エログロホラー漫画『青の母』の魅力を全巻ネタバレ紹介!

更新:2021.11.12

独特のセンスが光る和風ホラーとして、一部のファンに熱狂的な支持を受けた『青の母』。多くの謎が渦巻くストーリー展開は、読み始めると止められない中毒性があります。続編であり前日譚と言われる『鬼喰い少女と月梟』もあわせて紹介します。

ブックカルテ リンク

ドブメにフクロウ、謎だらけのエログロホラー『青の母』を4巻まで全巻ネタバレ紹介!

著者
茂木 清香
出版日
2014-08-20

孤児院で育った少女・絲子(いとこ)が、結婚式のために訪れた山間の村“水籠村(みずごりむら)”に残る、奇妙な因習。そして少しずつ明らかになる、村の陰惨な秘密と真実。続々と現れる登場人物たちがそれぞれ背負っている、重い運命と業……。それらを乗り越え、絲子は愛する冬弥(とうや)と“仕合わせ”になることはできるのでしょうか!?

謎が多く、登場人物の過去や言葉遊びなどをまじえ、まるで深くて暗い山を分け入るように探っていく『青の母』の物語。この記事ではその謎と展開について、かなりのネタバレ込みで全容を解説します。新進気鋭の作家・茂木清香(もぎ さやか)の独特のセンスが、少しでも伝われば幸いです。

『青の母』のグロテスクさにあなたは耐えられる?【あらすじ】

『青の母』のグロテスクさにあなたは耐えられる?【あらすじ】
出典:『青の母』1巻

実の母を目の前で失った絲子は、それ以来「人が死ぬときのうた」にとらわれて、まるで心のない人形のように暮らしていました。しかしそんな彼女の心をよみがえらせたのが、孤児院によく遊びに来ていた優しい少年・冬弥です。そして時は流れ、2人は冬弥の故郷の水籠村で、村の風習にのっとって結婚式を挙げることになります。

ようやく好きな人と結ばれ、幸せになれると喜ぶ絲子。しかし彼女の結婚式は突如乱入した“フクロウ”“ドブメ”によって砕かれます。冬弥は血を流し倒れ、絲子はなんと人形の姿に!? 村の因習の根本にかかわる“青の母”の謎に触れ、絲子は自分と冬弥の真実を知っていきますが……。

謎だらけの村の秘密【1巻ネタバレ注意】

冬弥の故郷・水籠村に、彼との結婚式のために訪れた絲子。すでに村の奇妙な因習――結婚式で花嫁そっくりの人形を奉納するということを知っていましたが、心から愛せる人と結ばれるという期待で、彼女の心は幸せいっぱいでした。

彼女の幸せな心に暗雲が立ち込め始めるのが、結婚式の最中です。火の中にくべられた人形が、謎の言葉を発し、式場中の人形が口をそろえて唱え始めるのです。「アオノハハコドクノナカデコヲハラム」――と。

そしてそこに乱入してくる、醜悪な化け物“ドブメ”と、仮面をかぶった謎の男“フクロウ”。彼らによって参列者は次々と殺され、なんと冬弥までもその手にかけられてしまうのです。そこで気を失った絲子が次に目を覚ましたとき、彼女は動くこともしゃべることもできない人形の中に、魂だけを入れ替えられていました……。

著者
茂木 清香
出版日
2014-08-20

かなりグロテスクなシーンが続き、ここまででもホラーが苦手な人にはおそらく耐えられないでしょう……。しかし幸せから突如転落させられた絲子のことが気になって、この先を読まずにはいられなくなります。これが茂木清香の世界なのです。

この作品、特に導入となる第1巻でフェティッシュな魅力を感じさせるのは、魂を宿された人形と、道具として使われる女の体でしょう。茂木の絵は柔らかいタッチなのですが、球体関節などにこだわった作画が、何ともいえない後ろ暗さと妖艶さを醸し出します。そこに性的な要素も加わり、精神的にも影響力のあるホラーとなっているのです。

また異形の存在ドブメも同様で、見た目は単に醜悪ですが、だからこそなぜそうなったのか、どういう存在なのかが気になって仕方がありません。さらにその成り立ちを知れば、彼女たちに不思議な愛着すらわくことでしょう。

コドクとドブメの真相【2巻ネタバレ注意】

御山の中で出会った少年・すずめが言うには、青の母は病気や怪我を直してくれる存在ということでした。しかし彼は結婚式をぶち壊したフクロウの仲間。絲子は何を信じていいのかまったく分かりません。しかし彼女は偶然行き着いた一里塚の小屋で、その真実を知ることとなります。

そこにいたのは、何人もの腹の膨れた女たち。みんな人形のように無表情な彼女たちの中に、絲子はなんと、魂の抜けた自分の体を見つけました。そう、そこにいたのはみんな、青の母にされた女たちだったのです。

著者
茂木 清香
出版日
2015-03-10

青の母とは何なのか、ドブメとはどういう関係があるのか。それを絲子に語って聞かせたのは、ずっと青の母の管理を担ってきた一族・物部(もののべ)家の末裔である空木(うつぎ)でした。この巻では、新キャラクターの空木が、かなり重要な発言をするので注目です。

青の母とドブメの秘密のほかにはこの2つ。

「あいつは昔っから一人の女のことしか考えちゃいねぇ もちろんアンタのことじゃない」(『青の母』第2巻56ページより)

あいつというのは冬弥のことです。その後に冬弥はこの台詞について、もしかして、と「月乃」という名を口にします。はたしてそれは誰なのか?

