高円寺警察署生活安全課少年係・柴田竹虎、22歳。しかし、その見た目は、どう見ても中学生!そんな彼が、犯罪に走ってしまった青少年に向かい合っていくさまが描かれるのが、本作『シバトラ』です。 テレビドラマ化もされた異色の刑事漫画。根強いファンが多い本作の、その魅力をご紹介しましょう。スマホアプリからは無料で読むことができるので、是非ご利用ください。
本作は「週刊少年マガジン」で連載された、異色の刑事漫画です。安童夕馬が原作、朝基まさしが作画を担当しました。
- 著者
- 朝基 まさし
- 出版日
- 2007-05-17
この2人のタッグの作品には他に『サイコメトラーEIJI』『クニミツの政』の2作があり、どちらもドラマ化されています。社会派寄りのテーマを扱っているので、ドラマとは相性がいいのでしょう。
そんな安童・朝基がタッグを組んだ3作目が、少年事件をテーマにした本作『シバトラ』なのです。
22歳とは思えない童顔で不良たちにカツアゲされることさえある小柄の警官・柴田竹虎。
彼はずっと夢見てきた少年課の刑事となり、少年たち1人1人にまっすぐ向き合って彼らの「心」を救います。
- 著者
- 朝基 まさし
- 出版日
- 2007-07-17
彼の信条は、どんな子供たちにも誠心誠意接すれば気持ちは通じるということ。そして、必ず正しい方向に導けるということ。
仲間たちにも助けられながら、彼は次々と事件にかかわった少年たちを闇から救います!
月並みですが、まずこの漫画の魅力にとして、物語の面白さが挙げられます。主に少年少女が絡む事件を扱う本作は、意外な展開の連続で、読者を決して飽きさせません。
原作者の安童夕馬は『金田一少年の事件簿』や『探偵学園Q』などの原作者でもあり、ミステリー物の構成がとても巧み。ミスリードや細かな伏線をうまく使い、最後には意外な真実を暴き出します。
こう書くとミステリーが苦手な人は敬遠してしまうかもしれませんが、そんな心配もいりません。なぜなら本作で物語の中心になるのは、トリックや犯罪の動機ではなく、少年たちの心だからです。
彼らがどうして事件を起こしてしまったのか、あるいは巻き込まれてしまったのか。そのきっかけはさまざまです。
そして大抵がほんのちょっとの気の迷いや環境の影響といった、誰にでも起こりうるものなのでした。
- 著者
- 朝基 まさし
- 出版日
- 2007-09-14
中学生ともなれば、大人顔負けの能力を持つこともあります。それを悪い方ではなくよい方へと導くことが大事だというのが、おそらく本作のテーマでしょう。もし犯罪に手を染めてしまってもそこから救い上げる方法はあり、それは周りの人間との関わり合いで得られるものだと作品では語られています。
そこで生きてくるのが、童顔でお人好しの主人公・柴田竹虎のキャラクターです。彼は上から説教したり強制したりするのではなく、同じ目線でまっすぐ少年たちに向き合い、本当の気持ちを引き出すことで彼らが人生をやり直す手助けをします。
そして、そんな彼に引き寄せられた仲間たちが集まることで、お互いによい影響を与え合っていくのです。
実際に彼のやり方を実践するのは、難しいでしょう。しかし人との出会いで変われるというのは、普通にあることです。少年漫画なので意外性やスピード感を重視されている作品ではありますが、テーマはむしろ大人の方が共感できるのではないでしょうか。
高円寺署内で、少年強盗団事件が頻発。彼らにメールで指揮を出すというリーダー「鬼神」が高円寺第八中学校にいるという情報から、竹虎に白羽の矢が当たります。
彼に与えられた任務は、中学校への潜入捜査!
中学生に間違われてカツアゲされることもあるその容姿を生かして、生徒として潜入することで油断させて情報を集めようという作戦でした。
潜入捜査を続けるうち、「鬼神」事件の凶悪さだけでなく、生徒1人1人の心の闇も知っていく竹虎。第八中学でもっとも荒れている3年B組の生徒たちが、大人を信じられず友達も信じられない理由とは?
- 著者
- 朝基 まさし
- 出版日
- 2007-11-16
1人1人はそこまで異常ともいえない中学生が、匿名で集まればどんな凶悪なこともやってしまうというのが、とてもリアル。
安童のミスリードも巧みで、誰もが「鬼神」のように感じられます。そのなかで一体だれが本物なのか、そしてなぜそうなるに至ったのか。
事件解決がゴールではなく、少年たちの心を救うってこそ、という『シバトラ』のよさがもっともよく出た章。際3巻から4巻に収録されています。
竹虎の親友である、小次郎の古着屋の巨漢店員・白豚(はくと)。最近いそいそと出かける彼の行き先は……なんと、メイド喫茶!
