江國香織のおすすめ文庫作品ランキングベスト13!

更新:2021.12.8

江國香織って名前は聞いたことあるけど読んだことない。そんな人におすすめするのがこちらの13作品。ランキング形式でご紹介します。

ブックカルテ リンク

語学堪能で翻訳本も多数執筆。多彩な作家、江國香織

江國香織は1964年、東京生まれの作家です。父親はエッセイストの江國滋。目白学園女子短期大学国文学科を卒業したのち、アメリカにあるデラウェア大学に留学しました。作家のスタートとしては、1987年に『草之丞の話』で小さな童話大賞を受賞し、童話作家としてデビュー。

独特の感性で表現される作品たちに、多くの女性が魅了され、映画化やテレビドラマ化されたものも少なくありません。

1992年に『きらきらひかる』で紫式部文学賞、2002年に『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』で山本周五郎賞、そして2004年に『号泣する準備はできていた』で直木賞をそれぞれ受賞しています。

また、作品の幅が広く、小説以外にエッセイ、絵本、詩集なども多く出版しており、海外絵本の翻訳も多数おこなっています。

江國香織の作品はもうほとんど読んでしまった、という方はこちらの記事もおすすめです。

江國香織が好きな人におすすめの小説5選!透明感のある物語

江國香織が好きな人におすすめの小説5選!透明感のある物語

江國香織の魅力は、ありふれた日常を細やかに描く繊細な表現と、女性らしい感性にあるのではないでしょうか。登場人物もみな愛おしく、透明感にあふれています。この記事では、そんな江國作品を好きな人にぜひおすすめしたい小説をご紹介していきます。

1位:3人の純愛ラブストーリー『きらきらひかる』。紫式部文学賞を受賞した江國香織の代表作

あらすじ・概要

アルコール依存症で情緒不安定な妻・笑子、同性愛者で他に恋人がいる夫の睦月、そして睦月の恋人・紺。この3人が絡み合う純愛ストーリーとなります。

笑子と睦月はお互いの事情をわかった上で結婚しています。そのため笑子は睦月と紺の仲を応援していますが、事情を知らない周りからの重圧に苦しむようになります。

両親たちは子どもを作るように言います。息子が同性愛者だと知っている睦月の母は人工授精まで勧めてきます。

著者
江國 香織
出版日
1994-05-30

ここが見所

笑子の「どうしてこのままじゃいけないのかしら。このままでこんなに自然なのに。」というセリフが印象的です。笑子にとっては3人でいることが自然なのです。

しかし徐々に高まる笑子の睦月に対する恋愛感情により3人の関係は崩壊の兆しを見せます。そして姿を消す紺。3人の関係はどうなってしまうのでしょうか。

類は友を呼ぶとでもいうのでしょうか、睦月の周りには同性愛者が多くいます。そんな彼らのことを、笑子は「銀のライオン」と呼びます。

「色素の弱いライオンなんだけど銀色でね、みんなと違うから仲間からはみだしちゃうんだ。それで、遠くで自分たちだけの共同体をつくって生活しているんだって。」

実際にいるのかはわかりませんが、絶妙な言い回しですね。

3人の男女が紡ぎ出す純愛ストーリーを是非ご堪能下さい。

2位:また会えると信じて『神様のボート』

あらすじ・概要

主人公は、葉子と草子という母娘。葉子はシングルマザーですが、「かならず戻ってくる。そうして俺は葉子ちゃんを探しだす。どこにいても」という言葉を残して姿を消した男(「あのひと」)の言葉を信じて旅がらすをしています。

その男が草子の父親になるわけですが、草子が生まれる前に姿を消しているため草子はその男の顔をしりません。

引っ越しを繰り返すことについて、幼い草子が葉子に尋ねると、「神様のボートにのってしまったから」と答えられます。それ以上の説明はありません。

著者
江國 香織
出版日
2002-06-28

ここが見所

時を経て、旅がらすに不満に感じるようになった草子は、高校進学を機にその生活から離れることとなります。

葉子は16年ぶりに戻った東京で、実家の両親たちから「あのひと」が自分を探しにきたことを聞きます。果たして葉子は「あのひと」と再会することができるのでしょうか?

