プロレスラー的視点で読んだ人体の不思議【KUSHIDA】

更新:2021.12.2

来年、1月4日(木)「WRESTLE KINGDOM 12 in 東京ドーム」での試合が決定しました。IWGP Jr.ヘビー級選手権4WAYマッチ、4選手が同時に戦うという形式の試合です。2017年は特に海外遠征が多く、身体と向き合い、コンディションを整えることへの自覚が高まった一年です。それゆえ人体について語られている本を自然と手にとって読んでいました。人の可能性、身体の仕組み、脳ミソ……いつもの癖なのか、プロレスラー的視点で読んだ2冊をご紹介します。

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“生”の勝負の舞台裏

著者
久米 宏
出版日
2017-09-13

いざゴングが鳴れば、四方からお客さんの好奇な視線が突き刺さり、逃げ場はありません。後先を考える暇はなく、対戦相手、お客さんとの真剣勝負。次の一手が、あるいは生番組での一声が、その後の人生を大きく左右することすらあるのがライブの恐怖でもあり、興奮するところ。本書からも生の緊迫感がビンビン伝わってきます。当時の番組の裏側はもちろん、生放送に挑む時の恐怖と興奮、葛藤が正直に描かれているのがプロレスラー的には非常に興味深い部分でした。生放送への向き合い方、勉強になります。

時々。いや結構毎回、入場の幕を巡ってリングに向かう瞬間、怖くて逃げたくなります。生きて帰って来られないのでは……と不安がよぎります。帰って来ることができたときの安堵感たるや、歓声となってすぐ反応が返ってくる快感たるや。その瞬間に得られる興奮や自信は何事にも変えられません。

生放送のニュース番組のキャスターという仕事。果たして、どれだけの重圧とプレッシャーがあったのでしょうか……久米さんが長年キャスターを務めていたテレビ朝日『ニュースステーション』。その放送開始は1985年だったそうで……1983年生まれの僕にとって、テレビでニュース番組といえば、この『ニュースステーション』のイメージがとても強いのです。阪神淡路大震災、地下鉄サリン事件、アメリカ同時多発テロ……学生時代に巻き起こった大事件の最新情報は、ネットでも、新聞でもなく、その頃、毎晩10時の10チャンネル(当時テレビ朝日は5チャンネルではなかった)から情報を得たものでした。巨人が優勝して、アンチ巨人の久米さんが坊主になったことも、子供心ながら、なんとなく記憶しています。

反射神経が働かなくなり、言葉が出てこなくなるから、絶対に7時間以上の睡眠を取る。キャスターは元気で快活でなければならない。くたびれて機嫌が悪い出演者を視聴者は許してくれない。22時に元気で平静でいられるように。

これらの久米さんのキャスターとしての心構えは、そのままプロレスラーにも置き換えて考えることができるなと襟を正した次第。波紋が広がるように、あえて違う色をスポイトで落とし込むかのごとく、生放送をタダでは終わらせない久米さんの気概はキャスターという名のプロレスラーにも思えてきます。またそんな番組がみたいな、と本書を読み終えました。久米さんが座右の銘としている、ジャーナリストの大宅壮一氏の言葉が本書で紹介されていました。

風俗を語るときには政治的に語れ
政治を語るときは風俗を語るように語れ

これ、試合のときに応用できるような気がしています。

計り知れない脳の世界

著者
["池谷 裕二", "糸井 重里"]
出版日
2005-06-01

人の“脳ミソ”に対して興味があります。

それは高校生の頃、“失神する=記憶を失う”という経験を日常的に繰り返していたのがきっかけだったかもしれません。学生時代、授業が終わると高田道場に出向きグラップリングといわれる寝技のスパーリングに明け暮れる日々。チョークスリーパーホールドや三角絞めをかけられ、ギブアップするかしないかギリギリのところで耐えていると、いつの間にかフラッ~と失神してしまうことがありました。もちろんその逆で、相手がなかなかタップしないなぁ〜と思っていたら、いつの間にか口から泡を吹いて失神していたことも。そんなことを繰り返していくと、段々と己と相手が気絶する境目も見定まってくるようになり、技術も向上していきます。

高校生ですから、失神という状態が最初うまく受け入れられず、心臓が停止しているのでは!?と焦った記憶があります。いわゆる酸欠状態に陥り、記憶を失ってしまうわけですが、プロレスラーになってからも頭を打って試合のことをまったく覚えてないという経験があります。一般の人でいえばお酒を飲み過ぎて記憶がないのに、ちゃんと自宅のベッドで朝を迎えたなんて経験は誰でもあるはず。そんな風に肉体と脳がバラバラでも、それぞれヒトとして機能することに、軽い恐怖と好奇心を自分の脳ミソに対していつも抱いていました。垂直落下式⚪︎⚪︎や雪崩式⚪︎⚪︎なんて技があるぐらい、プロレスラーは脳にダメージを日常的に負っているわけですから、興味が出てこない方が不思議。いや、頭の打ちすぎなのかもしれませんが(笑)。

でも、この本は楽しいです。難しい話も分かりやすい。同じようにならないようにする、という脳の本能的な働きは自我の強いプロレスラー社会を象徴しているようであり、いろんな本をプロレス界やプロレスラーに置き換えて読むと興味深いです。脳ミソは計り知れない。宇宙のようです。

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