『助太刀09』は、仇討ちを代行する特殊部隊・助太刀人たちの戦いと苦悩を描いた隠れた名作です。作者の岸本聖史は『NARUTO』の岸本斉史の弟としても知られています。この記事では法とは?正義とは?という難解なテーマにもふれている本作の魅力をご紹介!スマホで無料で読むこともできますが、未読の方はネタバレにご注意ください。
『助太刀09』は、「月刊少年ガンガン」や漫画配信サイトにて連載されていたサスペンス・アクション漫画。作者は岸本聖史で、本作のほかにも『666~サタン~』や『ブレイザードライブ』など多くの作品を描いています。『NARUTO』の作者でおなじみ、岸本斉史の弟でもあります。
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- 著者
- 岸本 聖史
- 出版日
- 2015-07-30
命を奪われた被害者の無念を晴らすために結成された特殊執行隊、助太刀人。執行人である彼らと犯罪者がくり広げる血みどろの戦いは、手に汗握る展開であること間違いありません!
今回は、『助太刀09』の魅力、ストーリー全巻の見所をご紹介していきます。ネタバレも含みますので、未読の方はご注意ください。
物語の舞台は、少子化が進み、人口減少によって労働力が低下した日本。経済は低迷し、治安が最悪の状態になっていました。殺人事件の発生率が上昇の一途をたどるなか、政府は死刑制度に代わる新たな対策を打ち出します。
それは、明治初期まで存在していた「仇討(あだうち)制度」の復活。
「仇討制度」とは、別名「敵討ち制度」とも呼ばれます。これは、国が私刑を許可して、個人による復讐を認めた法律のことです。まだ武士が活躍していた日本の中世から実在していた制度なのですが、国が一個人の殺人を認めるなんて……倫理的問題としていかがなものなのか、と考えてしまいます。
この仇討を遺族の代わりにおこなうため、編成された特別部隊が「助太刀人」と呼ばれる人たちです。彼らは真紅のプロテクターを身にまとい、遺族の思いを胸に、激戦をくり広げていきます。
- 著者
- 岸本 聖史
- 出版日
- 2015-07-30
少子化が進み、不安定な経済状況から殺人事件が増加する日本が舞台の本作。助太刀人が死刑囚に被害者と同様のやり方で決闘するという内容の法律が制定されています。
しかし必ずその形式はあくまで「決闘」。死刑囚が返り討ちをして勝利した場合は、勝利者として恩赦3年と安楽死の権利が与えられます。
そしてその決闘の様子は被害者遺族にライブ中継で映像配信され、家族はその様子を見て心を晴らすことができるという内容です。
これを聞いただけでもさまざまな疑問や不安が浮かび上がると思います。最も考えられることは、そもそもこの法律は正義なのか、というところではないでしょうか。
まさしくその疑問こそが現実の私たちに死刑についても考えさせる機会を与えてくれるのです。
- 著者
- 岸本 聖史
- 出版日
- 2015-07-30
そんな善悪が主観的に決まってしまいそうなこの法律。それを実行する助太刀人は全部で9人おり、その全員に身体能力的な適性だけでない、ある共通点があります。
それは「犯罪を深く憎み 被害者とその遺族に心から強く共感できる者 その覚悟を貫ける者」。
つまり、助太刀人も犯罪や被害者の遺族なのです。
その精神的な素質を持つことになってしまった彼らの苦悩。どれだけの思いの強さか、辛い気持ちを抱えているかは、想像に難くありません。
そしてその彼らの心理描写がまたうまい。日常にうまく溶け込みながらも傷が癒えないことが端々で感じられ、より物語に引き込まれてしまうのです。
果たして彼らはどんな結末をたどるのでしょうか。
主人公、山岸優二はちょっと頼りなさげなフリーター青年。普段は、ジャーナリストで友人の柳瀬春香にアッシーとしてコキを使われています。
一見すると、どこにでもいそうな優男。しかし、彼の正体は特別司法警察・特殊執行隊に所属する助太刀人No.7だったのです。
山岸はまだ若手ですが、優秀な助太刀人。格闘術はもちろんのこと、戦闘の肝となる驚異的な「洞察力」を持っています。この能力を駆使して彼は数多くの修羅場を潜り抜けるのですが、とにかくターゲットに対して容赦ないのです。
1巻では平気で子供を車で轢き殺す殺人犯が登場するのですが、山岸は相手の虚をついて鮮やかに任務をこなします。
「たすけてぇぇ!ゆるじでぇぇぇ!!」と泣きわめく殺人犯をいともたやすく轢殺する瞬間は、スカっとすると同時に、どこか後ろめたい気分にさせられます。本当にこれで良かったのかと。
この後の話もそうですが、回を重ねるごとに、死刑制度や正義について考えさせられる部分があります。単純なアクション漫画として片づけることのできない、本作ならではの奥深さを感じることができるでしょう。
