長野で農家の嫁をやりつつ、息子を育てつつ、俳優をしている山本裕子(やまゆう)のなまぬるい子育て連載。毎週水曜更新です。第3回に寄せられたお悩み相談は「娘が、サンタさんが本当にいるのかどうか、疑いを持ち始めていて……」というもの。山本裕子はどう答える!?
子育て中の皆様ならびにそうでない皆様、アンドおとっつあんおっかさん、おつかれさまです、やまゆうです。
ではさっそく今週のお悩みを。
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小学2年生の娘が、サンタさんが本当にいるのかどうか、疑いを持ち始めています。できればもう少しの間、信じさせてあげたいのですが・・・。 (P.N. かつらむき)
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なんて時宜をとらえたご相談。あなたは ネ申 か。ありがとうございます。
こんな話があります。
都内に暮らす小学生Rくんは、5年生まで完全にサンタさんを信じていました。
毎年サンタさんにほしいものを手紙に書き、それをお母さんが
「じゃあこれサンタさんに送っておくね」
と預かります。
すると、クリスマスの朝、枕元に、手紙に書いたとおりのプレゼントが置かれているのです!
4年生のとき、サンタはいないと言った友だちとつかみ合いの喧嘩になり、父母が学校に呼び出されました。それくらい、心から信じていたのです。
そんなある日、家でいっしょに留守番をしていたおばあちゃんと。
「そろそろ今年もサンタさんに手紙書かなきゃな~~」
「え?まだサンタなんて言ってんの?ははは。そんなのいないよ」
「・・・え、ばあちゃん・・・?」
「お母さんが朝置いてんの。おととしの自転車はわたしが買ってあげたんだよ」
ばあちゃん、ぶっこんできたな!
言葉もなく滂沱(ぼうだ)と涙を流し続ける息子を前に、帰宅した母ちゃんは動揺しながらそれでも、なんとかフォローを試みました。
「・・・えー?サンタさんが、いないって?・・・そ、そんなこと考えるのはさァ~、Rのココロがさァ~、よ、汚れてるんじゃないのかなァ~?」
母ちゃん動揺しすぎて、しらばっくれる方向が、間違っている!
これは、わたしの友人に実際に起こった出来事です。ばあちゃんと、父ちゃん母ちゃんの、報・連・相がうまく機能しなかったことから起こった悲劇。
曰く、「サンタは終わらせ方がむずかしい」。
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さて、ご相談のかつらむきさんは、じつのところ、いつまで娘さんに信じさせるか、具体的なビジョンをお持ちでしょうか。
『よくあるサンタの終わりかた』
Ⅰ:サンタさんの存在を完全に信じている。
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Ⅱ:お友だちからいろいろ聞いたりして、疑いを持ち始める。
「あれ、もしかして、サンタさんって・・・?」
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Ⅲ:サンタの社会的ぐるみのからくりを知るが、それでも一応気づいてないふり。親は気づかれてないふり。まあ一応プレゼントはサンタ名義で。
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Ⅳ:サンタとかそういうのもういいから。とにかくコレ買ってよ。
かつらむきさんの娘御はいまⅡのフェーズにいらっしゃるようです。
このまま、なんとなくふんわりと、サンタドリームを終わらせていくのか、それとも、明確な期限を定め、能動的にサンタを卒業させるのか。
あえて厳しいことを言いますが、本当に信じさせたいならば、「できれば」、なんて曖昧な態度じゃどうにもならん。一度抱いてしまった疑いは、完全に消えることはないですからね。腹くくってください。ここからが、かつらむきさんの正念場ですよ。
…なんつって。うちも、じつは、今年から正式参戦です。てへぺろ。
去年もやったんですけどね、当時2才のお子がまだサンタ自体をよくわかっておらず、
「あれ、なんかこんなとこ(枕元)におもちゃあるやんか~」
くらいの感じで終了。無念。
まずは、クリスマスの朝プレゼントとともにお子が発見する、サンタの実在を裏付ける証拠品を準備しましょう。
お子がまだ保育園から幼稚園、小学1年生くらいまでなら
ここらへんで十分楽しめるはず。
そこから、子の成長に合わせて度合いを徐々に上げ
あたりで、なんとかしのぎたいものだ。
しかし、かなり疑いを強く持ち始める小学4年、5年あたりともなると、もしかしたらもっと思い切った手段が必要となるかもしらん。
こうなると、重機の手配が必要だろう。
上手に嘘をつく方法は、たくさんの真実の中に、たったひとつの嘘を紛れ込ませること。凄腕スパイはそう言いました。
しかし、サンタというとてつもなくでかい嘘(あ、嘘て言うてもうた)を成立させるには、脇を固めるちいさな嘘を、いくつもいくつも用意せねばならない。
魔法とか。空飛ぶとか。こびととか。サンタの周辺にはファンタジーが満載。それをこの21世紀に、どう成立させるか。むむむむ。
「え、ぶっちゃけ、いないんでしょ?」
この言葉は、親をひどく動揺させるだろう。しかし、考えてもみてくださいよ。相手は所詮こどもだ(ひどい)、わざとこんな質問をぶつけ、こちらを試そうとしていやがるのだ。
「意義あり!誘導尋問です!」
そっちがその気なら、こっちも波状攻撃を仕掛けるぜ!
