2018年現在、月刊ララDXで大絶賛連載中の『天堂家物語』。100年ほど昔の日本を想起させる世界観、素封家の御家騒動をモチーフに、一風変わったヒロインが血なまぐさいドラマに新鮮な風を送り込みます。どこまでも純粋なラブストーリーを最新刊までキャッチアップ!
『天堂家物語』は2014年よりララDX(白泉社刊)にて連載中の斎藤けん作の少女漫画。近代日本を舞台にした、冷たい野心を燃やす貴族階級の青年と謎の多い生い立ちの少女との不思議なラブロマンスです。
- 著者
- 斎藤けん
- 出版日
- 2015-08-05
作者は『かわいいひと』(Aneララ掲載・同社刊)でも人気を博しており、一風変わったキャラクターが織り成すほっこりとした物語作りに長けています。突飛な設定の中に、不穏な緊張感と力の抜けた笑いのエッセンスとが盛り込まれ、通常ならば交差するはずのない2人の人間が出会い、愛情が生まれて育つ過程をさらりと描いた本作の見どころを紹介します!
望まぬ婚約を厭うあまり川に身を投げた鳳城伯爵家の令嬢・蘭に成り代わって名門・天堂家の門をくぐったのは、溺れた彼女を助けて身代わりになることを申し出た、天涯孤独の名無しの娘でした。
天堂家の令息・雅人は「人を助けて死にたい」と捨て身の正義を振りかざす奇妙な野育ちの娘に興味を持ち、行方の知れない鳳城蘭の身代わりを務めることを命じます。名無しの娘は<らん>と名付けられ、強制的に天堂家に引き止められることとなったのですが……?
天堂雅人は、自身の婚約者である鳳城伯爵家の三女・蘭と名乗る娘が偽物であることを看破し、その冷ややかな眼差しで身代わりの娘に釈明を求めました。娘は恐ろしさに身をすくめながら、川で溺れていた蘭を助けたこと、天堂家に嫁ぐことを恐れて身投げした彼女を生かし、逃がすための時間稼ぎに自分が身代わりにこちらへ出向くことを持ちかけたと告白します。
嘘くさい言い訳だとまともに取り合おうとしない雅人に、娘は自分が天涯孤独であること、「人助けは身を投げ出してでもしろ」と娘に体術や薬草の取り扱いを仕込んだ育ての親である老人にあの世で会いたいがために「人助けをして死にたい」のだと主張するのですが……。
- 著者
- 斎藤けん
- 出版日
- 2015-08-05
冒頭から主人公である名無し娘……主人公なのに本名がない!という画期的なキャラクターの、非凡な才能が次々と明かされます。親に捨てられ、あだ名でしか呼ばれず、読み書きができないといったネガティブな側面を補って余りある突飛な能力に、雅人同様唖然とすることもしばしば。
純粋に育ての親である<じっちゃん>を慕い、<じっちゃん>にあの世で会うために「死にたい」と体を張って人助けする滑稽さは、痛々しさなど微塵もなく、微笑ましくすら思えます。
雅人の怜悧な美貌にくらべ、素朴な名無し娘の容貌は凡庸で、見た目は迫力負けしているのですが、その想定の斜め上をいく発言やリアクションに、目が離せなくなるのです。雅人もそんな感覚を得て彼女に興味を持ったのかもしれません。
本作の時代設定は具体的に示されておらず、地域がどこなのかも定かではありません。ほんの少し前の日本のどこかで展開した物語、という体裁です。一見、前時代的な身分違いの恋物語のようですが、ヒロインが並の人間ではないので一筋縄ではいかない予感がします。
天堂家の離れで使用人として働き始めた名無し娘。便宜上、<らん>と呼び名を与えられます。極力秘密を守るよう言い聞かされたらんは、年の近い同僚の無邪気な詮索に耐えなければなりません。また、鳳城蘭の身代わりを満足に勤められるよう、読み書きや立ち居振る舞いの稽古までしなくてはならなくなりました。
そんなある日、下町に結婚を嫌って逃げた高貴な身分の娘が働いているとの情報があり、雅人とらんは確かめに行くことになりました。その途中、らんは川で溺れていた男を助けます。鴉と名乗るその男は下町の事情に明るく、2人が探している女性のことや、天堂家の噂なども聞かせてくれました。雅人の立場をおぼろげながら知ることになったらんですが、その鴉に興味を持たれて囚われ、両手を拘束されてしまいます。あわや貞操の危機に、らんがとった行動とは?!
