こんにちは。藍坊主のvo.hozzyです。今回紹介させていただくテーマは『一周してちょっとコミカル、だけどやっぱり鳥肌シリアルキラー小説三選』です。
小説の醍醐味の一つと言えば、推理ものにも必ず登場してくる犯人、特にそれが異常であればあるほど読者はワクワクしながら話にのめり込んでいけると思うのですが、その中でも今まで自分が読んだ中で面白かったものを紹介させていただきます。
まず、三冊に共通しているのが、犯人がただ「怖い」や「異常っぽい」ってところだけじゃなくて、どこかピエロ(道化)めいた部分、やってることは残忍なんですが、どこか抜けているところがあるとかキュートだとか普通の人より人間臭いところがあるだとか、ただの冷血で獰猛な人間ではない部分をそれぞれ持っているところです。現実にこんなやつらがいたら、吐き気がするほど頭に来そうな憎たらしい人間ばかりだと思いますが、対岸の火事をみるがごとし、虚構である小説の中ならば、なぜか同時にこんなやつらに興味を持ってしまうのも事実で、読み進むごとの極上のエンターテイメントに、いやらしい心の隙間が埋まってゆきます。
殺人鬼よ、無茶苦茶すぎて最高だぜお前ら!だけど、最後にはしっかり天罰を受けてくたばってくれよな!って、冷静になって考えてみると読み手の自分もなかなかに最低ではありますが(笑)、そんな感情を揺り動かしてくれる小説家の人たちにまた敬意が湧いてきます。月並みですが、誰の心にも殺人鬼は潜んでいるのかもしれません。どこか間抜けなシリアルキラー、なかなかに愛おしいですよ。自分と関係のない世界で生きてくれているのならば。
もし親切にした相手が、自分と全く違った価値観を持った相手だったとしたら
残忍な殺人の容疑をかけられた人物を、司法の基準に乗っ取り冷静な判断で無罪にした裁判官。世論や検察の圧力にも負けずに自分の意志を貫いたこの男は自分の決断を誇りに思いながら退官。その後悠々自適な暮らしをしていました。隣の家に無罪になった人物が越してくるまでは。という話です。実際こんな状態になったらどうでしょう。自分で無罪の判決を下した人物なので邪険にもできないでしょうし、むしろ相手は自分に感謝さえしています。実際、とても友好的で紳士然としたその男は、自分の家族にも親切に接して、どんどん信頼を得ていきます。なのに、ちょっとずつ何かが変な方向へ向かう。
裁判とかの場合は単純に善い悪いでの判断だけではないでしょうが、善かれと思って行なったこと、それが巡り巡って悪いものへと自分の方に還ってくること。こんな経験は誰しもが感じたことがあると思いますが、もし親切にした相手が、自分と全く違った価値観を持った相手だったとしたら、ああ、こんな風になってしまうことも「あるんだなぁ」なんて、作者の想像力になぜか感謝した作品でした。最後は、犯人、完全いってます。すごく面白かった本。
あなたは騙されずに最後まで読むことができるか 怪奇ミステリーの傑作
ハサミ男と聞くと、自分はゲームのクロックタワーが真っ先に頭に浮かんでくるんですが、この小説はホラーだけじゃなくて凄くトリッキーです。タイトルからしてやられました。ここからもう作者の術中にはまっていた。ぜひ最後まで読んでその意味を確認していただきたいのですが、タイトルにもまして面白いのが、なんと殺人鬼がこの小説では主人公になっています。ハサミ男。
この人物はもう二人女子高生を殺しているんですが、ある日目をつけた三人目を尾行しているうちに、なんとその子が死んでいるのを発見してしまいます。しかも自分のトレードマークのハサミが彼女の喉元に刺さった状態で。模倣犯です。でもそれを、もちろん誰にも言う事は出来ませんから、ハサミ男が自分の模倣犯を探すという変な状況で進行していきます。途中、「何もない。わたしの内側は、からっぽだ。そして、わたしの外側も、からっぽだった。ふたつの異なるからっぽがある。その境目がわたしだった」という台詞が主人公から出てくるのですが、このひとの存在のことがよく解ったような気がした印象的な行でした。詩的ですね。話全体もすごくしっかりしていて、ミステリー小説としてとても満足した本でもあります。