母ちゃんの証言:
「ベランダの洗濯ピンチに、赤と白のふわふわした繊維の一部が……」
父ちゃんの証言:
「夜中トイレに起きたとき、遠くでしゃんしゃん鈴の音が……」
じいちゃんの証言:
「朝起きてきたら、辺り一面に獣臭が……」
警察を名乗る者からの電話:
「昨夜お宅の2階のベランダで、中の様子を伺う赤い人かげを見たと、近所の方から通報が……」
これはもうあれだ。劇場型詐欺だ。お子よ、これでもまだお疑いですか?!
最終手段、ついに出すか…?
・夜中、物音でふと目を覚ますと、薄闇の中、細く開いたカーテンの向こうに、白いひげに顔じゅうを覆われた巨大な男がぼおおっと立っている。
イブの夜に絶叫。楽しいはずのクリスマスをお子のトラウマにしてどうする。
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そもそも、サンタを信じさせるかどうかは、それぞれのご家庭の方針次第なわけで。
「子をだますなんてかわいそう、親のエゴだ」
そういう向きも当然あるでしょう。否定する気はまったくありません。
しかし、わたしはあえてこう言いたい。エゴ上等、と。
思い出作り、と言ってもいい。
プロレス、と言ってもいい。
わたしはこれから10年にわたる、壮大なドッキリを仕掛けたいのです。
いつかやってくる、10年目のクリスマス。時計の針が真夜中の12時を少し過ぎたころ。
お子ももう小学6年生、今年こそはサンタの正体を見極めようと、もしかしたらそのくらいの時間まで、頑張って起きていられるようになっているかもしれない。
そこへ、突如鳴り響く例の音。
ちゃっちゃ、ら~~~~ん!
お決まりのジングルとともに、『ドッキリ大成功!』と書かれた看板と、プレゼントを手に持った父母が、満面の笑みでお子の部屋に乱入してくるのだった。
さあ今日からは、お前も立派なサンタ側の人間。
シャンメリーであらためて乾杯!
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「まさか、そこまでやるとは」
「親、どうかしている」
やがて本当の大人になったお子が、クリスマスを思い出すたび、懐かしくそう感じてくれたなら、すべての労力は報われる。屋根の修理代くらい安いものだ。
それくらいの気合いと気迫をもって、サンタというプロレスに臨みたい。
前述の友人(Rの母ちゃん)は、遠くを見つめながらこう語ります。
「いろいろやってみたけど、あっという間だったな~。ほんと楽しかった。」
「やまゆうのとこは、これからが本番だよね? いいなァ~~。」
一抹の寂しさを滲ませつつ、しかしすべてをやりきった清々しい笑顔で、リングを去っていく母。
涙だ。涙で前が見えないよ・・・。本当に、いい試合でした。あんたのサンタ魂、しかとここ(ハート)に刻んだぜ!
世界各地で繰り広げられる、親と子の一大サンタ興行。
今年もいよいよ勝負の日が近づいてきました。なまぬるく、なんてとんでもない、準備万端、ガチで挑みましょう。
かつらむきさん、ファイト!あなたはひとりじゃない!
みなさまのご健闘をお祈りしております。
よいクリスマスを。
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次回:12月27日水曜更新予定
やまゆうのなまぬる子育て
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