斎藤けんのおすすめ漫画作品5選!『かわいいひと』が話題!

更新:2021.11.26

斎藤けんという漫画家を知っていますか?アニメ化や実写化された有名作品しか読まない方や、ありきたりな漫画ばかりで飽きてしまったな、と思い始めた方におすすめしたいのが斎藤けんの漫画。今までの漫画とはひと味違う、新しい感覚に出会えるはずです。

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繊細な絵と奥深い作品で引き込む漫画家、斎藤けん

斎藤けんは漫画雑誌「LaLa」や「LaLa DX」で活躍する女性漫画家です。2003年に『月光スパイス』でデビューし、2005年には『花の名前』で白泉社アテナ新人大賞デビュー優秀者賞を受賞しました。

彼女はシリアスからコメディまで幅広いジャンルの作品を発表しています。その絵柄は癖がなく物語に集中できるため、誰もが入り込めるもの。淡々と進められる物語の裏に登場人物の気持ちが隠されていたりして、一筋縄ではいかない感じが癖になる、不思議な魅力がある斎藤けんの作品です。

また、胸に刺さるセリフもたくさん出てくるので、きっと自分のお気に入りの一言が見つかるのではないでしょうか。恋愛がテーマの作品が多いのでファン層としては女性が多いのですが、男性が読んでも十分楽しめるはず。むしろ少女漫画が苦手という男性にこそおすすめできる漫画家です。

笑いとシリアス、斎藤けんのバランス感覚を味わう

著者
斎藤けん
出版日
2015-08-05


『天堂家物語』は明治時代の日本を舞台にしたラブロマンスです。主人公はとある捨て子の少女。少女を拾ってくれたお爺さんは少女のことをチビと呼んでおり、彼女には名前がありません。二人は山小屋で仲良く暮らしていましたが、お爺さんが亡くなってから少女は一人で畑仕事をして暮らしていました。

ある日伯爵令嬢の鳳城蘭と出会い、一時的に彼女の身代わりとして天堂家令息の天堂雅人に嫁ぐことになってしまいます。雅人は少女が偽物だとすぐ気付くのですが、天真爛漫な少女のことを気に入り、強引な方法でそばに置こうとするのです。

少女には名前がありませんが、鳳城蘭の身代わりとして出会ったため、後に「らん」と呼ばれるようになります。らんはとにかく自分の命に執着がなく、むしろ死んでお爺さんのところへ行きたいと思っており、欲や希望もありません。ただひとつ願いがあるとすれば、人を助けて死にたいということ。これは亡くなったお爺さんの教えでした。お爺さんの教えを守るしっかり者、だけど少し変わった少女なのです。

一方、雅人は目的を果たすまでは何が何でも生きてやるという、らんとは逆の考えの持ち主です。言動はかなり過激で乱暴ですが、不器用に優しさを見せることもある憎めない青年です。死にたがりのらんに雅人が言った印象的なセリフがあります。

「爺はお前の死ぬ理由だが、お前の生きる理由は俺だ。」(『天堂家物語』から引用)

いつもは反発してばかりのらんでしたが、この時ばかりは素直になります。おそらくらんはこの時初めて生きる意味を見つけたのではないでしょうか。不器用でもまっすぐ気持ちを伝える雅人と、無自覚ながらも確実に雅人に惹かれていくらんは、もどかしくもあり見ていて飽きないふたりです。

一見シリアスに感じる部分が多い作品ですが、雅人とらんのやりとりにクスリと笑える場面もある『天堂家物語』。キャラクターたちの生き様から生と死を考えさせられる深い作品です。

『天道家物語』については<『天堂家物語』が無料!レトロな雰囲気が魅力の恋愛漫画を全巻ネタバレ紹介!>で紹介しています。気になる方はぜひご覧ください。

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人間の狂気を描いたシリアスラブ

著者
斎藤 けん
出版日
2013-03-05


「ねじまき真野さん」「架空庭園」「薔薇とジルコニア」「吐露」「その後の真野さん」が収録された短編集です。

表題作である「ねじまき真野さん」は高校生の恋愛や人間関係を描いた学園物語。転校生の真野しょうこは長い三つ編みをした女の子で、毎日その三つ編み(ねじまき)でいることには理由がありました。ある日隣の席の野田成二に弱みを握られ一緒に帰ることに。それ以来強引で破天荒な野田に振り回されるようになり、少しずつ二人の距離が縮まっていきます。

「ねじまき真野さん」はただの恋愛物語ではない、少しシリアスな物語です。誰もが内に秘めているトラウマや独占欲が包み隠さず描かれており、人間の狂気も感じ取れるような作品だと言えます。嘘や強がりで自分を誤魔化す野田の姿は共感できるものがあり、心をギュッと掴まれるのではないでしょうか。話の深層は読者の想像に委ねられているので自分なりの捉え方で読むことができます。シリアスとは言ってもキャラクターたちが純粋で物語自体は暗くなりすぎてはいません。

同作に収録されている「架空庭園」では「ねじまき真野さん」の過去編、「その後の真野さん」では未来編が描かれているので合わせて読んでもらいたい作品です。

対極的な二人が織り成す!斎藤けんのラブコメディ

著者
斎藤 けん
出版日
2010-06-04


『ねじまき真野さん』や『天堂家物語』とは一転、明るくコミカルな『プレゼントは真珠』は英国を舞台にしたラブコメディです。

主人公のエドワードは貴族のローベル家の一人息子で、女性との接し方も分からないヘタレなお坊ちゃま。ダンスパーティーで女性の足を踏んでしまうなど、とにかくダメダメなエドワードを見かねた使用人たちが、女性に慣れさせるために一人の少女を連れてきました。使用人が言うには奴隷として売られるところを助けたとのこと。少女は可憐でエドワードの好みのタイプでした。真珠が似合うことから真珠と名付け、プロポーズまでしてしまったエドワードですが、実は真珠の正体は由緒あるキャデリッシュ伯爵家の令嬢。そして何でも完璧にこなす超ドSな性格だったのです。

