どうも。橋本淳です。東京では、急にドカ雪が降って交通機関が大騒ぎやら、インフルエンザが大流行やら、毎年よく聞くようなニュースが流れている中、僕はあいもかわらず、飄々と生きているように、そう見えるように、生きています(中身は必死に)。 気づけばこの連載も、一年以上続いておりますね、ありがとうございます。なんだかんだと、回も重ねてきました。毎回、その月々で“あるテーマ”の括りを作り、本を選び紹介してきました。というか、そういう“程(てい)”でした……。だんだんと黙っているのも辛くなってきたので、ここらで小さい告白。 実は、本屋に並んでいる数冊を選び、読後に、その数冊の共通項を見つけ“後付け”でテーマを選んでいる、という流れでやっております)微々たる告白でも、自分的には大きな告白)。 さ、今回のテーマは(晴れやかに)、【水と家族】を括りに3冊を紹介。人間になくてはならない、この二つ。不可欠な要素を含んだ作品たちです(後付けのくせに)。さぁ、どうぞ。
- 著者
- 中村 文則
- 出版日
- 2012-02-17
施設で育った刑務官の「僕」は、夫婦を刺殺した20歳の未決囚・山井を担当している。迫る控訴期限が切れれば死刑が確定するが、山井はまだ語らない何かを隠している。自分と似た山井と接するなかで、自殺した友人の記憶、恩師とのやりとり、自分の中の混沌が描き出される。
主人公の過去の記憶の断片が端々に描写されるが、あまり多くは語られず、詳細には明記されない。読んでいくと、死刑囚の山井と接するなかで、どこか自分と似ているようなところから察することが多い。まるで僕の過去とダブるような描写があるのでドキッとしてしまった、なんだか独りではないよ、とソッと肯定してくれているような感触がジワッと残る。死刑制度、生と死、と題材だけ見ると非常に湿度が高めに感じるが、これは希望と真摯に向き合った救いの作品だと感じます。中村文則さんの本を皆さまもぜひ。
心に刺さった一節
お前の命というのは、本当は、お前とは別のものだから。
- 著者
- 川上 弘美
- 出版日
- 2017-07-06
1996年、都と陵はこの家に戻ってきた。ママが死んだ部屋と、手を触れてはならないと決めて南京錠をかけた部屋のある古い家に。「ママはどうしてパパと暮らしていたの?」とそこに暮らし始めてから、夢に現れるママに呼びかける。謎めいた部分に迫る静かな衝撃作。読売文学賞受賞作。
なぜこのタイトルなのか、読んでいくと納得していく自分に驚く。1969年から2014年の時間があり、その過去と現在を行き来しながら姉弟2人を描く。その様々な断片がつながる中心にいるママの存在。なんて魅力的で心揺さぶられる作品なんだろう、と。自然と受け入れている自分に、自分が驚きました。
解説で江國香織さんが、「川上弘美さんの小説がいつもそうであるように、ここには大きな、ゆるやかな肯定がある」と書いている。あぁなるほどと、また納得。そして、恥ずかしながら川上さんの本を多くは読んでいないので、早速読んでみようと思います。今私は、すっかり川上弘美さんの虜です。
心に刺さった一節
続けたくて、ただこの会話をおしまいにしたくなくて、言った。
- 著者
- 寺地 はるな
- 出版日
- 2017-12-20
6人家族の羽猫家。変なのは苗字だけでなく、それぞれが少し変わった嘘をつくこと。遊園地をつくると空想人で思いつきで行動する祖父。唯一(?)比較的まともな祖母。愛人がいたりすぐに逃げがちな軽い父。現実を受け入れられず閉じこもった世界にいる母。嘘も嘘つきも嫌い=家族みんな嫌いな姉。家族の嘘に合わせて成長してきた僕(山吹)。そんな変少し破綻している家族の話。
あらすじをチョロっと書いてみましたが、どんな話か分かりづらい。しかし、この家族構成の接待だけで、何か期待してしまう。破綻している家族が結局どうなってしまうのか……。それぞれの目線で丁寧に織りなされた展開が、読者をゆっくりと確実に掴んでいきます。僕もすっかりと。やさしい感動の物語。暖色に包まれるような寺地はるなさんの世界を、ぜひどうぞ。
心に刺さった一節
わからなくても、愛せなくても、その存在を認めることはできる。