萩尾望都の隠れた名作漫画おすすめ10選!年代順に紹介!

更新:2021.11.23

萩尾望都は、『トーマの心臓』や『ポーの一族』といった、名作として幅広い年代から愛される作品を描いた漫画家で、少女漫画の神様とも呼ばれている存在です。幅広い作風も魅力の萩尾望都が描いた10作品を年代順でご紹介いたします。

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「少女漫画の神様」萩尾望都とは

萩尾望都(はぎおもと)は、1949年5月12日生まれ、福岡県出身の漫画家です。2歳から絵を描き始め、小学校3年生の頃から油絵を学ぶなど、熱心な教育を受けました。漫画を読むことを禁止されていた環境ながら、書店に遊びに行っては模写をするなど、漫画を描くことに親しみながら成長します。

中学生の頃から投稿をはじめ、高校を卒業後、地元のデザイン専門学校に在学中、『ミニレディに恋をしたら』で集英社「別冊マーガレット」の「少女漫画スクール」金賞を受賞。その後、同郷の漫画家のつてで講談社に作品を持ち込みし、『ルルとミミ』で雑誌デビューを果たしました。

しかし、描きたいものと求められているものの違いにより、作品を発表できない時期が続きます。当時共同生活を送っていた漫画家の竹宮恵子を経由し、小学館へ移籍。1972年に名作『ポーの一族』の第1作目となる「すきとおった銀の髪」が掲載され、徐々に人気を獲得していきました。

恋愛だけではなく、SFやミステリ、サスペンスなど、少女漫画という枠組みにとらわれない作品が多く、近未来の日本を舞台とし、夢先案内人という特殊な職業も登場する『バルバラ異界』で日本SF大賞を受賞。男女問わず幅広い年齢の読者を持ち、支持される漫画家です。


萩尾望都の代表作『ポーの一族』について気になる方は<『ポーの一族』は永遠の名作。続編「春の夢」まで魅力を全巻ネタバレ紹介!>の記事をぜひご覧ください。

パリを舞台にした貴重なドタバタラブコメディ!【1975年】

少女漫画といえば、恋愛をテーマにした作品というイメージを持つ方も多いでしょう。少女向けに描かれた漫画というジャンルであるせいか、多くの少女漫画は恋愛を主体としています。しかし、萩尾望都作品に関しては、少女漫画というイメージから連想する作品のほうが少なくなっています。

『この娘うります!』は、1975年に発表された、インパクトのあるタイトルが目を引く作品。殺伐としたファンタジーものでも、特殊な文明が興った歴史ものでもありません。現代のパリを舞台とした、ラブコメディ。少女漫画っぽい作品はあまり多くない萩尾望都作品の中でも、貴重な1作となっています。

著者
萩尾 望都
出版日
1977-06-20

フランスは花の都パリに住むドミニク・シトロンは15歳の少女。母親を早くに亡くし、少女服のデザイナーをしている父に育てられました。明るく素直な性格で、いつも白く清楚な服を纏っていたドミニクは、15歳の誕生日に友人から赤いドレスを贈られます。

いつもとは違う服装に、心がときめいたドミニクは、変身願望を抱き、モデルクラブにスカウトされたことがきっかけで、モデルとして活動をはじめます。その中で出会う人々との騒動や、恋がコミカルに描かれているのですが、モデルをモチーフとしていることもあり、画面も華やかでフランス映画を思わせるような気品を感じることができるでしょう。

少女漫画だからといって、萩尾望都特有の人物描写が薄れるということはありません。明るく、「あなたが かっこばっかり気にしてるからじゃない イモ男!」といったように、勢いの良い啖呵を切るドミニクの内面描写もしっかりされており、キラキラと華やかな世界とともに、揺れる乙女心も堪能することができます。

ドミニクのきている服がとにかく可愛く、華やかな世界に、年齢問わずときめかないはずがありません。そして、華やかな世界の中に立ちながらも、まっすぐで可愛らしいドミニクが大好きになるはずです。

孤独な青年と少女の心の触れ合いが切ない【1976年】

記憶を呼び起こそうとするとき、人は様々な要素を媒体にします。年齢を重ねても、記憶に付随したものを、不思議と忘れることがありません。映像、臭い、温度や音。五感が記憶をより鮮明にさせ、一瞬でその時に抱いた感情すら呼び覚まします。

