2010年にチュニジアで起こった「ジャスミン革命」を発端として、アラブ諸国に広がっていった一連の反政府デモを「アラブの春」といいます。長年続いた政権が次々と崩れることになったその背景には、何があったのでしょうか。この記事では、概要と原因、ジャスミン革命についてわかりやすく解説し、おすすめの関連本もご紹介していきます。
2010年から2011年にかけてアラブ諸国に広がっていった、民主化を求める一連の反政府デモをアラブの春といいます。はじまりは、チュニジアで起こったジャスミン革命でした。その後リビアやアルジェリアなどの北アフリカ諸国とイエメンやシリアなどの中東諸国に波及していきます。
目的は独裁政権の打倒で、当時はこの運動が新たな時代の幕開けに通じる希望の光だと信じられていました。
多くの国で独裁政権が倒される結果となりましたが、社会の不安定化によって内戦が勃発する国や、再び独裁政権に戻ってしまった国、イスラム過激派組織の台頭など、新たな問題に繋がっていきます。
必ずしもすべての国で成功した革命ではありませんでした。
アラブ諸国の間で次々と反政府デモが広がっていったのには、長期的な独裁政権への反発があります。
たとえばエジプトでは30年、リビアでは42年と、ほとんどの国で権力者が富を独占し、国民は生まれてからずっと同じ支配者のもとで貧しい暮らしを強いられていたのです。
そんななか、23年間政権が続いていたチュニジアでジャスミン革命が起こり、大統領が亡命。政権が崩壊する事態となりました。
この革命は、生活の変化を諦めていたアラブ諸国の民に希望と勇気を与えます。
また、テレビやラジオの存在はもちろん、FacebookやTwitterなどのSNSが、彼らに情報と団結心を与えました。圧制への不満を持った若者の声を発信する独自のメディアを作り上げ、世論を誘導していきます。
反政府デモの流れは、このようなツールを使って国境を越え、大きな影響力をもって拡大していったのです。
アラブの春の発端は、2010年12月にチュニジアで起きたジャスミン革命だといわれています。23年間続いたベン・アリーの独裁政権を崩壊させたものです。
ジャスミン革命が拡大していったのには、3つの理由がありました。
まず1つ目は、若者たちの経済状況に対する不満です。
当時のチュニジアの経済成長率は3.8%で、それほど悪いものではありませんでした。にもかかわらず失業率は14%、若年層にいたっては30%近くにのぼっている状態だったのです。
チュニジアの人口は約1500万人で、そのうち30歳以下は50%。つまり全人口の1割以上が失業者でした。
経済成長の恩恵を受けているのは高齢層のみ、という現状に、不満をもつ若者が多く存在していたのです。
2つ目は、利権を独り占めしていたベン・アリー独裁政権自体への不満です。これは汚職問題にはじまり、物価の高騰、失業率などさまざまな範囲におよんでいました。この不満を持っていたのは一般国民だけでないことが、革命中に軍部が離反したことからもわかります。
そして3つ目、2010年12月17日に、ある事件が起こりました。街路で果物や野菜などの販売をしていた失業中の若者が、販売の許可がないとして警察に暴行されたのです。売り物も没収された彼は3度の返還要求をしましたが、反対に賄賂を要求されてしまいました。
そして青年は、抗議の証として焼身自殺をしたのです。
この様子は、彼のいとこによってFacebookに投稿され、瞬く間に拡散されました。
イスラム教では本来、自殺を禁じられています。それにも関わらず、自らの命と引き換えに政府に対する抗議としておこなったこの行動のインパクトは絶大で、革命を加速させていきました。
この事件をきっかけにして、若者を中心とした高い失業率に抗議するデモが各地で発生し、その内容はしだいに腐敗政治や人権侵害をおこなう政権に対するものへと変わっていきます。
その結果、2011年1月14日にベン・アリー独裁政権が崩壊。ジャスミン革命は成功し、この動きはほかのアラブ諸国へと拡大していったのです。
- 著者
- 酒井 啓子
- 出版日
- 2014-03-21
中東の近代史は、イラク戦争や宗教・民族同士の紛争もあり、とても複雑です。本作は中高生にも伝わるようにわかりやすく書かれていて、初めて学ぶ人におすすめできる入門書だといえるでしょう。
アラブの春を中心に、中東地域を「民主化」「宗教と政治」「若者問題」という3つのテーマに分けて説明しています。
また地図などの資料も豊富で、遠い国の出来事を身近に感じられるような工夫もされており、中東問題への関心が深まるでしょう。
- 著者
- 田原 牧
- 出版日
- 2014-11-26
30年間にわたって、エジプトを中心に現地取材をしてきた日本のフリージャーナリストの記録です。
エジプトに広がったアラブの春は、ムバラク政権を崩壊させましたが、その後成立した同胞団政府はあっけなく国防相のクーデターに負け、エジプト再び軍政に戻ってしまうのです。
盛衰を見守っていた著者は、「あの運動は無意味だったのか」という問いの答えを求めてエジプトを再訪します。現地取材をとおして、革命に参加した人々の想いを生々しく綴ります。
- 著者
- 重信 メイ
- 出版日
- 2012-10-10
本書では、各国ごとの事情と革命の内実、民族の対立などさまざまな視点からアラブの春を解説し、日本ではあまり報道されていない「その後」についても詳しく説明しています。
社会的な背景や推移がわかりやすく書かれているので、情報量は多いですが読みやすい文章構成になっています。普段私たちが得ている情報は、知っておくべきこと、政府が刷り込ませたいもの、と必ずしも公正なものとは限らないと感じてしまうかもしれません。
現在も続くアラブ諸国の問題を理解するためにも、自己のメディアリテラシーを養うことが大切だとあらためて思う一冊です。
アラブの春は、そこに生きる人々が発する言葉にできない怒りでした。それが国境を越えて大きなうねりとなり広がっていったことは、日本に住んでいる我々にとって世界を知るひとつのきっかけになったのではないでしょうか。遠く離れたアラブ諸国で起こった出来事ですが、今回ご紹介した本からその勢いと熱を感じ取っていただければと思います。