『ポーの一族』は永遠の名作。続編「春の夢」まで魅力を全巻ネタバレ紹介!

更新:2021.11.23

少女漫画界の巨匠・萩尾望都の代表作のひとつ『ポーの一族』。連載時から40年以上にわたって愛され、21世紀にもドラマ化や舞台化、さらには新作が発表されるという不朽の名作です。時代を超えて多くの人をとりこにする奥深い魅力を、徹底解説します!

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名作漫画『ポーの一族』を「春の夢」まで全巻の見どころをネタバレ紹介!

手塚治虫が漫画界の神ならば、萩尾望都は少女漫画界の神。そう呼ばれるほど、少女漫画の世界に次々と新境地を切り開き、何作もの名作を生み出してきた漫画家です。彼女の作品は多くの少女の心をとりこにし、かつ年を取ってから読んでも感銘を受けるほどの深さがあります。

そんな彼女の初期の名作であり、時代を超えて愛され読まれ続けている代表作『ポーの一族』。1970年代の作品にもかかわらず、2016年にドラマ化、2018年には宝塚歌劇でミュージカル化されるなど人気は衰えていません。『ポーの一族』には、それだけの奥深い魅力があるのです。

著者
萩尾 望都
出版日
2007-11-26

『ポーの一族』の物語を動かすのは、決して老いることなく永遠の旅を続ける2人の吸血鬼の少年です。その長い旅の中で彼らは多くの人と出会い、その恋や成長、時には死をも見届けてきました。彼らの一生に比べればほんの一瞬にしか過ぎない人間たちの営みを、萩尾望都は生き生きと、かつ冷徹に切り取ります。

おそらく少女の頃は、決して老いずいつまでも美しい少年たちに夢中になることでしょう。しかし年を経てから読むと、そこに描かれている人間たちの短い一生が胸に迫るようになります。きわめて端的なのに、リアルで深いそれぞれの人生。これを20代前半で描いたというのだから、 萩尾望都の才能を感じずにはいられません。


萩尾望都のおすすめ作品を紹介した<萩尾望都のおすすめ漫画年代順!名言で読む名作5作品>もおすすめです。ぜひご覧ください。

漫画『ポーの一族』のあらすじ

決して老いることなく永遠の時を生きるバンパネラ――吸血鬼の少年、エドガーとアラン。彼らが長い旅路の中でどんな人間たちと出会い、何を見てきたのか。そして彼らはなぜ、永遠の命を手に入れてさまようことになったのか。

そんな彼らの出会いと別れのエピソードが、200年以上の時を行きつ戻りつ描かれます。吸血鬼から見た人間、人間から見た吸血鬼。2つの視点を重ね合わせるように描かれているのも特徴です。

漫画『ポーの一族』の主要キャラクター

著者
萩尾 望都
出版日
2016-05-09

エドガー・ポーツネル

4歳のときに妹のメリーベルとともにポーの一族の村で保護され、14歳で吸血鬼となった少年。少年の姿のまま成長しないため、人間の世界をあちこち旅しながら生活します。後に14歳のアランを吸血鬼の一族に迎え入れ、2人で旅を続けて生きていくことに。

アラン・トワイライト

古い港町の貿易紹介の子息。幼くして父と婚約者を失ってから親戚たちにつけこまれ続けてきたため、周囲の人間に心を許しませんでした。14歳のときに出会ったエドガーに血を与えられ、吸血鬼となります。

メリーベル・ポーツネル

純真で可憐な、エドガーの最愛の妹。エドガーの計らいで幼い頃は普通の人間として生活しますが、13歳のときに吸血鬼に。それからはエドガーたちと旅を続けます。

第1巻(萩尾望都Perfect Selection 6)の見どころ

フラワーコミックス版の単行本とは違い、豪華版の「萩尾望都Perfect Selection」シリーズでは、発表順に作品が収録されています。第1巻の収録作品は以下の6編です。

 

  • 「すきとおった銀の髪」 
     
  • 「ポーの村」 
     
  • 「グレンスミスの日記」 
     
  • 「ポーの一族」 
     
  • 「メリーベルと銀のばら」 
     
  • 「小鳥の巣」 
     

では、それぞれの作品の魅力をダイジェストで紹介していきます。

「すきとおった銀の髪」 「ポーの村」

「…すきとおった銀の神の少女がいました 
そのあまりの美しさに… 
そのあまりの美しさに神は少女のときをとめました」 
(『ポーの一族 I 萩尾望都Perfect Selection 6』16ページから引用)

この2編は、普通の人間が偶然出会ったエドガーとメリーベルとともにした、ほんの短い時間が描かれています。普通の人間たちの視点から描かれる兄妹は、とても美しくミステリアスです。この第1作でエドガーたちについて多くは語られなかったからこそ、読者は彼らに強く惹かれたのでしょうね。

萩尾望都自身がエドガーやアランのような美しい永遠の存在に夢を抱いていたのだそうで、この2編ではその萩尾の想いを追体験できるような気がします。

著者
萩尾 望都
出版日
2007-11-26

「グレンスミスの日記」

「生きて行くってことはとてもむずかしいから 
ただ日を追えばいいのだけれど時にはとてもつらいから 
弱い人たちは とくに弱い人たちは 
かなうことのない夢を見るんですよ」 
(『ポーの一族 I 萩尾望都Perfect Selection 6』67ページから引用)

こちらは『大奥』などで有名な漫画家・よしながふみをして、「グレンスミスの呪い」とまで言わしめる秀逸な短編です。

「ポーの村」で登場したグレンスミスが、エドガーたちと出会った経験を日記に書き留めていて、それを彼の死後に娘のエリザベスが見つけて読むところから始まります。そこから彼女の、多くの戦争を乗り越える長い人生が描かれるのです。父の日記にあったポーの村での体験が、まったく関係ない彼女に何を与えるのでしょうか……。

