アニメ化もされた『夏雪ランデブー』などで知られる河内遙。丁寧な内面の描写と、作品ごとに異なるバラエティ豊かな設定が魅力的です。今回はまだ彼女をよく知らない方向けに、おすすめの5作品をご紹介していきます。
河内遙(かわうちはるか)は東京都出身の女性漫画家。東京都立芸術高等学校の油絵科を卒業しています。
現在では女性誌などの活躍で有名ですが、デビュー作はサブカル系漫画誌「アックス」に掲載された『ひねもすワルツ』という作品。「アックス」はあの伝説的サブカル誌「ガロ」の直系なので、彼女の出身としては少し驚くかもしれません。
河内は幼いころから両親の漫画の影響を受けて育ち、「コロコロコミック」や「コミックボンボン」などの児童誌、「ちゃお」や「りぼん」などの少女漫画誌は当然として、青年誌の「ビッグコミックスピリッツ」、果ては「COM」や「ガロ」まで驚くほど濃い漫画歴を誇っているのです。
積み重ねた歴史を反映してか、その作風は変幻自在。切ない恋愛モノからラブコメ、エロティック、かと思えば少し戸惑ってしまうようなサブカル系まで多種多様です。
この記事では、代表作を含むおすすめの5作品を紹介していきます。
関根圭一郎(せきねけいいちろう)は、なんでもそつなくこなせるエリートサラリーマンです。順風満帆にも見える彼の人生ですが、実はこれまですべてにおいて受け身で生きてきました。
30歳にしてそれを自覚した彼は、新たに趣味を始めようと手芸用品店「キサラギヤ」に通うようになります。そこで講師の如月サラと出会い、彼は生まれて初めて積極的な行動をとろうと、心境を変化させていくのです。
- 著者
- 河内 遙
- 出版日
2009年から「マンガ・エロティクス・エフ」で連載されていた作品です。
イケメンで、エリートの眼鏡男子な主人公の関根。頭が良くて仕事もでき、運動神経も抜群です。当然のように女性ウケも良く黙っていてもモテるので、これまで恋愛関係で悩んだことがありませんでした。
ただ、肉体関係を結んだことも当然ありますが、それらはすべて女性側からのアプローチ。彼は「超」が付くほどの奥手で恋愛下手だったのです。
自分の気持ちにも鈍感で、これまで苦手だと思い込んでいた高校時代の同級生が、実は意中の人だったこともサラに指摘されて気づく始末……。しかし彼女はすでに結婚してしまい、時すでに遅しです。
そんな彼が、サラの導きによって徐々に変化していきます。今度こそはと自分の新しい恋に前向きになっていくのですが、その様子は実に中高生の初恋のようにウブ。遅々として進みません。
モテモテなイケメンエリートなのに、途轍もないナイーブさも内に秘めた関根。天然女たらしの精神的童貞という新感覚恋愛漫画です。
『関根くんの恋』については<漫画『関根くんの恋』の受け身イケメン男子の恋を全巻ネタバレ紹介!>の記事で紹介しています。気になる方はぜひご覧ください。
片桐陽菜(かたぎりひな)は、雨の日になると必ずみる夢がありました。見知らぬ洋館の庭で、幼い自身が少年と出会い、雨宿りするというもの。
ある日、彼女がいつもどおりに高校で授業を受けていると、奇妙な感覚に襲われます。そして気が付くと、夢でみる洋館の庭に倒れていました。
そこで出会った青年、本郷孝章(ほんごうたかあき)は彼女のことを「雛子様」と呼び、丁重に扱います。
様式も風俗も何もかもが違う場所。そこは明治40年、過去の日本だったのです……。
- 著者
- 河内 遙
- 出版日
- 2015-10-13
2014年から「Kiss」で連載されている本作。これまでの河内作品とは打って変わって、SFチックな歴史ロマンスとなっています。
主人公の陽菜は今風の女子高生です。剣道をしているせいか度胸もあって、物怖じしない元気な子。明治時代にタイムトラベルしてしまった彼女は、あれこれ考えた結果、いつもみていたあの夢が、実は夢ではないという考えに至ります。
彼女がタイムトラベルをするのは2度目で、夢だと思っていた出来事が最初の時間旅行だったのだ、と。どうやら曾祖母から受け取った首飾りが鍵になっているようなのですが……。
しかも明治時代には、陽菜と瓜二つで本郷孝章の許嫁でもある北峯雛子(きたみねひなこ)という女の子が存在します。
実は、陽菜がずっと夢でみた孝章を心に留めていたように、彼もまた陽菜を想っていたのです。しかし彼は見た目がそっくりな雛子のことをかつて出会った少女だと思い込んでいました。
