5分でわかる解体新書!なぜ作ることになったのか?影響は?

更新:2017.11.4

江戸時代後期に刊行された西洋医学書の翻訳本『解体新書』は、どのような経緯で作られ、完成後どのような影響をもたらしたのでしょう。

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日本初の西洋医学の翻訳書『解体新書』とは

『解体新書』は日本で最初の本格的な西洋医学の翻訳書であると同時に、西洋語本の翻訳書としても初めての書でした。ドイツ人医師クルムスによる医学書のオランダ語訳本『ターヘル・アナトミア』を、江戸時代後期の中津藩医前野良沢や小浜藩医杉田玄白らが翻訳して、1774年に刊行されました。

当時の日本は鎖国政策をとっていましたが、長崎の出島を通じてオランダとは通商を行っていたことから、原書を前野良沢、杉田玄白の両人ともすでに入手していました。1771年3月に、江戸小塚原の刑場での女性刑死体解剖を良沢、玄白および玄白と同じ小浜藩医中川淳庵の3人が立ち会ってその目で見ることになり、持参した『ターヘル・アナトミア』の解剖図が実際の所見と一致することに感嘆したのでした。

自分達も正確に知り得てなかった人体内部の様子を、医者たる者はまず正しく知らなければならないと悟った彼らは翻訳の必要性を痛感し、早速翻訳に取りかかります。これら3人以外に桂川甫周、石川玄常らが加わって作業が進められました。

当時、オランダ語の勉学に励んでいた良沢は800程の単語を理解していましたが、文法もわからず、辞書もない状態での翻訳は困難を極めます。しかし、2年後の1773年には玄白と淳庵の連名で『解体約図』が予告篇として出版され、翌1774年に作業開始から3年半を要して、原本249ページ分の翻訳を成し遂げ『解体新書』が出来上がったのです。

『解体新書』の内容は

『解体新書』は『ターヘル・アナトミア』の翻訳書であり、原典通り図1巻、本文4巻からなっています。また、随所に「翼(杉田玄白の本名)按ずるに」と注釈が入っていることから、杉田玄白が最終編者であると考えられています。

図と本文の前には、オランダ語通訳吉雄耕牛(吉雄永章)による序文、原典著者クルムスの自序、玄白による凡例が記載されています。

図1巻は佐竹藩(秋田)の画家小野田直武によって模写されたもので、各器官、内臓、血管、骨格、筋肉などが正確に描写されていることに驚かされます。

本文4巻は漢文の体裁で記述されていますが、その構成は

第1巻が総論や体の形体、名称、要素、そして骨格、関節

第2巻が頭や神経、眼、耳、鼻、舌

第3巻が胸、腹と肺や心臓、胃や腸どの内臓、動静脈

第4巻が肝臓、腎臓などの内臓と生殖器、妊娠、筋肉

となっています。

翻訳に際して「神経」「軟骨」「頭蓋骨」など現在でも使用されている語が作られた一方、短期間でのオランダ語の翻訳という難しい作業の結果、誤訳が多かったこともあり、後に大槻玄沢によって改訳され、1826年に『重訂解体新書』として刊行されています。

『解体新書』完成後の影響は

『解体新書』が果たした役割とその影響は極めて大きく、日本史上においても大きな意義のある書物であると言われています。

まず、日本における医学の近代化への第一歩を踏み出す役割を担ったことは言うまでもありません。西洋医学への理解が不十分であった当時において、外科部門での日本の弱点を克服するための貢献度は多大なものであったと言えるでしょう。

次に、江戸時代において、『解体新書』の出版が蘭学の興隆へとつながった役割も見逃すことはできません。翻訳の過程で出来上がったオランダ語の辞書などを通じ、一般人にも蘭書を読む機会を与えたことは、西洋文明を知るきっかけとなりました。

明治維新後の発展に影響した西洋文明の知識は、その指導者達が少なからず蘭学を通して得たものであったことから考えると、『解体新書』出版の歴史上の意義も非常に大きいことがわかります。

現代語訳で『解体新書』を読む

著者
出版日
1998-08-10

本書は『解体新書』の現代語訳版です。原本は序図1巻と本文4巻から成っており、人体の各器官、内臓、骨格などの図版が最初に一まとめになっていますが、本書では原典の『ターヘル・アナトミア』に近い構成に戻して、図版を各篇ごとに配置して、本文との関連をわかり易くしています。また、原文は漢文で書かれていますが、本書では現代語訳文のみで漢文は示されていません。

『解体新書』は現代医学の立場から見ると、当たり前となった内容とも言えますが、読者からすれば、人体の構造や各器官の成り立ち、名称などを理解するための解説書として利用できる本でもあるのです。

刊行当時のオランダ語翻訳という偉業に思いをはせて、その価値を見いだす入門書としては最適な1冊でしょう。最後には、誤記に関することなどの翻訳にまつわる逸話が記された「『解体新書』の時代」と題した解説が付いており、理解を深めることができます。

『解体新書』原本の感覚を味わえる

著者
西村書店 編集部
出版日
2016-03-29

本書は、先祖が華岡青洲の門人であった岩瀬家に伝わる『解体新書』初版の初刷りに近いとみられる、安永版刊本を復刻した本です。原本を手に取ったのと同じ感覚で読むことができる貴重な本と言うことができます。

本文は漢文で書かれているため、この本で通読するには現代語訳本と同時に読み進めるのが良いでしょう。豊富な図版については、精密な図版により人体の各器官を正確に知ることができるので、それだけでも十分に価値があります。刊行当時の人達は、これらの図版を見て驚嘆したに違いありません。

最後には2人の医学者による対話形式の解説が付き、『ターヘル・アナトミア』から『解体新書』へと翻訳される過程での逸話などが述べられていることも、違った視点から理解する一助になるでしょう。

すらすら読める『解体新書』製作のストーリー

著者
杉田玄白
出版日
2012-03-31

ドイツ人クルムスが著しオランダ語訳された医学書『ターヘル・アナトミア』を手に入れた杉田玄白を主人公にして漫画で描かれた本書は、刑場での人体解剖に立ち会った玄白がその解剖図の正確さに驚き、日本の医学においても、その知識を広めようと翻訳を決意する所から話が始まります。

少なからずオランダ語の知識があった前野良沢を翻訳作業の中心に据え、玄白と中川淳庵、大槻元節(大槻玄沢)、桂川甫周らが苦難の末に『解体新書』を完成させるまでのストーリーが展開されますが、漫画のためすらすらと読み通すことができます。

彼らの、医学の正しい知識を世に広めるという強い志と、それを実現させるための翻訳への熱意が十分に伝わってくる良書です。

江戸時代後期に、日本で初めて西洋の医学書を翻訳した『解体新書』。翻訳者達の偉業をたたえ、当時の人々の驚きに思いをはせて読んでみてはどうでしょう。