすぎず、本当は祖父の隠し子でした。したがって、年齢が逆ではあるものの、彼女と大吉は「戸籍上」、叔母と甥という関係にあたります。
このような少しずれた関係でも、互いに努力すれば本当の家族になれるということを描いた第1部に関しては、文句はありません。しかし、その前提を覆すかのように、家族でありながらも2人が恋愛関係に発展してしまう第2部に関しては、賛否両論の感想が寄せられています。なぜなら、2人の恋愛は、一見すると「近親相姦」にあたるものだからです。
しかし、多くの読者に読まれている名作であるからこそ、このように賛否が分かれるのでしょう。
今回は、『うさぎドロップ』の感想がふたつに分かれる理由について、作品の魅力を紹介しながら考察していきます。ネタバレも含みますので、ご注意ください。
実写版で大吉を演じた松山ケンイチの出演作を紹介したこちらの記事もおすすめです。
松山ケンイチは実写化がハマる!出演映画、テレビドラマの魅力と原作作品を紹介
松山ケンイチが出演したテレビドラマや映画を、一度はご覧になったことがあるのではないでしょうか?その実力は若手俳優としてはトップクラスで、まるで憑依したかのような演技で老若男女問わず親しまれています。クセのあるキャラクターの実写化にまさにもってこいの俳優。 この記事では、そんな松山ケンイチが演じた役柄と作品について紹介します。
祖父の葬式で、30歳の独身男・河地大吉は鹿賀りんという少女に出会います。彼女は祖父の養子でしたが、本当のところは隠し子でした。そんな訳ありな彼女を引き取る気がない親戚一同は「りんを施設に入れよう」と言いますが、大吉はそれに反対し、「自分が育てる」と言いました。
このような経緯で共同生活が始まり、2人は互いに思いやりながら、家族として暮らしはじめ、りんは大吉のもとで健やかに成長していきます。
- 著者
- 宇仁田 ゆみ
- 出版日
- 2007-02-08
時は過ぎ、彼女は高校生になります。その頃、彼女は大吉を親としてではなく、ずっと男性としてみていたことに気づいたのです。しかし大吉は、戸籍や立場上、彼女の気持ちを受け入れることはできません。
それでも、りんは自分の想いを精一杯伝えます。
結末についての言明は避けますが、第2部での2人の恋愛については、「感動する」という意見と「気持ち悪い」という意見の両方が存在します。これは上述したように、「近親相姦」というタブーに触れる恋愛だからでしょう。
この点に関して、読者からどのように考察されているか、物語の見どころを取りあげながら紹介していきます。
河地大吉は亡き祖父の隠し子である、鹿賀りんという身寄りのない少女を引き取ります。30歳独身のだらしない男と、6歳とは思えないほどしっかりした少女は、互いに助け合いながら「家族」という形を探していきます。
りんのために、大吉は会社の部署を変更したり、子供について勉強したりと努力を積み重ねます。その後、彼女が通う幼稚園では父母の友達もできました。そのなかでも、りんと仲のよい二谷コウキの母、ゆかりと仲を深めていきます。
彼女も大吉と同じく、女手ひとつで息子を育てており、大吉は彼女に相談したりアドバイスをもらったりしながら、りんの子育てに奮闘します。
- 著者
- 宇仁田 ゆみ
- 出版日
- 2007-10-06
このように、第1部(1~4巻)では2人が家族になろうと互いに努力する様子が描かれています。
大吉はどうにか父親になろうと必死で、そんな彼を応援したくなることは間違いありません。また、そんな彼の姿に共感を覚える方もいるのではないでしょうか。
もちろん、りんはすでに物心がついているので、彼が本当の父ではないことを理解していますが、彼女からも大吉に歩み寄る姿が見られます。
そんな2人の姿は、どんな形であれ家族になれるという安心感と温かさを与えてくれます。
第1部は「家族」というテーマを軸に読み進められる内容です。物語を通じて、家族とは何なのか、今一度そのあり方について考えてみませんか?