この作品にいえることは、葉子はぶっとんでる、ということですね。想い人を待ちたい気持ちはわかりますが、旅がらすをしてまで何年も待てるというのは相当な執念だと思います。

そんなぶっとんだ葉子の行く末を是非読んでいただきたいです。

3位:江國香織作品を短編でサクサク読める『つめたいよるに』

あらすじ・概要

こちらの作品は21編からなる短編集です。この中でも一番おすすめなのが「デューク」というお話。

飼い犬の「デューク」を亡くした女の子は、喪失感で電車で泣いてしまいます。そこに姿を現した男の子。主人公はその男の子とデートをすることになり……。

この作品は大学のセンター試験で出題され、受験生が涙するということで話題にもなったお話です。入試で全文掲載できるほどの文字数なので手軽に読むことができると思います。

著者
江國 香織
出版日
1996-05-29

ここが見所

デビュー作で絵本にもなった「桃子」は素敵な、そして少し不気味な恋のお話です。

主人公の桃子は7歳の女の子。両親を亡くした桃子は、修行僧・天隆のいるお寺に一時的に預けられることとなります。

桃子と天隆は次第に親密になっていくのですが、修行に身の入らなくなった天隆を案じて和尚様によって引き離されてしまう2人。

そして伯母夫婦が桃子を引き取りにきた日、不思議な出来事が起こり……。

21編からなる作品なのできっとお気に入りの1つを見つけられると思います。

4位:奇妙な三角関係『落下する夕方』

あらすじ・概要

主人公梨果とその恋人健吾は8年間同棲しています。ある日突然、健吾は好きな人ができたと家を出ていってしまいます。

ひとりになった梨果の部屋に転がり込んできたのは健吾の想い人華子。ハチャメチャなストーリーですが、梨果は不思議な魅力を持つ華子と次第に仲良くなります。そして三角関係が始まるのです。

著者
江國 香織
出版日

ここが見所

梨果の家には華子に会いに訪れる人がたくさんいます。そのうちのひとりには健吾もいます。最初は健吾の片想いでしたがそのうち付き合うようになる華子と健吾。そんなふたりを見ていても梨果の健吾への気持ちは消えません。

いろいろな人から愛される華子ですが、華子自身は誰も愛することができません。こんなに愛されているのに寂しさから抜け出せない華子は、ある日梨果のもとを去ります。それから起きた出来事とは…。

この作品を読んだらあなたも華子の虜になるかもしれません。是非お読み下さい。

5位:江國香織が描く、変な家族の物語『流しのしたの骨』

あらすじ・概要

進学も就職もしていない、4人姉弟の3女で19歳の宮坂こと子が中心となり話は進みます。家族の独自性や閉鎖性が描かれた作品です。

宮坂家の4姉弟はそれぞれちょっとした問題を抱えています。

離婚をして出戻ってきた長女のそよ、妙ちきりんでいつも変な恋愛ばかりしている次女のしま子、学校を停学になってしまう四女の律、そしてなんにもしていないこと子。

そんな家族ですがみんなとても仲良く、クリスマスや誕生日も恋人とではなく家族で過ごします。クリスマスにみんなでしゅうまいを作るシーンはほっこりする方も多いでしょう。

著者
江國 香織
出版日
1999-09-29

ここが見所

こと子には深町直人という恋人がいて、一緒に彼の大学に遊びに行ったり、彼と手を繋いだままご飯を食べたいということからこと子は左手でご飯を食べる練習をしたりします。とてもほほえましい2人です。

閉鎖的な家族ですが、こと子は深町直人を通して外の世界を意識するようになり、20歳を迎えようとする頃新たな決意をするのです。

不思議な家族の中で成長していくこと子の姿を是非御覧ください。

6位:登場人物みんなを「がんばれ」と応援したくなる可愛いお話『ホリー・ガーデン』

あらすじ・概要

何人かの男性と関係を持つも特定の恋人はいない果歩と、妻子ある男性と真剣な恋愛をする静枝は幼馴染み。

ただ、彼女たちの性格は正反対で、どこか子供っぽい果歩が姐御肌の静枝に小言を言われてばかりで、読み手としては果歩に同情してしまうことも。

果歩は、同僚の中野という年下の男性に好かれており、彼の好意に甘えて気の向いた時に呼び出したりしているうちに、家に居つかれてしまいます。

物語の終盤、中野を恋人として認めたくない果歩は、気まぐれで渡してしまった自分の部屋の合鍵を返すように言おうとしますが、果歩が口を開く前に中野の方から鍵を返され、出ていくと聞かされ動揺します。