考えた結果、陽菜が雛子の身代わりとなって孝章の相手をすることに……。
果たして陽菜は現代に戻ることができるのか?孝章との関係はどうなるのか?じれったくて切ない明治の恋浪漫です。
22歳の葉月亮介(はづきりょうすけ)は、「SHIMAO」という花屋でアルバイトをする青年です。店長の島尾六花(しまおろっか)に一目惚れしたことをきっかけに、ここで働きはじめました。
彼女は30歳ながら、まだ浮いた話のひとつもなく、亮介も対象外扱いされて悶々とする日々を送っています。
ある日、六花の自宅へ招かれた亮介は、なんとそこで幽霊の篤(あつし)と出会うことに。実は六花は3年前に夫と死別していたのです。
亡くなった夫に未練のある六花、六花に片想いする亮介、そして元夫として彼の恋路を邪魔する篤の、奇妙な三角関係が幕を開けます。
- 著者
- 河内 遙
- 出版日
- 2010-02-20
2009年から「FEEL YOUNG」で連載されていた作品。未亡人の六花と亮介だけならよくあるラブストーリーですが、何といっても特徴的なのは幽霊として彷徨う篤の存在です。三角関係の一角が幽霊というのはなかなかないでしょう。
しかもその幽霊が、恋敵の男にしか見えないというのがポイントです。篤は3年間ずっと六花に取り憑いて(?)いましたが、彼を認識できたのは亮介のみ。六花本人にすら気付かれないことをいいことに、篤はことあるごとに割って入っては、新しく始まりそうな恋愛の邪魔をするのです。
お互いに想いあっていたとはいえ、生きている六花と幽霊の篤には越えがたい壁があります。しかも亮介も悪い男ではないので、段々と彼女の気持ちが傾いていくのです。それを篤はただ見ていることしかできません。
その一方で亮介が篤に遠慮することもあり、篤も会話をできるのが亮介だけなので、なかば友人のようにもなっていきます。
奇妙で切ない三角関係の行く末を見守ってください。
女子大生のナズナは、毎夜机に向かうも、ラブレターを書きだすことができずにいました。そんな彼女を見かねたのが、文房具たちです。
がさつな少年のようなシャーペンの「シャア」、達観する中性的な消しゴムの「ケシ」、定規の女装男子「ジョー」。彼らは一致団結してラブレターの代筆をするのですが……。
擬人化された文房具たちが活躍する、珠玉の純愛ファンタジーになっています。
- 著者
- 河内 遙
- 出版日
- 2014-09-10
本作は、2009年から「月刊flowers」で断続的に発表されていた作品集。個々のストーリーは独立していますが、登場人物は共通している連作短編になっています。
全8編で描かれているのは、恋愛や夢に悩む普通の人々の物語。しかしそこで異彩を放っているのが、文房具たちです。
シャーペン、消しゴム、コンパスに万年筆など、日常的に身の回りにある彼らは、それぞれが自分の領分で持ち主の力になろうと奔走します。
古来から日本人には、「物には魂が宿る」という考え方がありますよね。大事に使って愛着のある文房具たちが、主人の気付かないところで助けてくれているというのがなんとも素敵。河内の魅力がたっぷりつまった短編集です。
主人公の「キー坊」こときいちは、祖母から譲り受けた平屋の家でひとり暮らしをしています。
その家にはいつも何かと人々がやってきて、団欒に花が咲くのでした。
- 著者
- 河内 遙
- 出版日
- 2010-04-19
2009年から「まんがタイムラブリー」で連載されていた作品。全14編で、すべてが10ページ程度のショートストーリーになっています。基本的な舞台は祖母の家、主要人物はキー坊で、毎話彼の家族や友人が家にやってくるのです。
四季の移ろいを楽しみながら近況を話したり、思い出話に浸ったり。そして彼らの談笑を彩るのが、色とりどりの料理です。
即席お子様ランチ、正月の鏡餅、ねこまんま、ホットドッグ、いなり寿司……どこの家庭の食卓にもありそうな平凡な料理が、他愛のない会話に添えられてほっこりします。
平屋を訪れる魅力的なゲストの話に引き込まれ、気がつけば彼らと一緒に食事をしたくなっているはず。
いかがでしたか?魅力あふれる河内遙の世界が少しでも伝われば幸いです。今回ご紹介できなかった作品も、どれも外れなし!ぜひ1度手に取ってみてください。