第二次世界大戦までの約20年間、世界を席巻したファシズム。人々はなぜ熱狂し、失敗したのか。この記事では、広まっていった背景や原因を解説し、あわせて参考になる書籍もご紹介します。
イタリアのベニート・ムッソリーニが率いた「国家ファシスト党」が提唱した政治姿勢や、1922年から1943年までに敷いた政治体制の総称である「ファシズム」。広い意味では、ドイツの全体主義や中国の共産主義など、よく似た思想や体制も含める場合があります。
しかしファシズムに対する見方は専門家の間で見解が分かれていて、民主主義の立場では、ファシズムを反自由主義・反民主主義で「全体主義」の一部ととらえます。共産主義者は、反社会主義の労働者を支配するための「帝国主義」だと批判しています。一方で、ファシズムを「共産主義」の一種とする人々もいるのです。
一般的には、国や個人に関するさまざまな意思決定が、少数の個人や限られた組織に独占される状態のことだと受け止められています。
第一次世界大戦中に、イタリアの政治家などによって提唱されたファシズム。「極右」ともいわれますが、実際は右翼と左翼の両方の影響を受けています。
当時は資本主義の発達により、経営者と労働者の対立が深まっていました。同時に共産主義が急速に広まって各地で激しいストライキが起こり、各国の国民感情は不安定にな状態になっていきます。
また帝国主義の動揺によって、ヨーロッパ各地で民族意識が高まり、国家や民族として統一感を求める動きが出てくるのです。
さらに1914年に起きた第一次世界大戦では、近代兵器を使った凄惨な殺戮がおこなわれ、多くの人々の心を深く傷つけました。その結果、各国の国民感情は不安定な状態になっていったのです。
こうしたなかで、国家主義と共産主義の一部分を融合したファシズムが台頭することになります。
日本では、大正時代に慣習化した政友会と民政党の二大政党制が弱体化していきました。そして急速に社会主義・共産主義が浸透し、しだいに主流の考え方となっていくのです。また軍部は、大日本帝国憲法に記載された天皇陛下の統帥権を転用し、自分たちの権利拡大に努めました。
1932年の五・一五事件や1936年の二・二六事件を経て、ついに政党政治は形骸化し、軍人たちが政治で大きな発言力を獲得。また1937年に就任した近衛文麿(このえふみまろ)首相は、すべての国政政党をさ解散せ、ファシズムに似た政策を推し進めていきました。
当初の運動は、イタリア北部で約1000名のメンバーを持つ小規模のものでした。しかし第一次世界大戦が勃発すると、ファシストはイタリアの参戦を支持したうえで、当時急速に広まっていた国際共産主義に反対し、軍国主義を推奨していきます。
1920年ごろに工業労働者の過激なストライキ活動が頂点に達すると、ムッソリーニが率いるファシストは、経営者と手を結んで反社会主義運動をおこない、労働者や小作人を攻撃しました。
その結果、彼らは徐々に伝統的なイタリアの保守主義に適応していったとみなされ、ファシスト運動のメンバーは1921年までには約25万名に増加。そして正式に「ファシスト党」と名乗るようになるのです。
1922年になると、ファシストの民兵組織は暴力的な方法でイタリアの諸都市を制圧し、国内は内乱状態となりました。国王エマヌエーレ3世はローマでの流血を恐れ、ムッソリーニを首相に指名します。
するとムッソリーニは、内閣を自身の支持者で固め、権力を強化していきました。さらに法律を改正して自分たちに有利な状況を作り、1924年の選挙で多数の議席を獲得します。
そして1925年1月、ムッソリーニは彼自身をイタリアの独裁者と宣言しました。その後ファシズムはローマ教皇の支持を取り付け、地方への影響力も固めていきます。
1929年に発生した世界恐慌により、荒廃した人々の心は徐々にファシズムに影響されていきます。とりわけドイツは、第一次世界大戦の戦勝国から莫大な賠償金が課せられ、国内の景気は最悪の状態。多くの国民が生活に絶望し、貧困と重税にあえいでいました。
その現状を打破しようと、当時無名だったアドルフ・ヒトラーが、突如政治家として名乗りを上げます。強烈な演説手法で庶民の不満を代弁し、ズタズタになった国民たちのプライドを鼓舞して支持を拡大していきました。
その結果、彼が率いる国家社会主義ドイツ労働者党(ナチ党)は、民主的な選挙によって急速に支持を伸ばすことになります。ヒトラーは第一党の首班として首相に就任し、1933年から1945年にかけて次々と法律を改正して、自分たちに有利な政治体制を作りました。
そして1934年、ついにナチ党の一党独裁体制が成立します。
- 著者
- 片山 杜秀
- 出版日
- 2012-05-01
陸軍内での皇道派と統制派の対立、総力戦と玉砕などの軍人たちの戦争意識を考え、「持たざる国」をキーワードにして太平洋戦争での日本の皮肉な運命を描いています。
現代では、軍部の暴走による無謀な戦争だったとされがちな太平洋戦争ですが、果たして当時、それ以外の選択肢があったのでしょうか。
著者は主に思想史を専門とする大学教授で、戦争を「考え方」の面から深堀していきます。戦前の日本の軍人は、本当に単なるファシストだったのか、考えさせられる一冊です。
- 著者
- 山口 定
- 出版日
- 2006-03-16
戦争中の日本でファシズムがおこなわれていたのか、その議論は、ファシズム自体の定義が定まっていないため、いまだ明確な結論は出ていません。
本書も、「ファシズムとは何か?」という素朴な疑問から始めています。
さらに、日本とドイツという2国のイメージが、戦後なぜここまで大きく異なっていったのか、過去の史料をほり起こしてさまざまな側面から客観的に探っていきます。
- 著者
- 村上 龍
- 出版日
- 1990-08-03
小説家の村上龍が手掛けた本作。舞台となるのは、世界恐慌を迎えて危機となった日本です。
鈴原冬二を首班とする政治結社「狩猟社」のもとに、日本を代表する学者・官僚・テロリストらが結集。冬二はストライキをおこない、巧みな演説を駆使して人々の心をつかんでいきます。
果たして群衆の期待に応えることができるのか?ファシストと呼ばれる彼らの動きをとおして、さまざまな社会問題を浮き彫りにしていきます。
大国による世界支配、弱肉強食を肯定する自己責任論、格差社会の悪化、右翼・左翼への2極化など、現代にも通じる視点がふんだんに盛り込まれている一冊です。
世界を巻き込み、混乱の渦に巻き込んだファシズム。その意味は非常に分かりにくく、漠然としたイメージしか有りません。しかしよく調べてみると、当時の時代背景や社会とのつながりが見えてきます。