見どころは何と言っても真珠のエドワードに対するドSな扱いです。ヘタレと完璧人間という対極的なふたりが繰り広げる物語はまるでコントのよう。ちょっとかわいそうだな、と思いながらも笑えてしまうような作品です。

真珠はドSと言ってものその中に愛を感じるセリフや行動が多く、仲が良いからこそのコミュニケーションだと分かるので、微笑ましい気持ちで読み進めることができます。また、とても仕える身とは思えないほど鋭いツッコミをする使用人や、個性がありすぎるエドワードの友人たちも笑いを誘ってくるキャラクターで印象的です。

この作品ではエドワードがいじられている場面が多いのですが、みんなが彼を可愛がっているからこその態度であり、決して不快な気持ちにはなりません。夫婦漫才などが好きという方には特にオススメできる作品です。

心の闇との向き合い方は?斎藤けんの文学的な世界

著者
斎藤 けん
出版日
2005-06-04


『花の名前』はいままでとはまた違う静かなラブロマンス。高校一年生で両親を亡くした水島蝶子は、父親の従兄弟で小説家の水島京に引き取られました。ショックで心を閉ざしていた蝶子でしたが、京との生活を送る中で人間味を取り戻していくのです。また京も心に闇を抱えており、少しずつ蝶子に救われていく様子が描かれています。

見どころは、所々に挟まれている文学的な表現。例えばそのひとつと言えるのが家の庭です。蝶子が京に引き取られたばかりの頃は、家の庭は何もなく、全く手入れがされていない状況でした。

しかし蝶子が花を植え、手入れをすることによって花でいっぱいになり、美しい庭になっていくのです。これがまるで京と蝶子の心の中を表わしているようで、作者のセンスを感じます。直接的な説明がなくても隠れたところに文学的に表わされている部分を感じ取れるので、それを見つけるのも楽しみ方のひとつではないでしょうか。

また、心の闇をテーマにした小説ばかりだった京が、蝶子に出会って初めて「花名(はな)」という恋愛小説を書きました。これは彼なりの蝶子への愛の告白だったのです。しかし京のファンは今までとは系統の違う作品に腹を立て、蝶子のせいで京の魅力がなくなったと嫌がらせをしてきました。そこで蝶子はファンに平手打ちをして強く言うのです。

「闇の中から這い上がるために必要なのは自分の両腕ですから!」(『花の名前』より引用)

自分も絶望から這い上がってきた経験から発せられた、蝶子のこの言葉には重みを感じます。誰の力でもなく、自分の意志が大切だと教えられる言葉ではないでしょうか。闇から這い上がろうとした京を励まそうとする言葉にも聞こえ、落ち込んでいる時に言い聞かせたい一言です。

静かで落ち着きのある『花の名前』。読めば読むほど新しい発見ができる不思議な作品なので、ぜひ二度三度と繰り返し読んでもらいたいです。

幸せを分けてもらえるほのぼの日常を斎藤けんが描く

著者
斎藤けん
出版日
2015-05-01


『かわいいひと』は花屋で働く青年と女子大生カップルの日常を描いた穏やかなラブコメディ。主人公の花園森也は目つきが悪く死神顔と呼ばれています。そんな彼の恋人は大学のミスコンで1位を取ってしまうほどの美女、鈴木日和。二人のピュアでほのぼのとした日常に幸せを感じる優しい物語です。

花園は優しく純粋な好青年ですが、顔が怖いことで何かと損をしながら生きてきました。しかし顔よりも中身を見てくれる日和に出会い、今までの人生を取り戻すかのように幸せな日々を送ります。日和にとっては花園の顔もカッコよく見えています。

そんな日和はただ顔が可愛いだけでなく、優しくて芯のある女の子。花園がなかなかリードできずにいるときは日和が率先して行動してくれる頼もしさも持ち合わせているしっかり者です。

この作品は斎藤けんの漫画にしてはめずらしく、ほとんど毒気がありません。楽しそうなふたりとそれを取り巻く賑やかな友人たちに思わずほほが緩んでしまう作品です。付き合いたてのカップルによくある小さな「あるある」が笑いを交えて描かれているので、共感できる方も多いのではないでしょうか。

タイトルの『かわいいひと』というのは一見日和のことかと思いますが、日和と花園の両方のことを差しているのではないでしょうか。お互いに赤面したり、満面の笑みを見せたり、ちょっとドジだったり……。読者に「かわいいなあ」と思わせる工夫が盛りだくさんで、思わず応援したくなるカップルです。嫌な登場人物も特に出てこないので、安心して読める作品です。

『かわいいひと』は幸せな描写が多く、とにかく癒されます。そのため疲れて現実逃避したくなった時にはぜひ読んでみてはいかがでしょうか。

本作が気になった方は<『かわいいひと』最新6巻までネタバレ!癒し系ニヤニヤ漫画が面白い【無料】>の記事をぜひご覧ください。

日常から非日常まで、とにかく振り幅が大きい斎藤けんの作品。笑わせてくれたかと思いきや別の作品では背中がゾクリとするような毒気があるなど、引き出しの多さは同じ作者だとはとても思えません。ただの恋愛やファンタジーに関しても決して王道ではなく、ひと味加えたクセになる作品が多いのも魅力のひとつです。奥が深く何度でも読みたくなる斎藤けんの漫画は、誰もが虜になれるのではないでしょうか。

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