
11文字の殺人

作者 | 東野 圭吾 |
---|---|
出版社 | 光文社 |
出版日 | 情報なし |
いつもホンシェルジュで自分好みの本をおすすめしていますが、これまで誰かから勧めてもらった本を読む機会はなかったので、モバイルサイトで配信している自分のラジオのコーナーを利用してファンの方からおすすめの本を教えてもらうことにしました。この作品はラジオで教えてもらった本の中から選んだ一冊です。推理小説は私にとっては難解で読みにくいのでは……と今まで躊躇していましたが、読み始めてすぐ物語に入り込むことができました。
ある日、女流推理作家の主人公は恋人から「誰かが僕の命を狙っているらしいんだ」と打ち明けられ、しばらくしてその通りに恋人は何者かに殺害されてしまいます。主人公は自らの職を利用して、推理小説を書くためと嘘をつき、事件の真相を明らかにするため、恋人と関わりのあった人物達と接触していきます。しかし、疑いをかけた人達が次々と殺されていく……。一体犯人は誰!?と、ハラハラドギマギしながら読むことができました。
窮地に立たされた人間の欲深さと愚かさ、そして深い悲しみ。「無人島より殺意を込めて」の11文字に込められた思いがひしひしと伝わってきました。これを機に推理小説を読むのが癖になりそうです。
くまとやまねこ

作者 | 湯本 香樹実 |
---|---|
出版社 | 河出書房新社 |
出版日 | 2008年04月17日 |
湯本香樹実さんの小説は、これまで2作ほど紹介させていただいていますが、今回は絵本です。
ある朝、くまは ないていました。 なかよしのことりが、しんでしまったのです。
ページを開いてすぐ胸を締め付けらました。悲しみに暮れるくまは、ことりを綺麗な箱に入れて、いつもどこに行くときも持って歩いていました。いい天気のある日、くまが外を歩いていると、バイオリン弾きのやまねこに出会います。この出会いが、ずっと落ち込んでいたくまの心を癒してくれるきっかけとなるのです。
この作品を読んで、失うこと、向き合うこと、見つめることをあらためて学んだ気がします。そして、音楽のあり方が本当の意味で、こうであればいいなと思いました。それがどういうことかはぜひこの絵本を読んで「こういうことか」とあなたなりに感じてもらえたら嬉しいです。
酒井駒子さんが描く動物たちの表情やしぐさにもはっとさせられました。絵だけでなく、この方の作品も素晴らしいので、酒井駒子さん作・絵の『よるくま』もおすすめです。
伝わるちから

