デザインが秘めている「仕事の哲学」を読み解く

更新:2021.3.29

各月ごとにテーマを設け、「デザイン」という視点で本を紹介していきます。 今回はデザインが秘めている「仕事の哲学」を読み解いていく5冊です。 デザイナーの仕事術の本が注目されて久しいですが、グラフィックやウェブなどの平面媒体から、工業やファッションなどのモノのデザインなど、その仕事の領域は多岐にわたり、それぞれ独自のアプローチが存在していて興味深い哲学が秘められています。 今回はデザインに秘められた仕事の哲学を読み解く事で、これからの仕事の考え方が変わるかもしれない、そんな本を紹介します。

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仕事に込められた「オリジナル」

デザインに限らず、仕事は効率が良いに越したことはありません。摩擦もない方が楽ですし、妥協することは一つの処世術とも言えます。

それらを上手くまとめるとかなり仕事が「出来る」人になれるように聞こえますが、それで捗る仕事の方法に価値は生まれるのでしょうか。価値が生まれる仕事の仕方とはどのようなものなのでしょうか。

『装幀のなかの絵』は、雑誌のデザインや書籍の装幀などを主に手がけているデザイナー・有山達也氏が、自身の仕事について綴った連載をまとめたものです。

一見手がかからないような仕事でもとにかく手間をかけ、作業に時間のない状況でも話し合いに時間を割き、経験のない領域にも臆することなく踏み込んでいく。効率や妥協などに縛られない仕事の向き合い方が、そこには描かれています。

与えられた仕事に質実と想いを込める有山氏の姿勢には、デザインという仕事に限らない普遍的な哲学を感じ取る事ができます。それは、マニュアルや仕事術などの知識に頼らない自分だけのオリジナルであり、仕事に価値を生むシグネチャー(印)でもあります。

著者
有山達也
出版日
2011-11-25

緑色のリゾットをつくるために

どんな仕事にも最初に「問題」があり、そこから「解決」に向かいます。その間に様々な工程が配置されていき、それらを活用して問題の解決案にたどり着きます。そんな、普遍的な問題にあたって、想像的な視点で方策を描いているのが本書『モノからモノが生まれる』です。

著者のブルーノ・ムナーリ氏はプロダクトデザイナーとしてよく知られている人物ですが、その活動領域は多岐にわたります。絵本や映像についての作家であり、教育者でもある氏の創作メソッドは、いくつもの書籍で紹介されています。

その中でも本書は、氏のデザイナーという職能と社会的役割に対しての情熱で溢れています。デザインの問題解決がどこに潜んでいるのか、どのようにアイデアに結びつけるか。その豊かで力強い規範に勇気が出るようです。

また冒頭では老子を引き合いに出し、美や豪華さに取り憑かれた不毛なプロダクトの愚かしさを書いています。さらに、良質なデザインの例として、素朴ながらも純粋に機能を求めた日本のクラフトマンシップに関心をよせていたりと、東洋的な理解がしやすいのも本書の特徴です。

しかし原書副題で「企画の方法論のための覚え書」と示されている通り、デザイナーならずとも、企画提案から問題解決に携わる方々にとって応用できる必見の内容となっており、企画から解決方法の選択、問題の定義づけ、アイデア、データの収集、創造力など、問題解決の為の配列が様々な実例と合わせてユニークに書き記されています。

本書の導入部分で紹介されている“緑色のリゾットの作り方”で示されている客観的な創造性は、企画の解決に悩む方々に是非一読していただきたい部分です。

著者
ブルーノ・ムナーリ
出版日
2007-10-24

モノに内包している「コトのデザイン」

本書『インテリアと日本人』は国内外で活躍しているインテリアデザイナーの内田 繋氏が、日本のインテリアと空間感覚について書き記したものです。その奥行きのある論考は、東洋と西洋、環境や土着、茶室から近代建築、身体と心など様々な領域で紡がれています。

モノよりコトの評価が重視され始めているいま、本書の視座は、おそらくこの本が出版された時よりも強い求心力をもっています。

一般的なデザインの指南書とは違い、その視点を日本の住まいの文化的背景に据えているところに本書の輝きがあります。つまり形だけのインテリアをデザインするのではなく、その精神的な領域までデザインの範疇とすることに、インテリアデザインの本質があるということです。

自身の仕事の領域を拡張し、そのリーチを「モノ」だけではなく「コト」にまで伸ばす内田氏の思想は、共感すべき様々な哲学を内包しており、いま改めて読まれるべき一冊と言ってよいのではないでしょうか。

著者
内田 繁
出版日
2000-03-01

オープン化で変わる仕事の未来

3Dプリンタやレーザーカッターなどのデジタル・ファブリケーションはすでに社会的な認知度を大きく高めており、創造的なコミュニティがクリエイター以外の繋がりを生み出しています。

こういった市民工房から生み出される土壌がより創造的な社会構造を作り、コンテンツがシェアされ続けることによって、思ってもみないようなアイデアで仕事の性質が変化していきます。これが本書『オープンデザイン』で扱われているオープンデザインの可能性の一端になります。そこではクリエイティブなイノベーションがよりソーシャルな場所で起こるようになり、市民包摂型の活動が溢れていくことになります。

そんなオープンデザインという潮流を包括した本書ですが、主題に関する論考はもちろん、様々な事例も紹介しています。社会にコミットしようする興味深いアイデアが、オープンデザインによって百花繚乱する様子を多数収めており、どれも素晴らしい創造性に溢れています。

アイデアをすぐにでも形に出来る環境は、創造的でない仕事でさえもイノベーティブにしてしまえる可能性を秘めているように思えます。それまでの仕事の定義を変えるのは、そんなオープンデザインなのかもしれません。

著者
Bas Van Abel Lucas Evers Roel Klaassen Peter Troxler
出版日
2013-08-24

グラフィックデザインとは何ですか?

2013年に公益社社団法人日本グラフィックデザイナー協会の新人賞を受賞した3人のデザイナーに、グラフィックデザイナーの役割について真正面から問いを投げかけた一冊です。

それぞれのデザイナーが自分の職能(グラフィックデザイン)に対してどのように考えているのか、生い立ちや日々の生活、社会的な役割まで、グラフィックデザイナーという肖像を深く掘り下げています。

専門的な職業に位置付けられるかもしれませんが、この3人の言葉を読み解いていくと、グラフィックデザイナーという仕事にある程度の普遍性が存在していることが分かります。そこで描かれているのは自身の職能を果たそうと懸命に努めている若き社会人の記録であり、普遍的な社会活動の過程であり、デザインという仕事にどのような哲学が生じるかを真摯に映したドキュメントなのです。

著者
田中 義久 平野 篤史 宮田 裕美詠 浅葉 克己(寄稿) 葛西 薫 (インタビュー)
出版日
2013-06-04

デザインという仕事を広義にとらえた時、その職能がもつ普遍的な哲学をどのように見出すべきか。入門書でも決定版でもない少し変わった5冊の本から、その面白みを読み取ってみて下さい。

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