サッカー漫画としては珍しい、Jユースの世界に焦点を当てた『アオアシ』。長編の漫画にはなかなかないであろう、巻を追うごとに面白くなっていく作品です。 この記事では、そんな名作サッカー漫画、最新巻まで全巻分の見どころを紹介していきます。
2015年から「ビッグコミックスピリッツ」にて連載されている『アオアシ』。作者は小林有吾です。
サッカーの才能はあるものの、基礎がまったくできていない主人公が、名門ユースチームに入り本格的にサッカーを学んでいく物語。彼が壁にぶつかりながらも成長する姿と、緻密なプレーや戦術がリアリティをもって描かれているところが魅力です。
サッカー経験の有無を問わず多くの読者から支持をされ、2017年の「マンガ大賞」では4位を獲得しました。
この記事では、そんな本作の魅力を単行本全巻の見どころを紹介しながらお伝えしていきます。ネタバレを含むので未読の方はご注意ください。
- 著者
- 小林 有吾
- 出版日
- 2015-04-30
愛媛県の中学校に通う青井葦人(あおいあしと)。本作の主人公です。弱小チームに所属していましたが、類まれなるサッカーセンスを武器に、試合ではひとりで活躍。チームを勝利に導いていました。
ところが四国大会出場をかけた大事な一戦でトラブルを起こし、退場。彼がいなくなったチームはもちろん敗退してしまいます。
やり場の無い悔しさを抱える彼の前に、強豪クラブ「東京シティ・エスペリオン」ユースチームの監督、福田が現れました。試合を見て葦人の才能に目をつけた福田は、ユースチームのセレクションを受けることを勧めてくるのです。
ここから、葦人のサッカー人生は大きく動き出します。
福田からセレクションの受験を勧められた葦人。東京へと旅立つことにしました。
ほかの参加者たちのレベルの高さを感じつつも、順調に課題をこなしていきます。ところがミニゲーム形式の試験の際、相手チームに目玉選手が集中してしまいました。
そもそもの実力の差に加え、連携もできない葦人たちは、どんどん点差をつけられていきます。そんななか、彼はある策を思いつき、実行するのです。
- 著者
- 小林 有吾
- 出版日
- 2015-04-30
1巻の見どころは、やはりセレクションのミニゲーム。圧倒的な劣勢のなかで葦人はある作戦に出ます。周囲を驚かせるプレーは必見です!
また、本作のヒロインとなる一条花(いちじょうはな)も登場。福田の義理の妹で、中学3年生です。彼女はある理由から葦人に注目していました。
「頑張れ。人間は考える葦である」(『アオアシ』1巻より引用)
独特なアドバイスを送りますが、彼女は葦人がセンスだけでサッカーをしていることを見抜いていたのです。今後の2人の関係にも注目ですね。
セレクションの最終試験まで残った葦人。最後の課題は、ユース生との試合です。
意気込む受験生チームに対し、ユース生チームの動きは想像していたほどよくありません。「実力の差は無い」と受験生チームが安堵したその時、ユース生たちの動きが一変しました。
- 著者
- 小林 有吾
- 出版日
- 2015-07-30
セレクションの最終試験で試されるのは、受験生たちの「精神力」です。
葦人の前には、前年のセレクションで唯一合格したユース生、阿久津渚(あくつなぎさ)が立ちはだかりました。罵声を浴びせたり、執拗な嫌がらせをしてきたりと、心を折りにきます。
さらにゲームの途中で福田から衝撃の事実を告げられ、受験生チームは戦意喪失状態に……。
葦人のメンタルも限界を迎えようとしていましたが、そんな時、自分を送り出してくれた家族の姿を思い出し、再び奮起するのです。必死のプレーで意地を見せる姿は必見!まだユース生にはなっていない彼らですが、アツい試合を見せてくれます。
無事にセレクションを終え、愛媛に戻った葦人のもとに、合格通知が届きました。兄や友人たちも大喜びしてくれましたが、母の紀子だけはどこか浮かない様子です。
葦人は花との電話のなかで「女手一つで育ててくれた母をサッカーで楽させてあげたい」という思いを語りますが、その気持ちを直接伝えられないまま出発の日を迎えてしまいました。
- 著者
- 小林 有吾
- 出版日
- 2015-10-30
3巻の見どころは、葦人の東京への旅立ちです。上京の日になって、サッカー部の仲間たちや母の本当の気持ちを知った葦人。新しいスパイクとともに母からもらった手紙を読むシーンは、涙腺崩壊必死です!