作者 | 松浦 弥太郎 |
---|---|
出版社 | 小学館 |
出版日 | 2017年12月06日 |
毎度のことながら作者の書く文章は、ご本人から直接お話を聞いているような感覚になります。言葉から滲み出る何かがそう感じさせているのでしょうか……。
さて、この本には“人と寄り添うコツ”が分かるエピソードが散りばめられていて、背筋がピンと伸びるようなことがたくさん書かれています。人と関わる場面によってChapter(章)で分けられているのでとても読みやすかったです。
なかでも私がとても気に入ったのは【Chapter1−お礼上手になる】に書かれていた〔お弁当作り〕のエピソードです。「年老いた父親の誕生日にプレゼントをあげたいのだけれど、何をあげたらよいだろうか」と友人から相談を受け、作者は「大好きなお弁当を作ってあげたらどうか」と答えます。高齢になると身の回りで必要なものは少なく、まごころを込めた手作りのご飯が一番喜ばれるのではないか。お父さんにどんなお弁当が食べたいかを聞いて作り、それを家族みんなで一緒に食べたらもっと喜ばれるのではないか、と思ったからだそうです。一緒にお弁当を食べる家族の風景を想像しただけで、私も笑顔になってしまいました。
作者自身が学生の頃、母親に作ってもらったお弁当を「おいしかったよ」と素直に言えなかったことなど、お弁当にまつわる他のエピソードにもとてもほっこりしました。
結局、友人の父親が食べたいと言ったのは梅干しとご飯だけの日の丸弁当で、それを家族全員で食べ、父親は泣いて喜んでいたそうです。お父さんには日の丸弁当にどんな思い出があったのでしょう?
私にも忘れられないお弁当の思い出があります。お弁当のエピソードに限らず、あらゆる出来事には意図していなくても何かが“伝わるちから”が備わっていたり、何かを身につけるチャンスが転がっているのだとこの本は教えてくれます。
読み取るものは人によって違うかもしれませんが、それもまた本の面白いところではないでしょうか。“伝わるちから”を感じたら、次はそれを“伝えるちから”に変えていける! そんなやさしい勇気をくれる一冊です。
コメント
キーワード・タグ
関連記事
-
“お年頃”な女性にエールを送る本【住岡梨奈】
もうすぐ2018年が終わろうとしていますね。私は来年、20代最後の年を迎えます。 憧れの30代を目前にワクワクする気持ちの一方で、結婚や出産などについて意識せざるを得ず、目には見えない圧を感じている今日この頃。様々な...住岡梨奈2018.12.19 -
スラスラ読めるスパイシーな短編集【住岡梨奈】
今までいくつもの長編物語を紹介してきましたが、正直に言いますと、大人になってから長編物語がほんの少し苦手になりました。一旦時間を空けてから読むと登場人物の名前を忘れてしまっていたり、人よりも読むのが遅いのでなかなか他の...住岡梨奈2018.10.29 -
祝・創刊50周年!週刊少年ジャンプの軌跡と魅力
2018年。 今年はなんと、週刊少年ジャンプの創刊50周年イヤー!パンパカパーン! 1968年の創刊以来、数々のビッグタイトルを生み出してきた週刊少年ジャンプ。 私も小学生の頃からジャンプっ子で、毎週月曜日の発売...わちゅ~@Thinking Dogs2018.08.17 -
BURNOUT SYNDROMES熊谷和海が選んだ「機械」がテーマの3冊
パソコンに強い方の助けを随時募集中。iPhoneも使いこなせない男・BURNOUT SYNDROMES熊谷です。機械オンチの僕にかかればGPSは反応せず、なぜかリマインダーは動作しない……しかしこれら情報デバイスとは切...熊谷和海2018.08.16 -
不思議な物語を求めている方におすすめする本【住岡梨奈】
今回は“不思議”な物語を選んでみました。 「読み終えたのに何だかすっきりしない!」という感覚が年齢を重ねてから面白く感じるようになりました。時間を置いてもう一度読み返したくなる3冊です。 この3冊に他にも共通点があ...住岡梨奈2018.07.26 -
価値感が破壊された一冊【それでも世界が続くなら・篠塚】
こんばんわ、それでも世界が続くならというバンドをやっている篠塚です。 この度、ホンシェルジュで連載させていただくことになりました。 僕のバンドの音楽を知ってるとか知らないとかは関係なく、僕の人生を変えた本を紹介...篠塚将行2018.07.25 -
不意打ち注意!意外性バツグンの結末が待ち受けている小説
どうも、わちゅ〜さんです。 本を何冊も読んでいると、自分の好みがどんなものか分かってきますよね。 かく言う私は大のミステリー好き。 特に、意外な結末が待ち受けている作品には目がありません。 たとえば、物...わちゅ~@Thinking Dogs2018.07.12 -
「医療」をテーマにセレクトした3冊【熊谷和海】
BURNOUT SYNDROMES熊谷です。大分遡るのですが、連載5回目で鼻炎対策の手術を受けた話を書きました。しかしやっぱり花粉のシーズンになると鼻が詰まる詰まる。なので我が人生のラスボス・鼻炎にリベンジせんと更なる...熊谷和海2018.06.26 -
夜更かし注意!読む手が止まらなくなるドキドキのサスペンス
どうも、わちゅ〜さんです。 今回のテーマは、ドッキドキのサスペンス小説! 私はいつも寝る前に本を読むのですが、たまーに当たってしまうと厄介なのが、面白すぎるサスペンス小説。 あれ、眠れなくなるんですよね。 ドキ...わちゅ~@Thinking Dogs2018.06.14 -
人と人の間を掴む本【住岡梨奈】
突然ですが、仕事仲間や友人、家族や恋人に対しての気持ちの割合は、みなさんどのようになっていますか? グラフにして見てみたいほど気になります。気持ちを目で確かめることが出来れば、相手や自分自身を傷つけずに済むかもしれな...住岡梨奈2018.05.30