主人公は40年間も時を止めて生きてきた69歳の元極道。愛する女を失ったことで熱い血は2度と燃え上がることはないと思っていましたが昔の女そっくりな女子高生の出会いと不思議な薬を手に入れたことで、クソったれな人生が変わっていきます。
『69デナシ』は2010年に「週刊漫画ゴラク」で4週にわたり集中掲載された後、正式に連載になった、一風変わったヤクザ漫画です。作者は『鉄人ガンマ』などで有名な山本康人。人間くささを前面に出した作品になっています。
主人公の山形英吉は69歳。40年前には伝説のステゴロ、最強極道と言われた男ですが、舎弟の遠山に裏切られて愛する女を失い、組を追われてからはどん底の人生を送っていました。
すっかり荒んだ生活をしていましたが、ひょんなことから若返りの不思議な薬を手に入れ、現代のヤクザ社会で任侠の血をたぎらせ、大暴れしていきます。
おすすめのヤクザ漫画を紹介した以下の記事もあわせてご覧ください。
本当に面白いヤクザ漫画おすすめランキングベスト7!
ヤクザ漫画というと血なまぐさい暴力シーンがたくさん出てくる漫画をイメージしませんか?しかし暴力だけではなく様々な要素がかけあわされることで、魅力的なヤクザ漫画ができるのです。今回はその中でも特に楽しめるおすすめのヤクザ漫画をご紹介します。
- 著者
- 山本 康人
- 出版日
- 2011-06-18
英吉は自分の人生に悔いがあるまま歳を重ねてしまいました。やり直せるものならば……という気持ちを常に抱えていて、心のなかにはかつて守ることができなかった女・楓の姿がまだあります。
それだけに、薬を手にして若返った時のパワーと勢いは目を見張るものがあり、伝説のステゴロ復活とばかりに外道な相手をぶちのめしていくのです。
英吉が放つ言葉にはカッコイイものがたくさんありますが、2巻から3巻にかけて、抗争相手であるインテリヤクザ・寒川とのエピソードではまさに名言のオンパレードでした。
「ロクデナシでも任侠(おとこ)でいたい」(『69デナシ』2巻より引用)
昔馴染みのおケイがさらわれてしまい、助けに行く時の英吉の心の声です。最後に寒川をブン殴る時も言う名セリフ。いくら歳を重ねても、彼のなかには任侠の血が流れていることがわかります。
「肉体は殺せても俺の魂は殺せねえんだバカヤロォォ!!!!」 (『69デナシ』3巻より引用)
拳銃や刃物を使うことが合理的だと考える寒川に、ステゴロの意地と魂を叩き込むような英吉の叫びです。英吉は一見荒んだひねくれ者のジジィですが、その心は昔と少しも変わらず、それが若返りにより一気に爆発します!
『69デナシ』では、いくつかの愛の形や友情が描かれています。
おケイは大学生の時、楓の店でアルバイトをしていました。普段は憎まれ口を叩きながらも密かに英吉を想い、その後も結婚はせずに、歳を重ねながら今は亡き楓の店を守り続けます。
「山形英吉」を探す寒川たちに何かを隠しているのではと疑われて拉致されますが、どんな拷問にも耐えて、彼に関することは喋りません。英吉が寒川の拳銃に狙われた時は、彼をかばい、銃弾に倒れるのです。
その恋が実ることはないとわかっていても、一途に英吉のことを想い続けるおケイの愛です。
またオカマのジョリーンとイケメンのモデル・カズのエピソードでは、騙されているとわかっていても、たとえ殺されたとしても相手を恨まないというジョリーンの純粋過ぎる乙女心が(オカマですが)描かれています。
カズはヤクザに借金があり、その返済のためにジョリーンを睡眠薬で眠らせて内臓を売ろうとしていましたが、大元のヤクザはジョリーンを生かしておくつもりはありませんでした。
しかし睡眠薬で眠らされたはずのジョリーンに薬が完全に効かず、彼女は意図せずその企みを知ってしまいます。それでも好きになったカズのために、殺される道を選ぶのです。
このエピソードでは、真っすぐすぎるジョリーンはもちろん、彼女のことを家族だと思うルイとトシに突き動かされて英吉が救出に向かうなど、さまざまな形の愛が描かれています。
英吉にとっての人生は、その半分以上が死んでいるのと変わらないようなものでした。偶然手にした若返りの薬は、その人生をやり直すために起きた奇跡なのかもしれません。ひとりの男の人生をそこまで変えてしまうという楓の存在の大きさに驚きます。