「東京シティ・エスペリオン」の入団式では、葦人と同じく合格を決めた大友栄作(おおともえいさく)、橘総一朗(たちばなそういちろう)と再会。さらにジュニアユースからの昇格生やスカウト生とも合流します。
なかでもスカウト生の冨樫慶司(とがしけいじ)はインパクトのある登場をするので、必見です!
入団式終了後、福田の提案により、いきなり紅白戦がおこなわれることになりました。
直前にヘッドコーチの伊達が「プロは無理だ」と口にしていたのを聞いてしまった葦人は、見返してやろうと気合を入れます。試合が始まると早々にゴールを決め、順調な滑り出し。
ところが時間が経つにつれて、目まぐるしく変化していくチームメイトの動きについていけなくなり、とうとうパスを回してもらえなくなってしまいました。
- 著者
- 小林 有吾
- 出版日
- 2016-01-29
エスペリオンユースに入団し、Bチームからのスタートとなった葦人には、いきなり2つの課題が突き付けられます。
ひとつ目は、サッカーの考え方を身につけること。ほかのユース生たちはひとつひとつのプレーにしっかりと意図がありますが、これまでセンスだけで独りよがりなプレーをしてきた葦人には、彼らの行動が理解できず、連携に加われなかったのです。
そしてふたつ目は、基礎を身につけること。特にパス回しに必要な「ボールを止めて、蹴る」という基本動作ができておらず、伊達から早急に習得するように命じられました。
大友と橘に加え富樫にも協力してもらいながら、葦人はまず「止めて、蹴る」ことを習得しようと奮闘するのです。そしてここで、福田が以前から着目していた彼のもうひとつの才能「驚異的な上達の早さ」が発揮されます。
ひとつの技術を習得したことをきっかけに、新たな広がりを見せる葦人のプレーに注目です。
Bチームは、合宿から戻ってきたAチームと合同練習をすることになりました。しかしFW葦人・MF黒田・DF朝利(あさり)のラインが噛み合わず、チームのムードが悪くなってしまいます。
そんな状態のまま、今度は初めての公式戦である「東京都リーグ」第1節を迎えました。ここでも葦人たちのプレーがかみ合わず、劣勢に。チームメイトのフラストレーションも溜まる一方です。
- 著者
- 小林 有吾
- 出版日
- 2016-04-28
4巻でも指摘されていましたが、葦人はチームメイトの意図を汲み取ることができません。黒田たちがなぜ自分を責めてくるのかも分からず、さらには、自分のプレーを理解してもらえないことに不満を持ってしまうありさまでした。
しかし、ここでくじけないのが彼の強いところ。試合をやりながら自らの課題に向き合い、仲間の考えを理解しようとするのです。しだいにプレーが噛みあい、まるでパズルのピースがはまったかのような連携が決まるラストは、思わず読者も興奮してしまうはずです!
葦人たち左ラインの連携が機能したことでリズムが生まれ、エスペリオンBチームは徐々に点差を縮めていきます。最後は葦人が得点を決め、逆転勝利をおさめることができました。
一方J1では、「エスペリオンユースの最高傑作」と呼ばれる栗林晴久(くりばやしはるひさ)が鮮烈デビュー。その高校生離れしたプレーを目の当たりにし、葦人はさらなるレベルアップに励みます。
しかしそんななかで福田に呼び出され、思いもよらない宣告を受けるのでした……。
- 著者
- 小林 有吾
- 出版日
- 2016-07-29
6巻の見どころは、Aチームのエース、栗林のJ1デビューのシーンでしょう。卓越したプレーでプロと渡り合い、ゴールまで決めてしまう姿は、葦人のサッカーに少なからず影響を与えます。
彼自身はまだBチームですが、今後栗林と交わる時は来るのでしょうか。
そしてラストでは、福田から衝撃の宣告が。FWでそれなりの活躍をしていたにも関わらず、突然SB(サイドバック)への転向を命じられるのです。「主人公はストライカー」というサッカー漫画のイメージを覆す展開から目が離せません!