さらに、1巻では期待の新人、小泉涼子と清寺功太の2人が加入します。特に小泉は女性でありながら卓越した身体能力をもっており、なんと自身の関節を自由に外すことができるというまさに超人。
涼子は入隊して早々、仇討の任務を引き受けるのですが、ターゲットの殺され方は悲惨というよりほかありません。とりわけ男性読者にとっては、かなりショッキングな内容ですのでご注意ください。もっとも、その過激なまでの演出が本作とは相性がぴったりなのですが。
1巻では、物語の軸となる助太刀人たちの役割と特殊な法制度における殺伐とした日本の世界観が語られます。
ちなみに、助太刀人にはそれぞれ、なんらかの事件に巻き込まれた過去があります。山岸は、かつて起きた一家惨殺事件の生き残り。そのときに犯人が放った炎で家を焼かれ、両腕と両足を失っています。劇中では他人から移植された四肢で生活しています。借り物の手足であるため彼の手足には感覚がありません。
彼らの抱える重たい過去が、物語により悲壮感を与えていることも、本作の特徴のひとつです。
2巻では、助太刀人以外の人物にもフォーカスがあたります。山岸の友人でジャーナリストの柳瀬は、被害者の感情が入り込んでしまう仇討制度に疑問を抱いている人物。彼女も彼女なりの正義のあり方を追求するべく、取材に奔走するのです。
危うく加害者の親族に殺されかけたり、捏造したスキャンダルの片棒を担がされたり、助太刀人とは違った土俵で彼女も戦いをくり広げます。言葉とペンの力を純粋に信じている彼女の姿に、読者も勇気をもらえることでしょう。
- 著者
- 岸本 聖史
- 出版日
- 2015-07-30
かつて山岸の前任者である執行人No.7、羽柴という男のエピソードも語られています。彼は死刑囚の返り討ちにあい、殉職した助太刀人でした。最後まで被害者遺族のことを思い、散っていく羽柴の姿は儚いばかりでなく、本当の意味での強さを実感させられます。
そして死刑囚が決闘の場で助太刀人を殺害してしまった(仇討刑が失敗した)場合、その人には3年の恩赦と安楽死の権利が与えられるという本作の設定。このルールが、読者に助太刀人により感情移入させる装置として働くわけです。そのスリル満点の展開は少年漫画ならではのバトルものの面白さが感じられます。
3巻では、執行部隊のアイドルにしてボクっ娘の中谷雪(助太刀No.5)と元外科医で刃物マニアの萩原吉彦(助太刀No.3)の活躍が主に描かれています。
中谷雪は、見た目は小動物系の可愛らしい女性なのですが、盲目の処刑人という一面も持ち合わせています。そのため、彼女は聴力が優れており、わずかな反射音によって空間を認識できるのです。まるでコウモリのようだと周囲から評されるほど、彼女の探知能力はずば抜けています。
他の処刑人と同様、彼女もまた幼くして両親を殺害されるという壮絶な幼少期を経験しているのですが、そのエピソードはまさに「むごい」の一言。夕食のメニューがパパとママだったなんて……想像を絶する残酷さです。
絶望を乗り越え、助太刀人として死刑囚に果敢に立ち向かう彼女の闘志には、誰もが心を熱くするでしょう。
余談ですが、この話の後、中谷は期待のルーキー清寺とよい感じの仲になります。手をつないで街中を歩く2人の姿は、本作における数少ない癒しを提供してくれるでしょう。
- 著者
- 岸本 聖史
- 出版日
- 2015-11-21
萩原吉彦は、以前は神の執刀医と呼ばれたほど腕の立つ医師でしたが、とある心臓移植を担当したのを最後に表舞台から姿を消し、刺殺専門の助太刀人として腕をふるうことになります。
萩原の武器はなんといってもオペ室で培われた外科的な切断術です。標的の急所めがけて的確にナイフを突き立てる姿は、たしかに天才執刀医と呼ばれた彼だからこそできる芸当であるといえます。
萩原はこのエピソードで快楽殺人者の仇討を担当することになるのですが、どこか嬉しそうな表情を見せます。山岸は彼の態度に苛立ちを隠せません。なぜ笑っているのか?と萩原に尋ねると、彼はこう答えるのでした。
「そんなもん、切ることがすきだからに決まっとるじゃろが!」(『助太刀09』3巻より引用)
実は彼が抱える闇とは、人体を切ることに高揚感を覚えてしまっている、もうひとりの自分の姿だったです。そんな彼だからこそ、今回担当する殺人者には、シンパシーのようなものを感じるのでした。
これまでの被害者側の共感とは真逆の視点、つまり殺人者側の心理や気持ちに焦点が当てられており、ここで山岸と萩原の正義に対する考え方の違いが浮き彫りになります。
「俺なら真の意味で、相手に屈辱と苦しみを与えることができる」(『助太刀09』3巻より引用)