内容もさることながら、1人の人間の波乱万丈の一生をたったの24ページで描き切っていることに驚かされます。この鮮やかな手腕が、よしながの言う「グレンスミスの呪い」です。

「ポーの一族」 「メリーベルと銀のばら」 「小鳥の巣」

「消えろ! おまえたちはなんのためにそこにいる 
なぜ生きてそこにいるのだ個の悪魔!」 
(『ポーの一族 I 萩尾望都Perfect Selection 6』67ページから引用)

この3編は“本編”ともいわれ、エドガー、アラン、メリーベルの運命を軸に描かれたものです。それぞれが吸血鬼になった理由や、吸血鬼になる前の生活・出自が語られています。これまでの短編のような夢うつつ感はなく、語り口も展開も、とてもインパクトが強くドラマチックです。

この“本編”の1番の面白さは、やはり主人公たちの心情にぐっと迫れるところでしょう。人間だったころや吸血鬼になって間もないころは、エドガーだって悩んだり苦しんだりという思春期のような感情をもっていました。その中でメリーベルを想い、アランに出会って運命がまさに紡がれていく様子は、読み応え抜群です!

第2巻(萩尾望都Perfect Selection 7)の見どころ

第2巻の収録内容はこちら。

 

  • 「エヴァンズの遺書」 
     
  • 「ペニー・レイン」 
     
  • 「リデル・森の中」 
     
  • 「ランプトンは語る」 
     
  • 「ピカデリー7時」 
     
  • 「はるかな国の花や小鳥」 
     
  • 「ホームズの帽子」 
     
  • 「一週間」 
     
  • 「エディス」 
     

エドガーたちの視点で描かれた物語もありますが、彼らとかかわった人々にスポットが当たっているものがほとんどです。それぞれの見どころについて、やはりダイジェストで紹介しましょう。

「エヴァンズの遺書」

「だからエドガーだけなの 
わたしはいつまでのエドガーの妹でしかないの 
エドガーだけしかわたしの世界にいないのよ 
恋なんてできない」 
(『ポーの一族 Ⅱ 萩尾望都Perfect Selection 7』50ページから引用)

なんとエドガーが記憶喪失になってしまうというショッキングな始まり。そして運命としか思えない因縁に導かれ、当時一緒に旅をしていた妹のメリーベルとともに、人間たちの恋愛模様や遺産争いに巻き込まれます。

エドガーが最愛の妹メリーベルを守るというのが、この兄妹の基本的な関係ですが、この物語では立場の逆転が見られます。そしてメリーベルがただ守られているだけの少女ではないことがわかり、どことなく魔性の女感を漂わせるのも見どころ。しかし立場が逆転しようと、お互いしか愛し合える相手のいない兄妹の悲哀は胸に迫ります。

著者
萩尾 望都
出版日
2007-12-21

「ペニー・レイン」 「リデル・森の中」

「――ぼくたちがながい旅に出ることもわかるね」 
「…うん」 
「なにも思い出さなくてもいいことも?」 
「……うん」 
(『ポーの一族 Ⅱ 萩尾望都Perfect Selection 7』128ページから引用)

「エヴァンズの遺書」がエドガーとメリーベルの物語だったのに対し、この2編はエドガーとアランの物語といえるでしょう。2人きりになったばかりの彼らの間に流れる不安定な空気が、ある意味一番の見どころです。そんなまさに「永遠の少年」らしい2人に育てられた幼い少女リデルは、読者と近い視点で彼らを見るキャラクターではないでしょうか。

この第2巻ではその他の物語も、エドガーとアランの密接なのに不安定な関係にドキドキさせる要素が強いです。

「ランプトンは語る」「ホームズの帽子」 「エディス」

好きなら好きなほど 
愛してれば愛してるほど 
きみは後悔するんだ 幸福にしてやれないもどかしさに! 
(『ポーの一族 Ⅱ 萩尾望都Perfect Selection 7』379ページから引用)

エドガーとアランがシリーズの結末に向かって、自分たちのルーツにかかわるものを回収していく3編。いつも冷静に為すべきことを為すエドガーと、情に振り回されるアラン。どちらに肩入れするか、どちらの気持ちもわかるからつらいか、読む側も立場が分かれる話だと思います。

そしての立場であっても、切なすぎる結末……! ラストの余韻をかみしめた後は、ぜひもう一度読み返し、さらにもう一度読んですべての因縁を理解してください。読むたびに同じ切なさを感じ、新たな考え方を見つけることができるでしょう。

漫画『ポーの一族』40年ぶりの続編「春の夢」

著者
萩尾 望都
出版日
2017-07-10

15編の物語を経て、永遠の少年として人々の心に残ったエドガーとアラン。しかし連載終了から40年後の2016年、新たに描かれたエピソードが「春の夢」です。断続的に数回連載され、1冊の単行本にまとめられています。

新作の舞台は万博開催に沸くパリ。作中の時間で言えば「ピカデリー7時」と「一週間」の間にあたり、エドガーとアランの長い旅の途中です。新キャラクターも登場し、連載では明かされなかった新事実も語られるなど、かなり読み応えのある作品となっています。もちろんファン必読の1冊といえるでしょう。

また新作の内容からは今後の展開も期待できる部分があり、さらに続編が描かれる可能性も……? これまでに多くのテーマを取り扱ってきた萩尾が新しくエドガーたちの結末を描いてくれるなら、ファンとしてはうれしい限りですね!

多くの少女たちの心に残り、また多くの漫画家たちに影響を与えた名作『ポーの一族』。短編集のような形式がとられていることからも、萩尾望都の入門編としておすすめです。また昔読んでいたという人は、ぜひ再読してみてください。

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