必死の抵抗も実らず、SBに転向することになった葦人。FWへの想いはなかなか捨てきれないものの、チームに迷惑はかけられないと特訓に励みます。
しかし、これまでとは違うポジションに戸惑うことばかりです。葦人はなんとか活路を見出そうと、栗林のプレーに注目。そしてある動きに気づきました。
- 著者
- 小林 有吾
- 出版日
- 2016-10-28
冒頭で、福田が最初から葦人をSBとして育てようとしていたことが明らかになりました。コンバートの理由をひとつひとつ丁寧に説明します。しかし納得できずにひたすら食ってかかる葦人。2人の熱がぶつかるシーンです。
結局はSBとして上を目指すことになった葦人。与えらえた最初の課題は、「絞る(=スペースを埋める)」でした。なかなかイメージをつかむことができず、苦戦します。
そんな彼に急接近してきたのが、エスペリオンの親会社の社長令嬢、海堂杏里(かいどうあんり)です。彼に栗林のプレーを見返すよう助言したり、「首振り」の動作を身につける練習に付き合ってくれたりと、何かと協力的な姿勢が目立ちます。今後の関係に注目ですね。
コンバート後、葦人はスタメンどころかベンチにすら入れない日々を送っていました。その間チームの調子もあがらず、なんと4連敗。2部降格圏内に入ってしまい焦りの色が広がります。
とりわけ橘は責任を感じ、それがプレーに裏目となって影響をおよぼす悪循環に陥っていました。
そんななか、「東京都リーグ」第7節で、ついに葦人がスタメンに選ばれます。
- 著者
- 小林 有吾
- 出版日
- 2017-01-30
スタメンに復帰した葦人は、ひたむきにおこなった個人練習や、チームのプレイを観戦してイメージトレーニングを積み重ねた成果をいかんなく発揮!SBとして大きな1歩を踏み出しました。
一方の橘は、どんどん自信を失っていっている様子。彼は葦人とセレクション時からの盟友なだけに、頑張ってほしいところです。
また、調整のためBチームに一時的に合流していた、エスペリオンのキャプテン、義経健太(よしつねけんた)にも注目。栗林をも上回るのではといわれる個人技で周囲を魅了します。
葦人も彼のプレーに目を輝かせ、思わず「俺、あんたになりたい」と言ってしまうほどでした。
「東京都リーグ」第8節の対戦相手は、現在リーグ1位の東京武蔵野蹴球団。試合を偵察に行った葦人たちは、団結したプレイを見せる彼らに圧倒されます。
一方で、エスペリオン内では富樫と竹島龍一(たけしまりゅういち)がもめごとを起こしてしまいました。これをきっかけに、富樫とジュニアユース昇格生との間にある過去が明らかになるのです。
- 著者
- ["小林 有吾", "上野 直彦"]
- 出版日
- 2017-04-28
全力で勝ちに行くサッカーをする富樫に対し、竹島たちはケガを避けて着実にプロへの階段を上っていくサッカーを目指していました。サッカー観の違いがぶつかります。
そんな重たい空気のなかでおこなわれる、スタメン発表のシーンも見どころです。前巻から自信をなくしていた橘は出場の辞退を申し入れていましたが、それでもなお彼を信頼しているヘッドコーチの伊達は、スタメンに加えるのです。
これをきっかけに、自分の弱さと向き合うことを決意する橘。そんな彼の姿勢は、チームメイトたちの心も動かしていきました。
再び一丸となろうとする彼らの姿に、胸が熱くなります。
Bチームにとって正念場となる、対東京武蔵野蹴球団戦。高い位置でプレスをかけてくる武蔵野に対し、エスペリオンはロングボールを多用する作戦を展開します。しかしなかなか攻略できないうちに先制を許してしまいました。
しかしその後、苦しんでいた橘にゴールが生まれます。これで同点としますが、打倒エスペリオンに燃える武蔵野の金田がゴールを決め、再び劣勢となるのです。
- 著者
- 小林 有吾
- 出版日
- 2017-07-28
10巻の見どころは、なんといっても橘のゴールシーンでしょう。伊達の起用に応えようと、必死でプレーする橘。そんな彼にゴールを決めさせたいと、チームメイトも必死で駆け回るのです。
それぞれの想いが重なって生まれる復活ゴールは感動的!