また、当初は遠山に復讐することばかりを考えていた英吉ですが、楓が生いている可能性が出てくると、再び会うことばかりが頭に浮かび、離れなくなってしまうのです。
遠山ももともとは、楓を純粋に愛していました。しかし嫉妬心の強さから、英吉や彼女の人生を変え、自らも鬼畜の道へと踏み込んでいったのです。
「結局、人生なんてクソみてえもんだ」
英吉は口癖のようにこう言いますが、この言葉は40年間を無駄にした彼だけでなく、他の極道たちも共感できるひと言なのです。
英吉と遠山の最終決戦は、そんな彼らの人生にケリをつけるためのものでもありました。
どんな人間にだって老いはやってきます。かつては伝説のヤクザと言われていた山形英吉も例外ではありません。しかし69歳になった彼は、ただ歳を重ねただけで、心は40年間も時が止まったような、不毛な生活を続けていました。
かつて、舎弟だった遠山の罠にはまり、組を追われるだけでなく愛する楓まで奪われた英吉は、人生に封印をして死んだように日々を送っていたのです。
ある日英吉は、浮浪者風の男にタバコを恵んだお礼として不思議な薬をもらいました。
「若さがギンギンに蘇る薬」と言われ半信半疑でしたが、あるきっかけで女子高生のルイとともにヤクザの覚せい剤騒動に巻き込まれて窮地に追い込まれたため、なかばヤケクソで飲んでみることにしました。
- 著者
- 山本 康人
- 出版日
- 2011-06-18
すると彼の体は本当に若さを取り戻し、見た目もパワーも20代。伝説のステゴロとして甦り、ヤクザのブタこと島田をぶちのめしました。
「…小僧、おまえ正気かァァ?」
「山形英吉69歳だ覚えとけェ――――!!!」(『 69デナシ』1巻より引用)
しかし薬の効き目は1時間。時間が経てばしゅるしゅると元の老人の姿へと戻ってしまうのでした。
1度ヤクザに目をつけられてしまえば、簡単に逃れることはできません。この後彼は執拗に追いかけ回されるはめになるのですが、熱い魂の込もった喧嘩で難を逃れていきます。
1巻は英吉をはじめ、彼とともに暮らしているオカマのジョリーン、アル中のトシ、女子高生のルイなど主要人物が続々と登場します。
人生を諦めていた英吉が薬を飲んだきっかけは、ルイが楓にそっくりの容姿だったから。やはり彼の心は、愛する女を忘れることができていなかったのです。
ルイが首吊り自殺をしようとしていたサラリーマンの鶴田を助けたことがきっかけで、英吉はまたもヤクザ絡みの事件に巻き込まれてしまいます。
当初は、死にたい奴は勝手に死ねと放っておくつもりでしたが、彼の携帯電話の待ち受け写真に家族の姿を見てしまったため、薬を使って若返り、助けに行くのです。
鶴田は、親友と信じていた佐多錦という男に裏切られて多額の借金をつくり、会社の金に手をつけてしまい、さらにはSM嬢殺害の濡れ衣を着せられていたのでした。
意外な強さをみせた佐田錦でしたが、若返った英吉が負けるはずがありません。しかしこの騒動が真鈍奈組(まどんなぐみ)の寒川に知られてしまい、さらなる事件に発展していきます。
- 著者
- 山本 康人
- 出版日
- 2011-09-28
2巻では英吉のクソジジィっぷりも垣間見えます。自殺をしたがる鶴田をルイやジョリーンは心配するのですが、彼は異様に冷めているのです。
死ぬしかないという鶴田に対し「なら死ね」と言い放ち、あげくの果てには「おまえを助けたらいくら出すんだ?」と切り出したため、ついにはルイに殴られました。
また、ストーリーの合間に英吉が楓のことを回想するシーンが挟まれていて、彼の心には常に楓が存在していることがわかります。最終的に鶴田を助ける時も、楓の影が英吉を任侠(おとこ)として動かしているのでした。
裏社会では、「山形英吉」に関する噂が広まっていました。真鈍奈組の寒川は、おケイが英吉に関する何かを隠しているとみて、卑劣な拷問をくり返します。
そこへ英吉が単身乗り込み次々と敵方を倒していきますが、ステゴロの英吉に対し、寒川は容赦なく拳銃で狙ってくるのです。