当時流行した音楽を聞くと、若い頃に戻った気分になる、という体験をした人も多いのではないでしょうか。主題歌を聞いただけで、ドラマや映画の内容を思い出すこともあるでしょう。1976年に発表された『アメリカン・パイ』は、まさに音楽がキーとなった短編作品です。アメリカを舞台に、1つの楽曲が物語を彩ります。

著者
萩尾 望都
出版日
2003-05-01

青々とした美しい海に、白い砂浜、空は高く、穏やかな気候に人々は陽気に笑い合う。そんなマイアミの地に住むグラン・パは、売れないバンドのシンガーをして暮らしています。両親も、育ててくれた祖母も亡くし、天涯孤独の身の上となりましたが、仲間に恵まれ、好きな歌を歌って、楽しい生活を送っていました。

そんなグラン・パの前に、浮浪児のような少年が現れます。歳の頃は、13歳くらい。行くところが無いという彼を、面倒見の良いグラン・パは引き取り、一緒に生活することになります。しかし、少年だと思っていたリューは、実は少女だったことが判明。無口で自分の事をあまり話さない、謎めいたリューと、穏やかな時間が過ぎていきます。

リューには様々な秘密があり、物語が進むにつれて徐々に明らかになっていきます。物語にのめり込むにつれ、リューの口ずさむドン・マクリーンの「アメリカン・パイ」が耳から離れなくなるでしょう。「わたしがいたこと 歌ったこと みんな消えてしまう」というリューのセリフは、真相を知った瞬間に、読者の心に重くのしかかります。優しく温かい声が切なさを呼び起こす、楽曲とともに楽しみたい1作です。

美しき傷ついた少年が人の優しさに触れる人間ドラマ【1980年】

1980年から1984年にかけて連載された『メッシュ』は、パリを舞台にした作品。パリと言えば華やかな印象を受けますが、こちらの作品は一歩裏路地に入り込んだような、薄暗い裏世界が主となるため、少々殺伐とした印象を受けるでしょう。暴力や同性愛といった描写もあるため重い印象を受けますが、萩尾望都らしい華やかさと美しさに昇華されています。
 

物語は、1人の美しい少年が、凄惨なリンチに遭う場面から始まります。フランソワーズ・マリー・アロワージュ・ホルヘス、通称メッシュは、ボスの麻薬を盗もうとしたことで、命の危機を迎えていました。右腕の骨を折られ、ふらふらと歩いているところを、贋作画家のミロンに助けられます。

著者
萩尾 望都
出版日

怪我をしていたメッシュの手当てをしてくれたミロンは、行くところが無いのなら好きにすればいい、とメッシュをアパートにおいてくれることに。2人での穏やかな共同生活が始まりますが、メッシュの周囲にはギャングの男がうろつき、逃れられない過去や、家族という問題が立ちはだかります。

メッシュは父親との折り合いが悪く、人格を否定され、裏社会での人間関係に傷つき、常に痛みを抱えている少年です。「オレが生きてかえって何が悪い!生きてて何が悪い!」という叫びは、読者の胸をえぐるでしょう。だからこそ、ミロンの存在に、救いを感じるはずです。

彼の持つ当たり前の人のやさしさ、誰しもが持っているものだと、祈りに似た気持ちを抱くでしょう。痛みを知り、家族ではない人のもつ、当たり前の温かさを知って大人になっていく少年の、生きる姿が胸に迫ります。

夢が少女と少年をつなぐ!謎だらけのSFファンタジー【1982年】

1982年に発表された『モザイク・ラセン』は、夢をきっかけとしてはじまる物語。夢の中の出会いが現実と重なり、主人公と読者を夢と不思議な世界が入り混じった、不可思議な世界へと誘います。今作でも音楽が作品を彩り、華やかでポップな画面の中から音楽が聞こえてきそうなほど。音楽が好きな人ならばわかる、ちょっとした仕掛けでも魅せてくれます。
 

白川美羅は、イギリスはロンドン郊外の女学校に通い、寄宿舎で生活している少女。幼いころから同じ少年の出てくる夢を、繰り返し見ていました。美羅の事をミリディアンと呼び、助けを求めている少年の夢は、美羅が年齢を重ねるごとに少しずつ変化していきます。しかし、少年は美羅に不吉な予言を残し、以降夢に現れることはありませんでした。

