江國香織の魅力は、ありふれた日常を細やかに描く繊細な表現と、女性らしい感性にあるのではないでしょうか。登場人物もみな愛おしく、透明感にあふれています。この記事では、そんな江國作品を好きな人にぜひおすすめしたい小説をご紹介していきます。
主人公のツキコこと大町月子は、もうすぐ40歳。通っていた駅前の居酒屋で、高校時代の古文の教師だった松本春綱と十数年ぶりに再会します。
それ以来、憎まれ口を叩きながら一緒に酒を飲むようになった2人。キノコ狩りや花見にも行き、ある日島へ出掛けることとなりました。その島でツキコは、センセイから亡き妻の墓へと案内されます……。
「谷崎潤一郎賞」を受賞し、ドラマ化や映画化もされた作品。30以上の歳の差がある恋愛を、切なくあたたかく描いています。
- 著者
- 川上 弘美
- 出版日
- 2004-09-03
ノスタルジックな世界観のなかで綴られるなんでもない日常。そこに時おりハッとするような色彩が与えられる筆致は、江國香織ファンもうならせるのではないでしょうか。
物語は大事件が起こるわけではなく、ひたすらツキコとセンセイのゆるやかな恋愛が続いていきます。お互いを真摯に想い、尊重しながら距離を縮めていくさまは「純愛」と呼べるでしょう。
ツキコはもう中年といえる年齢なのに、感情をむき出しにして涙を流し、「センセイ」と呼ぶ姿はとても大人には見えません。嫉妬もするし、不器用で、だからこそいくつになってもかわいらしく見えてしまうのです。
また江國香織といえば、作中に出てくる料理の描写も魅力ですが、本作も負けていません。居酒屋が舞台となることが多いこともあり、お酒や小鉢が目に浮かぶ魅力的なシーンが満載となっています。
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事故の後遺症で、新しい記憶を80分しか保つことができない数学の天才博士。彼の家に派遣されることになった家政婦は、女手ひとつで10歳の息子を育てていました。
心優しい博士は、子どもが親の帰りを待つのはかわいそうだと、家政婦に対して息子も連れてくるように伝えます。
博士の記憶は持続しないため、親子とは毎日初対面。それでも3人は、あたたかい関係を築いていくのです。
- 著者
- 小川 洋子
- 出版日
- 2005-11-26
博士は記憶を保つことができないゆえに、自分を厳しく律します。人付き合いも苦手でしたが子どもにはめっぽう甘く、家政婦の息子にも「ルート」とあだ名をつけてかわいがります。この状況のなかで、「今」の時間を大切に過ごそうとする3人の優しさが胸をうつでしょう。
コミュニケーションツールとしての数学は、ロジカルでありつつ哲学的な側面もあります。また定理や定義は不変なのに対し、人間はどんどん変わり、老いていくのです。本書に流れる優しくもどこか孤独な空気感は、数学という要素なくしてあり得なかったかもしれません。
やがて少年だった息子は大きくなり、博士の意思をついで数学の教師となっていました。涙なしには読めない、あたたかい物語です。
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作家、小川洋子といえばやはり、映画化もされた『博士の愛した数式』をご存じの方が一番多いのではないでしょうか。しかしそれ以外にも、彼女の作品は多岐に渡ります。今回はそんな小川洋子作品を厳選して紹介します。
主人公である良嗣の家は、祖父母、両親、無職の叔父、孫の自分に加え、常に誰かしらが出入りをしているような大所帯。戦争を生き抜き、新宿で中華料理屋を営んでいます。
しかし不思議なことにほかの親戚は姿を見せることはなく、また先祖の墓もどこにあるのかわかりません。
祖父が死んだことをきっかけに、良嗣は祖父母が出会った満州へ行くことを決意。祖母と引きこもりの叔父を連れ、旅に出るのです。
- 著者
- 角田 光代
- 出版日
江國香織と同世代の女流作家、角田光代の作品です。
主人公の良嗣が自身の家族のルーツを探す過程で、戦争や、祖母が半世紀近く抱えこんできた心の闇が語られていきます。
封印されていた過去が明らかになるにつれて、歴史の大きなうねりのなかに一市民がいることや、家族の繋がりを感じることができる作品です。
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1990年のデビュー以来、数多くのヒット作を生み出している角田光代。多くの人に愛される、彼女の作品の魅力に迫ります。
両親と祖父を早くに亡くし、唯一の肉親である祖母と暮らしてきた大学生のみかげ。その祖母も亡くなり、ついに天涯孤独の身になってしまいました。
そんな時、祖母の行きつけだった花屋でアルバイトをしている大学の同級生、雄一に声をかけられ、彼の家で暮らすことになるのです。
雄一の家には、おかまバーで働く母親の姿をした父親がいました。彼らと暮らし、優しさに包まれ、みかげの傷ついた心は再生されていきます。
- 著者
- 吉本 ばなな
- 出版日
江國香織が好きな読者のブログなどを拝見すると、高い確率で同じように吉本ばななの名も挙げられています。両者とも女性ならではの豊かな感性が光る文体で、細やかな描写が魅力だといえるでしょう。
加えてばななの作品は、「死」というものがつきまとうにも関わらず、生きる力を描いて前向きな気持ちになれるものが多いのも特徴です。
抽象的である「感覚」「感情」を繊細に表現し、読者の心に沁み入る物語。世界数十ヶ国で翻訳されているベストセラーです。読んでおいて損はありません。
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様々な文学賞を受賞し、世界的な知名度も高い小説家、吉本ばなな。女性ならではの切なく美しい作品から、多くのファンを獲得しています。著作数も非常に多く、書き手ならではの世界観を確立したベストセラー作家と言えるでしょう。
祖母が亡くなり、葬式のために8年ぶりに故郷の鎌倉に帰ってきた主人公の鳩子。海外を放浪していましたが、祖母が営んでいた文具店と、「代書や」という家業を継ぐことになりました。
「代書や」は、依頼主の代わりに、想いを言葉にして手紙にしたためる仕事です。鳩子は、店を訪れる人の人生に寄り添いながら、祖母の想いにも触れていきます。
- 著者
- 小川 糸
- 出版日
- 2018-08-03
江國香織作品の魅力のひとつに、登場人物の心情を的確な言葉で表現するところが挙げられますが、本作では主人公の鳩子がまさにその仕事をしています。
恋文や絶縁状、借金の断り状……依頼主はさまざまな事情を抱えています。彼らが自分では言葉にできない想いを、鳩子が「代書」し、手紙にして届けるのです。本文中には、実際に手書きの手紙が挿入されているので、より登場人物のキャラクターを想像しながら読むことができるでしょう。
そして鳩子自身も、「代書や」の仕事をしていくなかで、仲違いしたまま別れることになってしまった祖母に向き合っていくのです。
また、古都・鎌倉の風景描写も本書の見どころのひとつ。美しさに触れられる一冊です。
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