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伝説の名作『ウェルカム・ホーム!』がついに復活!【僕が小説を読む理由】

更新:2018.1.15 作成:2018.1.15

市井の物書き大場諒介が小説への偏愛を書き綴る不定期連載「僕が小説を読む理由」。第3回は早世の天才作家鷺沢萠が残した完璧な小説『ウェルカム・ホーム!』。ひとりでも多くの方に読んでいただきたい作品です。

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ほとんどワンコインで買えて、2~3時間で読める、限りなく完璧に近い小説『ウェルカム・ホーム!』

「完璧に満足できた本が書けた」そう言い残して、鷺沢萠はこの世を去りました。享年35歳。芥川龍之介と同じ年齢で自殺をしているのです。天才は30半ばで小説を極め、この世の果てにたどり着いてしまうということでしょうか。

完璧な小説などというものは存在しないのかもしれませんが、仮に存在するとしたら、『星の王子さま』を書いたサン=テグジュペリが言うように「何も加えるものがない状態ではなく、何も削るものがない状態」を指すのではないかと思います。

その意味でまさしく、鷺沢萠の『ウェルカム・ホーム!』は限りなく完璧に近い小説です。

本作は2004年に出版され、2006年に文庫化。その後長らく絶版になっていましたが、2017年11月なんと復刊!電子書籍もほぼ同時に発売されることになりました。

絶版になって以来、古本屋で見つけては買い、友人、知人に配り、という地道な布教活動をしていた身としては、非常に感動的な出来事でありました。おそらく古本屋で買った冊数は累計100冊を超えるでしょう。2015年に作成したホンシェルジュのプロフィールにも、本作を紹介した旨を書いていましたが、それから約2年半を経て、ついに紹介することができます。復刊プロジェクト関係者の方、本当にありがとうございます。

著者
鷺沢 萠
出版日
2006-08-29

文庫本で100ページほどのふたつの中編が収録された本作は、「家族とは何か」「フツーとは何か」そして「人生とは何か」というテーマを描いています。

1作目の「渡辺毅のウェルカム・ホーム」は、専業主「夫」の渡辺毅が主人公。色々あって、親友と親友の息子と3人で暮らしている毅は、専業主夫であることに負い目を感じていました。そんなある日、親友の息子の憲弘が書いた作文を見てしまって……。

最近でこそ、イクメンという言葉も出てきて、多少は世間の理解を得られるようになってきましたが、十数年前に専業主夫をしている人など今よりもっと少なかったことでしょう。本作の出版と同時期にテレビでは専業主夫ドラマ『アットホーム・ダッド』が放送されていたものの、現実で専業主夫をしていようものなら、世間様から何を言われるかわかりません。

本作の渡辺毅も世間の目を気にして劣等感を覚えます。

憲弘の作文の「タケパパは家にいて、ごはんを作ったりそうじをしたり……」のくだりに、毅はつまり劣等感を刺激されたのだ。その劣等感は、かつて妻に毅が「自分の忙しさ」を必要以上に強調した理由と、深く関係がある種類のものだ。――オトコの沽券。
(『ウェルカム・ホーム!』より引用)

オトコの沽券についてウジウジ考える中年の男が主人公と書くと、そんな小説が面白いのか?と思うかもしれませんが、これが面白いんです。

本作が素晴らしいのは、たった100ページで、別に専業主夫でもいいじゃん、フツーってなんだよフツーじゃなくていいじゃん、と思わせてくれること。しかも泣けるんです。

読みやすいので、読書に慣れている人なら1時間、慣れていなくても2時間あれば読めるでしょう。本屋に行って、手に取ってみてください。きっとこれなら読めると思えるはずです。

もう1作、「児島律子のウェルカム・ホーム」は、渡辺毅と対を成すようにキャリアウーマンの児島律子が主人公。

外資系証券会社に勤めるキャリアウーマンの律子には、2度の離婚経験がありました。そんな律子を、会ったことのない青年が訪ねてきます。

「僕、セイナさんと結婚しようと考えている者です」

セイナとは、律子の元旦那の連れ子で……。

ひとりで仕事をバリバリこなすキャリアウーマン律子。彼女の2度の結婚生活はいいものとは言えませんでしたが、2度目に結婚した相手の連れ子セイナのことは心の底から愛していました。

血もつながっていない、一緒に住んでもいない、長い間会ってもいない。そんな関係の律子とセイナ。でも、そんなことは本当に重要なことではないんです。「人生において本当に大切なことは何か」、その問いへのひとつの回答が本作では示されています。

冒頭で書きましたが、本作は限りなく完璧に近い小説です。削るべきところがありません。短いけれど軽いわけではなく、普遍的なテーマを深く伝えてきます。

2作とも、ふたりの現在、そして過去について語られる構成になっており、そのふたつの時間軸を混乱なく、過不足なく書くことに成功しているところが本作の大きな魅力でしょう。作品を読み終える頃には、たった100ページで、主人公の半生に関して詳しく知ることができるのです。そして、その半生を踏まえてのラストは2作とも感涙必至。泣ける小説=いい小説だとは思いませんし、「泣ける」と帯に書いてある小説でもめったに泣くことはありませんが、そんな僕でも泣かされました。

ほとんどワンコインで買えて、2~3時間で読める、限りなく完璧に近い小説。この機会に読んでみませんか?