著者
萩尾 望都
出版日
1998-11-01

それから3カ月後、音楽の授業中に友人から見せられた写真の中で、美羅は夢の中の少年と再会します。美羅は少年、ラドリ・マッキャベリが火事に遭うことを夢で見ており、現実世界で訪ねたラドリの家も、火事で焼け落ちてしまいます。

入院したラドリを見舞った美羅でしたが、ラドリの姿はなく、美羅はエスパー能力のあるラドリの父の友人、バーダ・マニ・ハナの力を借り、ラドリを連れ戻しに行くことに。異次元へと飛んだ美羅が見た世界は、かつて自分自身の夢に現れた世界でした。

異世界トリップものの先駆けともいえる本作、神話世界のようなファンタジー性と、天体をモチーフとしたSF設定が程よくマッチし、揺るぎない異世界を作り上げています。少女が少年を救うという構図ですが、物理的にだけではなく、精神的支柱になっているところもポイントです。自身の持つ能力を上手く扱えないラドリに対し、美羅が「ううん べつに」と何でもないように言う姿に、ニヤリとしてしまうこと間違いありません。

相反する存在!憎いけれども離れられない悲しき双子【1984年】

1984年に発表された短編「半神」は、萩尾望都作品の中でも、最も高い評価を受けている作品のひとつです。結合双生児という、身体が結合してしまっている双子を題材として扱っていますが、感動的な物語が展開されるわけではありません。特殊な身体を持ってしまった少女が持つ、葛藤や苦悩といった当たり前の感情を、短い中で濃密に描写していきます。
 

著者
萩尾 望都
出版日

ユージ―とユーシーは双子の姉妹。腰のあたりから繋がった、結合双生児でした。妹のユーシーは美しい容姿を持ちながら知的障害があり、まるで赤ん坊のような少女です。天使のようだと愛されるユーシーに対し、姉のユージーは、知力はあるものの、妹に栄養を吸われ、醜くやせ衰えた姿をしていました。

離れられないこともあり、妹の世話を任されていたユージーでしたが、離れることができない妹のせいで不満は募るばかりです。妹ばかりが愛され、自分は貧乏くじを引いている。そんな心の奥底にくすぶる思いを抱えている中、13歳になった双子の姉妹は、難しい分離手術に挑むことになります。

ユージー視点で物語は進みますが、ユージーの抱く劣等感や葛藤は、同じ立場でなくとも共感できるものです。物語が終わりを迎えた時、この双子の姉妹を抱きしめたくなることでしょう。「鏡の中にあんなにきらっていた妹をみつける」、幸せのために切り捨てたもの、その重みと痛みを知ったとき、涙が零れます。

子どもが生まれない世界で静かに進行していく狂気【1985年】

出生率が低下しているというニュースを、年に一度は耳にする機会があるでしょう。現代日本で子どもの数が増えないというのは、経済的な問題など、様々な要因があります。子孫を増やすというのは、本能だけでは成しえるものではなく、外的要因によって妨げられることも少なくありません。

1985年から1987年にかけて連載された『マージナル』は、近未来の地球を舞台とした作品です。荒廃した地球の影響で子どもは生まれないという、人類にとってはこれ以上ない危機的状況の中での物語ということもあり、焦燥感や閉ざされた世界特有の閉塞感が作中に横たわります。

著者
萩尾 望都
出版日
1999-07-01

西暦2999年、地球は不毛の大地となりました。ウイルス感染により受胎能力を失くし、子どもが生まれることはありません。しかし、地球外ならば子どもが生まれることが確認され、人々は月へとその居住地域を変えていました。

一方、変わらず地球に住み続ける人もいます。彼らは唯一の女性である「マザ」という生殖能力のある女性を中心に、小さなコミュニティを形成していました。

唯一の女性を中心とした、男性ばかりのミツバチ型社会「マージナル」は、一見うまく機能しているように見えましたが、マザが高齢になるに従い、子どもが生まれる数が減少していきます。子孫を残すための、唯一の手段であるはずのマザでしたが、祭礼の日にマザは暗殺されてしまいます。

