公式戦29連勝という記録を樹立した中学生プロ棋士によって、多くの話題を集めた将棋。『りゅうおうのおしごと!』もまた、出版界で話題になりました。スマホの漫画アプリで無料で読むことができるのでチェックしてみてください。
『りゅうおうのおしごと!』は原作小説は全12巻まで発売され(2020年8月現在)コミックスは全巻完結の全10巻。そして、中国や韓国、タイ、英語と外国語版が発売されています。また、2018年の1月にはアニメ化もされています。
・将棋漫画
将棋がメインの作品のため難しそうと思うかもしれませんが決してそんなことはなく初心者にもわかりやすい説明の仕方がされています。また、将棋のあるあるネタなども面白く描かれています。初心者に分かりやすく、かつ将棋ファンも飽きさせない作品となっています。
・師匠と弟子
弟子をとったことがない主人公が小学生を弟子にしたことで人間関係の変化がおきます。ただのお荷物だった弟子も師匠の下で成長していき、主人公にとって欠かせない存在になることで弟子にみっともない姿は見られまいと主人公自身も成長していきます。そんな人間関係と成長の過程は本作の見所だと思います。
本作は将棋や師弟関係が主に描かれていますが、『りゅうおうのおしごと!』には個性的で魅力的なキャラクターも多く登場しますので将棋ファンや表紙に惹かれたという方はぜひ読んでほしい作品です。
- 著者
- ["白鳥 士郎", "こげたおこげ"]
- 出版日
- 2016-01-13
本作は、弱冠16歳で将棋界の2大タイトルのひとつである「竜王位」を獲得した天才棋士・九頭竜八一(くずりゅうやいち)を主人公に、師匠と弟子の交流と人間的成長を描いた将棋漫画です。
ある日帰宅すると、突然「おかえりなさいませ!お師匠さまっ!」と小学生のかわいい女の子が出迎えてくれるという突飛な設定からスタートしますが、「師匠と弟子」という関係性を主軸にして深く心に沁みこむストーリーが魅力です。
また、専門的な将棋の知識を分かりやすく説明しつつ、登場人物たちの心の機微も丁寧に描かれているので感情移入もしやすくなっています。
原作は、「このライトノベルがすごい!」の文庫部門で、2017年と2018年に1位に輝いたライトノベル。多方面でのメディアミックスを想定して企画されていたため、ライトノベルの発売と同時に漫画の連載、ドラマCD化が進行しました。
さらに2018年1月からはテレビアニメの放送も始まり、ますます注目を集めています。
この記事ではそんな本作の魅力を、全巻の見どころを交えつつご紹介していきます。ネタばれを含むのでご注意ください。
中学生でプロ棋士になった九頭竜八一。順調にキャリアを積み、16歳4ヶ月という史上最年少で「竜王」のタイトル保持者となった天才棋士です。
しかしタイトルホルダーとなった後はプレッシャーによってスランプに陥ってしまい、公式戦で11連敗するという不名誉な事態に。インターネット上では「クズ竜王」などど揶揄され、苦しい日々を送っていました。
そんな時に八一の元へやってきたのが、雛鶴あい(ひなつるあい)という小学3年生。竜王戦の際に対局場所となった旅館の娘です。八一自身はまったく覚えていませんでしたが、対局中にプレッシャーに押しつぶされそうになっていた彼と「タイトル獲ったら何でも言うこと聞いてあげる」という約束を交わし、石川からはるばる大阪までやってきました。
弟子入り審査と称して気軽な気持ちで一局指すことにした八一ですが、あいの思いがけない将棋の才能に気付き、内弟子として育てることになります。
とはいえ、周囲からはただのロリコン扱いをされたり、無断で実家を出てきたあいの両親が彼女を連れ戻しに来たりと前途多難。さまざまなことを経験しながら、2人は徐々に師弟関係を超えた絆を強めていくのです。
プロローグともいえる1巻では、主人公の八一と内弟子になるあいとの出会いがメインに描かれています。
「竜王」となった八一のもとに、ある日突然やってきた「JS」。衝撃的な出来事に戸惑いますが、自らの師匠である清滝(きよたき)に憧れて弟子になった経緯を思い出し、あいを弟子にすることを決めます。
「師匠が弟子に本当に望むのは タイトルを獲ることと 弟子を育てることや」(『りゅうおうのおしごと!』1巻より引用)
かつて清滝から言われたこんな言葉も彼を後押ししたのかもしれません。
そんな1巻の最大の見どころは、やはり「入門試験」と称してあいの実力を測るためにおこなった2人の初対局のシーンでしょう。
将棋を始めてまだ3ヶ月と経験の浅い彼女ですが、八一は底知れぬ実力を垣間見て「本気で俺を殺そうとしている」と感じ、自らも本気であいと向き合うことにするのです。
