漫画『惨殺半島 赤目村』の魅力を全2巻ネタバレ紹介!

更新:2021.11.12

離島で起こる連続猟奇殺人事件を描いた伝奇ホラー漫画『惨殺半島 赤目村』。隠れた名作として一部で話題になっている本作を全巻ネタバレ解説します!スマホアプリで無料で読むこともできます!

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漫画『惨殺半島 赤目村』の魅力をネタバレ紹介!

著者
武富健治
出版日
2013-02-12

『惨殺半島 赤目村』は、『鈴木先生』などで知られる武富健治作の伝奇ホラーサスペンス漫画です。「コミック アース・スター」で連載されました。コミックスは全2巻完結。離島の閉鎖された人間関係と、小さな村の伝承にまつわる陰惨な殺人事件をリアルに描いた作品です。

一見穏やかに見えた田舎の村はいくつもの闇を抱え、それが少しずつ露呈してやがて事件へと発展していきます。その中で主人公である医師の三沢勇人(みさわはやと)は、だんだんと全ての島民に疑心暗鬼を抱き始めるのですが……。

ホラーらしいシュールな絵柄と、丁寧に作りこまれた村のバックグラウンド・伝承に加え、死体などの描写もリアルで、視覚から恐怖を助長される感覚を覚えます。特に台詞にボリュームがあり、情報量が多いため非常に読み応えもあり。ここでは、全2巻の内容をネタバレ解説しながら、本作の魅力について紹介したいと思います。

『惨殺半島 赤目村』あらすじ

『惨殺半島 赤目村』あらすじ
出典:『惨殺半島赤目村』1巻

都会育ちの青年医師・三沢勇人。彼は「赤目村」という離島の集落に赴任することになりました。船で島に向かいながら、美しい景観と古代ロマン溢れるその姿にのどかな暮らしを想像する三沢でしたが、赴任して間もなく島民たちのギスギスした人間関係を知ることになってしまいます。

村長の六車は村のリゾート開発を推進していましたが、村の伝承を守りたいと考える青年団とことあるごとに対立していました。三沢は彼らと関わる中で、否応なしに赤目村の内部に潜む様々な秘密を知ることに。そして、やがて陰惨な殺人事件が起こり……さらに、三沢自身も「ある秘密」を抱えていたのです。

『惨殺半島 赤目村』で取り上げられたスクナヒコナ神話とは

『惨殺半島 赤目村』には、村に伝わる伝承として、「少彦名」と「赤目姫」という2人の神様が登場します。彼らは物語のキーポイントとなる赤目神社の祭神で、作中でもしばしば神話として語られます。

 

将来―
オロチがはびこって村が滅びそうになった時―
艮(うしとら)の方角から少彦名の末えいが戻り
赤目姫とともに村を救う言われとるんよ……(『惨殺半島 赤目村』2巻より引用)


 

それぞれに伝わる秘法
赤密玉(あかみつたま)と青蛙玉(あおひるたま)の力を合わせてな……(『惨殺半島 赤目村』2巻より引用


スクナヒコナは「古事記」「日本書紀」に登場する神様です。まるで小人のような背丈をしており、「古事記」ではアメノカガミブネに乗って、「日本書紀」ではガガイモ(芋の一種)の皮で作った船に乗って、常世の国からオオクニヌシのもとにやって来たとされています。天津神のカミムスビが「あなたたちは共に葦原中国を治めなさい」と言ったため、2人の神は協力して病を治す方法や鳥獣・昆虫から穀物を守る方法を定めました。

スクナヒコナは国造りの神であるので、医薬やまじない・穀物・土木・産業など様々なものに対する徳をもたらします。作中で三沢が医学の神として参拝している描写も。また、赤目神社には薬の秘宝が伝わっており、『惨殺半島 赤目村』では実際に神話として伝わるスクナヒコナの物語がしっかりと下敷きにされていることがわかります。なお、スクナヒコナは御伽草子『一寸法師』のモデルとなったことでも有名です。

 

奇妙な伝承を持つ狂った集落『惨殺半島 赤目村』1巻の見どころをネタバレ紹介!

主人公の三沢勇人は、27歳の医者。都会嫌いの彼は、姫ヶ崎半島にある「赤目村」という僻地に赴任することになりました。島に渡る船から見える景観に、これから始まる新しい生活への思いを馳せる三沢でしたが、村に着いた彼の目に真っ先に飛び込んできたのは観覧車の付いた派手すぎるリゾートホテルでした。そして下船する直前、三沢は向こう岸に一人の少女の姿を見かけます。

赤目村は過去にリゾート開発をおこなおうとされたものの、その計画は失敗に終わっていました。リゾート計画の推進派である村長の六車と、村の伝統と自然を守りロハス的な生き方をしたい青年団たちとが対立しており、六車によって島に呼ばれた形となる三沢は何かと攻撃を受けることに。