著者
江國 香織
出版日
1998-03-02

ここが見所

「いったん所有したものは失う危険があるけれど、所有していないものを失うはずがないではないか」と考える果歩。

5年前の大きな失恋以降、複数の男性と付き合うも本気にならない彼女は、そういうやり方で傷を癒していたのです。

知らぬ間に芽生えていた中野への執着心を、果歩は認められるのか。

そして、厳しいことばかり言うけれど本当は誰より果歩のことを考えている静枝との関係は……。

果歩も、静枝も、中野も、本作に出てくる登場人物たちはみなとても不安定です。不倫をしていたり、トラウマを抱えていたり、不毛な片思いをしていたり。

でも、人間としてとても魅力的で、彼らの人生が幸・不幸のどちらに転ぶのだろうとソワソワした気持ちで読み進めていくと、人生はそんな単純なものではないことに気付かされる。そんなストーリーになっています。

7位:江國香織が描く共感できない物語?『がらくた』

あらすじ・概要

読み終わった後、作品名である『がらくた』とはどういう意味なのだろうと思うのではないでしょうか。そしてこの物語には共感できない、そう思う人もいると思います。

翻訳の仕事をする主人公、柊子は8年前に結婚し、夫を今でも愛しています。物語の始まりは旅行先のプーケット。柊子が母と二人で10日間の旅行に来たところから物語は始まります。柊子はたったの10日、夫と離れ離れになるのが耐えられないほどに悲しいのです。もし、今頃夫がほかの女性と寝ていたら……。こう考えます。わざと離れて夫に対する愛情を改めて感じる彼女。

柊子と母は旅先で、同じく旅行中である日本人の父子に出会います。美海という15歳の美少女とその父です。東京に戻ってから、家族ぐるみの付き合いをするようになる柊子と美海。それから物語は柊子と美海の二人の目線で進行していきます。

著者
江國 香織
出版日
2010-02-26

ここが見所

柊子は夫を愛しています。異常な愛情といっていいかもしれません。柊子の夫は妻がいながらほかの女性と会い、そのたびに柊子が一番だと再確認します。柊子は、夫が離れるたびに、彼に対する愛情に気付きます。しかし柊子もまた罪悪感なく、ただ通過することとして男性と寝ることができるのです。

一方美海は、同年代の友達を作らず、大人としか関わろうとしません。同年代の友達からは、大人びて見られている美海も、実際大人からすると、やはり子供に見えるのです。

ある場面で美海の気持ちがこのように書かれています。

「大人たちがぐるになるのって大嫌いだ。幼稚だと思う。」
(『がらくた』から引用)

また、ある場面で大人の男性に美海はこう言います。

「馬鹿にされた気持ちがするわ」
(『がらくた』から引用)

まだまだ大人になりきれてない美海から見える大人の世界と、歪んでいるともいえる愛情をもった柊子から見える世界。二人は、それぞれの世界をどのように見ているのでしょうか。

『がらくた』とはどういう意味なのでしょう。ぜひ読んで考えてみてください。

8位:江國香織が描く、満ち足りなさ『薔薇の木 枇杷の木 檸檬の木』

あらすじ・概要

9人の女性と、その女性たちに関わる男性が登場します。共通しているのは、その全員に何か満ち足りていないところがあることです。

9人の女性は、専業主婦、キャリアウーマン、花屋、モデル、アルバイトとさまざま。それぞれの生活している日々が描かれ、登場人物たちはどこかで複雑に絡み合っています。ありふれた毎日の中にも、幸せな瞬間や、修羅場があります。登場人物たちはそれぞれ一人称で描かれ、その中の誰の感情にも深入りすることなく物語が進んでいくので、余計にそう思うのでしょう。

著者
江國 香織
出版日
2003-06-01

ここが見所

不倫をしている女性、上司の夫を好きになる女性、散歩中に出会った人と恋に落ちる女性、結婚生活をあきらめた女性。ドロドロした話ですが読む手が止まりません。風景や状況の描き方が豊かで研ぎ澄まされていて、まるで美しい世界であるかのように表現されているからでしょうか。多くの人物が登場しますが、それぞれのキャラクターが確立されています。そのおかげで混乱することなく読み進めることができるでしょう。

彼女たちの生き方は、自分とかけ離れていると思うかもしれません。しかし、どこかに共感できるところが必ずあると思います。登場人物の行動や言葉や感情に、胸が苦しくなったり、嬉しくなったり、腹が立ったりすることがあるでしょう。読み終わった後、すぐにもう一度読みたくなるかもしれません。女性も男性も楽しむことができる、そんな魅力がある本です。

