マルチな活躍を続けるジェーン・スー原作の「未中年」。作中には彼女のコラムも収録されています。40代はもちろん20代の若い女性にも読んで欲しい本作の魅力を紹介してきます。スマホで無料で読むことができるので、仕事や家事などの合間にチェックしてみてください。
40代既婚、マイホームあり、仕事と主婦業を中心に生活している……と聞くと、成功した人生を歩んでいるように思えるかもしれません。
しかし幸せとは周りの人間が気軽に判断出来るものでもなく、また当事者である自分自身も見失いがちなものなのです。
原作者のジェーン・スーは自身も40代。彼女の著作には女性に関するものが多く、多くの人から共感を得ています。本作には漫画の合間に彼女のコラムが挟まれていて、40代だけでなく、20代、30代の若い世代や普段あまり漫画を読まない方も、つい没頭してしまうでしょう。
ひとりの人間に密着した作品で、そこに描かれているのは仕事や結婚生活、友達との付き合いや新たな出会いなど、日常が中心。ひどくハラハラするような場面はありませんが、等身大だからこそ心に響くものがあるのです。
- 著者
- ["ナナトエリ", "ジェーン・スー"]
- 出版日
- 2017-04-08
主人公は、OLをしている40代の亜弥。仕事では雑用ばかりで、結婚はしているものの旦那とは以前よりも距離があり、家のローンが残っているのに夫は仕事を退職してしまいそう……と生活のさまざまなことに疲れや喪失感、憤りを感じていました。
不満が溜まっていくなかで、近所にコンビニが新しくでき、そこでひとりの男性店員と出会います。初めて会ったときは気にもとめませんでしたが、彼との出会いが亜弥の生き方をガラッと変えていくのです。
日々自らの老いを実感している亜弥。自分の得意分野の仕事が若い後輩に任されたことを知って、仕事へのやりがいを見失いかけていました。
モヤモヤした気持ちを追い払うように、帰り道にコンビニに寄っていつものお酒を買った亜弥は、雨が降っていることに気づきます。傘を買おうとしますが手持ちがなく、ATMも使えず、雨が止むのを待つことにしました。
しかし洗濯物を干したままであることを思い出し、慌てて店を飛び出して雨の中を走ります。途中で呼び止める声が聞こえ振り返ると、コンビニ店員の彼が、傘と置いてきた商品を持って追いかけてきていました。
彼は傘を渡すと、まっすぐ亜弥を見つめます。
「困ったときは頼ってください」(『未中年 ~四十路から先、思い描いたことがなかったもので。~』より引用)
この言葉に、不覚にも亜弥は胸を打たれます。優しくされたから癒された、嬉しかった、という単純なことではなく、心がときめいたのです。コンビニに行くたびにひと声かけてくれるようになった彼に、亜弥はどんどん惹かれていきました。
別のある日も、仕事も夫ともうまくいかずに意気消沈した彼女の足は、自然と例のコンビニへと向かいます。彼が見当たらなくて肩を落としますが、お酒を買おうとしたところで不意に声をかけられ、わずかに涙を流すのです。
辛いとき、大切な人や好きな人に出会うと、ホッとして泣いてしまいそうになることがあると思います。亜弥の涙も、そんな安心感や嬉しさからきたものなのでしょう。
彼女は店員の彼と接するうちに、気持ちが軽くなるだけでなく、人として前に進んでいくことも決めます。自分を変えるきっかけとして、まずは1ヶ月間スクワットをおこなうことにしました。
なんとか1ヶ月後やりきり、スクワットの効果を感じていた亜弥ですが、それに気づいてくれたのはコンビニ店員の彼。努力したことを褒められて、亜弥はだんだんと自分に自信をつけていきます。
自分が頑張ったと思えることを、誰かに認めてもらい、褒めてもらうことは、子どもでなくても嬉しいもの。彼女は、もう大人だからと、忘れていたり後回しにしたりしていた感情を、徐々に取り戻していくのです。
等身大でわかりやすい亜弥が主人公の本作は、読者に自身の人生をあらためて振り返らせる魅力があります。
本作の絵は今時のきらびやかなものでは無く、主人公の亜弥も40代で、彼女の周りの人物も特別若いわけではありません。
しかし、彼女自身が少々丸みを帯びた体型というのもあるかもしれませんが、作品全体に柔らかくふんわりとした印象があります。
ひとりの人間の生活を題材にしているので、亜弥が嫌な思いを抱くことはあります。しかしその苛立ちや不満というのは、たとえば顔にシワが増えたとか、ゴミ捨てがいつの間にか夫ではなく自分の役目になっているなど、多くの女性が実際に感じたことがあるような内容です。
小さな不満を抱きながらも、日々に立ち向かっていく亜弥に、読者は勇気をもらうことができるのでしょう。
普通に暮らしていくだけで、我慢しなければならないことや、ままならないことはたくさんあります。特に亜弥の年代になれば、諦めなければならないことや、前進したくてもできないことも増えるのではないでしょうか。
大した日常だとはけっして思っていないのに、その日常を守らなくてはならず、身動きが取れなくなることがあるのです。
このような息苦しさを感じたことがある人は、亜弥と同じように、自分を変えようと動きたくなること間違いなしです。彼女が変わっていく姿を見て元気をもらい、また明日を迎える勇気が出てきます。
現実の世界に少し疲れてしまった社会人の方におすすめです。
「未中年」は、作画者と原作者が分かれています。作画はナナトエリが担当、原作はラジオパーソナリティや音楽プロデューサーなどとしても活躍しているジェーン・スーです。
ジェーン・スーはほかにもマルチに活動していて、演出家、作詞家、コラムニスト、作家、脚本家など多方面でその才能を発揮しています。しかしこのようなタレント活動をする前の彼女は、会社に勤めるごく一般の社会人として生活していました。
そのときのさまざまな経験が、本作を生みだす一助になっています。
彼女の著作の多くは、彼女自身が経験したことや感じたことを書き起こしたものです。「未中年」内でも文章で彼女のコラムが掲載されており、それによって本作がより現実的なものだと感じられるでしょう。
このリアルさは、多くの経験を積んだジェーン・スーだからこそ生み出せたもの。女性の読者は自分自身を見つめ直すきっかけに、男性の読者は女性という生き物を理解するために、ぜひ本作を読んでみてください。
- 著者
- ["ナナトエリ", "ジェーン・スー"]
- 出版日
- 2017-04-08