りんは立派に高校へと進学します。外見は大人びて、美少女と呼ぶべき女の子へと成長しますが、中身はどこか昔のまま。そして、大吉との関係もずっと変わらず、他人でも本当の親子でもないけれども一応家族、という不思議なものでした。
一方、昔から仲がいい、りんと幼馴染のコウキの関係も曖昧なものです。コウキはりんに好意を寄せているのに対し、彼女は恋愛感情というものがいまいち分かっていません。多感な時期である彼女たちは、高校生らしく互いの関係や将来について悩みます。
そして、彼女の悩みの種がもうひとつありました。それは実母の存在です。大吉はすでに彼女の実母と接触しており、そのことをりんには伏せていました。しかし、高校生になった今、もう知っておくべきだと考えた大吉は、ついに実母のことを話したのです。
- 著者
- 宇仁田 ゆみ
- 出版日
- 2008-05-17
彼女は迷わず実母に会いに行きます。実母も悩んだすえに、彼女と会うことを決断しました。捨てられた子と捨てた親という2人でしたが、意外にも交流は穏やかなものでした。実母は最近子供を産んでおり、2人の話の途中で赤ちゃんがぐずりだします。
そのとき、りんは自分の妹にあたる赤ちゃんを見たことがきっかけで、何も考えていなかった自分の将来の夢を決めました。それは保育士になりたいという夢でした。
こうして母との関係を解決し、将来の夢を決めた彼女の悩みの残すところは、コウキとの関係だけ。考え抜いたすえに、自分は大吉が好きだということに気づきます。
彼女は自分の想いを大吉に告げますが、彼からすれば血縁的にも立場的にも受け入れられないものでした。しかし、ここで前提を覆す事実が発覚します。彼女は実母から、彼女の実父に関する秘密を聞いてしまい……。
このことを知ったりんは、今まで聞き分けのいい子でしたが、大吉への想いだけは断固として譲らないのでした。
このように、第2部では恋愛展開へとシフトします。たしかに、これもひとつの家族としてのあり方ではありますが、あまりにも第1部の雰囲気から逸脱したものであったので、作品に対する評価が賛否に分かれました。
第1部では親子になる過程が描かれていたのかと思われがちですが、りんは幼いころから河地姓ではなく、鹿賀姓に執着していたので、彼女はもしかすると親子ではない別の形で家族になりたかったのかもしれません。
しかし、大吉は父としての役割をこなそうとしていたとしか考えられず、彼の家族像は間違いなく親子であったはずです。
このような2人の思いの食い違いから、第1部と第2部のギャップについていけなくなる方もいるかもしれません。また、恋愛感情を持ち込むことで、多少なりとも性的なニュアンスを含むようになることも問題とされている点でしょう。
本作の結末における最大の論点は「近親相姦」にあります。家族として描かれていた第1部を受けて、第2部では夫婦になろうとしています。
血縁関係の有無はともかく、互いを家族として認識しながら生活をしてきた2人。この関係に恋愛感情を持ち込むのは、家族間での恋愛となってしまうため、かなり不自然に感じられます。これこそが否定派の問題点なのでしょう。
ストーリーはさておき、なぜ近親相姦は世間で受け入れられていないのでしょうか?