おケイは英吉を守るため、自ら銃弾の前に出ます。若いころ楓に可愛いがられ、英吉への気持ちを隠しとおしてきたおケイ。これは密かに彼を想い続けていた彼女の、精一杯の気持ちでした。
寒川との戦いもクライマックスを迎えます。
- 著者
- 山本 康人
- 出版日
- 2011-12-28
任侠は心であり、極道は生き方。誰が相手であっても許せない奴は許せないという心が英吉を叫ばせます。
「俺は総理大臣だってぶん殴るぜ!!!!」(『69デナシ』3巻より引用)
その直後、寒川がいきなり吐血するのです。彼は東大卒のインテリヤクザですが、自分以外の家族が火事で焼死するという悲惨な過去をもっていまいした。さらに病のため余命半年と宣告されており、どうにでもなれと非情な人間になっていたのです。
英吉の魂の叫びとおケイの英吉を想う気持ちが、寒川の冷めきった心を動かしていき、これ以降英吉と寒川は強い絆で結ばれていきます。
宿敵である遠山の親衛隊長を半年前までしていた、山田。この男に接触した英吉はいきなり襲われますが危ないところを山田の娘である希に助けられました。
希は彼氏と小さな弁当屋を経営しているのですが、タチの悪い不良グループに絡まれており、英吉はまた厄介事に巻き込まれる予感がするのです。
家を大事にしない、死んだ母親や自分のことを何とも思っていない、と父親のことを嫌っている希。しかし英吉には2人の心のスレ違いがわかっていました。これは69歳という年の功かもしれませんね。
山田に娘を助けるよう仕向け、不良グループ相手に、本物の極道が男の生きざまを見せつけます。
69デナシ 4
2013年11月29日
4巻で描かれるのは、父と娘の絆のエピソード。ゴリラみたいな見た目をしている山田が、不器用ながら家族のことを想う姿が印象的です。
今回の英吉は、自分ひとりですべてを解決しようとするのではなく、山田を動かして娘の希との仲を取り戻させるという粋な役割を担っています。
山田から、かつて遠山の愛人だったという女のいる場所を教えられた英吉。ミサというその女のあまりの美しさに、彼はメロメロになってしまいます。
史上最高の女と呼ばれていた彼女ですが、遠山の息のかかった高級売春クラブで働かされていました。
彼女には会社経営をしていた旦那がいましたが、遠山の手に掛かり自殺。ミサは復讐のためにあえて愛人に身を落としたものの、絶望のためしだいに抗う気持ちがなくなり、現在は遠山から軟禁状態にされていたのです。
助けにむかった英吉とミサが、遠山配下の支配人に捕まりピンチに陥ると、そこへ超有名大企業の3代目にあたる通称ジュニアが登場。彼もまた、英吉の熱い闘気に当てられて、自分を見つめ直したひとりでした。
69デナシ 5
2013年11月29日
「本物の極道ってのは心臓に刃(ヤッパ)立てられても負けを認めねえんだ!!」(『69デナシ』5巻より引用)
コンピューターで制御された要塞のようなビルから脱出するという、絶対絶命の状況で英吉がミサに言った言葉です。さらに彼は脱出することを諦めかけていた彼女に、無事に生きてここを出られたら笑ってほしいと話し、
「何だかんだ言ってよう……男は女の笑顔が見てえんだ」 (『69デナシ』5巻より引用)
と伝えます。この言葉で、凍りついていたミサの感情が少しずつ溶けていくのです。
5巻では、ミサの美しさと悲しい物語が闘いを盛り上げます。絶妙なおぼっちゃまキャラのジュニアにもご注目。
楓が生きているかもしれない……。
ミサの言葉でその可能性を感じ取った英吉。寒川の協力もあり、遠山が1年に1度訪れるという千葉の病院を見つけだしました。
一方オカマのジョリーンは、イケメンモデル・カズに心を奪われ、ルイが心配するのをよそにどんどん深みにハマっていきます。やはり彼女はヤクザに騙されていて、そこに内臓売買問題まで絡み、ついに行方不明になってしまいました。
楓を助けに行きたい英吉は、今回だけは厄介事を避けたいのですが、アル中のトシが珍しく意思表示をしたこともあり、放っておけなくなってしまいました。
69デナシ 6
2013年11月29日
6巻の見どころはルイとトシの、ジョリーンへの家族愛です。もちろん本当の家族ではありませんが、吹き溜まりのようなところに偶然集まり暮らしている彼らの、心の絆が描かれています。
