「心霊探偵八雲」シリーズなど、多くのミステリー作品を描く神永学。非常に読みやすく、感情をダイレクトに伝える文章が魅力です。それだけではなく、”読みやすい”ストーリーの中に、奥深いメッセージが隠されているのです。今回は、神永学のおすすめ作品を紹介していきます。
神永学(かみなが まなぶ)は1974年生まれ、山梨県出身の小説家です。映画監督になることを志し、山梨県の高校を卒業後に日本映画学校(現在の日本映画大学)に入学しています。
卒業後は映画制作をしていくのですが、家庭の事情が重なり、一般企業に勤めました。その頃から小説を書きはじめ、『赤い隻眼』でプロデビュー。この作品は、のちに『心霊探偵八雲 赤い瞳は知っている』に改題されました。
SFや時代劇が織りまぜられたミステリーを描いていて、さまざまなシリーズが刊行されています。デビュー作にして代表作でもある「心霊探偵八雲」シリーズは、舞台化やアニメ化もされました。
今回は、神永学のおすすめ作品を5作紹介していきます。
『心霊探偵八雲』
デビューのきっかけとなった「赤い隻眼」は、「心霊探偵八雲」と改題し、シリーズ化されています。漫画やアニメにもなったので、ご存知の方も多いのではないでしょうか。
2016年の時点で14冊出版されており、長くファンに愛されている、神永学の代表作ともいえます。
- 著者
- 神永 学
- 出版日
- 2008-03-25
彼の作品のタイトルには、いつも話のキーとなる人物の役目と名称が入っています。
本シリーズでキーとなる人物は、生まれつき赤い左目で死者の魂を見ることができる、斉藤八雲。
八雲が寝泊りしている<映画研究同好会>の部室に、友人の小沢晴香が「死者にとりつかれたので助けてほしい」と依頼にやってくることから話が始まります。
本シリーズに、晴香は欠かせない存在となっています。
赤い目であることから、周囲に気味悪がられ、母親にさえ殺されかけた、という辛い過去を持つ八雲。普段は、赤い左目をカラーコンタクトで隠し、周囲に気づかれないようにしています。
晴香は、彼の傲慢な態度・言動に腹を立てながら、彼の過去や特異な能力を理解しようとします。
そんな彼女と関わりあうことで、八雲は何かが変わっていきます。
各巻毎で、少しずつ変化していく晴香と八雲、二人の関係の変化は、シリーズの読みどころのひとつとなっています。
また、八雲が晴香や後藤刑事とやりとりする会話、八雲を取り巻く少し変わった人たちの言動も読んでいると癖になる作品です。
『確率捜査官 御子柴岳人』
東野圭吾作品の「ガリレオ」シリーズで、刑事×物理学者のタッグが有名となりましたね。
本シリーズは、物理学者ではなくて、刑事×数学者のタッグで、取調べにより事件を解決するという話です。
本シリーズのキーとなる人物は、数学者の御子柴岳人。
- 著者
- 神永 学
- 出版日
- 2011-09-01
数学に関して無知な新人女性刑事・新妻友紀は、御子柴の放つ聞いたことのない理論に、説明を求めます。
「本当に何も知らないんだな」と御子柴は言いながら、詳しく理論を解説してくれるので、数学に苦手意識があっても読みやすい話になっています。
本シリーズの密閉ゲーム編(第1巻)に、奥深いメッセージが描かれた印象的なシーンがあります。
御子柴の父親は、誤認逮捕され、釈放されたものの、逮捕という事実は消すことが出来ず、世間からのバッシングに負け、自ら命を絶ちました。
そんな彼の過去を知った、友紀と御子柴の会話が描かれたシーンです。
友紀は警察への復讐を考えているのか問います。
その問いに対して、彼はこう返答するのです。
「過去を変えられる確率を知っているか。」
「0パーセントだ。過ぎた時間だけは変えられない」と。
このとき、彼女は、彼が過去を変える努力ではなく、未来に向かって進む選択をしたのだと知ります。
過去を変えられないことは、誰もが感覚として知っていることです。
しかし、感覚を数字に表せば明白だ、と御子柴が言うように、0パーセントという数字でみると、知っていながらも、その事実を認識せざるを得ません。
感覚でしかなかった事実が、数字によって表すことで、認識に変わる数字の凄さと、未来に向かって進む御子柴と友紀が、変えられない過去を乗り越えていく作品となっています。
『殺生伝』
