美貌の少女帝と、少年侍従見習いとの淡い恋の行方を描いた本作。この記事では、そんな身分違いのロイヤルラブストーリーの魅力をご紹介します! こちらの作品はアプリから無料で読むこともできるので、ぜひそちらもご利用ください。
本作は、別冊花とゆめに2012年の冬から連載された久世番子の近代宮廷主従ラブストーリーです。
実在した天皇の居城であった明治宮殿をモデルにした宮殿(パレス)を舞台に、近代日本によく似たとある国の、若い女帝と、彼女に使える侍従見習いの少年との心の交流を描いています。
- 著者
- 久世番子
- 出版日
- 2013-06-20
若き帝・彰子(あきこ)は、病で急逝した先の帝の皇女。帝位を継承できる直系の皇子(彰子帝の異母弟)はまだ幼いので、彼が元服し、玉座にふさわしい年齢になるまでの中継ぎとして、帝位につくことになったのでした。
主人公は、彼女に仕える侍従見習い(侍従職出仕)の少年・御園公頼(みその きみより)。子爵家の次男である彼は、兄の放蕩三昧のせいで家計が破綻してしまい、そのせいで姉が無理やり結婚させられそうになっているのをきっかけに、宮中に侍従職出仕として働くことになりました。
そこで、彰子と運命の出会いを果たすのです。
貧乏公家の次男坊・御園公頼は財政難の実家を助けるため、14歳の春に侍従職出仕として宮殿に上がり、今上帝・彰子に仕えることになりました。
清廉でお茶目なところもある彰子帝に憧れ、ずっと供奉しようと真面目に奉仕する彼でしたが、彼女の元婚約者・鹿王院宮威彦が現れ、大人の力で2人を遠ざけようとします。
御園は意志を貫くことができるのでしょうか?そして彼を取り巻く女性たちの想いの行方は……?
公頼は14歳。子爵家の次男ですが、亡父と現当主の兄とで、放蕩三昧の果てに財産を食いつぶしてしまいます。そのため、嫌がる姉・静子を金満家の後妻にすることで資金援助を受けようとしますが、それを防ぐために、彼は侍従職出仕として宮殿へ奉公に出ることになったのです。
侍従職出仕とは、14〜17歳までの公家の少年が、学校に通いながら宮殿で帝の側仕えをするものです。その少年たちだけが、宮殿の奥御座所と表御座所をつなぐ廊下を行き来することが許されています。この渡御廊下の両端は「鶏の杉戸」で仕切られており、帝と出仕以外は戸の反対側へ渡ることはできないのです。帝の愛犬・ロンも入れません。
同僚は1年先輩の久我と、2年先輩の東辻。先輩として宮中でのお勤めのコツを伝受してくれますが、いきなり事件勃発。掃除をしようと訪れた奥御座所の部屋で、帝が絵付けをした皿が粉々に割れていたのです!
犯人探しを始めた女官たちの取調べの過程で、なんと御園の兄が以前1日だけ出仕した際に失言して、女官たちの信用を失っていたことが露見。「あの男の弟ならやりかねない」と犯人にされそうな雰囲気に。
さらに帝の真筆である画帖までびりびりに裂かれているのを御園が見つけてしまい、ますます旗色が悪くなってしまいます。
彼は濡れ衣を晴らそうと、帝の御座所を目指しますが……?
- 著者
- 久世番子
- 出版日
- 2014-03-20
彼をはじめ、出仕の少年たちは、まだ線が細くあどけなさが抜けない印象で、詰襟姿もかわいらしく感じます。雀の子が集っているような感じです。彼らもそこは心得ており、奥御座所の女官たちの前ではことさらよい子のように振舞っているよう。
彼らが仕える彰子帝は、女性としての装いを選ばず軍服に身を包み、結髪せずに長い髪を無造作に背中に垂らしています。飾らない姿がかえって美しく、凛とした立ち姿、颯爽とした身のこなしに、思わず溜息が出そうです。
また、さりげなく描き込まれているパレスの内装や調度品も必見です!
彰子帝はパレスの奥御座所にて起居し、渡御廊下を渡って表御座所で執務をとります。奥御座所は女官が彼女の身の回りの世話をし、表御座所は侍従が執務をサポートしています。
出仕の少年達は、彼女の移動に荷物持ちや先ぶれとして随行しますし、時には女官と侍従との間の伝令役として走りまわることもあるのです。実際には、伝令との仕事がなくても、つい走りたくなるほど長い廊下なのですが……。
彰子帝は廊下を歩く際に、溜息をつくことがあります。御園はそれが気になっていたのですが、ある日、奥御座所の女官達の私物が盗まれる騒ぎが起こり、それどころではなくなってしまいました。彰子帝から下賜された簪(かんざし)や扇、ハンカチなどがなくなってしまったのです。
徹底した捜索にもかかわらず、何の手がかりも得られずに奥と表とがじわじわと険悪になるなか、奥から表への彰子帝の移動に、御園1人でお供をすることになりました。またひっそりと溜息をつく様子を見過ごせず、彼は彼女に廊下で休憩しないかと持ちかけます。
意表を突かれた彼女は、さらに彼の想像の上をいく行動に出ますが……?
