『大奥』や『きのう何食べた?』で人気の漫画家、よしながふみ本人登場!?どこまで脚色しているのかわからない、超私的グルメエッセイです。ハズレなし、死角なしです。
『愛がなくても喰ってゆけます。』は2005年に発表されたよしながふみのグルメ漫画。主人公はYながFみ、31歳独身の女性漫画家で、自身をモチーフにしていることがわかります。
大学の後輩でありアシスタントをしているS原と同居をしていますが、ロマンスに発展する気配はありません。友人のF山やM脇、A藤らも含めて、阿佐ヶ谷や高円寺界隈を中心とした店を訪れては、美味しい料理に舌鼓を打っています。
本作に登場する15の店は、移転や代替わりをしているケースもありますが、すべて実在しているもの。高級フレンチ、鮨、中華、ショコラティエに割烹、もつ鍋、イタリアンなどバラエティに富んでいます。店員さんなどもモデルがいるように思えますが、細かい設定やエピソードまでノンフィクションなのかは、本作では重要ではありません。
Yながをはじめとする食いしん坊たちが、それぞれのお店でどんなメニューを注文し、いかに味わったのかを追体験できるのが醍醐味なのです。
この記事では、作中で紹介された店を5つ厳選し、そこで食べた料理とエピソードを紹介していきます。読んでしまったら最後、絶対に食べたくなること間違いなしですよ!
- 著者
- よしなが ふみ
- 出版日
- 2005-04-16
BL漫画家のYながFみは、食道楽の31歳独身女性。どんなに忙しくても食事にかける手間は惜しまない筋金入りの食いしん坊です。
仕事中はまったく身なりに気を使わず、すっぴんにボサボサの髪の毛。しかしいざ外食するとなると、下まつげまでばっちりマスカラを塗る気合いの入れようです。
同居している2歳年下の男性アシスタント・S原とはまったく色っぽい展開になりませんが、美味しい料理をともに分かち合える気の置けない関係を築いています。
Yながの食べたい・食べさせたい欲を縦糸に、S原の淡い恋と仕事の行方を縦糸にして織りなす、大人の徒然日記です。
人気BL漫画家のYながFみは、知る人ぞ知る美食家。そのセンスを生かして、フードエッセイの仕事を担当することになり、住み込みでアシスタントをしているS原とさっそく取材に出かけました。しかしついいつもの調子で食べ進めてしまい、写真を撮るのを忘れてしまいます……。
2人は大学のサークルの先輩・後輩。アラサーの男女がひとつ屋根の下で暮らしていても間違いが起こらないのは、それぞれ想い人が別にいるからです。
実は30歳になってもお互いに決まった相手がいなければ結婚しよう!と保険じみた約束をした過去がありますが、いまいち踏み切ることができず、ひとまず35歳まで延期されています。
Yながは、彼と食事に行くときは緑色のコートに薄紫のファーというけばけばしいファッションで出かけるのですが、好きな人とデートをする際はおとなしめのファッションにナチュラルメイクで出かけます。今回のお相手は、食いしん坊仲間のF山さん。Yながは、恰幅がよくむっちりしているF山さんのルックスが大好きなのです。
2人が出掛けたのは、西池袋にある中国茶館・二号館(現池袋店)。中国茶の専門店ですが、本格飲茶のお店としても知られています。正式な茶器でゆっくりお茶の香りを楽しむもよし、80種類を超える飲茶の2時間食べ放題を満喫するもよし。
点心は季節によって素材が変わりますが、作中でおすすめとして紹介されたのは、ほうれん草の緑色が美しい海鮮ひすいギョウザ、ほんのり甘いカボチャ入り蒸しギョウザ、カニしゅうまい、ぷりっぷりのニラとエビの焼きまんじゅう、手羽先のしょうゆ煮にしいたけと肉団子のスープ。さらに海鮮春巻きや、エビギョウザ、フカヒレギョウザに中華おこわ!
そして締めは烏龍茶ゼリーとカスタード入りの桃まんです。甘くないお茶のゼリーに濃厚なミルクの組み合わせは高評価だそう。
F山さんと美味しく飲み食いしたYなが、デートの首尾はどうだったのでしょうか。酔って帰った彼女を観察するS原は、意外な発見をしますが……?