警察絡みのシリーズを得意とする神永学にとって、”時代劇小説”である本作品は、彼の新境地といえる作品になっています。
本シリーズのキーとなる人物は、生まれつき胸に殺生石(不死の石)を宿す少女・咲弥。
- 著者
- 神永 学
- 出版日
- 2016-07-07
殺生石は、不死の石とも呼ばれ、彼女が傷を負うと、近くの生を吸い、彼女を復活させます。
よって、彼女は死にたくても死ねない体、つまり不死の体を持っているのです。
天文12年(1543年)、父・清繁の命により、彼女の殺生石を求める甲斐の武田から逃れるため、従者である紫苑と旅に出ます。
旅中、まっすぐな目をもつ一吾に出会うことで、今まで殺生石を宿すことで絶望と諦めを感じていた咲弥は、運命に抗い、戦うと決心します。
一吾は、辛い運命を背負った咲弥と出会い、「咲弥を守りたい」と願い、強くなることを望みます。
本シリーズの第1巻に、妖魔が寄生し、猛獣となった人と、一吾の育ての親である真蔵が戦う場面があります。
真蔵は敗れ、悲しくも咲弥の殺生石に生を吸われて、命を落としてしまいます。
昔真蔵の弟子であった無名は、敗れた真蔵の死を「真の強さ」と表現します。
自分の置かれた運命と「強さ」を求める登場人物たちの成長が描くことで、「真の強さ」とは何か、と考えさせられる作品です。
『イノセントブルー -記憶の旅人-』
本作品のキーとなる人物は、前世を見せる才谷梅太郎。
彼が前世で自分を殺した人間を探す話です。
前世の記憶は、決して人の中に存在しないわけではなく、奥底に忘れ去られているだけであるという才谷は言います。
その言葉を証明するように、なんの繋がりもないような登場人物たちの”現世”が”前世”より引き寄せられていきます。
- 著者
- 神永 学
- 出版日
- 2015-01-20
この本には、事業を失敗し、 ホームレス生活をしていた有川浩介が出てきます。彼は、就職活動をしている際、かつての部下が会社を立上げ、社長になっていることを知ります。そのことを知った彼は、自分の愚かさとプライドにより人生に絶望し、家族を残して自殺をしようとします。
しかし、自殺はうまくいかず、失敗して、場に居合わせた才谷により、前世を見せられます。彼の前世は、家族を想い、「生きたい」と願いながら戦場で死んでいきました。前世を見せられて、彼は気づくのです。
事業に失敗した自分より、自ら命を絶ち、家族と会えないことを選ぶ自分のほうが愚かだと。どんなに汚くても、生きてさえいれば、家族に会うことができる。そのために、必死で生きよう、と彼は思うのです。
”前世”により引き寄せられていく縁が、”現世”を苦しめるものではなく、生きる糧として、描かれている作品です。そして、時にはプライドを捨てでも生きること、の大切さを教えてくれる作品です。
『コンダクター』
神永学作品にしては、珍しく非常にダークな劇場サスペンス作品です。
本作品の、キーとなる人物は、「コンダクター」。英語で指揮者と意味する人物です。
視点が頻繁に変わり、時には誰の視点かわからない場面もあるため、憶測の中でストーリーが進んでいきます。読み進めていく中で、すべてが繋がっていき、謎も解明されていきます。
- 著者
- 神永 学
- 出版日
- 2010-06-23
話は、フルート奏者朽木奈緒美が悪夢を見始めたことから始まります。
アパートで首なしの白骨化したした死体と一緒に、彼女が大学時代の音楽仲間と写っている写真が発見され、事件と悪夢が解明されるように物語が進んでいきます。
音楽大学の同級生たちが、商業ミュージカルのオーケストラで再会し、奈緒美は心躍らせますが、彼らは、とんでもない事件を抱えていました。
彼らそれぞれに、魔の手を差し伸べる人たちが出てきます。その存在により、お互いを信じることができず、最悪の結末を迎えます。
自分は指揮者の能力があると信じて疑わなかった結城、彼の出現により婚約者の愛を信じれなかった玉木、それぞれが欲により、運命を崩してしまうのです。
信じるものを見失わず、欲と向き合うことも大事なのだと感じさせられる作品です。
神永学作品の魅力は、憎たらしくも愛らしい主人公や先が気になるストーリー展開だけではありません。何故なら、彼の作品には、いつでも生と死について書かれています。”生”とは”死”とはなんなのか、読みやすい文章の中に隠されたメッセージの奥深さがあるからだと思っています。