- 著者
- 久世番子
- 出版日
- 2014-12-19
彼にしてみれば、初めて見る彼女の屈託のない笑顔。それに惹かれずにいられなかったことでしょう。彼が恋に落ちた瞬間を挙げるなら、普段の冷静沈着な彼女から想像できなかった、弾けた笑顔とのギャップに戸惑ったこのシーンを推します。
そして盗難騒ぎの解決時に彼女との絆が深まり、彼も自分の心の動きを自覚します。ひっそりとただ慕わしく思うだけのピュアな恋の始まりに、むずがゆい気持がします。
帝と侍従見習い、出自がかろうじて子爵、という程度では身分が釣り合わないとか現実的な話はさておき、気持ちの問題としては純粋に好ましい相手を見つけた、という喜びに満ちていて、明るい気持ちになるシーンです。
間違いなく幸せな気分のおすそ分けがもらえるエピソードです!
そして出会いから2年の月日が流れ、御園は16歳になり、彰子帝より背が高くなりました。出仕として後輩を指導する立場にもなり、順調な日々を送ります。しかし彰子帝には婚約者がいたこと、帝位についた内親王は終生独身という規定があるため、明慈帝が崩御された際に婚約を解消したのだと知り、彼はモヤモヤしてしまいます。
そしてついに、彰子帝の元婚約者・鹿王院宮威彦が参内したことから事態が急転。父親が願い出た自身の結婚の勅許についてクレームをつけに来た鹿王院宮でしたが、彰子帝は取り合いません。
謁見を切り上げたのを追って「鶏の杉戸」の向こうへ行こうとしたのを、御園は身体を張って阻止しました。しかし体調の悪かった彼はそこで力尽き、寝こんでしまったのです。
その間に、出仕職を辞めさせられてしまった御園。どうしても彰子帝のそばにいたい彼は、17歳になる誕生日までの期限つきという条件で下働きとしてパレスへ戻りますが、彰子帝自身の口から「お前のことは好きだが、籠の鳥にしたくない」と突き放されてしまいます。
それは鹿王院宮の前で、御園をかばいたかった、彼女からのほのかな愛情表現でありました。
もうじき17歳の誕生日が巡ってくる新年の行事の最中、御園は誤って彰子帝の指輪を落としてしまいます。それをロンがくわえて「鶏の杉戸」の向こう、渡御廊下へ入って行ってしまったのです。今の彼の立場では、渡御廊下に立ち入ることができないのですが……。
「杉戸」の向こうにいたのはロンだけではありませんでした。ロンから指輪を取り返してくれた彰子帝に「お慕いしています」と気持ちを伝えることができた御園は、さらに「自分は籠の鳥にならない。陛下が楽しく過ごせるような籠になる」と宣言!
想定していなかった返しに爆笑しながら、「末永うおもしろき籠になれ」とそばにいることを許したのでした。
- 著者
- 久世番子
- 出版日
- 2015-08-20
本作は「愛さえあれば身分の差など関係ない」というお定まりの恋愛物語ではありません。大前提として、彰子帝は「帝位についた皇女」として、生涯独身であることを義務付けられており、それを感情的に覆すことはしないものと考えられます。それほど彼女の立場は重いのです。
「籠の鳥」が不自由なのは、窮屈な籠に閉じ込められているから。では、籠がとてつもなく大きければどうでしょう。鳥は籠の中で、どこまでも高く、遠く、羽ばたくことができるのではないでしょうか。
鳥が退屈しないよう、籠の中にいろいろ楽しいものが詰まっていたら、鳥は伸びやかに過ごせるかもしれません。
そういう籠になりたいという、まっすぐな御園の願いを、しっかり受け止めた彰子帝。2人がどのようにその意思を貫くのか、最後まで目が離せません!
帝都に大震災が起こってから数ヶ月が経ち、着々と復興が進められていました。
そんななか御園が東宮侍従として、彰子帝の前に戻ってくるのです。
- 著者
- 久世番子
- 出版日
- 2017-08-18
彼は19歳の時に東宮(彰子帝の異母弟)御所に上がり、再び彰子帝の前に姿を現したのでした。もちろん、彼女は驚きを隠せません。しかし御園に対する彼女の視線は、なかなかに冷たいものでした。
そのことに悲しむ彼でしたが、そんなことを感じている暇がないほどに、東宮侍従としての仕事が大忙し。新キャラクター・烏丸東宮侍従長(まるで大仏のような見た目)から指導されつつ、働きます。
そんななか、ついに東宮が帝より勅語を賜い、帝の後継者であることを宣明する儀式である立太子礼が催されることになりました。この時、皇太子の守り刀である、壺切の御剣が親授されるのです。
そんなある日、彰子帝は、立太子礼が終わったら侍従を辞めると御園が言っていたことを知ります。彼は、約束した人と一緒に世界を回るらしいのです。それは以前に、彼女とした約束だったのでした。
その頃、ある事件が御園を襲います。御剣を持って東宮御所へ向かっている最中、何者かによって腕を撃たれてしまったのです。しかし早急な手当によって、彼は無事に助かります。
病院へ運ばれた彼の元へやってきた鹿王院宮は、御園の服の中に指輪が入っているのに気づきます。鹿王院宮はそれを持って、彰子帝の元へ行くのです。私の方があなたを幸せにできる、という彼に、彼女が出した決断とは……。
物語は最後、その10年後が描かれて幕を閉じます。立場上許されない恋だと知りながらも、一途に彰子帝を思い続けてきた御園。そして、そんな彼の気持ちに、徐々に惹かれていった彰子帝。2人はその後、いったいどうなったのでしょうか。
気になる結末は、ぜひご自身の目でお確かめください。
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主人公の2人が可愛らしいのはもちろんのこと、脇を固める人々も魅力的です。聡明な御園家の女中、律が職業婦人としてたくましく生きて行く様子や、鹿王院宮のひねくれつつも一途な想いに胸がキュンとしちゃいます。