絶妙にシリアスな展開とコメディを絡めた独特の作風が特長の、金田一蓮十郎によるラブコメディ『ニコイチ』。とある秘密を抱えた主人公を中心に巻き起こるさまざまな人間模様が描かれています。この記事ではそんな本作の魅力を、全10巻のネタバレを交えつつご紹介していきます。スマホの漫画アプリで無料で読めるので、ぜひチェックしてみてください!
本作の主人公、須田真琴。近所でも評判の超美人で、スラッとして背も高く、仕事は忙しいけれど息子をかわいがり、家事もしっかりとこなす完璧な母親です。
しかしひとつだけ、大きな秘密がありました。
実は真琴、「男」だったのです!
……という斬新な設定の本作ですが、彼はトランスジェンダーなわけでも変わった趣味を持っているわけでもなく、「母親」として息子の崇を育てるために女装をしていました。
しかもその崇、10年近く育ててきましたが、なんと血の繋がりはありません。
何をどこから突っ込めばよいのかわかりませんが、なぜか意外とすんなり受け入れられるのです。
我が子のように育ててきた息子と、最近気になる女性に、男である事実をどうやってカミングアウトするか……右往左往しながら悩む様子がコメディタッチに描かれます。
この記事ではそんな本作の各巻の見どころをご紹介していきます。ネタバレを含むのでご注意ください。
- 著者
- 金田一 蓮十郎
- 出版日
- 2005-12-24
主人公は、須田真琴という超美人のシングルマザー……と思いきやただの平凡なサラリーマン。大学時代の恋人の忘れ形見として、血縁関係の無い崇を引き取り、女装して育てています。
30歳になるまでには息子に真実を伝えたいと思いつつ、なかなかカミングアウトできないまま8年以上が経ってしまい、現在29歳です。
仕事と家事と育児に追われ恋人をつくる暇もなかった真琴ですが、ある日の出勤途中に、以前から気になっていた同僚の藤本菜摘が痴漢にあっているところに遭遇。助けてあげたことで距離を縮めます。
しかしこの時の真琴は、まだ朝のメイクを落としていなかったため女性の姿。菜摘にとっての彼は、女性であり、友人になってしまいました。
いつの日か恋人関係になれる日は来るのでしょうか……?大人のラブコメの行方を満喫してください。
大学時代、真琴は成美という女性と付き合っていました。しかしある日、交通事故にあって彼女が亡くなってしまいます。すると実は彼女に子どもがいたことが発覚。身寄りがなかったため、真琴がまだ2歳の崇と、彼女の遺品であるメイク道具を引き取ることになったのです。
崇を育てる決意をしたものの、これまで女手ひとつで育てられてきた彼にとって、見ず知らずの男性は恐怖の対象。そのため真琴は、成美のメイク道具を使って女装をし、崇を育てることにしました。
あっという間に8年が過ぎ、崇は小学5年生に。若くてキレイな真琴を、自慢の母親だと思っているのです……。
そんな真琴は、同僚の菜摘が痴漢にあっていたところを助けたことをきっかけに、彼女と交流をもつようになりました。ただし女性の姿で出会ってしまったため、彼女は同じ会社に勤めている人物だとは気づいていません。
女同士の友情を築いていくのですが、1巻のラストで衝撃の展開が起こるので、最後まで見逃さないでくださいね。
- 著者
- 金田一 蓮十郎
- 出版日
- 2006-11-25
1巻のラストで(女の)真琴に対して愛の告白をしてきた菜摘。衝撃の展開でしたが、ひとまず「友達以上恋人未満」というところで関係を落ち着かせました。
一方、男の姿の時の真琴は菜摘からまったく相手にされず、前途多難な様子です。
2巻の見どころは、菜摘に誘われた女の真琴が、崇もつれて温泉旅行に出かけた時のこと。真琴は「生理だから」と言って一緒に温泉に入ることを断り、翌日ひとりで朝風呂に向かいました。
ゆっくりとお湯につかっていると、なんとそこに菜摘が……。朝と夜で男女の浴場が入れ替わることを知らずに、女風呂だと思って入ってきてしまったようです。
彼女の裸を衆人の目にさらすことなく助け出した真琴は、本当にグッジョブ。しかし、「あの場にあなたがいてくれてよかった」「お礼をさせてください」と言われたものの、同じ職場なのにまったく顔を覚えられていない男の真琴が不憫です。
- 著者
- 金田一 蓮十郎
- 出版日
- 2007-06-25
事態が大きく動きだす3巻。ついに真琴が菜摘にカミングアウトをします!