- 著者
- 宇仁田 ゆみ
- 出版日
- 2009-01-22
そもそも日本の法律では、直系血族(祖父母や父母、子や孫)と三親等内の傍系血族(兄弟姉妹やおじおばなど)の間での「婚姻」は禁止されているものの、「恋愛感情や肉体関係を持つこと」自体は禁止されていません。これは国や地域、はたまた時代によってまちまちであり、一例として、古代ギリシャでは推奨されていたこともあります。
また、近親者で子どもを作ると障害がある子が生まれる可能性が高いと言われていますが、実際のところはデータが少ないうえに、そのような子は公にされないので、本当に障害を持つ可能性が高いのか詳しいことはわかりません。
さて、それならなぜ「近親相姦は許されないことだ」と世間一般に考えられていることが多いのでしょうか?それは、大半の人の倫理観や感情によって、受け入れられていないからでしょう。倫理観や感情というのは、理屈で説明できるものではなく、人間の本能的なものです。
本能は逆らいがたいものですから、不快と感じることを抑えることはできないのです。また、日本の現在の文化でも近親相姦はタブーとされているので、不快と感じる方も多いでしょう。
しかし、『うさぎドロップ』の結末に関して批判的な意見もあるなか、感動した読者が多くいることは事実です。賛成派の人は近親相姦を許容しているのかといえば、そう捉えるのはきっと間違いでしょう。実際、物語の中盤では大吉とりんの血縁関係について、ある秘密が明かされます。このことを踏まえれば、2人の関係に対する視点を変えることができるのでしょう。
要はどこに重きを置くか。「家族」という関係に重きを置けば2人は近親相姦にあたりますし、「血縁関係」という繋がりに重きを置けば、近親相姦にあたるとは考えづらくなります。このように、どちらに視点を合わせるかによって、結末に対する意見が食い違ってくるのかもしれません。
ここまで極力明言を避けてきましたが、ここから先は結末のネタバレを含みますので、ご注意ください。
- 著者
- 宇仁田 ゆみ
- 出版日
- 2009-08-08
大吉はりんの気持ちを受け入れ、彼女との結婚を決意します。その結果、2人の関係は「父と娘」から「夫婦」に変化することとなります。
2人が夫婦になるということは、性的にも繋がりを持つということ。しかし、『うさぎドロップ』は極力そういった臭いを消そうとしています。
それはりんの発言からも窺えることで、彼女は大吉と男女の関係になることを強く望んでいるのではありません。大切な人とともに生き、子を産み、育てていきたいと思っているのです。その関係は男女の関係というよりも、人生における最良のパートナーといえるかもしれません。
父としての大吉には文句のつけようがないものです。彼はりんにとって、ここまで自分をしっかりと育ててくれた大切な存在であり、読者の視点から見ても、彼の努力は絶対的に認められるものでしょう。
それでは、結婚してパートナーになるという視点ではどうでしょう。大吉を評価することはできるでしょうか?その答えも、りんにとってはわかりきったことです。自分をこんなに一生懸命育ててくれた彼なら、生まれてくる子供もしっかり育ててくれることは、想像に難くないでしょう。
育児の対象が、自分から自分の産む子に変わるにすぎません。その点を考えると、読者としても、安心して2人の関係を見守ることができます。
さて、結論として父と娘であれ夫婦であれ、家族は家族です。大切な人とどんな関係を築くか、それは当事者である2人が1番幸せになれる道を決めればよいこと。
『うさぎドロップ』はどんな議論をはさんでも、最後まで一貫して「家族の絆」が描かれた作品といえるでしょう。
ぜひ本作を読んだ後は、家族のあり方について、自分なりの考えを導き出してみてください。
- 著者
- 宇仁田 ゆみ
- 出版日
- 2011-07-08
今回いくつかネタバレを含んでこの物議を醸した作品を考察してみましたが、それを不快と感じるかどうかは実際に読んでみなければわからず、個々人によって判断が分かれるところだと思います。
親子だったふたりが結ばれるという近親相姦的なテーマを描いていても、不快に感じなければ大きな家族愛を描いたものだと感じられるでしょうし、気持ち悪いと感じてしまえば、ただのタブーを混えた作品として終わってしまうでしょう。
作品の雰囲気、登場人物たちの言動、全体の展開を見て、それぞれの判断が異なると思いますので、この記事が作品に興味を持つきっかけになれば嬉しく思います。ぜひふたりの出会いから最終回までの様子を見届けてみてください。
考察記事や感想だけ読んで終わるのではなく、ご自身の目で見て判断する価値のある作品だと思うので、今回おすすめさせていただきました。
『うさぎドロップ』の賛否に分かれる読者の感想をご紹介しました。まだ読んだことがない方、もう1度読んで作品に浸りたい方は、ぜひスマホの無料アプリで読んでみてください。