マザを中心とした宗教のような図式が形成されていることもあり、一見するとファンタジックに感じられますが、本格的なSF作品。この世界の子どもたちがどのようにして生まれたのか、その真実を知るごとに、他人事ではないような焦燥感に駆られます。生命の誕生は神秘だからこそ、人には介入できない聖域のような神聖性が感じられるのです。

死にゆく大地をゆく主人公は、高い感負う能力を持ったキラという少年。彼の目から地球がどう見えるのか、荒廃しているのにどこか美しい世界にも注目です。

絶望の先にある再生と救済そして許しの物語【1992年】

萩尾望都と言えば、美少年を描いた作品が多く、「美少年なのに幸せになろうなんて甘い」と発言したことでも知られています。

漫画家歴の長い萩尾作品の読者年齢は幅広いですが、特に若い読者にも読んでいただきたい作品が、1992年から2001年にかけて連載された、『残酷な神が支配する』です。本作はアメリカとイギリスに暮らす、とある一家を描いた作品ですが、性的虐待や、同性愛、売春など、様々な社会問題が登場。重く苦しく、痛みを伴うストーリー展開に、読者にもある程度の覚悟が必要になります。

著者
萩尾 望都
出版日

アメリカのボストンで母親と2人暮らしをしていたジェルミ・バトラーは、陶器のような肌を持つ美少年。ある日、母のサンドラが、英国紳士の資産家、グレッグ・ローランドと恋に落ち、婚約したことで、生活が一変してしまいます。グレッグは鷹揚で女性に優しい一方、倒錯的な性的趣向を持ち、ジェルミに母親を盾に、肉体関係を迫ります。

一度結んだ関係を反故にすることはできず、ジェルミはイギリスのローランド家に移った後も、たびたび性的虐待を受けていました。誰にも相談することができず、追い詰められたジェルミは、事故を装い、グレッグを殺害する計画を実行に移すのでした。

その後、主人公のジェルミと、グレッグの実子であるイアンの物語が展開されますが、2人の関係は恋愛特有の甘さがあるわけではありません。ジェルミは人を愛することに臆病になり、イアンもジェルミとの関係に苦悩することになります。2人の関係の行方も気になりますが、イアンの「おまえの痛みに 目をつぶらない」というセリフに、ジェルミだけではなく、読者も救われることでしょう。絶望の先に、確かな光を感じる物語です。

7年間眠り続けている少女の夢と現実世界がリンクする【2002年】

夢に見るような世界が現実にあれば、とは思うものの、夢はやはり夢で、現実と重なることはありません。しかし、夢占いというジャンルがあるように、無意識的に見るものにはロマンがあります。萩尾望都作品はジャンルの幅が広く、夢をモチーフとしたファンタジー作品も発表してきました。

しかし、2002年から2005年にかけて発表された『バルバラ異界』は、SF作品。神秘ではなく、様々な科学的な要素が随所に盛り込まれています。ヒントとなったのは、ニューギニア島で発生した風土病や、食肉に関する様々な発見。科学というリアルが、夢というあいまいな要素と混ざり合っていきます。

著者
萩尾 望都
出版日
2011-12-15

渡会時夫は、夢先案内人をしています。夢先案内人とは、人の夢を探査することを主な仕事としており、犯罪捜査の協力などを行うこともあります。

時夫はある日、とある少女の夢の探索を行うことになりました。16歳の少女、十条青羽は9歳の頃に両親が謎の死を遂げて以降眠り続けており、目覚める気配はありません。しかし、彼女が眠っているところに花が降ったり、血が滴ったりと、不可思議なことが絶えないのです。

青羽の夢には、人が空を飛び、不老不死である夢のような世界「バルバラ」が存在していました。実年齢よりも幾分か幼い青羽は、バルバラで幸せそうに生活を送っています。青葉を目覚めさせることなく探索を終えた時夫は、青羽が眠り込むきっかけとなった事件を調べ始めます。

時夫にはキリヤという息子がおり、キリヤが想像した架空の島と、青羽の夢が一致しているということが分かりました。成長した姿でキリヤの目の前に現れる青羽。青葉の実家である十条製薬の様々な実験と思惑も絡みあい、物語はより複雑さを増します。

夢と現実がリンクしているため、ファンタジーのような印象を受けますが、理論展開はしっかりと科学なので、SF好きな方もご安心を。夢と現実という、けして交わらない世界が、少しずつ重なっていく姿に、不思議な気持ちを味わうことができます。「夢を現実にするために」、夢と現実、そして過去と未来すらも巻き込んだ物語から、目が離せません。