このシーンは一手指すごとにナイフが飛んだり、衝撃派で吹っ飛んだりと、まるで戦闘をしているように描かれています。将棋の知識が無い読者も、対局の迫力を感じることができるはずです。
八一の竜王戦を見てから将棋の面白さにハマり、独学で詰将棋の問題を「暗記」しているというあい。経験不足は否めませんが、彼女が着実に力をつけていけば今後八一をも凌ぐ天才棋士になるのではと、続きが気になる展開です。
- 著者
- ["白鳥 士郎", "こげたおこげ"]
- 出版日
- 2016-05-12
あいの両親が石川からやってきたり、あい友人に振り回されたりとドタバタな展開が多い2巻。見どころは、九頭竜竜王と神鍋六段の対局です。
神鍋歩夢(かんなべあゆむ)は、幼い頃から八一とともに切磋琢磨した幼馴染であり「永遠の好敵手」。それだけに手の内を知りながらその裏を読むというより高度な駆け引きが描かれています。
「桂馬」を「跳ねよ天馬(ペガサス)」と呼んだり、「銀将」の攻撃を「白銀の剣(シルバーソード)アタック」と名付けたりし、そのたびに背景が天馬や騎士、歩兵(足軽風)になるなどとにかくハイテンションな対局の様子を楽しむことができます。
しかしけっしてふざけているわけではなく、神鍋はれっきとした実力者。八一は徐々に攻められ、ついには投了手前まで追い込まれていくのです。
八一は、だらだらと勝ち目のない戦いを続けるよりも潔く首を差し出そうと、熱戦を装うための「思い出王手」を打ちますが、いつの間にか対局会場に潜りこんでいたあいにより、これまで彼のなかでくすぶっていた想いが解き放たれます。
竜王になってから重すぎる重圧に負けないよう「守って」ばかりいた自分に気づき、自らを「最強のドラゴンキング」として信じてくれているあいのためにも、下を向いてはいけないと思い直すのです。
見事にプレッシャーを跳ね除けた八一は、連敗を11でストップさせ、久々の勝利を掴むこととなりました。
この対局のラストシーンでは八一の後ろに飛翔する竜の姿が描かれ、想いを昇華して軽やかに天に昇っていく彼の今後を示唆しているようで印象的です。
この巻からは八一とあいとの師弟としての心の交流がより濃く描かれていくので、2人の絆にも注目して読んでみてください。
- 著者
- ["白鳥 士郎", "こげたおこげ"]
- 出版日
- 2016-09-13
3巻では、両親からの承諾を得てあいが正式に八一の弟子となります。そこへ、「もうひとりのあい」こと夜叉神天衣(やしゃじんあい)が登場。あいと同じく小学生です。
「わたしはあなたを師匠だなんて呼ばないから」
「ふざけんじゃないわよザコモブのくせに!」(『りゅうおうのおしごと!』3巻より引用)
天衣は典型的な「高飛車なお嬢様」で、幼少期より両親から将棋を習っていましたが、2人は事故で他界。それ以来実業家の祖父に甘々に育てられています。
日本将棋連盟会長である月光(つきみつ)から直々の依頼を受け、そんな天衣に稽古をつけることになった八一は、まずは彼女と一局打つことになるのです。
相手に攻めさせることで逆に盤面を優位にする「受け将棋」に秀でていること、そのための強固な精神力を持ち合わせている天衣の稀有な才能に気づいた八一ですが、それと同時に、将棋を指す彼女の辛そうな姿にも気づきました。
同じ名前ですが、「将棋が大好き!」という感情を全面に出しているあいと真逆の存在です。
姉弟子からあいが「弱く」なっていることを指摘されていた八一は、彼女にとって切磋琢磨できるライバルが必要だと感じ、天衣の指導も引き受けることを決意しました。
- 著者
- ["白鳥士郎", "こげたおこげ"]
- 出版日
- 2017-02-13
八一が天衣の指導をすることに対して嫉妬をあらわにするあい。たまらなく可愛いのですが、一方で少しずつ彼に心を開く天衣のキュートさも捨てがたい……と、読者にロリの扉を開かせながら物語は進んでいきます。
そんな4巻の最大の見どころは、師匠と弟子という関係性に悩む八一と、彼の師匠である清滝が会話するシーンでしょう。
普段は常識人で弟子からの信頼も厚いけれど、対局となると「変人」になってしまう清滝。かつては八一を将棋連盟会長の月光の弟子にしようと思っていたそうなのです。
「わしでは育てられんと思った」
「お前がわしの持ってないものを持っとったからや」
「ズバ抜けた「才能」を」(『りゅうおうのおしごと!』4巻より引用)
自分の弟子にすることで八一の「才能」を潰してしまうのではないかと考えていた清滝ですが、「子どもなりに考えて弟子に志願してきた気持ちを大切に」という月光の言葉で、受け入れることを決意しました。
