セリフをほとんど用いないショート漫画という独特な作風を持つ作家、今日マチ子。ブログが広まったことで人気に火が付き、文化的な活動も評判となっています。今回はそんな彼女のおすすめ作品を5つご紹介しましょう。
東京都出身の漫画家、イラストレーターの今日マチ子。東京藝術大学に在学しているころから自費出版をおこなっていました。
通学の空き時間にフリーペーパーの作成をしていて、ほぼ3日に1号、1ページのものを発行していたそう。取材、記事執筆、イラストをひとりで手掛けていて、これらの活動をもとにイラストレーターやライターの仕事も請け負っていたそうです。
卒業後の2004年、フリーペーパーと交替する形でブログを開設。1ページ漫画『センネン画報』の執筆をはじめました。当初はサブカル系のナンセンスが中心でしたが、萩原朔太郎、宮沢賢治、寺山修司などのエッセンスを取り入れ、現在のポエティックなサイレント漫画に徐々にシフトしていきます。
ブログの評判は口コミで広がり、2006年と2007年に文化庁メディア芸術祭で審査委員特別推薦作品に選ばれ、2008年には書き下ろしを加えて出版に至りました。
1年365日、春夏秋冬。日々の営みは同じようで違う、ちょっとした出来事の積み重ねです。
家で、学校で、職場で、街中で、自然のなかで……
ひとりひとりの身に起こる、何気ないけれど大切な瞬間を切り取った、叙情的なショート漫画になっています。
- 著者
- 今日 マチ子
- 出版日
- 2008-05-15
2008年に出版された、今日マチ子のデビュー作であり代表作。タイトルと同名のブログにて掲載されていた漫画が話題を呼び、一冊にまとめられました。
作中では効果音以外に文字がほとんど使われず、漫画の体裁をした詩のようです。
すべてが1ページという短さで、短編よりも短いショート漫画。にも関わらず、登場人物の心情が淡いフルカラーのイラストをとおして手にとるようにわかります。いわゆるオチに相当するものはなく、読者の数だけ答えがあるといえるでしょう。
切なくて青い感性だけが見ることのできる、無数の物語です。
第二次世界大戦下のとある南国の島。女学校に通うサンは、戦争と隣り合わせの日々を過ごしていました。戦況は徐々に悪化し、遂には女学生も看護隊として駆り出されるようになります。
年端もいかない少女たちが目にした戦地は、地獄。サンは友人たちと支えあって生き延びようとしますが、ひとり、またひとりと命を落としていくのです。
- 著者
- 今日マチ子
- 出版日
- 2010-08-05
2009年から「エレガンスイブ」で連載されていた作品です。過去作とは一変して、凄惨な戦争が前面に押し出されています。
「ひめゆり学徒隊」に着想を得たそうで、当時の沖縄に住んでいた少女たちが直面した戦争を可能な限りリアルに再現。作者特有の優しいタッチでありながら真に迫る迫力があります。
叙情的と評される作者のイメージで読むと、面食らってしまう人もいるかもしれません。ただ残虐極まりない出来事を、主人公のサンの目線で切り取った作風はやはり今日マチ子。ひと味違った魅力を感じられるはずです。
もしもミサイルの弾頭が甘いお菓子だったなら。危険な毒ガスがバニラの香りだったなら。硝煙が綿菓子だったなら。弾ける血潮が赤いシロップだったなら……。
銃と兵士をお菓子と女の子に置き換えてどれだけ幻想的にしても、戦争のおぞましさを拭うことはできないとわかる、戦慄のショート漫画です。
- 著者
- 今日 マチ子
- 出版日
- 2014-07-23
作者のブログにて2012年から発表されていたショート漫画をまとめた一冊です。『cocoon』の連載後、アンネの日記を題材にした『アノネ、』を手掛け、本作は戦争漫画の第3弾になります。
ページいっぱいに広がるのは、いちご、ケーキ、ふわふわのマシュマロと、胸焼けするほど甘ったるいものなかりですが、そこから感じられるのは恐怖と嫌悪感。いちごは飛び散る内臓として、ケーキは踏みにじられる大地として、マシュマロは砲弾を降らす戦艦として描かれているのです。
メルヘンと表裏一体の残虐さ。あなたは何を感じるでしょうか。
高校2年生の川本かずら。同級生の武市大地とは1年生の頃から同じ図書委員に所属していて、親しくしていました。
1ヶ月ほど前から彼は、後輩の上森あゆみと付き合いはじめています。かずらから見てもあゆみは可愛くていい子。2人が仲良くしている様子を見て、かずらはちくりと胸を痛めるのです。
そんな彼女へは、同じく図書委員の藤枝高広が片想いをしており……。
- 著者
- 今日 マチ子
- 出版日
- 2015-04-23
雑誌「ダ・ヴィンチ」で連載され、後に「ダ・ヴィンチニュース」に移籍した山本渚原作の作品。小説のコミカライズは時に原作のイメージを損ねることがありますが、本作においてはイメージ通りというよりイメージそのものといえるかもしれません。
高校生の恋愛と友情、漠然とした将来への不安が描かれおり、今日マチ子の作風はそれらの要素とベストマッチ。また徳島県が舞台なため、方言もいい味を出しています。
キラキラと輝く甘酸っぱい経験と、ほんのりと苦い涙の味……儚い青春の日々を堪能してください。
「リロン」というバンドが好きな市村みかこ。高校最後の年になりましたが、進路を決めかねていました。
ある日の席替えで隣の席になったのは、美大を目指す少年、緑川ワタルです。赤ペンではなく赤鉛筆をわざわざカッターナイフで削って使う変わり者でしたが、ふとしたことからお互い「リロン」のファンだということがわかり、距離を縮めていきます。
- 著者
- 今日 マチ子
- 出版日
- 2009-10-23
2009年からWebコミックサイト「モアイ」で連載されていた作品です。
『センネン画報』で見せた透明感のある作風は健在で、日々の生活を登場人物に寄り添う形で描写しています。
最大の違いは特定の人物にフォーカスしているところでしょう。またセリフやモノローグが挿入されるようになりました。
1ページ漫画を1行詩とするならば、本作は長く紡がれる連詩です。登場人物の関係性や内面がより深く掘り下げられ、それでも決定的な部分を読者の想像力や読解力にゆだねているところが今日マチ子らしいのではないでしょうか。