英吉も、トシに男を見せられれば動かないわけにはいきません。仁義のためならば、自分の本来の目的よりも優先しなければならないこともあるという、任侠の世界がわかるエピソードです。
楓がいるかもしれないという噂のあった千葉の病院ですが、それは遠山の罠でした。しかし寒川の機転により、彼女の担当医をしていた赤江今日子と会うことになります。彼女によると、楓はまるで人形のような状態だった、とのことでした。
また今日子との出会いは、寒川にとって運命的なものとなり、2人は結ばれることになります。彼女には5歳の息子がいましたが、彼が無邪気に遊んでいる姿を見て、寒川は幸せを感じるのでした。
一方、是舞羅組(ぜぶらぐみ)の風見という人物が動きだし、事態は緊張感を増していきます。風見は遠山の血縁者で、本家のなかでも武闘派の男でした。
風見は中学の時、死の間際にあった母親から、自分の本当の父親が遠山であること、母が1億円の金で遠山の愛人になったことを知らされました。
しかも彼女はその金を1円も使っておらず、息子のために残していたのです。
風見が遠山に金を返しに行くと、遠山は「その金で勝手に育ってから俺を刺しに来い」と伝えていました。
69デナシ 7
2013年11月29日
風見は、英吉が初めてステゴロで負けるかもしれないと思うほどの実力の持ち主。2人の死闘はかなり迫力のあるものになっています。任侠をかけた闘いの決着は、どのように着くのでしょうか。
また、風見はどことなく掴みどころのないようなキャラクターとして描かれますが、終盤に向けて大事な役割を担う人物。今後は英吉とも不思議な絆で結ばれていきます。
真鈍奈組の組長の穴見は笑ってしまうほどの卑劣な男。寒川と風見を罠に掛けることに成功し、妙なワインを飲ませて身体の自由を奪います。
あとは2人を殺すだけ……というところで、英吉が助けに入りました。
しかしここで、なぜか組員たちが次々と殺されていきます。なんと英吉を狙っていた遠山の差し金で、攻撃部隊が攻めてきたのです。
弾丸が飛び交うなか、丸腰の英吉。最後まで自分の拳で勝負に出ようとするその姿を見て、寒川と風見も覚悟を決めます。
まさに地獄絵図のような状況で、ついに英吉と遠山の40年ごしの戦いに、決着をつける時が迫ってきました。
69デナシ 8
2013年11月29日
本巻で描かれるのは最終決戦直前まで。とにかく注目してほしいのは、穴見組長の外道っぷりです。
寒川と風見に飲ませたワインは、睡眠薬、シャブ、糖尿病の薬、さらに虐げられた人間の怨念とやらがチャンポンされた代物。自由を奪われた2人にやりたい放題します。
しかしどこか憎みきれないところもあり、本作中でナンバーワンの「小悪党」というところでしょうか。
ステゴロとステゴロの最終決戦がついに始まりました。
女の嫉妬は怖いと言いますが、男の嫉妬はタチが悪い。遠山は英吉への嫉妬心から、人を殺し、愛したはずの女を自殺まで追い込むなど、非道の限りを尽くしてきました。
そしてここでは、死んだと思われていた楓を連れてきて、英吉を追い込みます。
そのタイミングで薬の効果が切れてしまい英吉はジジィに戻るのですが、驚く遠山をよそに、彼は楓だけを見つめて涙するのです。
そして英吉に、最後の奇跡が起こりました……。
69デナシ 9
2013年11月29日
最終巻は、自分の人生で大切なものは何なのか、それに気が付いた時に人は幸せになれるということを提示して物語の幕を閉じます。
すべてを失い40年間を死んだように過ごしていた英吉ですが、それでも生きていたのは、楓との思い出が何とか彼を支えていたからでした。
さて、ひとつ気になるのは、最終話で英吉が捨てた、残り3錠となった薬です。ブタこと島田がそれを鬼気迫る眼差しで見つめていて、それが何を意味するのかはわかりませんが少しだけ謎を残した結末になっています。
69歳でもカッコいい男はカッコいい。薬を持っている謎の男が最終話で「本当の幸せは年食わなきゃ味わえねぇ」と呟きますが、これも深い言葉でした。ヤクザ系漫画が苦手な人でも楽しめる作品なので、ぜひご覧ください!