独特な設定を設けることで有名な漫画家。また、その一風変わった設定のなかに、恋愛、コメディ、シリアスなどさまざまな要素を詰め込みながら、絶妙な配合で物語を作り上げます。今回はそんな多彩さを感じる5作品を、ランキング形式でご紹介!
『ジャングルはいつもハレのちグゥ』。この有名な作品のタイトルを知っている、また聞いたことがある人は多いのではないでしょうか。1996年から7年間に渡って連載され、またアニメ化もされたこの作品です。
しかし、この作品を知っている方は多くても、その作者である金田一蓮十郎が当時まだ17歳であり、少女とも呼べる若さだったことは意外と知られていません。また、「少女」と書いたとおり、蓮十郎というペンネームを持ちながら作者は女性です。
女子高生の時に上記作品でエニックス21世紀マンガ大賞準大賞を受賞して同作品の連載を開始、そのまま漫画家の道を歩んでいます。『ジャングルはいつもハレのちグゥ』がコメディ漫画だったこともあり、最終回を迎えた後もコメディ作家として活動していくのかと思いきや、男性向け、女性向けにこだわらず、幅広い世界観を展開して作品を作り続けています。
シリアスかと思いきやコメディだったり、はたまた一転してラブ要素がつめこまれていたりで、飽きのこない展開。さらに男女ともに好き嫌いが起こりにくい綺麗な絵柄で人気を博しています。
また、「普通に生きていたらありえない。ただ、どこかで起こっていてもおかしくない」と思わせる設定、世界観を作ることが非常にうまく、1話目からぐっと引き込まれる作品ばかりです。多数の作品があるにも関わらず、その独特な世界に出てくるキャラはどれも個性的で特徴が掴みやすく、それゆえに感情移入がしやすいのも彼女の作品の魅力です。
『ジャングルはいつもハレのちグゥ』については<漫画『ジャングルはいつもハレのちグゥ』が無料!キャラを最終回まで振り返る>の記事で紹介しています。気になる方はぜひご覧ください。
4話の異なる話を詰め込んだ短編集。シリアスとコメディを織り交ぜた作風の作品が多いなかで、この一冊は割とシリアスな面が多いといえるでしょう。
トランスジェンダーという単語が広く認知されるようになりましたが、それがどういうものなのかを深く理解している人は少ないのではないでしょうか。この作品は主に女性同士の恋愛をメインに描かれており、トランスジェンダーや同性愛に焦点を当てた作品となっています。
- 著者
- 金田一 蓮十郎
- 出版日
- 2008-02-18
「ずっと側にいたいのなら、ずっと友達でいなくちゃならないのよ」(『マーメイドライン』より引用)
「めぐみとあおい」というお話のなかで、こんな台詞が出てきます。同性愛者であるめぐみの片思いの相手、あおいは異性愛者。めぐみが自分を恋愛対象として見ることはない友人を想って言った一言です。
異性愛者の方は、ガールズラブと聞くと感情移入がし辛いと思うかもしれません。ただ、「好きになってはいけない相手」「好きになっても想いが届かない相手」など、同姓、異性関係なく辛い恋の気持ちに共感する方は多くいることでしょう。
また、自分のことを想ってくれているのにどうしても応えられない、そんな経験がある方も多いと思います。このお話では、そんな「届かない」と「応えられない」葛藤が描かれており、切なくもあたたかい恋物語が楽しめます。
また、性同一性障害かつ同性愛者(体は男だけれど精神は女性、その上で恋愛対象が女性)という複雑な人物を描いた「あゆみとあいか」などを含めたこちらの短編集。男女問わずおすすめできる作品です。
主人公の須田真琴は、大学時代に交際していた成美が交通事故で亡くなったことにより、彼女に子供がいたことを知ります。崇は成美と元彼との子供であり、真琴は彼女が亡くなるまで崇の存在を知りませんでした。父親は不明で、成美には身寄りもなかったため、真琴は崇を自分の子として育てることを決意します。
- 著者
- 金田一 蓮十郎
- 出版日
- 2005-12-24
『ニコイチ』のストーリーで最も重要な点は、真琴がシングルファザーであり、かつシングルマザーである、ということです。
