豪奢な邸宅に住み、毎夜、豪華絢爛たるパーティをくり広げる謎の青年ギャツビー。彼には忘れられない女性がいた。世界大戦後のアメリカを舞台に、若き僕と友人のビュキャナン夫妻、そして隣人のギャツビーを中心に、儚い夢と愛を描いた、20世紀最高の文学作品。
- 著者
- スコット フィッツジェラルド
- 出版日
この作品は私が学生の頃に読んだ本です。きらびやかで情熱的なこの作品に、日本の小説とは違う魅力を感じて海外文学が好きになりました。もともと私は歴史が好きで、歴史の教科書や資料集を眺めて、この時代の人はどんな生活をしていたのかな、なんていうことを想像することが大好きだったのですが、やっぱりその中の出来事は今とは全然違う、遠い世界の遠い時代のことのように思っていたし、自分とはまったく関係ないというか、そんな目線で見ていました。
しかし、この小説がその印象を変えてくれました。遠い時代に生きた違う国の人も、今の私たちのように生きていたということ。ご飯を食べたり、酔っぱらって記憶を失ったり、ケンカしてケガをしたり。考えてみると当たり前のことだけれど、考えることってあまりないから、気づいたときははっとしました。海外文学って言葉遣いとか、言いまわしが読みにくいし、時代背景などの面で難しいので、なかなか手が伸ばしづらい分野の本だとは思うのですが、ハマればすごく奥深く面白い本が多いです。ストーリー重視じゃない本が多い気がするので、私はあらすじを先に読んじゃって、ストーリーをなぞりながら読んだりします。分からないところは飛ばしながらでも読めるし、時代背景はその都度調べながら読んでいます(笑)。読むのに時間はかかるけど、気に入った本に出会えたときのうれしさはものすごいです。海外文学が気になっている方はぜひ一度読んでみてください。
熱狂と空虚とが支配したアメリカのある時代、手に入れることができない何かを追い続ける人々。きらびやかであればあるほど空々しく、やっていることの本質がつかめない。主人公のニックが憧れた都会や、金持ちの集う場も、中身のない会話や正体不明な物事に満ち溢れ、善悪も分からなくなるような場所でした。そんな複雑な人間模様に反発しつつも惹かれるニック。そしてそのなかで出会ったギャツビーという青年。彼は好きな人のために全てを捧げ、そしてそのために死んでしまいますが、ニックは彼を称賛します。「あんたには、あいつらをみんないっしょにしただけの値打ちがある」と。
全文にわたって描写が繊細で美しいです。まるで絵画を見ているような気分にさせてくれるので、ストーリーそのものより一つ一つの場面や登場人物の気持ちをイメージしながら読んだほうがいいかなって思います。そして、自分だけではなかなか場面を想像しにくい文学作品は、映画を観てから原作に入るのもいいかもしれません。きれいな衣装に埋もれて泣き出すディズィや、遠い緑の光を眺めるギャツビー。映像化されたものもきれいだったけど、やっぱり本を読んで想像するのが一番ロマンチック。
ストーリーはギャツビーという男が結婚している元カノを奪おうとするシンプルな話なので、彼女のために成り上がったギャツビーの華やかさ、哀しさ、そしてそれを可能にしたアメリカンドリームのノスタルジーを楽しみたい本です。
ギャツビーが愛したディズィはお金持ちのお嬢さんで、ギャツビーは身分違いの彼女を愛してしまったがゆえに悪事に手を染め、過去を偽り、大金持ちの家柄のいい青年という称号を手に入れます。ギャツビーは自分がお金持ちになれば彼女を迎えに行けると信じているのですが、彼女はすでにほかのお金持ちの青年と結婚し、子どももいるのでした。しかし、お金持ちと結婚し順風満帆に想えるディズィも実は幸せなわけではなく、夫の浮気に心を痛めていました。自分の赤ちゃんが生まれて女の子だと分かったとき「バカな子だったらいいな。女の子はきれいでバカなのが一番いいの」といったのは印象的です。
ギャツビーが叶えようとした夢は、もう永久に手に入らない過去のディズィや、生まれも育ちもディズィに釣り合う自分だったのかもしれません。けれど必死に努力して、よくないこともやって、やっと手にしたかと思ったそれらは、一瞬で崩れ去ってしまいます。何か歪なギャツビーの愛はそのままこの時代の歪な何かを表していたのかな、とも思いました。
題名の「グレート・ギャツビー」はニックのギャツビーへの称賛から来ているのかなと思っていたけど、結局ギャツビーはディズィを手に入れることが出来なかったし、悪事もばれて、お葬式にも誰も来てくれないという悲しい結末でした。物語の最後にニックがギャツビーを思い出して思いを馳せるシーンがあるのですが、ニックは未来への希望を信じたギャツビーを称えつつも何か物悲しい、やりきれなさも残しています。
ギャツビーは、その緑色の光を信じ、ぼくらの進む前を年々先へ先へと後退してゆく狂躁的な未来を信じていた。(略)――あすは、もっと速く走り、両腕をもっと先までのばしてやろう……そしていつの日にか――。
憧れ、追い続けた未来は過去のもの。絶対に手に入らないそれを追い続け、手に入れたギャツビーへの称賛。金も憧れのディズィも手にできたのに、結局は生まれつきの金持ちや東部社会に勝てなかったギャツビー。それでも最後まで希望を捨てなかったギャツビーへいろんな気持ちを込めた「グレート」だったのかなと思いました。
読み終えた後、分かりやすい面白さや悲しさなどの感情は出てこないけれど、情熱や、漠然とした不安や、諦め。そんなものが入り混じったリアルな、でもなぜかロマンチックな感情を持つことができる本です。さらっと読める本ではないし、好き嫌いもありそうな本ですが、最高にロマンチックでシニカルなこの本。ぜひ読んでみてください。
- 著者
- トルーマン カポーティ
- 出版日
- 2008-11-27
ヒロインのホリー・ゴライトリーは贅沢や華やかなことが大好きな自由気ままな女の子。気分が落ち込んだときには高級宝石店「ティファニー」の前で朝食を食べるのがお決まり。そんなある日、ホリーのアパートに越してきた自称作家のポール。まったく価値観の違う2人ですが、徐々に惹かれあっていき……。贅沢なお金や自由を持っていながら、ずっと満たされないホリー。華やかで軽やかな彼女のちっぽけな孤独が美しいです。
- 著者
- J.D.サリンジャー
- 出版日
- 1984-05-20
主人公のホールデンは17歳の少年。世の中のなにもかもが何か間違っているように感じて反発するも、結局なにも変えることができません。自分でもよくわからない鬱屈を持て余し、ふらふら歩いた数日間の記録。大人のインチキを何も変えることができず、現実から逃げようとしたホールデンですが、最後に妹の無垢を感じて自分の世界に戻ってきます。ホールデンの純粋さと、ホールデンから見た世界の歪み。正しさってなんだっけ、と考えさせられる小説です。
本とアイドル
アイドルが、本好きのコンシェルジュとして、おすすめの本を紹介します。小説に漫画、詩集に写真集に絵本。幅広い本と出会えます。インタビューも。