遺族にそう告げ、処刑場に向かう萩原。同じ助太刀人でも、仕事観についてそれぞれ異なった考えがあるのです。それこそが、どのキャラも魅力的に映る理由のひとつでしょう。
「遺族にとって望ましい結末とはなにか?」ということについても描写されており、読者の倫理観に訴えかけてくるのも本作の魅力といえるでしょう。
快楽殺人者への仇討を見事に果たした萩原ですが、そんな彼との考え方の違いにショックを受ける山岸。助太刀人とはどういう存在であるべきなのか、彼の思い悩む日々が続きます。
そんななか、山岸の身体に異変が。いままで感覚のなかったはずの手に痛みを感じるようになったのです。
彼は、自身に起きた突然の変化に動揺します。極度に神経質である性格もあいまって、とうとう鏡のなかに幻覚を見るほどのノイローゼに陥ってしまうのです。
「兄...さん?」(『助太刀09』4巻より引用)
それは、事件で死んだ亡き兄の姿でした。山岸は身体が別の誰かに乗っ取られたかのような錯覚に陥ります。
今でも自分だけ生き残ってしまったことに深い罪悪感を抱いているのが、読者にも明確に伝わってきます。戦闘シーンもさることながら、作中でたびたび見られる、鏡を使った登場人物の心理描写も評価すべきポイントです。
- 著者
- 岸本 聖史
- 出版日
- 2016-03-22
助太刀人の面々が課せられた任務を懸命にこなす一方、世間では仇討を自分たちの手でおこなう輩が急増していました。仇討制度に反対の声をあげる人権団体の運動も活発になり、ニュースも連日のように法制度に関するトピックをとりあげるようになりました。
状況が混沌としていくなか、同一犯であると思われる連続殺人事件が起きます。被害者は皆心臓を刺されており、仇討部隊のメンバーにも嫌な予感が走ります。次の執行対象はこの犯人になるのではないかと。
そして数ヶ月後、ついに犯人が逮捕され、仇討が執行されることになります。しかし、その犯人はあろうことか、山岸の良き上司でもある助太刀人No.2桜田和成だったのです。兄のように慕い、そして信頼していた上司との直接対決。
「答えてください桜田さん!!」(『助太刀09』4巻より引用)
山岸の悲痛な問いかけに対し、桜田は沈黙を守り、ただ後輩の顔をじっとみつめます。良き先輩と後輩だった2人が処刑場で対峙するシーンは、本作でも屈指の名場面であるといえるでしょう。桜田はかつて山岸の指導係を担当していた過去もあるので、なおさらこの場面には感慨深いものがあります。
緊迫した空気が漂うなか、物語はついに最終章を迎えます。
最終巻では、仇討制度に反対の立場をとっていた大物議員が暗殺されたところから、物語が急速に動きはじめます。警察は対立関係にあった現職の法務大臣のほか、直接の実行部隊でもある助太刀人の関与も視野に入れて捜査を始めたのです。
組織が解体される可能性も十分にありえる状況になったその時、助太刀人No.0で部隊の隊長でもある織田カムイは暗殺事件にどこか違和感を覚え、独自に調査を始めます。
そして犯人として浮かびあがったのは、まさかの「あの人」でした。
犯人の素顔を明かすことはできませんが、今回は織田隊長自ら仇討を執行します。彼らの戦闘シーンが、これまた熱いのです。しかも犯人が、今まで登場してきた殺人犯とは比べものにならないほど手練れているため、戦いはさらに白熱していきます。
善と悪、正義と法といった現代社会にも通ずるテーマが物語の根底にあり、その問題について、改めて考えさせられるのが本作の醍醐味であります。それだけでなく、純粋に血なま臭いバトル漫画として、十分に楽しむことができるでしょう。
- 著者
- 岸本 聖史
- 出版日
- 2016-09-21
これ以降の展開についてですが、電光石火のごとく物語が進んでいきます。
山岸はハートを半分に割ったような形をしたペンダントを肌身離さずもっていて、それはかつて母がお守りとしてくれたものでした。もともとハート型でしたが、それを兄弟で2つに分けてもっていたのです。その片方が偶然見つかるところから、物語は一気に収束へと向かいます。
まるで神経衰弱の終盤戦のごとく、新事実が次々と明らかとなっていき、読者は全容を把握するために若干の時間を要するでしょう。
本作のキーマンとなるのは、全編に登場する織田隊長。実は山岸一家の殺人事件にも関わっていたということが後半で明らかになるのですが……本当に申し訳ありません。お伝えすることができるのはここまでです。
はたして、事件があった夜、山岸一家に何が起こったのか?片割れのペンダントが意味するものは?そして、戦いの末に山岸がたどり着いた助太刀人の存在意義とは?……最終回の真相は、ぜひ本書でご確認ください!
今回は、全巻通して『助太刀09』の魅力を紹介いたしました。疾風怒涛のクライマックスをぜひ、お見逃しなく!