真琴は崇を育て始めた際、父親より母親が必要だろうと思ったことから女装を始め、崇が成長してからもずっと女装を続けます。崇やご近所の方、私生活に関わる人々は真琴を本当の女性と信じきっています。
とはいえ元々女装趣味があるわけでもなく、恋愛対象も女性である真琴は、通勤電車で見かける菜摘のことが気になっています。ある日、菜摘を痴漢から助けたことをきっかけにふたりの距離は縮まり、菜摘も真琴を想うようになります。ただし、問題はその出会いが真琴の女装状態で起こったということでした。
母親でい続けながら同性愛カップルとして菜摘と交際することになった真琴は、崇と菜摘にカミングアウトする時を探りながら二重生活を続けますが……。
親子愛と恋愛、どちらがいいかなんて決められるものではありません。真琴はどちらも大切にしつつ、また、大切であるがゆえに簡単には明かせない秘密と真摯に向き合いながら、どちらの愛も育んでいきます。金田一作品の特徴である、独特なサブキャラとの絡みも必見です。
女装であったり同性愛であったりと、真琴の周りにひしめく問題は数多く、10巻で完結していますが一切飽きやマンネリを感じさせない、スピード感と読みごたえのある作品となっています。
『ニコイチ』については<『ニコイチ』が無料!金田一蓮十郎の異色漫画の魅力を全10巻ネタバレ紹介!>の記事で紹介しています。気になる方はあわせてご覧ください。
「お金持ちと結婚して養ってもらいたい。しかも外見もタイプの人がいい」。誰でも1度は考えたことのある夢ではないでしょうか。実際はそう簡単に実現することもない夢ではありますが、この『ラララ』の主人公、桐島士朗はたった一夜にしてこれを実現させます。
- 著者
- 金田一 蓮十郎
- 出版日
- 2013-10-25
言われたことをただこなし、やる気や情熱を持たずに平々凡々と暮らしていた彼はある日職を失い、さらにそれを理由に恋人にも振られて自暴自棄な日々を送っていました。
ある晩飲みつぶれているところに現れた敏腕美人女医・石村亜衣と記憶がないまま婚姻関係を結んだ彼は、なんと翌日から念願の専業主夫になります。しかし亜衣の世間離れした性格と結婚した理由は、驚愕のものでした。憧れの生活と思いきや、待ち受けるのは予想外の受難の日々で……。
この物語の見所は、なんといっても士朗と亜衣の距離感にあります。最初はお互い恋愛感情などなく仮面夫婦として過ごしていたふたりでしたが、最初は士朗が、続いて亜衣もお互いを好きだと思うようになっていきます。
まだふたりが互いに恋愛感情を抱く前、士朗の妹に結婚式をしないのかと聞かれます。亜衣は微笑みながら彼女とこんな会話をします。
「私たちは勢いで結婚してしまったので(中略)あぁこの人とは一生を共にするんだな、と、お互いがなんの迷いも無く相手の死を自分の人生の一部だと感じたときにします」
「そんなんじゃしわくちゃのじーちゃんとばーちゃんになっちゃうよ」
「ふふ。いくつになっても愛が誓えるんだから問題ないでしょう?」(『ラララ』より引用)
「いい夫とは、いい妻とは、いい夫婦とは」。ふたりの間では、このテーマがよく話し合われます。その都度彼らが出していく答えは見習いたくなるようなものばかりです。相反する性格の者が互いに成長していくさまと、そんなまっすぐな恋模様は見ていてあたたかい気持ちになります。
仕事、生活、恋愛、すべてが一軒の家の中に詰め込まれているふたりの物語。読みながらふたりの結婚式が見られる日を心待ちにするように引き込まれていく作品です。
「ラブコメディ」と銘打っていますが、比率としてはコメディ色が強く、「ハレグゥ」のようにひたすら楽しい気分にさせてくれる作品です。
お金儲けを目的に宇宙からやってきた科学者・ベティは、まこという中学生の女の子を参考にクローンを造ります。まこは見た目は清楚、性格も大人しくおっとりした、いわゆる優等生です。
- 著者
- 金田一 蓮十郎
- 出版日
- 2003-08-22