「世界で一番カッコイイ」と信じて尊敬している清滝でさえ弟子の指導に悩んでいたことと、自分の気持ちを大切にしてくれていたことを知り、八一は涙するのです。
迷いながらも弟子であるあいのことを1番に考えると誓い、彼は今後も己の信じた道を進んでいくことになります。
- 著者
- ["白鳥士郎", "こげたおこげ"]
- 出版日
- 2017-07-13
2人の「あい」の可愛さが爆発する5巻。まずは天衣が棋士になるための研修会に参加するところから始まります。
実力と才能をいかんなく発揮し、次々と他の研修生を倒していく天衣。そんななか、最後に対局するのがあいです。
それぞれが自分の才能を存分に発揮して相手を翻弄しますが、最終的に勝利したのは天衣。あいが負けた原因は、詰めを逃したことでした。普段の彼女であれば陥らないような初歩的なミスでしたが、そこで明暗が分かれてしまったのです。
ひどく狼狽し、恥じるあいですが、すべての原因が「自分自身」であったということに気づきます。
「序盤で離されて いつの間にかどうせ勝てないんだって……」
「ししょーが贔屓してるんだから勝てるわけないって」
「いじけて ひねくれて 知らないうちに心が折れて……」
「……わたしは わたしに負けたんだっ……!」(『りゅうおうのおしごと!』5巻より引用)
これまで同年代には負けなしでライバルと呼べる存在がいなかったあいですが、敗北を初めて味わい、「もっと強くなりたい」という強い想いを抱くことになりました。
一方で「自分より弱いものを認めない」という天衣も、あいに対し「敵と認めてもいい」と発言するなど、この対局は2人にとって成長のきっかけとなるものだったようです。
またこの巻では、八一と天衣の意外な接点についても描かれているので、そちらも注目してみてくださいね。
- 著者
- 白鳥士郎
- 出版日
- 2017-12-25
6巻では、登場人物のそれぞれが自らの殻を破るために1歩を踏み出す様子が描かれています。あいの師匠として、また棋士として、己の「壁」を破ることを決意した八一は、停滞する現状を打破すべく「振り飛車」をマスターするための特訓をしていきます。
見どころは、清滝の娘である桂香(けいか)の心の葛藤でしょう。
女流棋士になるために所属している研修会には、27歳という年齢制限があります。彼女はすでに25歳で、もう一局も負けられない状況まで追い込まれていました。
そして、自分の父の弟子であり、八一の姉弟子でもある空銀子(そらぎんこ)に教えを乞うことにするのです。
銀子と対局するうちに、自分の将棋が「自分で考えていない」「他人の真似事」「着せ替え人形」であることに気付いた桂香。その現実と向き合い絶望してしまう彼女の様子は、見ている方が苦しくなるほどです。しかし、
「自分の力で立ち上がれなきゃ この将棋界では生き残れないんだから」(『りゅうおうのおしごと!』6巻より引用)
という八一の言葉のように、負けても負けても、それでも女流棋士になりたいと奮闘する桂香の姿に心を打たれるでしょう。
さらに、6巻のラストには号泣するあいの姿が……。何があったのでしょうか。
成長し続ける登場人物たちからますます目が離せません。
友人の澪に駒落ち(ハンデあり)で勝ち、彼女を泣かせてしまったことから、「勝ち」の辛さを実感するあい。圧倒的な才能の差を見せつけてしまったことに、本人も傷ついているのを感じた八一ですが、師匠としてあえて厳しい言葉を投げかけます。
一方、若さゆえの成長痛を感じているあいに対し、八一と同門である桂香は女流棋士になるための制限、25歳という足切りに焦っており……。
- 著者
- ["白鳥士郎", "こげたおこげ"]
- 出版日
- 2018-03-13
7巻の見所は、やはり桂香の葛藤と心理描写でしょう。彼女は作中でハッキリと述べられてしまうのですが、いわゆる「凡人」。努力でここまでのし上がってきたタイプです。
そしてそんな葛藤を抱えるなかで、若さと才能に溢れた、あいとの対局を迎えます。
桂香の心の暗い部分がこれでもかと描かれた7巻。アニメ作品では回数の都合上カットされた部分も、丁寧に拾ってストーリーに織り込まれます。
そして漫画ならではの見所が、桂香の心理描写、そして表情。25歳という年齢、あいと自分との違いなどさまざまな想いが巡り、壮絶な表情、力のこもった一手のシーンが読者の心に迫ります。
果たしてこの対局を経て2人が得たものとは一体何なのでしょうか?その答えはぜひ作品でご覧ください。
手に汗握る対局の様子はもちろん、師弟の絆や成長を描く『りゅうおうのおしごと!』。主人公が「竜王」を目指しているのではなく、「竜王」となった後のお話なのが面白いところです。将棋の知識が無くても問題ないので、気になった方はぜひ読んでみてください。