その店のメイドの1人・メアリーにご執心の彼ですが、実は彼女には彼がまだ気づいていない秘密があり……。
しかも、そのメイド喫茶は裏で悪事に手を染めていて、そのせいでメアリーは殺人事件に巻き込まれてしまうのです。
- 著者
- 朝基 まさし
- 出版日
- 2008-02-15
最初から意外な展開の連続で、スピード感もあるので一気に引き込まれます。今回の事件の主役となるメアリーは母親想いの優しい少女で、幼さゆえの世間知らずさにつけ込まれ、事件の渦中に巻き込まれてしまいます。
抱かなくていい罪悪感にさいなまれる彼女が、読んでいてかわいそうでかわいそうで……。
彼女の姉の、妹想いな行動も泣かせます。ぜひ大人にこそ読んでほしい章です。単行本第4巻から6巻に収録されています。
ストーリーだけでなく作画担当の朝基まさしの絵も、本作の大きな魅力の1つです。
一見してわかると思いますが絵はかなり上手く、この絵が少年事件をリアルに描き出していることは間違いありません。しかし、朝基の持ち味を語るのに忘れてはいけないのが、彼の描き出すキャラクターの独特の魅力です。
彼がこれまで描いてきた作品の主人公たちは、少なくとも優等生ではありませんでした。腕っぷしには自信があるけれど勉強はできず、街でダベるような少年たちが多く描かれています。
しかし、彼らは闇雲に暴れて迷惑をかけるわけではなく、むしろ卑怯な奴らや犯罪を許せず、弱い立場の人間を守る側に立ちます。自分の強さを誇示せず、使う時に使うというカッコよさ。それをまったく嘘くささなく自然に描くのが、彼は非常にうまいです。
そんな彼だからこそ、若くして犯罪に手を染めつつも更生に転じる少年たちをリアルに描けたといっていいでしょう。竹虎は彼がこれまで描いてきた主人公とは異なったタイプですが、小柄で迫力に欠ける見た目でありながら、内に秘めた強さがあります。そういったキャラ付けは、やはり彼の手腕あってのもの。
そして、もちろん竹虎を取り巻く仲間たちもみんな魅力的です!
- 著者
- 朝基 まさし
- 出版日
- 2008-05-16
柴田竹虎(しばた たけとら)
22歳とは思えない童顔で、かつ小柄。高円寺署の交番勤務の警察官でしたが、念願の少年係に配属されます。少年たちとまっすぐ向き合い、親友にも呆れられるほどのお人好しですが、物事の真実や人間の本心には敏い面も。優しいだけでなく剣道の有段者でもあります。
藤木小次郎(ふじき こじろう)
ストリートギャング"ヘルター・スケルター"の元リーダーで、現在は足を洗って古着屋の店長。丸くなってはいますが、生意気な子供にはついキレがち。竹虎とは長い付き合いの親友で、考え方や性格の違いから的確なアドバイスをすることも多いです。
宝生美月(ほうしょう みづき)
家庭の事情で学校に通いづらくなり、街を徘徊するようになった少女。命を救われたことから竹虎になつき、押しかけ女房状態で一緒に住んでいます。年の割に世慣れしていて、鋭い意見を出すことも。たまに口が悪くなるのもチャームポイント。
楠木裕二(くすのき ゆうじ)
有名進学校の元首席で非常に頭の切れるエリート一家の息子。万引きで補導されたのをきっかけに高校を退学し、家族との軋轢などもあって街で1人でイタズラ感覚で悪事をはたらくように。人付き合いは下手ですが、友達想いで恩を大事にします。
武良広海(むら ひろみ)
問題児ぞろいの高円寺第八中学校3年B組の生徒で、有無を言わせずクラスメイトを従えるリーダー的存在でした。穏やかに見えてイジメなどの悪には徹底した厳しさを見せ、腕も立ち頭も切れるために底知れぬものを感じさせる少年。
町田リカ(まちだ りか)
高円寺第八中学校3年B組の生徒。転校生としてやってきた竹虎には好意的ですが、歯が溶けていたりキレると狂暴だったりと異常性を垣間見せます。しかし料理上手で成績もそこそこのしっかりした少女。彼女の過去はけなげで泣けます!
- 著者
- 朝基 まさし
- 出版日
- 2008-07-17
単行本の第6巻から7巻に、竹虎の中学時代編が収録されています。これは彼と小次郎の出会いが描かれていて、2人の魅力がいつも以上にあふれています。
なかでも1番の見所は、まだキレッキレの一匹狼だった頃の小次郎でしょう。腕っぷしは強いけれど徒党は組まず、卑怯なことは絶対許せないという朝基得意の不良キャラをご堪能あれ!
実は本作のラストは打ち切りと思われる終わり方で、連載を追っていたファンにとっては残念なものでした。中編オムニバスなので事件は解決しますが、全編通してみると回収されなかった伏線が残っているのです。それまでが見事な構成の物語だっただけに、その結末は非常に惜しいもの。
しかし、主に電子書籍サイトなどの感想を見るに、そこまで最終回の批判はされていないようです。特にドラマから原作に入った人からは、ドラマより面白いと絶賛する意見が多く投稿されています。
やはり物語もキャラクターも、しっかり作られた話だからでしょう。
- 著者
- ["安童 夕馬", "朝基 まさし"]
- 出版日
- 2009-11-17
個人的な感想を言うならば、連載の最終回は残念で仕方なかったですが、読み返すとやはり「面白い!」。物語そのものにスピード感があって、読み始めると止まらなくなります。
そして、毎回同じところで感動してしまうのです。少年事件という時事ネタを扱っていながら、まったく古びないのが素晴らしいところでしょう。
また単行本では加筆がされていて、連載の最終回よりは救いのあるラストになっています。さらに竹虎の過去編も収録されているので、連載しか読んでいない方はぜひ単行本を読んでみることをおすすめします。
少年漫画ですが、むしろ大人にこそ読んでほしい作品『シバトラ』。子供への接し方に考えさせられるし、竹虎のようにとはいかなくても、何らかのヒントは得られるのではないでしょうか。
また、ただ感動したい!ハラハラしたい!という方にもおすすめです。