しかし、「実は男だった」ということは告白できたものの、会社で顔を合わせている須田真琴と同一人物だということは打ち明けられないままでした。
ただ菜摘は「男でもいい」と言ってくれる優しい心の持ち主で、ここからは彼女と「真琴」という名前の男としてお付き合いを続けます。
そんな3巻で印象的なのは、真琴の弟が「結婚するから両親を説得して」と彼女をつれて訪ねてくるシーンでしょう。
まだ大学生同士な彼らは、大学を中退して働きながら子どもを育てるという壮大な夢を語ります。子育ての大変さを身をもって感じている真琴でしたが、うまく説得することができず、菜摘に相談することにしました。
会社で経理課に努める彼女は、お金を数えるのが大好き。主に経済面から2人を説得しようと試みます。決め手になったのは、お給料から教育費を捻出する大変さ。両親は苦労しながら自分を大学まで行かせて勉強する環境を作ってくれた、という彼女の話を聞き、弟カップルは大学を中退することを考え直したのでした。
普段はほんわかしている菜摘の、しっかりした一面が見られるエピソードです。
そして3巻のラストでは、真琴がついに「男の姿」で菜摘と会うことに……!
- 著者
- 金田一 蓮十郎
- 出版日
- 2008-02-25
ついに男として菜摘と出会うことになった真琴は、「隠していたことを怒られる」と気が気ではありません。
しかし菜摘は、同一人物だと知らないまま、本人に向かって「須田さんキモい」などと悪口を言ってしまったことを詫びてきました。
ということで、晴れて正式に男女のカップルといてお付き合いを始めた真琴と菜摘。しかし、まだ息子の崇には打ち明けられず、また菜摘の、女装の真琴と男性の真琴との接し方には微妙に温度差もあり、少しぎくしゃくとした関係が続いていきます。
さて4巻では新しく、菜摘の弟・智が登場します。ただ親同士が再婚なため血の繋がりがなく、真琴は、どうやら智は姉としてではなく女性として菜摘のことが好きなのではないかと疑念を抱きました。
とはいえ真実を確かめるすべもないまま悶々と過ごしていると、4巻のラストで最大のピンチに陥ります。見逃さないでくださいね。
- 著者
- 金田一 蓮十郎
- 出版日
- 2008-10-25
真琴と菜摘のお付き合いは順風満帆な様子。しかし前巻のラストから始まった菜摘の家族との交流は、「子持ち再婚」「血の繋がり」「近親相姦」といったヘビーなネタを盛り込んで進行していきます。
さらに5巻では、崇の彼女である愛耶が、女装している真琴と菜摘の関係を邪推し、同性愛者だと勘違いしてしまうのです。
「崇くんのママは同性愛者」と崇本人に伝えてしまったものだから、もう大変。
確かに付き合ってはいますが、真琴は同性愛者ではありません。真実をカミングアウトした時、2人の関係はどうなってしまうのでしょうか。
- 著者
- 金田一 蓮十郎
- 出版日
- 2009-07-25
同性愛疑惑を利用して、そのまま同性同士で付き合っているという設定にしてしまった真琴と菜摘。今後カミングアウトをすることを考えると、やっかいごとが増えてしまったような気もしますが……。
そんな6巻は、真琴の同窓会からの浮気疑惑にはじまり、崇の本当の母親である成美のお墓参りや菜摘の妊娠騒動など、盛りだくさん。
なかでも菜摘の妊娠騒動については、性に対する男女の認識の差が彼女の発言として描かれており、興味深いです。
このころになると菜摘は、ピルを飲んでいたり性病検査に産婦人科を訪れたりと、当初のホンワカした女の子ではなく、しっかりと自立した強い女性として描かれます。反対に、男の真琴の不甲斐なさには読者もイライラしてしまうかもしれません。
さてこの妊娠騒動が、今後のカミングアウトへどのように繋がっていくのでしょうか。目が離せません。
- 著者
- 金田一 蓮十郎
- 出版日
- 2010-04-24
7巻は、崇の彼女である愛耶のツンデレが際立つかわいい一冊です。