「そんな芸当が出来るのはそれこそ神がかり的な力を持った奴じゃねぇと 御山の子とかよ」(『青の母』第2巻162ページより)

御山(おやま)の子”。青の母の謎が解けた途端に、新しいキーワードが生まれました。ひとつが明らかになれば、また別の謎が生まれていく展開。絲子が幸せになれるのかどうかを気にして追いかけていくうちに、物語世界全体の謎が気になって仕方なくなるのがこの作品の最大の魅力といえるでしょう。

読んでいると暗くて奥深い山を、先に見える小さな明かりを追いかけて進んでいくような錯覚に襲われます。しかもその明かりが、出口へ向かっているのか帰れないくらいの奥山へ誘っているのかわからないのです……。

冬弥、絲子、空木、フクロウ……。それぞれの思惑が絡み合う!【3巻ネタバレ注意】

第2巻までで、大方役者はそろったというところでしょうか。第3巻から、物語は一気に佳境に入ります。少しずつ分かってきたのは、絲子は冬弥にとっても水籠村にとっても、「特別」であるということです。絲子が人形の体になっても動けたこと、そしてそもそも冬弥が絲子を選んだ理由、それらはこの村が葬ったある過去に根ざしていたのです。

そして実は冬弥は、村にとって最も特別な存在でした。空木は絲子と共に迷い込んできた冬弥を見て、実はそのことに薄々感づいていました。かつ、空木は冬弥とはまったく逆の意味で特別な、村にとって最も忌まわしい運命を背負った一族の末裔だったのです。

そんな2人の過去に共通しているのが、御山に愛され、おぞましい何かをまとった最強の存在、御山の子。それこそが、今ここで絲子、冬弥、空木、そしてフクロウがそれぞれの思惑のために戦う因縁を作りました。

著者
茂木 清香
出版日
2015-09-10

4人の目的と想いが明かされていく第3巻は、まさに起承転結の「転」といえる巻。特に後半は一気にカードが裏返っていくような、そこにあると信じていたものが振り返ったらなかったような、そんな気分が味わえます。

そして最大の見どころは、作者も思い入れが強かったであろう空木の親子愛です。一族に懸けられた呪いから、業の深い役割を担わねばならなくなった彼の、少年時代からこれまでの人生が描かれます。狭い村のさらに狭い土地に押し込められて生きてきた彼の、純粋な恋心やその先にあるものを知れば、ただ残酷なだけのホラーではないことがわかるでしょう。

物語の真相は過去にあり【4巻(最終回)ネタバレ注意】

第3巻のラスト、一里塚での修羅場から、すんでのところで現れたフクロウによって引き離された絲子。少しずつ村のことを知ってきたはずだったのに、また何もかもわからなくなってしまいました。もちろん読者もそうです。

そこで説明してくれるのが、再び現れたフクロウなのですが、ここで彼と冬弥に関する驚愕の事実が明らかになります。真実を知り、御山の中で山鬼たちにかこまれて遠い記憶と新たな力に目覚める絲子……! その他のキャラクターも、みんな自分の人生にひとつの答えを出し、決断します!

著者
茂木 清香
出版日
2016-07-20

……と、すべてがつながる最終巻ではありますが、残念ながらラストを消化不良だと感じた人が多いのも事実。その理由は主に、結末がやや唐突だったことと、キャラクター全員の因縁について、最後にわかりやすいまとめがなかったことです。特に読者が気になったのは、後者ではないでしょうか。

特に最後に出てきた「縁」という名前。これまでにも何度か出てはきていて、全部読み返してみれば一応それなりに納得できる仮説は立てられるようになっています。しかし親子を中心とする登場人物たちの人間関係は、物語のテーマにも深くかかわっているので、できればはっきりとした答えを描いてほしかったというのが多くの読者の希望でしょう。

2018年現在作者の茂木は『鬼喰い少女と月梟』という作品を連載しています。そこで描かれているのが、『青の母』の登場人物たちの過去なのです。冒頭には、フクロウが他の山鬼たちと弥までの生活を送る姿があります。

なのでおそらく、『青の母』の消化不良感は、前日譚であり完結編であると銘打たれた『鬼喰い少女と月梟』で明かされるのではないでしょうか。茂木は他の作品をちゃんと完結させてきた実績があるので、まさか半端なところで物語をほっぽりださないだろう……と、個人的には思っています。

新進気鋭のホラー漫画家・茂木清香(もぎ さやか)の代表作のひとつ、『青の母』。和風ゴシックホラーとしてマニアの人気を集めた良作です。外界との接触を絶った山間の村、人形奉納の風習、青の母と呼ばれる禁忌の存在など、序盤から雰囲気たっぷりに読者を引き込みます。特にテレビドラマ『TRICK』などが好きな人にはぴったりの作品といえるでしょう。

『青の母』は全4巻で完結していますが、現在連載中の『鬼喰い少女と月梟』はその前日譚であり完結編であるとされていて、あわせて読むとさらに理解が深まりすっきりできるのではないでしょうか。というわけで、両方読むのがおすすめです!

  • twitter
  • facebook
  • line
  • hatena
もっと見る もっと見る