著者
武富健治
出版日
2013-02-12

三沢は一見、真面目でどこか気の弱そうなところもある普通の青年ですが、その右手にはなぜか指ぬきグローブをはめています。それを島の子どもたちが見つけると、三沢は「やけどのあとを隠している」と説明しますが、実はこれは三沢に宿るある「能力」を封印したものでした。赴任パーティーと称してあれこれと歓迎を受ける三沢でしたが、穏やかな時間もつかの間、村の中で昏い影が動き始めるのです。

だがこの小さな村でよもや―
壮絶で陰惨な連続殺人事件に巻き込まれようとは―
この時のぼくは予想だにしていなかったのだ(『惨殺半島 赤目村』1巻より引用)


物語の舞台となる赤目村の舞台設定が細かく作りこまれています。村に伝わる伝承や頓挫したリゾート計画、そしてそれぞれの地名に至るまで、非常にリアルさを伴って読ませてくれるのです。よそ者感が抜けきらないまま、突如として殺人事件に巻き込まれていく三沢の感じる理不尽さと、だんだん全ての島民が敵に見えてしまう疑心暗鬼が、読者の心情ともリンクしていきます。

武富健治の絵のタッチは非常に細かく、厭な印象の登場人物はどことなく生理的嫌悪を抱かせる描写がされています。

最初の事件は文江という少女が崖から転落するものですが、途中で木の枝に引っかかる彼女の描写もかなりリアルです。

そして、島民たちから避けられている耕太という少年が三沢に託そうとしたもの、転落した文江が持っていたサナギのような奇妙な物体、そして外から来た独身女性で作られた自助集団「乙女組」に関する真実なども徐々に明らかになり、赤目村は一転して狂った集落の様相を呈し始めることに。そして、魔の手は三沢にも伸び……。
 

急転直下の惨殺劇!『惨殺半島 赤目村』2巻の見どころをネタバレ紹介!

1巻のラストで赤目神社の孫娘・祥子によって閼伽目のおばばの生命の危機を知らされ、それを救った三沢たち。おばばは大きな発作を起こしたものの、病状はすぐに落ち着きました。彼女は閼伽目家に伝わる薬の秘宝を孫の祥子に伝えるまでこの世を去ることはできないと言います。そして、6月6日までに祭りをおこなわなければ、汚れきったこの世に怒った赤目大神がこの世を滅ぼすだろうということも。さらに、おばばは三沢に特別な能力があることも見抜いていました。
 

自宅に戻った三沢は、ぐったりと疲れ切っていました。村八分の部落の存在、崖から突き落とされたこと、「乙女組」の真実。いろいろなことが頭を駆け巡り、思わず叫びます。

「なんなんだ……この村は!!狂ってる……!!」(『惨殺半島 赤目村』2巻より引用)

著者
武富健治
出版日
2014-05-12

しかし、村人からもらったタバコをふかしているうち、頭がぼんやりとしてきます。やがて、三沢は眠りに落ちてしまいました。その眠りは鉦(かね)の音と電話で妨げられるのですが、何と例の部落にある耕太の家が火事になったというのです。
 

三沢が駆けつけると、すでに耕太の両親を含む4人の焼死体が発見されていました。そして耕太の妹・瞳は行方不明。死体を診療所に運んで剣士の準備をしなければいけない三沢でしたが、もう1本タバコを……と虚ろな目で繰り返します。

検死が終わった死体には、他殺と断定できる不審な点は見つかりませんでした。そこで青年団が置いていったタバコを見て、様子がおかしいことに気付く三沢。箱の作りはカラーコピーのように荒く、巻き具合にもムラがあり……。

事件はこれだけでは終わらず、ここからまたしても惨劇の連鎖が始まります。

1巻では村の内情や暗部の解説を丁寧にやってきた感じがありました。しかし、2巻では文字通りの急展開。さらに死者が続出し、村の闇が一気にさらけ出されます。犠牲者はどんどん増えて、ラストまでにもはや登場人物のほとんどが死亡してしまいますが、実は意外な人物が裏で糸を引いていたりも。その人物は、赤目神社の大祭の場である計画を実行しようとしているのですが……。

まさにハイスピードともいえる急転直下の展開に圧倒されますが、1巻の嵐の前の静けさのような雰囲気とのギャップも見どころです。

『惨殺半島 赤目村』の一番の魅力は、そのタイトルどおりの惨殺劇が惜しむことなく繰り広げられるところです。孤島ミステリや民俗学ミステリが好きな人はもちろん、ホラーやサスペンス要素もあるのでそれらの作品が好きな人にもぴったり。いい意味で「奇書」といえる本作のインパクトを、ぜひ味わってみてください。

 

『惨殺半島 赤目村』は、非常に作りこまれた伝奇ホラーサスペンス漫画です。主人公の三沢勇人の心情とリンクして、閉鎖的な僻地の島で起こる殺人事件の陰惨さを味わって欲しいと思います。

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