まこのようなクローンを大量生産し、奴隷やペットとして宇宙で売りさばこうとしていたベティは、まずふたりの試作クローンを生み出しました。
しかし、彼にとって計算外の出来事が起きます。生まれたふたりのクローン・チョコとバニラは、参考にしたまこの性格を一切引き継いでおらず、それぞれ個性的なキャラクターを持っていたのです。
チョコは中学生くらいの男の子です。主に一般的な「常識人」であり、生みの親であるベティにでさえ、その変わった性格や考えにビシバシとツッコミを入れていきます。対してバニラはナイスバディの成人女性です。性に対してとてもおおらかで、隙あらば下ネタを突っ込んできます。
なぜまこを参考にしたのにこんなに相反するふたりが生まれたのか。その理由を突き止めようとしたベティはこっそりとまこを観察することにしますが、隣に住むがゆえにふたりはとうとう知り合ってしまいます。チョコとバニラも生徒と教師としてまこの中学校に入り、ドタバタした日常が始まりました。
まこは心優しい性格のため、ベティ達をすぐに受け入れますが、ベティのことは「ちょっとおかしい人。可哀想」と思って優しくしている節があります。既刊の2巻までではそんなにラブ要素は多くないですが、コメディ要素だけでも十分面白い上に、ふたりの今後が楽しみになります。
天然で奔放な登場人物たちや、チョコのツッコミのテンポには思わず笑いが零れることでしょう。少し『ジャングルはいつもハレのちグゥ』を思い出せるようなラブコメディです。
既刊は2巻(2018年現在)であるものの、読みごたえ抜群のおすすめ作品です。
彼女の代表的な恋愛漫画のひとつです。義理の姉弟である湊と透の恋模様が描かれており、非常に人気の作品となっています。
女子大生の湊はある日、ひょんなことから女子高生の格好をして街を歩きますが、そこで偶然にも透と遭遇します。(ふたりは同い年ですが、誕生日が先なため湊が姉となっています)コスプレをしていることが恥ずかしくてバレたくないと思った湊は、とっさに自分は「みな」という名の別人だと言い張ります。
- 著者
- 金田一 蓮十郎
- 出版日
- 2010-11-25
それを信じた透は、あろうことかみなを口説き始めました。元々女癖の悪い透を心配していた湊は、これをきっかけに透が変わってくれれば、という姉心もあり、みなとして透と付き合い始めます。透はあっさりと女遊びをやめ、みなのためなら何でもする、というくらいの気概を感じさせるようになります。
実生活ではほとんど会話もなく、仲がいいとはいえない姉弟なのに、透は姉とそっくりな「みな」のことを好きになり、湊は「みな」をとおして透に優しく接します。
湊は徐々に透を騙していることに罪悪感を持ち、カミングアウトしようとしたり別れようとしたりしますが、一生懸命にみなを愛する透を見て、徐々に湊の気持ちも動かされます。
湊のついた「嘘」、同じ顔の湊とみなの前で態度が変わる透の隠れた「嘘」、そしてふたりの感情が複雑にからみ合いながら、周りも巻き込んだ恋愛模様が進んでいきます。
何が本当で何が嘘なのか、本当に大切なこととは一体何なのか。そんな葛藤と、ハラハラドキドキする展開は、1度読んだらハマること間違いないです。最後まで目が離せないふたりの物語、ぜひ1度目をとおしてみてはいかがでしょうか。
また、本作は5位の『マーメイドライン』と一部登場人物がリンクしているので、あわせて読むと面白いかもしれません。
金田一蓮十郎作品で2019年にドラマ化された『ゆうべはお楽しみでしたね』。ドラクエⅩを題材にした『ゆうべはお楽しみでしたね』については<漫画『ゆうべはお楽しみでしたね』の見所を全巻ネタバレ紹介!ドラマ化決定>の記事で紹介しています。気になる方はぜひご覧ください。
金田一蓮十郎の作品はどれもオリジナリティに溢れ、他では読むことの出来ない世界観ばかりです。どの作品を読んでも、「こんな話見たことない!」と思うこと間違いなし。決して身近では起こりえなそうな、でもひょっとしたら自分にもこんなことが起きるかもしれない……そんなワクワク感をぜひ楽しんでみてください。