ワガママ放題で育てられている愛耶と、男の姿でデートすることになった真琴。最初のうちは彼女の傍若無人っぷりに振り回されてしまいますが、なぜ彼女がこのように振る舞っているのかが徐々に明らかになっていきます。
父親から叱られたいがためにワガママをくり返していた愛耶。「パパは優しさを勘違いしている」と発言するなど、かなり大人びた思考をもった小学生です。
さらに印象的なのが次の言葉。
「パパの『優しい』がパパ自身に対する『優しい』だということ」(『ニコイチ』7巻より引用)
子どもに嫌われたくないという自分自身の保身のために、子どもに甘んじるのは双方にとってよくないことだということに気づかせてくれます。
また本巻では、真琴が高校生時代につるんでいた同級生3人組が登場。彼らに息子へのカミングアウトに対する意見を求めるのですが、みなキャラが立っていて個性的なので、要チェックです。
- 著者
- 金田一 蓮十郎
- 出版日
- 2010-11-25
8巻で、ついに崇に真実を告げる日がやってきます。しかしこれはさまざまな人を巻き込んで、崇の家出騒動にまで発展してしまいました……。
菜摘と結婚することも視野に入れて、息子に本当のことを告白すると決めた真琴。傷つけることになると分かっていても、カミングアウトせずには先へと進むことはできず、さんざんに悩んだ挙句に打ち明けるのです。
その事実を1度は認めてくれた崇でしたが、ずっと「お母さん」だった真琴を急に「お父さん」と呼ぶことはできませんし、戸惑うのも無理はありません。理解はしても納得はできず、思い悩んだ崇は家出をしてしまいました。
「男の姿のお母さんと一緒にいたらひどいことを言っちゃう」と真琴のことを思う崇は、本当に心が優しい子なんだということがわかりますね。
その後、「お母さんは男だけどお母さん」と納得して良好な関係を築いていく姿に、胸を打たれるはずです。
- 著者
- 金田一 蓮十郎
- 出版日
- 2011-07-25
結婚へ向かって着々と準備を進める真琴と菜摘。これをきっかけに菜摘の母や友人に対しても女装していた事実をカミングアウトしていきます。
ホンワカムードが漂いますが、そうは問屋がおろしません。
以前出席した高校の同窓会で、元カノの多田と再会した真琴。彼女の口車に乗せられてまんまとマンションに上がり込み、そこで迫られてキスをするという前科がありました。
そして別の日、真琴の留守中に多田が自宅を訪ねてきて、菜摘と鉢合わせしてしまうのです。まさに修羅場。
元彼とは相手の浮気が原因で別れていた菜摘。もしかしたら真琴が浮気をしているかもしれないという疑念がぬぐえず、とても結婚を考えられる状況ではない精神状態に追い詰められてしまいました。
一方の真琴は、誤解を解くために直接多田に会おうとするのですが……ラスト1巻を残して急展開を向かてた『ニコイチ』。どのような結末に向かっていくのでしょうか。
- 著者
- 金田一 蓮十郎
- 出版日
- 2012-03-24
思えば最初からヘタレで不憫だった真琴。そんな彼が息子を育てながら自身も成長し、女の真琴と男の真琴の両方を愛してくれる伴侶に出会い、女装を打ち明けても一緒にいてくれる友人や家族がいるというのは、実は彼にとってとてつもなく幸せなことなんじゃないかと思わせてくれる最終巻です。
9巻で不穏な空気を生み出した多田は、夫が出張中で寂しく「純粋な友人」を欲しがっていただけ。真琴と菜摘の関係を崩そうとはしていなかったみたいです。
ホッとしたのもつかの間、今度は崇の実の父親が現れて……。
真琴と菜摘が結婚式をあげるラストまで、全速力で展開していきます。最後までついていきましょう!
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破天荒な設定の『ニコイチ』ですが、物語の根底に流れる「人のやさしさ」や「絆」といった大切なものを教えてくれる漫画です。読み終えた後には、ほっとひと息つく爽やかな気持ちになれるはずですよ。