日常と非日常が混ざり合う!円熟した表現が光る連作短編集【2006年】

萩尾望都作品は、現代を舞台にしながらも、そこに夢や異世界など、不可思議な要素が混ざり合った世界観が魅力です。現実と非現実に明確な境はなく、日常の延長線上に不可思議な世界がある、という設定に、読者の心は高揚していくでしょう。世界設定の緻密さでも魅せる萩尾望都作品の中でも、とりわけたくさんの不思議な世界を描いたのが「ここではない★どこか」シリーズです。

シリーズは2006年に発表された『山へ行く』から2012年発表された『サロメ20XX 』までの26作品。基本的には一話完結の物語ですが、キャラクターやエピソードに繋がりがある作品も多く、『山へ行く』で主人公を務めた小説家の生方正臣は、シリーズの中核をなすキャラクターとして描かれています。

著者
萩尾 望都
出版日
2016-03-15

少女漫画の例にもれず、萩尾望都作品も10代の少年少女や、年若いキャラクターが活躍する物語が展開されてきましたが、本シリーズの登場するキャラクターは年齢層が高め。生方も家族を持っている中年男性ですし、出版社の編集者である五十嵐など、明らかにイケメン男子ではないキャラクターも活躍します。

『山へ行く』は、行こうと思っていたのに、些末なことで実行に移せないといった、よくある日常の出来事が描かれているのですが、以降の作品では、些細なきっかけで日常を飛び越え、非日常の中を人は歩けるのだと知ることができるでしょう。読者も作品のキャラクターとともに、気軽にここではないどこかへ、行くことができます。

本シリーズには、東日本大震災後の福島を舞台とした『なのはな』という作品も名を連ねています。津波で祖母を亡くした小学6年生の少女、ナホを主人公に、リアルな福島を描いた物語は、多くの読者の心を打ちました。悲しみの中にある少女の目を通し、世界の悲惨さと美しさを知るでしょう。

「ナホは時間を止めではダメだ。いま起こってっことを、ちゃんと見ねどなんねぞ」(『なのはな』より引用)

そんな言葉に、背筋が自然と伸びます。

2足歩行の猫が活躍!?萩尾望都流猫漫画【2008年】

長らく犬人気が続いていた日本に、突如として訪れた猫ブーム。動画サイトやテレビ番組などで、ふてぶてしくも愛らしい猫たちが、のんびりとした、気ままな姿を見せてくれています。猫漫画も人気とともに増え、コミックエッセイはもちろんのこと、飼い主と猫の関係以外をモチーフとした作品も注目を集めるようになりました。

『レオくん』は、2008年から2012年にかけて発表された猫漫画です。萩尾望都作品には猫が登場する作品も多数あり、例にもれず萩尾も猫好きである様子。しかし、本作は他の猫漫画とは少し趣向が違っており、猫らしさを愛でる作品ではありません。しかし、猫飼いが想像する「もしも」がたくさん詰まっています。

著者
萩尾 望都
出版日
2009-06-10

レオくんは、2歳のオス猫です。表紙の色合いから柄はキジトラ、鈴の付いた首輪をしています。レオくんはどこからどう見ても猫の姿ですが、他の猫とは少し違います。2足歩行で移動し、人の世界に興味津々。お見合いに行ったり、恋をしたり、はたまた漫画家のアシスタントをしたりと、自由気ままに生活をしています。

猫のトイレを題材とした「お外に出して」や、「レオくんの狩り」など、猫ならではのエピソードが描かれた作品もあれば、給食に惹かれて小学校へ入学する「レオくんの小学一年生」や、「レオくん ヤマトちゃんの恋」など、擬人化ならではのエピソードもあるなど、とにかく盛りだくさん。どちらでも愛くるしいレオくんの姿を堪能することができます。

本作の根底にあるのは、萩尾望都の猫への愛情です。もしも自分の猫がこうだったら、という想像はもちろん楽しいのですが、それだけではありません。考えさせられるエピソードが織り交ぜられており、萩尾望都作品らしさを強調しています。とはいえ「でも僕はネコだからいいんだもーん」と、あっさりしているところはさすが猫。食いしん坊なレオくんの魅力にどっぷりハマり込みそうです。

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