- 著者
- 斎藤けん
- 出版日
- 2016-04-05
「生きる意味って何ですか」とおずおずと尋ねるらんに面食らって笑い飛ばした鴉は、「みんな死にたくないから生きているだけ」「死ぬまでの暇つぶし」と無垢な娘を布団に押し倒して自由を奪うチンピラです。社会の裏で汚れ仕事をしていることを匂わせています。
世知に長けた鴉ですら、らんの言動は読めなかったと見えます。悪い男に目をつけられてしまったヒロインは自力でこの場を凌ぎますが、今後の展開が心配です。
そんなちょろちょろと落ち着かないらんに独占欲をむき出しにし、所有印を刻む雅人の押しの強さを発揮するシーンも必見です。
天堂家の母屋に暮らす美少女・晶。その容姿はぬばたまの黒髪、黒曜石の瞳が形作る神秘的な美貌の持ち主と女学校の同級生にも焦がれられるほど(本人は迷惑に思っていたようですが)。雅人を恋い慕い、邪魔者である彼の婚約者を排除しようと双子の弟・周に持ちかけます。性に奔放な周とどこか血なまぐさい暗さが澱む晶。2人は月末に天堂家の母屋で開催される園遊会こと観薔会(かんしょうえ)で鳳城蘭を殺害しようと企みます。
一方、らんは立花の指導のもと、筆文字や立ち居振る舞いの練習に励んでいますが、雅人に手を貸されて戸惑い、うろたえます。雅人もらんをからかった末に平手を食らって頬に紅葉を散らしたり、突然訪ねてきた学友に戸惑ったりと、鉄面皮が崩れることが増えてきました。そんな2人の心境の変化をぬるい眼差しで見守る立花。ムズキュン感満載です。
- 著者
- 斎藤けん
- 出版日
- 2017-04-05
のほほんとしたらんの日常と、天堂家の土台に巣食うドロドロした冷たく生臭い情念のようなもの。それが絶妙のタイミングで表と裏を翻して綴られる3巻は、和みと緊張の連続が良いテンポで続きます。嵐の前の静けさのような、起伏の少ないドラマに、大事な伏線が散りばめられているのです。伏せられた眼差しの先にあるもの、また背景の一つ一つが、大きな謎を解くヒントになっています。
さらりとストーリーを追い、また描画のディテールを楽しむ。再読に耐える作りになっているところが憎いです。
また、雅人のスキンシップに弱いらんの、初々しい仕草がかえって色っぽく、彼女の困惑や高揚が手に取るようにわかるのもオススメポイントです。
立花と協力者である村上は、観薔会当日になにやら不穏な動きがあることを突き止めていました。雅人を排除したい一派が、実力行使に出る可能性があるのでしょうか。現場に立ち入れない立花に代わって、武芸体術に秀でたらんに、武器を持たせる計画なのです。
特訓の成果あり、美しいしぐさが身についたらん。いよいよ、観薔会が間近に迫り、立花から出席者や会の雰囲気についてレクチャーを受けます。そこへ雅人も加わり、らんの当日の装備について打ち合わせを進めていく中、ふとしたきっかけで雅人に対して恥じらいを見せるらん。とことん自覚のない恋心が、ついに雅人の知るところとなってしまいますが、知られたところで本人が「恋」というものを理解していないので、どうなるのかまったく読めません。
- 著者
- 斎藤けん
- 出版日
- 2017-12-05
月夜の庭で猫の死骸のそばに佇み、薔薇の花にハサミを入れる謎の少年。合わせ鏡のように同じ身支度をした不穏な双子。戦闘服を着込むように、亡き父の軍服に袖を通す雅人。そして晴れ着の下に武器を仕込み、使命に燃えるらん。そして、「らんが欲しい」と笑う鴉……。
波乱の宴会が幕を開けます!
波乱の観薔会で大怪我を負った、らん。しかし、くしくもそれは彼女の当初の望みどおり。誰かを助けて死に、じっちゃんに会いたいと思っていたらんは、雅人をかばって大怪我を負うのです。
しかし徐々に膨れ上がる恋心が、その目的を達成させてはくれません。どうしても、彼のそばで生きていたいと考えてしまうのです。しかし、雅人は自分もらんを大事に思うからこそ、こんな危険な場所においては置けないと、彼女を突き放し……。
- 著者
- 斎藤けん
- 出版日
- 2018-09-05
心にも体にも傷を負ったらんが向かったのは、じっちゃんと旧知の仲であり、医者でもあり、いざとなったらここへ行けと言われていた「タカムラギイチ」のもと。そこで彼女は平和な日々を送り、心身を休めます。
そしてそこで彼女は誰かを守って死ぬということが、間違っていると諭されるのです。
雅人への恋心、タキとの切ない別れ、そしてじっちゃんの死後ずっと心の支えにしてきた目標の否定など、らんの心情が不安です。そして同じ頃、雅人も彼女のことを思っていたようで……。
離れ離れになった2人がそれぞれの大切さを実感する流れが切なすぎます。
- 著者
- 斎藤けん
- 出版日
- 2015-08-05
いよいよ物語は佳境にさしかかります。らんを危険から遠ざけようと突き放す雅人、後ろ髪を引かれながらも言いつけに従い、屋敷を後にするらん。勢力を増すかのような天堂家の闇の中に隠された秘密は? 雅人はどう動く? 不吉な双子・晶と周の目論見は? そしていまだ行方の分からない、本物の鳳城蘭は……謎が謎を呼ぶ展開に、ますます目が離せません!