9位:江國香織が描く、夫婦の日常『赤い長靴』

あらすじ・概要

結婚して10年、子供のいない夫婦の日常を物語にした短篇集です。この物語に出てくる夫婦は幸せなのか、幸せではないのか、わかりません。夫との会話は成立しないのに、家にいること、夫が帰ってくることを幸せに感じる妻。言葉が通じないわけではないが妻の話を聞こうとせず、それでも妻のことを気に入っている夫。

分かり合えているようで分かり合えていない、いてほしいけどいてほしくない。夫婦ってこうあってほしくないけど、もしかしたらこういうものなのかもしれません。

著者
江國 香織
出版日
2008-03-07

ここが見所

こんなエピソードがあります。

旅館で食事をするとき、妻は、男女で向かい合って座るとなぜか気恥ずかしいと思い続けていました。独身の時は夫婦みたいに扱われるからだと思っていましたが、その気恥ずかしさは夫婦になってからも続き

「気恥ずかしいのは、立派な夫婦みたいに扱われるからだ。」
(『赤い長靴』より引用)

と答えを見つけます。

立派な夫婦とはどんな夫婦なのでしょうか。このように考えさせられる場面や言葉が多くあります。

『赤い長靴』の意味が分かるエピソードは恐怖にも似た感情をもつ人もいるのではないでしょうか。

この物語を読み終わると、夫婦関係について今までとは少し違った見方ができるようになることでしょう。夫婦ってこんなふうにお互いのこと思っているのかなと考えると思います。

10位:これは現実?それとも妄想?あやふやだけど面白い、ひと夏の追いかけっこ『なつのひかり』

あらすじ・概要

不思議の国のアリスのような、突拍子もない展開に次々とひきこまれていく一風変わったファンタジーです。江國香織作品の中では少し異色かもしれません。

簡単に説明すると、甲斐性はないが魅力的なある男をめぐって、妻と2人の愛人と妹が複雑に絡み合い、それぞれが葛藤するお話です。

典型的なダメ男に女性たちが必死になる姿は、はたから見るととても滑稽で、終始コメディのように進みます。読み手としては「ありえない」と思う反面、ダメ男の育った家庭環境もそれなりに複雑なので、彼と彼の妹には同情も禁じ得ません。

皆でひとりの男をシェアしているような状況は長く続かず、誰が愛を手に入れられるのかに焦点は移ります。壮大な追いかけっこの行く末は!?ページをめくる手が止まりません。

著者
江國 香織
出版日
1999-05-20

ここが見所

とんでもない話なのに、なぜか心情が痛いほどわかったり、登場人物たちの苦しさが切々と伝わってきたり、読み手に現実と非現実の世界を上手く行き来させる江國香織は、じつに魔法使いのような作家です。

読み終えた時、すべてが自分自身の夏の思い出だったかのような錯覚にとらわれる、少し切なくて、少し眩しい物語。

日常に疲れたとき、本作を読むともれなく夢心地にさせてもらえます。

11位:江國香織が描く家族『思いわずらうことなく愉しく生きよ』

あらすじ・概要

本作は「思いわずらうことなく愉しく生きよ」という言葉を家訓とする犬山家の3姉妹を主人公にした物語です。

姉妹の両親は父親の浮気が原因で離婚しており、長女の麻子は専業主婦、次女の治子は外資系のキャリアウーマン、三女の育子は自動車教習所の事務員として、それぞれ別々に暮らしています。

治子は興味を持った男性と肉体関係に至り、その男性と一緒に暮らしています。お互いに気が合い愛し合っているのですが、結婚に興味の無い治子は彼の求婚を受け入れません。

育子は恋愛に夢を抱けず、自分なりの視点で現実と自分の将来を模索しているのですが、肉体関係と恋愛関係が結び付かないため友人の恋人と肉体関係を持つことに違和感や罪悪感がなく、そのことに対して友人が怒ることの方が不思議だと思っています。

麻子は夫のDVにおびえながら暮らしているのですが、そのことを家族に知られないようにしていました。

著者
江國 香織
出版日
2007-06-01

ここが見所

3人はそれぞれ人生の決断を迫られる時が来るのですが、そんな時に彼女らの指針となるのが犬山家の家訓です。犬山家の人々は別れて暮らしながらも誰もが強い絆で結ばれていて、その事が3人の姉妹の心の根底を強く支えてくれています。