中国茶館 池袋店
東京都豊島区西池袋1-22-8 三笠ビル2F
今回のYながのバディは、O田女史。スレンダーな美女ですが、なんとあだ名は「アメ車」。見た目ではなくスペックの問題で、燃費が悪く、食べても食べても太らないからだそう。
YながもO田もかなりの大食漢で、「安くて美味い」が売りの焼き鳥屋で通常の2人組の倍以上の量を食べ、大いに店を喜ばせた経験があります。気持ちのよい食べっぷりだったのでしょうね。
ケーキバイキングで山盛り食べている女子は笑われないのに、なぜ肉になるとダメなのか、と憤慨する彼女たちが今回選んだのは、美味しくて「盛り」がいいことで知られる四谷の名店フレンチ、北島亭です。
女性2人なら前菜を2種、メインは肉と魚を1品ずつオーダーしてシェアするのがよいのでは、とおすすめされましたが、ガッツリいきたい2人は肉料理を1品ずつオーダーしました。
食前酒と突き出しを楽しむ彼女たちの前にやってきたのは、まずかなりボリュームのある前菜です。生うにのコンソメゼリー寄せ・カリフラワークリーム添えと、アカザエビのソテー・じゃがいもカリカリ焼きサラダ仕立て……高級素材を惜しげもなくたっぷり使った贅沢な逸品です。
ふるふると柔らかいコンソメのゼリーとうにの相性は間違いなし!またプリッとしたエビの身にフレンチドレッシングがマッチして、ワインが進んでいます。
そしていよいよメインは、子羊と牛ほほ肉です。それぞれ付け合わせの野菜が別皿にたっぷり盛られてくるという気合いの入れよう。量が多いというのは本当のようですね。
さて、YながとO田は食べきれるのでしょうか。そして、デザートも……!?
北島亭
東京都新宿区三栄町 7 JHCビル1F
今回登場するM脇は、S原と同居する前にYながのルームメイトだった女性。S原とは同級生で、みんなサークルつながりです。
M脇は甘いものしか口にしなくても生きていけるほどの甘党で、実際4日連続でケーキバイキングに行ったところ、体がだるくなってしまった経験があるのだとか。解決手段として塩を舐めたと笑う彼女に、YながとS原は「ちゃんとしょっぱいもんをくえよ!」と諭したのでした。
3人が目指しているのは、銀座5丁目にあるピエール・マルコリーニ 銀座本店。本作を連載していた当時は、店内に設えられたショットバーのようなイートインスペースで、ドリンクやスイーツを楽しむことができました。2015年にリニューアルしてからはカフェが併設され、さらにマルコリーニワールドを満喫できるようになっています。
もちろん、彼女たちが選んだメニューも健在。S原がM脇とオーダーがかぶって睨まれたシンプルホットチョコレートや、マルコリーニチョコレートパフェはぜひとも試したい一品。
女心がわからず、甘党でもないのにM脇と出かけたいがためにいそいそとついてきたS原の心境を、察してあげてください。
ピエール・マルコリーニ
東京都中央区銀座 5-5-8
YながとS原は妙齢の独身男女なので、合コンを企画することもあります。それぞれの友人を誘い、会場に選んだのはYなが行きつけの洋食店、ボラーチョです。
渋谷の喧騒から少し離れた隠れ家のようなお店で、魚介のダシの利いたブイヤベース、あさりたっぷり具たくさんボラーチョスープ、さらりとしたホワイトソースが美味しいシーフードグラタンにタルタルソースたっぷりのカニクリームコロッケと、シーフード料理が主力。しかしタンシチューやハンバーグなど肉料理にも定評があります。
料理のうまさと居心地の良さに、うっかり合コンという趣旨を忘れそうになった参加者のひとりI田氏には、実は結婚を射程距離に入れた彼女がいます。ただの気の迷いで合コンに参加しただけなのですが、そんな彼の実情を知らず、Yながはロックオン。
正面に陣取り、積極的に話題を振りますが、I田氏は引き気味です……。まるでマテウスロゼの微発泡が、空気をかき乱しているかのよう。さて、この駆け引きの結末はいかに!?
ボラーチョ
東京都目黒区大橋 2-6-18
就職の内定をもらったことがきっかけで、Yながとの同居を解消したS原。しかし就業前に先方ともめて、内定取り消しになってしまいました。
これは、Yながが受けた仕事先の対応があまりにひどく、見かねたS原がクレームを入れたのがきっかけ。おかげでYながはきちんと先方と仕事をすることができましたが、S原の内定が無くなってしまったのです。
彼はそのまま通いのアシスタントとして仕事を手伝っていますが、出来はいまひとつ……。Yながとしては、他の現場でもう少し修行を積んできてくれないかと思っており、自分から言っても効果がないためM脇に白羽の矢を立てました。
そんなミッションを背負ってS原とデートに出かけたM脇ですが、思いがけずYながをダシにして会話が盛り上がります。S原おすすめの、焼き鳥がメインの居酒屋に場所を移すことになりました。
あまりお酒が得意でないM脇は紅茶サワー、S原は焼酎で乾杯。突き出しのお味も気に入った様子で、S原はYながのように次から次へと料理をオーダー。食わず嫌いのM脇を開眼させます。
締めに出てくる鴨ねぎ飯は、もう、間違いなく美味しそう!あの音、実際に聞いてみたくなりますよ。
さて、当初の目的が何だったのか、M脇はい出せるのでしょうか?
炭火台所 鶏丸
東京都杉並区阿佐谷南 1-9-6 第七志村ビル1F
『愛がなくても喰ってゆけます。』の精神は、現在「週刊モーニング」で連載中の『きのう何食べた?』に引き継がれています。まずは原点として、本書を片手にレストラン探索をしてみてはいかがでしょうか。