「私たちはどこから来て、どこへ行くのか……」の答えを探しに行く本。

「私たちはどこから来て、どこへ行くのか……」の答えを探しに行く本。

更新:2018.1.25 作成:2018.1.25

宇宙地球科学者の寺田先生が、専門である星の本のみならず、料理の本までも紹介します!

寺田健太郎プロフィール画像
宇宙地球科学者
寺田健太郎
大阪大学大学院理学研究科・教授(宇宙地球化学)。 太陽系の美しさ・不可思議さ、広く希薄な宇宙空間における地球誕生の偶然性・必然性に魅せられて、現在に至る。。専門は同位体宇宙地球化学。太陽系の年表を再構築するのが夢。 最近のマイブームは、「月に吹く地球からの風」→ http://www.sci.osaka-u.ac.jp/ja/topics/5489/ 2011年文部科学大臣表彰「科学技術賞 研究部門」受賞。
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地質学者によるレシピ本!

今回紹介するのは、美食家で知られる現役・地質学者が、和食とその食材の究極のルーツ(=日本列島の成り立ち)について解説する異色作だ。グルメ好きにも、地球惑星科学好きにも、満足・満腹の一冊。おすすめ。

「マグマ学者の著者が姪御さんと1ヶ月に1度、美味しい和食を食す」という内容で、たとえば、1月ならおでん、2月は寒ブリ、3月はボタンエビ、4月は筍、という具合に、四季折々の和食に舌鼓を打ちながら薀蓄(うんちく)を傾ける・・・。と、ここまでなら、ありがちなグルメ解説本の展開なのだが、本書はそこから一味も二味も違う。

料理の味の良し悪しは食材に起因するのは言うまでもない。しかし、地質学が専門の著者は日本列島の地勢や自然の地球科学的な営みこそが、「和食の繊細な旨味を引き出す」と説くのである。例えば、1月の「おでん」は、だし汁が命。昆布やカツオの旨味成分(アルギン酸)を効果的に抽出するには、ミネラル成分の少ない日本の軟水が適している(ヨーロッパの硬水の場合、水の中のカルシウムがアルギン酸と反応し昆布表面に沈殿物を作ってしまうらしい)。この「水」の違いは、川が流れる日本列島とユーラシア大陸の「地盤の化学組成」はもちろん、川の流れる速度(すなわち山の傾斜角)と関係があるという。ではなぜ日本の山は険しいのだろう・・・。

著者
巽 好幸
出版日
2014-11-22

また10月の食材は、「森の宝石」とも呼ばれる松茸。松茸は、貧栄養で乾燥した花崗岩質の土質を好むそうだ(葉や枝が地表に落ちて腐葉土ができあがると松茸の生育に向かないとのこと)。ちなみに、花崗岩とは、陸地を構成する一般的な岩石で、お城の石垣や墓石など、どこにでもある普通の石なのだが、月や火星や小惑星などでは今のところ見つかっておらず、宇宙科学的には非常に稀な存在。ではこの、地球特有の花崗岩はどうやってできたのだろう・・・とマグマ学専門の著者の真骨頂で、地球科学の世界へと誘われていくのである。

そもそも、「料理」とは、浸透圧や、対流や、熱伝導などが複雑に絡み合った物理化学プロセスだ。地球誕生時の「マグマオーシャン」と呼ばれる、岩石のスープの状態から、海や大気、大陸やマントルが形成されていく過程と本質的には同じ、なるほどね。。。と、思ってしまった私は、すでに巽氏に上手に料理されているのかもしれない。

「食べものって、その背景にある自然の営みを知ると、ずっと深く味わえるのね!」という、姪御さんのセリフはまさに至言。皆さんもさあ、日本人の特権である「和食」を味わいながら、地球における日本列島形成、さらには、太陽系における地球誕生の偶然性/必然性に思いを巡らせてみてはどうだろう。

太陽系大航海時代の指南書

2018年は、太陽系大航海の年。夏には「はやぶさ」2号機が世界で初めてC型小惑星に到着し、秋には「ベピ・コロンボ」が水星を目指して打ち上げの予定だ。年末には「ニュー・ホライズンズ」が冥王星よりも遠い太陽系外縁天体2014MU69へ接近。なぜ科学者たちは、人類未踏の「地」を目指すのだろうか?

アポロ計画の月面着陸や宇宙探査機「はやぶさ」1号機の奇跡の帰還は、大きなニュースになったが、科学的に何がわかったのか、その意義は何だったのかご存知のない方も多いことだろう。本書を読めば、その成果や科学者の意図を理解できる。地球の岩石が大地の悠久の歴史を我々に教えてくれるように、小惑星の欠片や月の砂、彗星の塵などの「星くず」たちは、広く希薄な宇宙空間でどのようにして太陽系が誕生し、生命を育む地球が形成されたのかを〈記憶〉している。この「星くずの〈記憶〉」を最先端装置による分析で丁寧に読み解きながら、「私たちはどこから来て、どこへ行くのか……」という人類最大の問いの答えを探しているのだ。本書では、元素合成(2章)から始まり、太陽系の起源(4章)、個性豊かな惑星の進化(5章)へと、「星くず」たちの壮大な旅路を、軽妙かつ簡潔に解説していく。

著者
橘 省吾
出版日
2016-08-25

最先端研究の疾走感と臨場感。そして人間模様

この本の最大の特色は、なんと言っても、最先端研究の疾走感と、進行中のミッションの臨場感だろう。第6章の「はやぶさ2が聴く声」は、同ミッションの小惑星サンプル採取をとりまとめる筆者の真骨頂。2014年の打ち上げの時、地上では折りたたまれた状態で探査機に取り付けられたサンプラーホーンが、宇宙空間で無事進展し地上に送られて来た写真を見て、「本当に嬉しく、ホッとした(本文より抜粋)」というのは彼にしか書けない文章で、太陽系科学の最前線の臨場感がひしひしと伝わってくる。「はやぶさ」2号機はその後順調に飛行を続け、今年の夏にいよいよ有機物を多量に含む小惑星リュウグウに到着する。その時、「はやぶさ2」は人類未踏の小惑星のどんな姿を我々に見せてくれるのだろうか?

この本のもう1つの読みどころは、7つの章のそれぞれのテーマに関連する宮沢賢治のエッセーを引用した導入部。賢治の鉱物に関する知識の豊かさと、気鋭の研究者ながらロマンチストでもある筆者の「鉱物愛」が随所に溢れている。惑星科学の研究は、液晶画面の中のバーチャル空間や、異国の偉人によるものではなく、皆さんと同じ時代を活きているロマンチスト達の営みということを再認識できることであろう。

出でよ、未来の船長

現在惑星探査を進める40-50代の科学者の多くは、小中学生の時にアポロ計画やボイジャー計画のニュースや写真をみてドキドキワクワクした人たち。同様に、この本を読んで「はやぶさ」2号機の大冒険にワクワクした小中学生たちの中から、20〜30年後の日本の惑星探査機の舵を取る船長が出てくることを期待させる一冊。おすすめ。