恋愛は大事ですが恋愛だけが人生の全てではないという事は、むしろ相手と上手くいかなくなった時にこそ見失ってしまうものなのかも知れない事に気づかされると共に、何があっても変わらずに自分を愛してくれる家族の存在は、不幸が襲ってきても乗り越える原動力になることを教えてくれる、勇気づけられる作品です。

12位:家族とは何か、家庭とは何か『抱擁、あるいはライスには塩を』

あらすじ・概要

東京の神谷町にある広大な洋館に暮らす柳島家の次女・陸子は、ある日両親から兄の光一、弟の卯月と共に小学校に通うようにと言われます。

柳島家では代々子供の教育は家で行うと決められており陸子たちは常に家の中で親や家庭教師から学んでいたため、外の世界をほとんど知りませんでした。小学校に通い始めた陸子たち3人は同年代の子どもたちや学校教育にまったく馴染めず、短期間で学校に行くのを止めて元の生活に戻ってしまいます。

著者
江國 香織
出版日
2014-01-17

ここが見所

この物語は、柳島家の人々のそれぞれの人生を描いています。陸子には父親の違う姉もいて、弟の卯月の母親は父の愛人です。

祖父の竹次郎は家業の呉服問屋を廃業して貿易商に転じ財を成した人物で、陸子たちの父親の豊作の家は代々柳島家の番頭を勤めていました。母の菊乃と豊作は親同士が定めた婚約で結婚し、祖母の絹は竹次郎がイギリスで知り合ったロシア人です。さらに柳島家には独身を通す叔父の桐之輔、離婚して戻ってきた叔母の百合も同居しており、物語はこれらの人物が入れ替わり主人公となって柳島家の過去と現在が語られていきます。

各家庭には各家庭が培ってきたそれぞれの文化がありますが、柳島家の文化は非常に独特です。そのため外部の人間に強い違和感を与え、陸子らは異端者として小学校で苛められます。しかし陸子は、自分ではなく学校やその他の生徒たちの方に問題があると断定して外の世界を拒絶するのです。叔母の百合は姑や婚家の雰囲気に馴染めず離婚して柳島家に戻りますが、婚家の方だけに非があるとは言い切れません。

世間と隔絶した空間に存在するかのように長い歴史を刻んできた柳島家は、時代の流れと共に変化せざるを得なくなります。柳島家の子供たちは大人となりそれぞれの人生を選択し、年老いてきた大人たちにもそれぞれの転機が訪れるのでした。

柳島家の人々を通して、家族とは何か、家庭とは何かということ、さらには生きることの意味について改めて深く考えさせてくれます。

13位:江國香織が描く幸福のイメージ『ウエハースの椅子』

物語は、38歳の画家である主人公の女性が日記を綴るように進んでいきます。

主人公の恋人の事や妹の事、日々の出来事などが主人公の目線から語られていますが、その合間に主人公の幼い日の出来事やその時感じた事などが織り交ぜられて語られ、読者は主人公の現在と過去を行き来することで主人公の抱える淋しさや不安といった感情を体感させられるのです。

実際に起こったことを語っているはずの主人公の言葉はどこか儚げで幻想的で、思想や行動に重力や熱量といったものが感じられない代わりに、主人公が常に悲しみをまとっていることが感じられます。

主人公は紅茶に添えられた角砂糖のような存在でありたいと望んでおり、それは「役に立たないけれどそこにある事を望まれているもの」という意味なのですが、なぜ彼女がそう望むようになったのかは具体的に描かれていません。

著者
江國 香織
出版日
2009-10-28

タイトルの『ウエハースの椅子』とは主人公にとっての幸福のイメージです。「薄くて脆いけれど見事な四角形で作られた、決して腰を下ろせない椅子」で表現される幸福とは何なのか、それについても主人公を動機づける決定的な事や具体的な事は描かれていないのですが、そのことによって読者の想像は読むほどに掻き立てられていきます。

主人公をはじめ全ての登場人物に名前がないことも読者の想像力を広げる要因として作品の奥行きを無限に広めており、作品の解釈は読者自身の経験や感性によって変わることでしょう。

それぞれ自分の解釈を見つけて味わっていただきたい、何通りにも読み解くことのできる不思議な作品です。


映画化やドラマ化など映像化されている作品が多いため、先にそちらで知っている方もいるかとは思いますが、小説で読むとまた違った感想をもつのではないでしょうか。

少し変わった登場人物が出てくる作品が多いので、初めて読むという方でも面白楽しく読めると思います。

  • twitter
  • facebook
  • line
  • hatena
もっと見る もっと見る