1861年4月、アメリカ合衆国は、その社会全体が死に直面する戦争に突入しました。黒人奴隷を雇って綿花栽培をし、その輸出で経済を支えている南部州と、工業化による保護貿易と黒人奴隷の解放を目指す北部州の戦いです。この記事では南北戦争の概要と、原因や結果、そしておすすめの関連本を紹介していきます。
1861年4月に起きた、アメリカ合衆国の歴史で唯一の内戦である「南北戦争」。アメリカ合衆国を脱退した南部7州と北部諸州の戦いは熾烈を極め、また小銃の技術革新が進んだ時期に発生したため、殺戮の恐ろしさをまざまざと見せつけたものとなりました。
戦いは1865年4月に、北部諸州の勝利で終了。しかし死者数は諸説ありますが約62万人にまでのぼる、悲惨な結果となります。
兵器の技術が進歩していくのに対し、アメリカ合衆国の社会制度はあまりにも未熟。死体は放置されて埋葬することすら困難な状況になります。腐乱したそれはチフス菌などの伝染病を発生させ、実際の戦場以外にも広がっていきました。
この62万人という戦死者数は、これまでアメリカが経験したすべての戦争の犠牲者を合わせた数よりも多くなっています。
南北戦争の原因として、北部と南部の経済基盤となる産業の差異と、それにともなう「黒人奴隷解放」の問題が挙げられます。
北部諸州は近代工業化を進め、保護貿易による国内産業を優先していました。労働力を欲しており、黒人奴隷の解放が利益になると考えています。一方の南部諸州は黒人奴隷の労働力に支えられた大規模綿花栽培のプランテーションによって綿花をイギリスに輸出しており、自由貿易を望んでいました。
南部としては、黒人奴隷を解放することは経済の基盤を揺るがすことにつながり、許容できるものではありません。
1861年3月、エイブラハム・リンカーンが第16代アメリカ合衆国大統領に就任します。彼は黒人奴隷解放を主張していたため、南部は危機感を募らせました。7州が合衆国を脱退し、ジェファソン・デヴィスを大統領とする「アメリカ連合国」の樹立を宣言するのです。
そして4月、南部の軍が「サムター要塞」を砲撃することで、南北戦争が始まりました。
南北戦争は、北部の勝利で幕を閉じます。これによってアメリカ合衆国は工業化が進み、強大な近代国家へとなっていくのです。さらにより中央政権的な国家としてまとまりを見せることとなり、これ以降内戦は一切起きていません。
終戦後の1865年1月、憲法の修正が連邦議会で成立し、奴隷制度の禁止が具現化しました。犯罪に対する刑罰以外で、意に反する苦役を与えることを禁止したのです。
しかしその後も南部では黒人の公民権を否定する運動が起き、人種差別自体が無くなったわけではありません。
またこの戦争は、アメリカ社会全体に「死」を実感させるものでもありました。多くの死者が出た理由のひとつに、小銃の技術革新が挙げられます。従来の銃よりもはるかに射程距離が長く殺傷能力も高いものでしたが、軍の戦術は従来のままだったため、高い命中率で多くの兵士が亡くなりました。
これは、アメリカ人の心に大きな影響を与えます。もともとキリスト教国家だったアメリカは、人間の「死」をより深く考えるようになり、キリスト教をベースとする多様な新興宗派を生み出す独特な文化ができあがりました。
「学習まんが」と呼ばれるジャンルはかなり長い歴史を持っており、視覚から訴える表現方法は、もしかしたら歴史を学ぶうえで最適なものかもしれません。
本書は、アメリカの独立から南北戦争までを描いています。洗練された絵柄が読みやすく、幅広い年代の方に手に取っていただきたい一冊です。
- 著者
- 出版日
- 2016-02-09
コロンブスによって発見される前に栄えていたアメリカ文明の解説からはじまり、エイブラハム・リンカーンと南北戦争、そしてアメリカに影響を与えたナポレオン後のヨーロッパの動きを解説しつつ、アメリカ合衆国の歴史を紹介しています。
子ども向けのようにも思えますが、内容自体はかなり本格的。大人が読んでも十分楽しめるでしょう。
「人民の人民による人民のための政治」というリンカーンの言葉は、多くの日本人が知っているのではないでしょうか。
本書は、南北戦争において北部の指揮官を務めた彼を描いており、いかにして勝利へ導いていったのかがわかります。
- 著者
- 内田 義雄
- 出版日
リンカーンは戦争における情報の重要性を認識し、実用化されて間もない「電信」を利用した軍隊の運用をおこないました。これはその後の戦争にも大きな影響を与えましたが、長らく機密保護されていたものです。
本書には、彼がどのようにして戦争を指揮していたのかが、最新の史料を用いて詳しく解説されており、また政治方針や人柄についても記述されています。
当時のアメリカでなぜ内戦が起きてしまったのかを理解するのに、最適の一冊だといえるでしょう。
20世紀から21世紀にかけて、超巨大国家となったアメリカ合衆国。経済や安全保障の面で、日本にとっても重要なパートナーとなりました。
本書は上下巻に分かれており、アメリカが超大国となるまでの歴史が刻まれています。虐げられてきた弱者の姿を拾いあげ、現代のアメリカに繋がる道のりが描かれているのです。
- 著者
- ["ハワード ジン", "レベッカ ステフォフ"]
- 出版日
- 2009-08-01
自由の国アメリカ、アメリカンドリームという言葉があるように、日本人はアメリカの明るい部分に目をやりがちです。太平洋戦争中ですら、一般庶民における対米感情はさほど悪くなかったという研究も発表されているほど。
しかし、我々がイメージしているアメリカと、「本当の」アメリカに差異はないのでしょうか。
本書を読めば、その答えに近づけるはずです。もしかしたらアメリカ人はあまり触れたくないような歴史的事実が言及されており、アメリカ合衆国という国家を紐解くうえでおすすめの一冊になっています。
日本人にとってアメリカは、大きな影響力を持つ国です。経済、安全保障ともに、いまだ日本の最重要パートナーであることは間違いありません。そんなアメリカの国家としての方針を決めた南北戦争について知ることは、我々にとっても非常に重要なことではないでしょうか。