
風と共に去りぬ

作者 | マーガレット・ミッチェル |
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出版社 | 新潮社 |
出版日 | 1977年06月03日 |
この本の作者はマーガレット・ミッチェル。著書はこの一作のみですが、この一作が世界的な大ブームとなりました。映画化、ミュージカル化、たくさんの海賊版が出たり、批判の団体がたちあがったり。これだけ多くの人を良くも悪くも釘付けにしたこの作品。映画も見ましたが、壮大で、華やかで、ドラマチックで。すごく原作のイメージにぴったりでどきどきしました。タイプの違う、いろいろな魅力を持つ登場人物が次々に出てきて、長編小説ですが飽きることがありません。
登場人物の魅力、ストーリーの面白さの他に、舞台となる1860年代のアメリカ社会の知らなかった歴史の裏側にもロマンを感じます。この本の軸となっている南北戦争に関しては、奴隷解放と保護貿易か、奴隷制の存続と自由貿易か、くらいの知識しかありませんでしたが、この本はもっと日常の中の南北戦争を伝えてくれます。
作者のマーガレットの家族に南北戦争の研究者がいたこともあり、細やかにこの時代が描かれていますが、この時代の人の感覚が自分にも分かりそうなほどリアルです。この時代の人にとって戦争とは何だったのか、どんなに故郷の土地に愛情があったのか、誇りをどれだけ重んじていたのか。この本の舞台は南部なので、偏りはあるかもしれませんが、今の私たちからは考えられない価値観、世界観に浸るのは理屈抜きに楽しいです。
ストーリーは南北戦争前の美しい時代から始まっていきます。美しく広大な農園、タラ。きれいなテラスでハンサムな青年ふたりに囲まれておしゃべりを楽しむ女の子。この子が物語の主人公、勝気で魅力的な16歳のスカーレット・オハラです。
スカーレットはいつも猫をかぶっていますが、本当は自己中でわがままで、すぐカッとなって後先考えずに動いてしまうレディらしくない女の子です。好きな人に振られた腹いせにその場にあった花瓶を投げ割ったり、すぐに他の人と結婚したり。今まで読んだ本の中でもトップレベルで性格に共感できないヒロインでした(笑)。けれど彼女の魅力はこの性格。自分と自分にとって大切なもののためならとことん一途に、何を犠牲にしても構わない彼女は、戦争後の苦難の時代にも負けません。古い時代の誇りや、淑女としてのたしなみ、古くさい道徳などをどんどん捨てて、がむしゃらに生きていきます。
「船が沈みやしないかと、そればかりが心配で、大して重要でなく思えたものは、みんな舟の外に投げ出してしまったんです。」
「誇りや、名誉や、真実や、道義心や、親切心をね。(略)きみのまわりの友人たちを見るがいい。その人たちは、大事な荷を積んで安全に舟を岸へすすめるか、さもなければ、たくさんの旗をひるがえしながら満足して沈んだんだ。」
「そんな連中は愚か者の集まりだわ」
南北戦争で負けた南部の人々は、かつての美しい土地や家や、愛する家族や友人を失い、絶望を抱えていました。けれど美しい南部の誇りだけはそのまま持ち続けようと頑張っていました。いくら貧乏でも北部に屈したり、人を騙したり、自分たちを変えることは南部人として絶対にしてはならないと感じていたのです。そんな中スカーレットは、誇りや名誉、道徳をたいしたものでないと考えます。そんなことよりお金を稼いできれいな家に住み、毎日おいしいものを食べることのほうをより重要だと考えるのです。
時代が変わったことを受け入れ、素早く順応するスカーレット。彼女にはたくましさ、危なっかしさがあってとても魅力的です。生命力にあふれ、物語が進んでいくにつれて魅力を増していきます。人に何と思われるかをまったく気にせず、常識に縛られないスカーレットを見ているのはいっそ清々しいです。
けれど自分にとって大切だったはずの誇りを捨てたり、お金のためにいろんな人を騙したりしていたら、どんなに物質的に豊かになろうと虚しくなっていくような切なさが感じられるところが、彼女をさらに魅力的に、ドラマチックに見せています。性格的には決していい子じゃないスカーレットが世代を超えて愛され続ける理由は、利己的なのにどこか純粋で、かわいらしいところなのかなあと思いました。
そしてスカーレットは自分では、物静かで穏やかな理想主義者アシュレーのことを好きだと思い込んでいますが、本当に愛したのはレット・バトラーという自分と同じならず者の男でした。レットはスカーレットよりも賢いので、奔放に生きるスカーレットにたびたび注意したり、警告したり。ずっとひそかにスカーレットを愛していたのですが、うまくかみ合うことは最後までありませんでした。最後にレットがスカーレットのもとを去るシーンは号泣です。普段は弱みや本音をみせないレットが見せた素顔と、やっとレットへの愛に気づいたスカーレット。感情がリアルで鮮明で、生々しい。恋愛小説という観点からも、とっても素晴らしい作品だと思うので、恋愛小説がお好きな方にもおすすめしたい本です。
この本はとにかく夢中になって読めます。長編なのでなかなか読み始めるのに勇気がいりますが、読み始めると一瞬です。激動の人生を生きるスカーレットの人生そのまま、まるでスカーレットになったような気持ちで読めます。そしてこの本には印象的なセリフがいっぱい出てくるのですが、その中でも私は特に最後のセリフがお気に入り。ネタバレになるので詳しくは書けませんが、「Tomorrow is another day」。最後のあの状況でも!このセリフを言えるスカーレットは本当に凄い。ぜひ読んでみてください。
『風と共に去りぬ』に関連したおすすめ本

作者 | エミリー・ブロンテ |
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出版社 | 新潮社 |
出版日 | 情報なし |
都会に疲れた偏屈な青年ロックウッドはひとり、田舎の屋敷を借りて暮らすことにします。挨拶のため近所の「嵐が丘」を訪れ、そこで聞いたこの屋敷の愛と復讐の物語。ドロドロの愛憎劇は読み始めるとやめられません。この作品も女性の作者が書いた、唯一の長編小説です。『風と共に去りぬ』とはタイプが違いますが激しい女性の物語が好きな方におすすめ。

作者 | シャーロット・ブロンテ |
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出版社 | 岩波書店 |
出版日 | 2013年09月19日 |
孤児としてそだった薄幸な主人公ジェイン。家庭教師先の当主ロチェスターと恋に落ちるが、結婚当日になって彼の狂人の妻の存在が発覚する。ジェインは悩み、苦しむがロチェスターに黙って家を出ることを決意して……。主人公の心の葛藤と、ロチェスターとのロマンス。派手さはないけど引き込まれる作品です。
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