また、敵である武蔵野の金田にも注目。彼はエスペリオンのセレクションに落ちていて、武蔵野に入団した後は葦人たちにリベンジするべく練習を重ねていました。力強いプレーでゴールを脅かしてきます。わだかまりの残る富樫と竹島の連携に、隙があると気づく鋭さも持ち合わせている様子です。
武蔵野戦の前半を1-2のビハインドで終了したエスペリオン。ハーフタイムでは守備をめぐって口論になるものの、伊達の介入で和解。いよいよ後半に突入します。
チームの連携も改善してきたなか、福田からあるアドバイスを受けた葦人のプレーが、またも広がりを見せました。
- 著者
- 小林 有吾
- 出版日
- 2017-10-30
11巻では、選手だけでなく指揮官のやりとりにも注目。福田は、Bチームのヘッドコーチをしている伊達自身をキーマンだと考え、「言いたいことは言えばいい」とアドバイスを送りました。選手同様に、指揮官たちも戦っていることがわかるシーンです。
そして、葦人は司令塔としての能力を開花させます。その才能をフルに活かし、反撃モードのチームを盛り上げていきました。冴えわたるプレーは鳥肌モノです。
ついにAチーム入りを果たしたアシト。彼の他にも冨樫、大友、黒田がチーム入りとなりました。
しかし、その練習は想像を絶するほどに厳しいもの。しかしアシトは、素晴らしい面々とともに成長できる機会を得られたことに喜びを感じていました……。
- 著者
- 小林 有吾
- 出版日
- 2018-02-23
そもそもパス回しですらついていけない新入りたちなのですが、それもそのはず、その練習方法が一風変わっているのです。
「オシム式パス回し」という頭で様々なことを同時に考えながら、一定のスピード感でパス回しをしなければならないのですが、その説明は、読んでいるだけの読者でも、ウッとなってしまうほど複雑なもの。
しかしもちろん、アシトはただ、つまづくだけでは終わりません。12巻では、とても大きい成長というものはないものの、確実に大きくなっている彼の姿を感じ取れます。
9巻では試合シーンはないものの、この成長の描き方が、ものすごく、良い。練習シーンがここまで面白いサッカー漫画はなかなか無いのではないでしょうか。
「考えるサッカー」、現代的な技巧的な練習風景を、ぜひご覧ください。
練習シーンがメインだった12巻ですが、13巻は試合が描かれます!練習でも十分に面白いのですが、やはり試合は緊張感などが違いますね!
しかし読者として気がかりだったのが、紅白戦以来試合に出られていないアシト。プレミアリーグでは、意外とお客がいないことに少し萎えた彼ですが、そのレベルの高さに楽しそうに武者震いします。そしてそれはやはり自分がそのレベルには達していないということ。
いざ平の負傷で交代になっても、チームの足を引っ張るようなプレイしかできず、相手チームに「穴」と認識されてしまい……。
- 著者
- ["小林 有吾", "上野 直彦"]
- 出版日
- 2018-05-30
しかし、13巻が面白いのは、そのアシトの十分でないプレイが、予想外の展開になること。監督は彼ではないある人物に怒りを向けるのです!
そしてその注意喚起が、素晴らしいゴールへと繋がり……。
その感動の瞬間はぜひご自身で見ていただきたいです。今回の表紙がなぜこの3人なのかも腑に落ちるような、サッカー漫画らしい熱く、それでいて爽やかな興奮が味わえる展開です!
3対0という圧倒的な力の差を見せつたプレミアリーグ初戦。しかし相手の柏商も最後まで闘志を絶やさず、その姿勢を栗林も評価します。
そんなやりとりを見ていたアシトは、チームの結果よりも自分のふがいなさを噛み締めていました。完全に全体の穴であり、ディフェンスがボロボロだと気づくのです。
そしてそのあと、監督からもベンチ入りができないレベルと言われ……。
- 著者
- 小林 有吾
- 出版日
- 2018-08-30
14巻は、サブメンの絆、成長が描かれます。
彼らは監督から言われた、本当に良いチームとは、サブも強いチームだという言葉から自分たちも期待されているのだと感じ、気合を入れ直します。そして考えを改めた冨樫含め、みんなでこっそりと守備の練習をするのでした。
そして、ついにスタメンとサブメンの紅白試合の日が訪れます。
そこでさらにサブメンの闘志を燃やすのが、アシトのある言葉。14巻を読み終えれば、表紙のキャラたちの様子がさらに心にしみること間違いなし。それぞれのキャラへの愛が感じられる成長の描写は、必見です。
自由気ままにプレーしていた愛媛のサッカー少年が、東京で壁を乗り越えながら本格的にサッカーを学び、「選手」になっていくストーリー。ぜひ楽しんでみてください。